知られることのない話   作:まるイワ

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ミラーズランキングもそろそろ終了なので初投稿です。





5-10 なかよし作戦継続中

 

 

 

 

朝の日差しで照らされた土に、水の細かい粒が降っていく。どんどん色が濃くなって、たくさん染みて、潤ってく。

 

まだ早い時間で、都会特有の喧騒も遠い、静かで穏やかな時間。経験のないものだったけど、体験すると中々どうして。悪くない時間だなって思う。

 

 

「……………」

 

 

でも、忘れない。昨日から自分に芽生えた、このご立派な罪悪感。こうして水をやりにくるのは、それを紛らわす為かもしれない。

 

実際 効果はあるっぽいのか、こうして庭に来た途端、ストレス、心労、その他諸々、軽くなったような…。土と植物は偉大だなぁ。

 

植えたものがあるんだから、その面倒をみなくちゃっていうのも、まぁ あるけど。

 

 

(けど、ダメだよね…。こんなことになってるんじゃ…)

 

 

そう。本来なら、今頃この庭に、色んな植物が植えられてたはずで。

 

そうならないでカイワレ一つ、ポツンとあるだけってことは、つまり、私達が悪いことをしたからで…。

 

 

(怪我、させちゃったもんね…。マジ子さんに…)

 

 

あの時の私は逸ってて、買った雑誌を、とにかく早く読みたくて仕方なかった。それを邪魔するみたいに出てきた魔女は、ウザったかったのなんのって。

 

だから、とっとと片付けてやる。そう思って先走り過ぎた結果があれ。魔女は倒せたのに、私達は皆傷だらけだった。

 

 

(赤い人と仲良くできなかったのは…どうなんだろ)

 

 

私としては、そこまで今回の件には関係ないって思うけど…でもなぁ。

 

魔女に仕掛ける時、あの人に待ったをかけられたのは分かってた。それに対して、「誰がお前の言うことなんか!」みたいなとこは、まぁ、うん。あったかも。

 

あの静止を素直に聞いていられたら、魔女からの不意打ちも、もっとマシな形で対応できたのかな。もしかしたら、言い争って隙を見せることも無くて…

 

 

「なんとかしなくちゃ…だよね」

 

 

私の我儘でここに置いてもらってるなら、これ以上の迷惑は、かけちゃダメ。

 

何より私にだって、自分の間違いを悔しいって思う気持ちはある。間違いは、正しく直さなきゃ。

 

 

(その為には…)

 

 

次に。自分がやらなきゃいけないこと。それを頭に思い浮かべたところで、お腹に違和感。何か食べたくなってきた。

 

要するに、お腹すいたってこと。

 

 

「作り置き、もらお」

 

 

水やりに使ったジョウロやらなんやら片付けて、家の中に戻ることにした。年長さんが作ってってくれたご飯があるから、それで早めの朝ごはんだ。

 

洗面所で手を洗って、またリビングに行く。誰かが起きてきたとかもなくて、相変わらず私一人。

 

 

「………」

 

 

ちょっと、寂しいかも。

 

なんて内心思いながら、冷蔵庫からおかずを出して、レンジでチン。スープの入ったお鍋も暖める。

 

棚にあったバターロールも、袋ごとテーブルに引っ張ってきた。

 

 

「…いただきます」

 

 

食器も出して、準備完了。いつも家でやってるみたいに、手を合わせてから、ご飯を食べる。

 

 

「………」

 

 

モソモソ、ムグムグ。自分がご飯を食べる音だけ、聞こえてくる。ごくごく小さい音だけど、部屋がシーンとしてるからかな。よく響いてる気がする。

 

 

(……………)

 

 

私の家では違ったなぁ。朝起きたら両親が居て、皆でテーブルを囲んで、話しながらご飯食べて、笑って…。

 

バターロールを食べる手が、止まる。思い出したら、なんか悲しくなってきて、つい。

 

 

「っ…」

 

 

泣きそうになるのを我慢して、バターロールを口に詰める。自分で飛び出したクセに、ホームシックなんて。

 

イラッとくる赤い人。自分の失敗で傷ついたマジ子さん。それに対する罪悪感。昨日は色々あったから、心が疲れちゃったかな…。

 

 

(…ほんとは、会いたいけど…)

 

 

でも、私が怒って飛び出してきちゃったから、なんか帰りづらい。そこそこ日にちも経っちゃってるし…。

 

それもあるけど、なによりも。

 

 

「まだ、許してないもん…」

 

 

あの日、両親が私に言ったこと。それが嫌で、悲しくて、我慢できなかった。それは、今も変わってない…と、思う。

 

 

(許してないよ。…ないけど…)

 

 

…けど、それはそれなのかなって、実は思ってたり。嫌だったのはあくまで言葉で、両親のことを嫌いになったわけじゃないから。

 

会いたいと思うってことは、そういうことでしょ?

 

それに私、勢いのまんまここに来ちゃって、お父さん、お母さんがどうしてあんなこと言ったのか、詳しいことは知らないんだもん。

 

理由があったのかもしれないって、頭の冷えた今は、そう考えてる。

 

 

(とにかく、きっかけがあればなぁ…)

 

 

帰って、ちゃんと話し合わなきゃって分かってる。でも、気まずさで帰りづらい。

 

だから、押して欲しいのかも。少しでいいから、なにかに背中を。言葉でも、行動でも、なんだっていいから。

 

 

(でも、それだけじゃないよね)

 

 

自分の中でグルグル混ざった、色んなもの。それを全部無くしてやらなきゃ、背中を押して貰っても、多分、私 帰れない。

 

そうする為に、必要なもの。私のした間違いを直すのに、必要だと思うもの。今、ちゃんと分かった気がする。

 

 

「ごちそうさまでしたっ」

 

 

手を合わせて、音が鳴る。

 

とりあえず、今日も学校。登校の為の準備をしなきゃ。何をするにも、まずは目の前のことからだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私とチビがやらかしてから何日か経って、今は夜。先輩と二人でリビングに居て、本を読みながら話しかけた。

 

 

「…………先輩」

 

「はい」

 

「…まだ、怒ってる?」

 

「なにに?」

 

「分かってるくせに…」

 

 

マジ子はシーの魔法のお陰で、倒れた翌日にはけろっとしてた。けど、それはそれ。私達のやったことが、なかったことになるわけじゃないし。

 

 

「まぁ、ね。うーん…」

 

「………」

 

「怒っていると言えば、そうですわね」

 

「やっぱり…?」

 

 

そうだよなぁ…。単に買い物に行かせたはずが、戻ってきたら一人、気絶してんだもん。私に背負われてさ。

 

起こったこと、洗いざらい話した時の先輩の顔、ほんと忘れらんないわ…。

 

 

「帰ってきたのを出迎えれば、マジ子さんは気絶してますし」

 

「………」

 

「聞けば、なんでしたっけ?おチビさんとのちょっとした不和で、マジ子さんが大怪我をしたと来て」

 

「っ………」

 

「それを知った年長さんは、挙動不審になりますし…。もー」

 

 

分かってる。表情変わらないのに、なんか体震えまくるわ、目は泳ぎまくるわで、ヤバかったもん…。

 

寝てるマジ子を何度も見たり触ったりして、調べてさ。家まで送るって言い出したのも、あの人だし。

 

そこから暫く、やたら甲斐甲斐しかったんだよな。マジ子に飯食わせたり、身の回りの世話したり。

 

しかも、学校の送り迎えまでしてたとか。それだけ心配だったってことだよな…。

 

 

「庭のことも、その……。ごめん」

 

「お庭?」

 

「本当なら、今頃色々植えてただろ?だから…」

 

「あぁ…」

 

 

「時期的な都合もありますから」って先輩は続けるけど、だからって「ならよかった」とはなんねーよ、私…。

 

 

「というか、ですね。怒ってるは、まぁ怒ってるんですけど」

 

「……うん」

 

「どちらかというと、私、自分が情けなくて」

 

「え…」

 

 

溜息吐いて、項垂れる先輩。どうしてさ。あんたは、私達に買い物を頼んだだけ。そんなふうに思う必要なんて、全くないのに。

 

 

「後悔と言ってもいいかもしれません。人選を間違ったかとか、楽観的過ぎたかとか、いっそ全員で行動すればよかったか、とか…」

 

「それは…」

 

「一応、チームの司令塔ということでやってきてますのに、こういった事態も予想できないなんて。シーさんは別としてもね」

 

「………」

 

「『お前が悪いんだ』って、自分自身に、そう責められている気分になりましたの」

 

 

ただ漠然と、大丈夫でしょって思っていたのね。皆さんのこと。寂しそうな笑顔で、先輩がそう言う。

 

そっか。先輩も、先輩なりに今回の件で悩んでたんだな。まとめ役として、責任も感じてて…。

 

 

「ごめん」

 

「また謝るのね。どうして?」

 

「だって、先輩がそうやって悩んでんのもさ。私らがやらかしたからで…」

 

 

先輩だけじゃない。年長さんだって、あんなに精神的に揺れなくて済んだんだから。

 

 

「悪いと思っているのでしょ?」

 

「当たり前だろ…」

 

「なら、私から言うことはありませんわ」

 

 

そう…なのかなぁ。

 

 

「それに」

 

「…?」

 

「叱責の代わりなら、もう受けているでしょう」

 

「あー…」

 

 

言って、先輩が私の手元をあごで指す。うん…そうなんだよね。いつの間にか話に夢中で、これのこと、すっかり忘れてた。

 

 

「『なかよし作戦』でしたっけ。どうです?その後、成果の程は」

 

「いやー…どうかな…」

 

 

眉間に力入れて、持った本に目を落とす。書いてあるのは活字なのに、内容は漫画的ってか、現実離れしてるってーか…。

 

ライトノベルっていうらしいそれを、私が今読んでるのには、理由があって。

 

 

 

『その…あの時は、ごめん!私らのせいで…』

 

『私も、ごめんなさい…!怪我させちゃって…!』

 

『んー………』

 

 

マジ子が怪我して、その翌日。最初は気まずくて話せなかった私達が、腹を括って謝った時のことだった。

 

 

『んん〜………!ダメー!許しませーん!』

 

『っ……』

 

『そう、ですよね…』

 

 

私らの謝罪に否を突きつけるマジ子。当然だよなって、思った。それだけのこと、したんだって、私も思ってはいたから。

 

まぁ、問題はその後だったんだけど。

 

 

『このままじゃー、マジでチームのソンボーに関わりますっ!ピンチッ!ヘタすりゃみんな おっちぬやーつ!』

 

『だから、アタシ考えました!』

 

『赤ちん、チビちゃん!これから仲良くなんなさーい!「なかよし作戦」ですっ!』

 

『それなら、アタシは二人をユルす!もー、マジでユルしちゃう!』

 

 

 

うん、はい。そういうお達しがあったからってわけで。

 

何言ってんだよこいつって、思わなくはなかったけど、発案者にクソデカい負い目もあるから、断ることも出来なくてなぁ…。

 

つって、具体的にどうすりゃいいって聞いた時に

 

 

『………一緒にアソぶ?とか?』

 

 

って、ノープラン丸出しな回答寄越した時は、流石に言いかけたけどね。バカって。

 

結局は先輩の案、「お互いの趣味を共有してみる」に落ち着いたっていう。

 

 

「つって、なんか、私がチビの趣味に寄ってる感じなんだよな。共有ってーか」

 

「だってまさか、赤さんが無趣味だとは思わないじゃないですか…」

 

 

うるさいな…。自分でも軽くたまげたけどさ。趣味って考えたところで、特に思い当たるもんが無かったことには。

 

一応TV見たり漫画読んだり、動画見たりはするんだけど、特に熱中してもない、一時の暇潰しって感じだし…。

 

だったらまぁ、そりゃ一方に寄るわなって感じで…。

 

 

「初めてだよ、私。ライトノベルとか漫画とか、アニメにこんなガッツリ浸かるのって…」

 

「作戦開始してからすぐ、『じゃあこれ』って、大量に渡されてましたものね」

 

 

家から出てくる時、持ってきたっていうやつをな。しかもお気に入りのやつらしくて、早く読め、見ろって押しがつえーことつえーこと。

 

お陰様でここ数日間、私の頭にゃその手の話や映像が、次々インプットされてってるわけだよ。

 

 

「トンチンカンな部活動、女が集ってくる主人公、やたら露出の多い服の女の子、世界を滅ぼしかねないパワー、忘れ去られた古代の遺産、ループを繰り返す世界…」

 

「濃ゆいワードだらけですわねぇ」

 

 

なー。サブカルの世界に、こんなもんが飛び交ってるとは思わんかった。人間の想像力、創作意欲ってのは大したもんだよ。

 

 

「しかも 作家によっちゃあ固有名詞とか、専門用語とか多くてさぁ。他にも、描写がちょっと分かりづらかったりとか…」

 

「あー…。それはありそうですわね」

 

「癖みたいなもんなのかな。わかんねーこれって思った時は、チビに聞いてんの」

 

 

酷い時には隣に座らせて、逐一解説させたりしてたんだよな。語ってる時のチビはなんつーか、活きてた。活き活きしてたわ。

 

 

「大変なんですのね、その手のものを体感するというのは。……で?」

 

「あ?」

 

「今読んでいるそれは?」

 

「ラノベだよ。死んで異世界に転生したら、なんか動物の耳生えた女が居て、スキルだのステータスだのレベルだの、よくわからんやつ…」

 

「は、はぁ…?」

 

 

私も最初、そんな感じだったよ。初めて見るジャンルだからってのもあったけど、なんか、小説なんだかゲームなんだかって感じで。

 

チビのやつは、「これが今のスタンダードなんですよ」とか言ってたけどなぁ。うーん…。

 

 

「まぁ、暇潰しにもなるからさ。学校に持ってって、休み時間に読んでんだけど」

 

「えー…。人前で読んでいいものなんです?それ」

 

「あー、うん。変な顔されたわ。顔見知りに」

 

「うわー…」

 

 

つってもさー、いつぞやのデコ出しの子に、「それ、本…だよね?どんなの読んでるの?」って聞かれたから、正直に答えただけなんだよなぁ。

 

「え、転…?な、なに…?え、えぇ…?」って、すっげえ困惑してた。私と別れる時まで、ずっと。

 

あれ、絶対そういうのに馴染みの無い人の反応だろ。申し訳なかったわ、なんかさぁ…。

 

 

「………まぁ、それもこれも、ひいてはおチビさんを理解する為に必要なことなのでしょう。頑張って」

 

「や、うん。そうかもだけどさぁ。あいつの家で聞いた話からして…」

 

「お風呂、いただきましたー」

 

 

先輩とあれやこれや話してると、話題の中心がリビングに来た。本人が言った通り、風呂から上がってきたらしい。

 

 

「なに話してたんです?」

 

「色々」

 

「大雑把過ぎです」

 

「色々は色々ですわよ。お二人のやらかしとか、赤さんの読んでる本のこととか」

 

 

女三人寄れば姦しいって言葉があるけど、間違ってはいないみたい。チビっ子一人増えただけなのに、リビングが一気に賑やかになる。

 

 

「つーかさー、やっぱ始まりからしておかしいってこれ。神様の手違いで死にましたーとかって。適当過ぎんだろ、理由が」

 

「わかってないですねー。導入を長ったらしくしたって、読者が飽きるじゃないですか」

 

「んだ、そりゃあ…。大体なー、今読んでる巻のここも、私よく分かんなくて…」

 

「えー、しょうがないですね…。ちょっと見せてくださいよ。……あぁ、これはですねー」

 

「…貴女達、意外と仲良くやれてませんか?」

 

 

今まで私と先輩と、二人だけでやり取りしてたのに、チームを組んで人が増えて、こんな機会も多くなった。

 

大事な話をするわけでもない。魔法少女として、チームとしての会話でもない。普通の、どこにでもあるような会話。

 

ちょっとうるさいなって、思う時もあるけど。

 

 

「あ、お庭って言えば、なんか成長してません?あのカイワレ」

 

「植えたばかりですわよ?まさかぁ」

 

「いや、ほんとなんですって。しかもなんかこう、近付くとストレスが解れてくような…」

 

「あー、それはなんか分かるかもです。こう、スーッと…」

 

「えー、なにそれ。私はなんともねーんだけど…」

 

 

まぁ、悪くねーんじゃねえかな。こういうのも。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あーもー!全然つかまんないわねぇ、アイツら!」

 

「今回の失態、どうにかして取り返さないとまずいってのに、もー…!」

 

「いいや、やるのよ今度こそ…。頭下げて、とびっきりの秘密兵器も借りたんだもの!絶対!ずぇ〜ったい!とっちめてやるんだからー!!」

 

 

 

マギウス達の本拠地の、フェントホープの片隅で、とある白羽根が吠えている。事情があって、部下は不在。

 

 

たった二回。されど二回。あのバカ共に味わわされた屈辱を、今度こそ払拭してやらねば。そういう気持ちを込めて、宣う。

 

 

気合は充分。汚名返上。名誉挽回。彼女がそれを成す日は近い。

 

 

 

 

……多分。おそらく。きっと。maybe。

 

 

 

 





マギレコ本編の出来事

・第一部 第5章六話 終了後〜第5章七話 開始前
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