ミラーズランキングもそろそろ終了なので初投稿です。
朝の日差しで照らされた土に、水の細かい粒が降っていく。どんどん色が濃くなって、たくさん染みて、潤ってく。
まだ早い時間で、都会特有の喧騒も遠い、静かで穏やかな時間。経験のないものだったけど、体験すると中々どうして。悪くない時間だなって思う。
「……………」
でも、忘れない。昨日から自分に芽生えた、このご立派な罪悪感。こうして水をやりにくるのは、それを紛らわす為かもしれない。
実際 効果はあるっぽいのか、こうして庭に来た途端、ストレス、心労、その他諸々、軽くなったような…。土と植物は偉大だなぁ。
植えたものがあるんだから、その面倒をみなくちゃっていうのも、まぁ あるけど。
(けど、ダメだよね…。こんなことになってるんじゃ…)
そう。本来なら、今頃この庭に、色んな植物が植えられてたはずで。
そうならないでカイワレ一つ、ポツンとあるだけってことは、つまり、私達が悪いことをしたからで…。
(怪我、させちゃったもんね…。マジ子さんに…)
あの時の私は逸ってて、買った雑誌を、とにかく早く読みたくて仕方なかった。それを邪魔するみたいに出てきた魔女は、ウザったかったのなんのって。
だから、とっとと片付けてやる。そう思って先走り過ぎた結果があれ。魔女は倒せたのに、私達は皆傷だらけだった。
(赤い人と仲良くできなかったのは…どうなんだろ)
私としては、そこまで今回の件には関係ないって思うけど…でもなぁ。
魔女に仕掛ける時、あの人に待ったをかけられたのは分かってた。それに対して、「誰がお前の言うことなんか!」みたいなとこは、まぁ、うん。あったかも。
あの静止を素直に聞いていられたら、魔女からの不意打ちも、もっとマシな形で対応できたのかな。もしかしたら、言い争って隙を見せることも無くて…
「なんとかしなくちゃ…だよね」
私の我儘でここに置いてもらってるなら、これ以上の迷惑は、かけちゃダメ。
何より私にだって、自分の間違いを悔しいって思う気持ちはある。間違いは、正しく直さなきゃ。
(その為には…)
次に。自分がやらなきゃいけないこと。それを頭に思い浮かべたところで、お腹に違和感。何か食べたくなってきた。
要するに、お腹すいたってこと。
「作り置き、もらお」
水やりに使ったジョウロやらなんやら片付けて、家の中に戻ることにした。年長さんが作ってってくれたご飯があるから、それで早めの朝ごはんだ。
洗面所で手を洗って、またリビングに行く。誰かが起きてきたとかもなくて、相変わらず私一人。
「………」
ちょっと、寂しいかも。
なんて内心思いながら、冷蔵庫からおかずを出して、レンジでチン。スープの入ったお鍋も暖める。
棚にあったバターロールも、袋ごとテーブルに引っ張ってきた。
「…いただきます」
食器も出して、準備完了。いつも家でやってるみたいに、手を合わせてから、ご飯を食べる。
「………」
モソモソ、ムグムグ。自分がご飯を食べる音だけ、聞こえてくる。ごくごく小さい音だけど、部屋がシーンとしてるからかな。よく響いてる気がする。
(……………)
私の家では違ったなぁ。朝起きたら両親が居て、皆でテーブルを囲んで、話しながらご飯食べて、笑って…。
バターロールを食べる手が、止まる。思い出したら、なんか悲しくなってきて、つい。
「っ…」
泣きそうになるのを我慢して、バターロールを口に詰める。自分で飛び出したクセに、ホームシックなんて。
イラッとくる赤い人。自分の失敗で傷ついたマジ子さん。それに対する罪悪感。昨日は色々あったから、心が疲れちゃったかな…。
(…ほんとは、会いたいけど…)
でも、私が怒って飛び出してきちゃったから、なんか帰りづらい。そこそこ日にちも経っちゃってるし…。
それもあるけど、なによりも。
「まだ、許してないもん…」
あの日、両親が私に言ったこと。それが嫌で、悲しくて、我慢できなかった。それは、今も変わってない…と、思う。
(許してないよ。…ないけど…)
…けど、それはそれなのかなって、実は思ってたり。嫌だったのはあくまで言葉で、両親のことを嫌いになったわけじゃないから。
会いたいと思うってことは、そういうことでしょ?
それに私、勢いのまんまここに来ちゃって、お父さん、お母さんがどうしてあんなこと言ったのか、詳しいことは知らないんだもん。
理由があったのかもしれないって、頭の冷えた今は、そう考えてる。
(とにかく、きっかけがあればなぁ…)
帰って、ちゃんと話し合わなきゃって分かってる。でも、気まずさで帰りづらい。
だから、押して欲しいのかも。少しでいいから、なにかに背中を。言葉でも、行動でも、なんだっていいから。
(でも、それだけじゃないよね)
自分の中でグルグル混ざった、色んなもの。それを全部無くしてやらなきゃ、背中を押して貰っても、多分、私 帰れない。
そうする為に、必要なもの。私のした間違いを直すのに、必要だと思うもの。今、ちゃんと分かった気がする。
「ごちそうさまでしたっ」
手を合わせて、音が鳴る。
とりあえず、今日も学校。登校の為の準備をしなきゃ。何をするにも、まずは目の前のことからだから。
私とチビがやらかしてから何日か経って、今は夜。先輩と二人でリビングに居て、本を読みながら話しかけた。
「…………先輩」
「はい」
「…まだ、怒ってる?」
「なにに?」
「分かってるくせに…」
マジ子はシーの魔法のお陰で、倒れた翌日にはけろっとしてた。けど、それはそれ。私達のやったことが、なかったことになるわけじゃないし。
「まぁ、ね。うーん…」
「………」
「怒っていると言えば、そうですわね」
「やっぱり…?」
そうだよなぁ…。単に買い物に行かせたはずが、戻ってきたら一人、気絶してんだもん。私に背負われてさ。
起こったこと、洗いざらい話した時の先輩の顔、ほんと忘れらんないわ…。
「帰ってきたのを出迎えれば、マジ子さんは気絶してますし」
「………」
「聞けば、なんでしたっけ?おチビさんとのちょっとした不和で、マジ子さんが大怪我をしたと来て」
「っ………」
「それを知った年長さんは、挙動不審になりますし…。もー」
分かってる。表情変わらないのに、なんか体震えまくるわ、目は泳ぎまくるわで、ヤバかったもん…。
寝てるマジ子を何度も見たり触ったりして、調べてさ。家まで送るって言い出したのも、あの人だし。
そこから暫く、やたら甲斐甲斐しかったんだよな。マジ子に飯食わせたり、身の回りの世話したり。
しかも、学校の送り迎えまでしてたとか。それだけ心配だったってことだよな…。
「庭のことも、その……。ごめん」
「お庭?」
「本当なら、今頃色々植えてただろ?だから…」
「あぁ…」
「時期的な都合もありますから」って先輩は続けるけど、だからって「ならよかった」とはなんねーよ、私…。
「というか、ですね。怒ってるは、まぁ怒ってるんですけど」
「……うん」
「どちらかというと、私、自分が情けなくて」
「え…」
溜息吐いて、項垂れる先輩。どうしてさ。あんたは、私達に買い物を頼んだだけ。そんなふうに思う必要なんて、全くないのに。
「後悔と言ってもいいかもしれません。人選を間違ったかとか、楽観的過ぎたかとか、いっそ全員で行動すればよかったか、とか…」
「それは…」
「一応、チームの司令塔ということでやってきてますのに、こういった事態も予想できないなんて。シーさんは別としてもね」
「………」
「『お前が悪いんだ』って、自分自身に、そう責められている気分になりましたの」
ただ漠然と、大丈夫でしょって思っていたのね。皆さんのこと。寂しそうな笑顔で、先輩がそう言う。
そっか。先輩も、先輩なりに今回の件で悩んでたんだな。まとめ役として、責任も感じてて…。
「ごめん」
「また謝るのね。どうして?」
「だって、先輩がそうやって悩んでんのもさ。私らがやらかしたからで…」
先輩だけじゃない。年長さんだって、あんなに精神的に揺れなくて済んだんだから。
「悪いと思っているのでしょ?」
「当たり前だろ…」
「なら、私から言うことはありませんわ」
そう…なのかなぁ。
「それに」
「…?」
「叱責の代わりなら、もう受けているでしょう」
「あー…」
言って、先輩が私の手元をあごで指す。うん…そうなんだよね。いつの間にか話に夢中で、これのこと、すっかり忘れてた。
「『なかよし作戦』でしたっけ。どうです?その後、成果の程は」
「いやー…どうかな…」
眉間に力入れて、持った本に目を落とす。書いてあるのは活字なのに、内容は漫画的ってか、現実離れしてるってーか…。
ライトノベルっていうらしいそれを、私が今読んでるのには、理由があって。
『その…あの時は、ごめん!私らのせいで…』
『私も、ごめんなさい…!怪我させちゃって…!』
『んー………』
マジ子が怪我して、その翌日。最初は気まずくて話せなかった私達が、腹を括って謝った時のことだった。
『んん〜………!ダメー!許しませーん!』
『っ……』
『そう、ですよね…』
私らの謝罪に否を突きつけるマジ子。当然だよなって、思った。それだけのこと、したんだって、私も思ってはいたから。
まぁ、問題はその後だったんだけど。
『このままじゃー、マジでチームのソンボーに関わりますっ!ピンチッ!ヘタすりゃみんな おっちぬやーつ!』
『だから、アタシ考えました!』
『赤ちん、チビちゃん!これから仲良くなんなさーい!「なかよし作戦」ですっ!』
『それなら、アタシは二人をユルす!もー、マジでユルしちゃう!』
うん、はい。そういうお達しがあったからってわけで。
何言ってんだよこいつって、思わなくはなかったけど、発案者にクソデカい負い目もあるから、断ることも出来なくてなぁ…。
つって、具体的にどうすりゃいいって聞いた時に
『………一緒にアソぶ?とか?』
って、ノープラン丸出しな回答寄越した時は、流石に言いかけたけどね。バカって。
結局は先輩の案、「お互いの趣味を共有してみる」に落ち着いたっていう。
「つって、なんか、私がチビの趣味に寄ってる感じなんだよな。共有ってーか」
「だってまさか、赤さんが無趣味だとは思わないじゃないですか…」
うるさいな…。自分でも軽くたまげたけどさ。趣味って考えたところで、特に思い当たるもんが無かったことには。
一応TV見たり漫画読んだり、動画見たりはするんだけど、特に熱中してもない、一時の暇潰しって感じだし…。
だったらまぁ、そりゃ一方に寄るわなって感じで…。
「初めてだよ、私。ライトノベルとか漫画とか、アニメにこんなガッツリ浸かるのって…」
「作戦開始してからすぐ、『じゃあこれ』って、大量に渡されてましたものね」
家から出てくる時、持ってきたっていうやつをな。しかもお気に入りのやつらしくて、早く読め、見ろって押しがつえーことつえーこと。
お陰様でここ数日間、私の頭にゃその手の話や映像が、次々インプットされてってるわけだよ。
「トンチンカンな部活動、女が集ってくる主人公、やたら露出の多い服の女の子、世界を滅ぼしかねないパワー、忘れ去られた古代の遺産、ループを繰り返す世界…」
「濃ゆいワードだらけですわねぇ」
なー。サブカルの世界に、こんなもんが飛び交ってるとは思わんかった。人間の想像力、創作意欲ってのは大したもんだよ。
「しかも 作家によっちゃあ固有名詞とか、専門用語とか多くてさぁ。他にも、描写がちょっと分かりづらかったりとか…」
「あー…。それはありそうですわね」
「癖みたいなもんなのかな。わかんねーこれって思った時は、チビに聞いてんの」
酷い時には隣に座らせて、逐一解説させたりしてたんだよな。語ってる時のチビはなんつーか、活きてた。活き活きしてたわ。
「大変なんですのね、その手のものを体感するというのは。……で?」
「あ?」
「今読んでいるそれは?」
「ラノベだよ。死んで異世界に転生したら、なんか動物の耳生えた女が居て、スキルだのステータスだのレベルだの、よくわからんやつ…」
「は、はぁ…?」
私も最初、そんな感じだったよ。初めて見るジャンルだからってのもあったけど、なんか、小説なんだかゲームなんだかって感じで。
チビのやつは、「これが今のスタンダードなんですよ」とか言ってたけどなぁ。うーん…。
「まぁ、暇潰しにもなるからさ。学校に持ってって、休み時間に読んでんだけど」
「えー…。人前で読んでいいものなんです?それ」
「あー、うん。変な顔されたわ。顔見知りに」
「うわー…」
つってもさー、いつぞやのデコ出しの子に、「それ、本…だよね?どんなの読んでるの?」って聞かれたから、正直に答えただけなんだよなぁ。
「え、転…?な、なに…?え、えぇ…?」って、すっげえ困惑してた。私と別れる時まで、ずっと。
あれ、絶対そういうのに馴染みの無い人の反応だろ。申し訳なかったわ、なんかさぁ…。
「………まぁ、それもこれも、ひいてはおチビさんを理解する為に必要なことなのでしょう。頑張って」
「や、うん。そうかもだけどさぁ。あいつの家で聞いた話からして…」
「お風呂、いただきましたー」
先輩とあれやこれや話してると、話題の中心がリビングに来た。本人が言った通り、風呂から上がってきたらしい。
「なに話してたんです?」
「色々」
「大雑把過ぎです」
「色々は色々ですわよ。お二人のやらかしとか、赤さんの読んでる本のこととか」
女三人寄れば姦しいって言葉があるけど、間違ってはいないみたい。チビっ子一人増えただけなのに、リビングが一気に賑やかになる。
「つーかさー、やっぱ始まりからしておかしいってこれ。神様の手違いで死にましたーとかって。適当過ぎんだろ、理由が」
「わかってないですねー。導入を長ったらしくしたって、読者が飽きるじゃないですか」
「んだ、そりゃあ…。大体なー、今読んでる巻のここも、私よく分かんなくて…」
「えー、しょうがないですね…。ちょっと見せてくださいよ。……あぁ、これはですねー」
「…貴女達、意外と仲良くやれてませんか?」
今まで私と先輩と、二人だけでやり取りしてたのに、チームを組んで人が増えて、こんな機会も多くなった。
大事な話をするわけでもない。魔法少女として、チームとしての会話でもない。普通の、どこにでもあるような会話。
ちょっとうるさいなって、思う時もあるけど。
「あ、お庭って言えば、なんか成長してません?あのカイワレ」
「植えたばかりですわよ?まさかぁ」
「いや、ほんとなんですって。しかもなんかこう、近付くとストレスが解れてくような…」
「あー、それはなんか分かるかもです。こう、スーッと…」
「えー、なにそれ。私はなんともねーんだけど…」
まぁ、悪くねーんじゃねえかな。こういうのも。
「あーもー!全然つかまんないわねぇ、アイツら!」
「今回の失態、どうにかして取り返さないとまずいってのに、もー…!」
「いいや、やるのよ今度こそ…。頭下げて、とびっきりの秘密兵器も借りたんだもの!絶対!ずぇ〜ったい!とっちめてやるんだからー!!」
マギウス達の本拠地の、フェントホープの片隅で、とある白羽根が吠えている。事情があって、部下は不在。
たった二回。されど二回。あのバカ共に味わわされた屈辱を、今度こそ払拭してやらねば。そういう気持ちを込めて、宣う。
気合は充分。汚名返上。名誉挽回。彼女がそれを成す日は近い。
……多分。おそらく。きっと。maybe。
マギレコ本編の出来事
・第一部 第5章六話 終了後〜第5章七話 開始前