もうGWも終わりなので初投稿です。
「来る!」
私らのガンつけが気に食わなかったのか知らないけど、魔女はついに、こっちを標的にした。白い腕が一斉に、上空から向かってくる。
「散れ!」
「分かってます!」
チビは左。私は右。お互い、逆方向に思いっきり飛んで、魔女の攻撃から逃れる。その後すぐに、私達の居た場所に、白い腕が殺到した。
地面と空気を伝って、余波みたいなのがビリっとくる。当たってりゃあ どうなってたのか。想像もしたくねーやな、あれは。
「っ!」
集ってきた腕を迂回するみたいにして、駆け出す。魔女の本体…黒くて大きい腕みたいなのが見えたところで、パイルを構える。
今の攻撃で、白いやつは全部こっちに向けてきたのか、やつはガラ空き。チャンスだ!
「これでもっ…!?」
一発ブチ込んでやろうと思って、パイルに魔力を通す。
けど その直後、魔女の足元…手元?が盛り上がって、あの白い腕が一本、生えてくる。そのまま間髪入れないで、横薙ぎにして振るってきた。
標的は勿論、この私だ。
「づっ…!!」
降ってきた腕のスピードからして、回避は不可能。咄嗟にパイルを盾代わりにしたけど、魔女の力は強烈で、受け切ることが出来なかった。
そのまま呆気なく吹っ飛ばされて、呻きながら低空飛行することに。
「っ!やっべ…!」
飛んでく先に待ち構えてる、別の腕。手に握られた杭の先が、真っ直ぐ私に向けられてる。しっかり追撃をかける気でいやがるな!
「ふざけんじゃない!!」
私の命だ。あっさりくれてやると思うな!
すぐ近くまで迫った杭に向けて、体を少し捻って、パイルを突き出す。金属同士がぶつかったような、高くて耳障りな音が響いた。
そのまま杭打ちして、衝撃波をブッ放す。
「ぬっ!……っだぁ!」
超至近距離からの、魔力の一撃。置き攻めを企んでた腕は仰け反って、私も、反動で後退しながら地面に落ちる。少し無理な体勢で撃ったお陰で、上手く着地出来なかった。
そうやって出来た隙を、魔女は見逃しちゃあくれない。
「早いってバカ…!」
上から振り下ろされてくる、三本の腕。三つの杭。このままじゃヤバいから、急いでパイルに魔力を通す。
「間に合えよ!?」
半分祈って、杭打ち決行。無意識に『乗算』も発動してたみたいで、普通に撃つよりも強い衝撃波がブチ撒かれた。
間近まで迫ってた腕共が、今の一撃で弾かれてく。なんとか間に合ったか…!
(構えて撃てなかったせいで、肩痛ぇわ…)
魔力を多く使っちまったのはよくないけど、『乗算』無しで撃ってたんじゃ、対抗出来たかわからんし。
なんにせよ、ヤバい場面は切り抜けた。さっさと体勢立て直して、これから…
「え」
手を支えにして立とうとしたら、更に上から腕が来る。またかよ、腕にモテモテだな。わぁい!私嬉しいわ!ざけんなクソが!!
「のぉぉぉぉぉぉぉぉお!!」
今度こそ間に合わない。そう悟って叫んだのと、反射的に腕が動いたのは、どっちが早かったのか。
とにかく、私は地べたに倒れて、だけど白い腕の握る杭を奇跡的に両手で掴んで、押し留めることに成功してた。杭の切っ先が、ドタマに刺さるギリギリのところで止まってる。
魔女の野郎、しっかり仕留めに来やがって…!
「ぬぐぐぐぐぐぐ…!」
つーかこの腕、めっちゃ力強ぇ。私も必死で押さえてるけど、杭がジワジワ近付いてきてる。弾かれた腕も、そろそろ復活するかもしんない。
どうにか…!どうにかしねえとダメだって!
「ふぬっ…!離れろ、オラっ…!」
空いてる足で腕をゲシゲシ蹴りつけるけど、特に堪えた様子もない。それどころか、力が強くなったような気がしてくる。
(早く…!早く…って!)
視界の端に、さっき弾いた腕達の姿が映り込む。足掻く私に、無慈悲なタイムアップが告げられたような、そんな気分。
押さえる力を緩めれば、脳天ブチ抜かれて御陀仏。このままどうにも出来なけりゃ、他の腕にブチ殺される。
あれ、詰んだかこれ。
ご名答って言ってるみたいに、腕が三本、更に動く。杭は握ってないみたいだけど、私が食い止めてる腕に向かって、寄ってきてる。
…おい、待てって。こいつら、まさか!
(上乗せする気か!?)
三つの腕を追加で重ねて、都合四本分の腕力で、私をブッ殺すつもりだ。冗談じゃない。今の状態でも力負けしてるのに、そんな滅茶苦茶なことされたら…!
「やめろってえええええ!!」
叫んでみても、どうにもならない。今の私は、ただくたばるのを待つだけの、まさに まな板の上の鯉ってやつか。
バカ言ってんじゃねーぞコラ。認められるか、そんなもん。
内心毒吐いて強がるのを嘲笑うみたいに、白腕四段重ねが、私の目の前で出来上がる。
そしてそのまま、上から下に体重をかけるみたいに、思いっきり力を込められて…
「ふんっ!!」
ぶっといやつが自分の頭蓋にズブッと刺さって、無惨な死体の出来上がり。
そんな悲惨なビジョンが頭に浮かびかけたけど、そうはならないで済んだ。気合の入った掛け声と一緒に突っ込んできた、チビのお陰で。
横から勢いよく飛び蹴りかまして、腕共のバランスを崩してくれた。
「ん!」
「っ!」
着地したチビが、私に手を差し出してくる。地獄に仏。渡に船。間髪入れずに握り返すと、思いっきり引っ張られた。体が宙に浮いて、地面と腕達から遠ざかる。
こういう時、魔法少女は便利だな。力も強いし、ちょっと無理すりゃこうやって、誰かを引っ張りながらでもジャンプが出来る。
「あ」
一時的に空を飛んで 距離が開いていく中で、魔女の本体が目に入る。
「失礼!」
「なんです!?」
攻撃のチャンス。そう考えたから、チビの手を握る右手と、空いた左手を素早く交換。自由になった右腕にパイルを生成して、魔女本体に狙いを付ける。
すかさず杭打ち。衝撃波を撃ち出してやったけど、魔女の近くから生えてきた腕に防がれて、ダメージは与えられず終い。
何本生えてくんだよ、あの白いのは。苛立ちを舌打ちで吐き出して、地面に着地。
「…助かった」
「いえ」
まずは、チビに礼を言っておく。あそこであいつが蹴り入れてくれなきゃ、今頃私に命はなかった。マジで命の恩人かも。
ま、それはそれとして。
「もーちっと早く来てくれりゃあさぁ」
「こっちはこっちで、白い腕の対応に追われてたんですよ」
なるほど。よく見るとこいつ、全体的に少し傷がついてる。ダメージの内には入らないだろうけど、割と手こずった証なのかな。
「…つえーよなぁ、あの魔女」
「ええ。なんか、マギウスが育てたとか言ってましたよね?その内の一体だとかって…」
「魔法少女が魔女を育てる、ね…」
全く。恐ろしいことやらかしやがって。本来私らが倒すべきもの、しかも一般人にも手ェ出すような怪物を、大事に大事に育ててますってか。何の為にだ。冗談じゃねえぞ。
「…ま、それは今はいいわ。どうにかあの魔女倒さねーと」
「白い腕が厄介ですよね…。数で押される上に、本体への遠距離攻撃は防御される」
「お前の袖は?」
「切り傷は出来ました。断ち切るまではいけません」
手塩にかけて育てられた結果かね。攻撃力も、防御力も中々か……っと
「また来るな…」
「散ると危険ですよ。お互いを守り合って戦いましょう!」
「はいよ!」
こっちを上から押し潰すように繰り出されてきた腕共を、二人で前に飛び込んで躱す。その後パイルで一発ブチ込んでやってから、全速力で本体に向かう。
作戦考える暇くらい寄越せよな、クソ!
「これ!」
「あ!?」
「私の手持ちです!貸しですよ!」
「そりゃどーも!」
投げて渡されたグリーフシードで、一旦ソウルジェムを浄化する。また世話になるのは癪だけど、さっきは乗算も使っちまったし、正直ありがたい。
「とにかく、本体まで近づく!それしかないですよ!接近して、大きいの叩き込むんです!」
「白い腕はどーすんだ!」
「邪魔するんなら、排除しますよ!」
「どうやって!」
お前今さっき、袖じゃ無理だったっつったじゃん。私のパイルも燃費悪いし、排除ったって…。
「っ!やべぇ!また腕!」
腕が二本、左側から迫ってくる。おい、ヤベーぞこれ…。ラリアットみてーにしてきてる上に、それを二段重ねにして壁を作ってるから、しゃがんだり跳ねたりで避けることも…!
「片方の袖じゃダメっていうなら…」
「!?なにを…」
「両方の袖は、どうですかね!」
そう言って立ち止まったチビは、両側の袖を一つに合わせる。直後、袖同士がグネグネ絡み合っていって、やがて一つの、長い袖が出来上がる。
「はっ!」
その長袖を振り上げて、近付いてくる腕の壁に、思いっきり振り下ろす。袖の刃の一撃を受けた壁は、二本丸ごと叩っ斬られて、動きを止めた。
「マジかよ…」
「上手くいきましたね。でも、結構力を入れないとダメそうです」
「え」
「しかも、両手を一つに合わせてるような状態なので、取り回し悪いんですよこれ。だからっ…!」
言いながら、体を捻るチビ。え、なにそれ。なにする気?なんでバット振る前みたいな体勢なの。まさかお前、そのまま振り抜いてくる気じゃ
「っ………!!」
予感的中。あのドえらい切れ味の袖を、迷わず私に振ってきやがった。咄嗟にしゃがんで避けられたのは、ほとんど本能のおかげ。
「だから、守ってくださいね。そしたら、白いのは全部斬ります」
「………本体は」
「貴女がやってくれるんでしょ?」
「…わかったよ」
溜息吐いて後ろを見ると、白い腕がまた一本、叩っ斬られて転がってた。助けたつもりか。てか、後ろに居るならそう言ってよね…。
……まぁ、私もしゃがんだ時、チビの後ろから来てたのを撃っておいたから、お相子っちゃ お相子かな。
チビが白い腕を始末して、私はカバーに入りつつ、魔女本体に全力で攻撃。そういうふうに決まったから、改めて走りだす。
役割分担を決めた効果はあって、戦力で劣る私達でも、なんとか対応することができた。
けど…
「ぐっ…!足に引っ掛けた…!」
「しっかりして下さい!まだ近づかないと…!」
「分かってるっつの!」
「なんとか」は、あくまで「なんとか」。完璧にやれてるわけじゃない。上手にできない私らは、穴や隙を突かれっぱなしで。
「うぅ…」
「バカ!なんで庇った!…あぁもう!肩、ザックリいかれちまって…!」
「腕を倒すチャンスだったでしょ…!というか ああしなきゃ、貴女だってやられてましたよ!」
腕を倒せば倒すほど、魔女に近付けば近付くほど、私達は傷付いて。
最初に決めた役割なんてとっくに忘れて、とにかくお互い守り合いながら、ただ前を向いて、必死に走った。
「はぁ…はぁ…!おい、生きてるか!」
「一緒に走ってるんですよ。見れば分かるでしょ…!ゴホッ…」
「にしちゃあ、具合悪そうだけど?」
「貴女こそ。涙目になってないですか?さっき助けたときみたいに!」
「あぁ!?」
「冗談ですよ!」
衣装は裂けて、あちこちに血が滲んでる。目に悪そうな色の地面が、血の斑模様で彩られてく。
だけど引けない。ここまで来たら、あと一歩。あの白い腕も、片手で足りるくらいの数に減ったんだ。なんとしてでも、叩き込む!
「これでぇっ!」
そして今、チビがまた一本、白い腕を斬り捨てた。真っ二つにされて、動かなくなる。これで腕は、あと二本…!
「ここまで減らせば、もういけます!赤い人、走って!」
「でもお前!」
「腕は私が押さえます!今行けば勝てる!今やれば、終わるんです!!」
「けど!」
「早く行け、このバカ!!」
「っ…!!」
このまま行って、果たしていいのか。チビを一人にしていいのか。
そういう、後ろ髪を引かれるような気持ちを無理くり振り切って、今自分が出せる全速力で、駆けていく。
チビが腕と戦う音が遠ざかって、魔女の本体に近付く。とうとう捉えた。防御に使える白い腕も、今はあいつが押さえてる。
「って、ことはよぉぉ!!」
貰ったってことだよ!このクソッタレ魔女!!
「っ!!」
魔力を流して、パイルを起動。魔力をたっぷりこめてやって、勿論『乗算』も発動。迷わず、杭を打ち込んだ。
『〜〜〜!!〜〜!!』
渾身の一発をモロに食らって、魔女が仰反る。
けど、それだけじゃ終わらずに、地面からブチブチ引き剥がされて、倒れ込む。随分タッパがあるやつだから、倒れる音も大きかった。
「あいつ…!チビは!」
魔女を倒せたかは知らないけど、一先ずやることやったんだ。あいつの安否を確認する暇くらいは…。肩で息をしながら、急いで背後を振り返る。
「はぁ……はぁ……」
見れば、そこにはチビが居て、荒い息を吐いて突っ立ってた。周りには、バラバラになった、白いなにかを散らかして。
「…………取り越し苦労ってやつっスか」
「…?なにが」
「なんでもねーの」
なんとなく頭をガシガシ掻いて、チビのとこまで歩いていく。向こうもこっちに歩いて来たから、すぐに合流した。
「倒したんだな」
「疲れましたけどね。やったりました」
「バラバラだもんなー。お疲れさん」
魔女のやつにブチ込んでやれたのは、間違いなくチビのお陰。労ってやるのがいいと思った。
「で?そっちは。倒せました?」
「確認はしてねーけどさ」
「だったら今から二人で行って、確実にとどめ刺しましょうよ」
「そりゃそうだろ、お前。なぁ?」
詰め甘いなー、もー。なんて言われちまって、ちょっと和やかな雰囲気になる。
魔女を倒したわけじゃない。けど、相手は手負いなんだし、後は二人でかかれば、きっと…
『〜〜〜〜〜!!!』
私の、そんな甘えた考えを潰すみたいに、鳴り響いてくる奇妙な音。
「っ!?…なに!?」
「声ですか!?魔女の!」
ついさっき聞いたような気がするそれは、チビの言う通り。地べたに這いつくばってるはずの、魔女のやつが発してるもの。
やっぱり、まだ生きてやがった。緩みかけた気を引き締めて、魔女の居る方に向き直る。
そこで、私達が見たものは
「あいつ、また起き上がって」
不気味な鳴き声を上げながら、ゆらゆら起き上がる魔女の姿と
「あ、白い、腕……」
さっきよりも大量になって生えてきた、あの白い腕と
「っ!!ヤバい、避け…!」
そしてそれが私達に、一斉に向かってくる光景だった。
そこから先は、一瞬だったように感じる。
呆気に取られた私達は、魔女の動きに対応するのが遅れちまって。
襲い掛かって来た腕達に、好き放題にブン殴られて。
最後に全身でデコピン食らって、盛大に地面を跳ねて、転がった。
「…………」
ボーッとしながら、思考を巡らす。自分は今、どうなってんだ?確か魔女にボコられて、そんで めっちゃブッ飛ばされて、それから…?
(そうだ…。それから地べたに寝っ転がされて、そんで少し、ボーッとしてて…)
落ち着いて整理していくと、段々意識もはっきりしてきた。目を見開いて、四肢に力を入れて、起き上がる。
「ぐぶっ…!?がっは…!」
その瞬間に、走る激痛。全身が馬鹿みたいに痛むせいで、立ち上がれないで膝をつく。しかも、口から血まで吐いちまった。
ボタボタ、ボタボタ。地面に赤い水が広がって、鏡みたいに自分の面が映り込む。酷い顔だった。
「ヴッ……げっほ…!うげ…」
私の近くから、咳き込んだような声がする。なんとか首を動かしてみると、案の定。チビがそこに倒れてた。
「チ、ビ…」
「あか、人…。無事、で…ぶっえぇ…」
会話も覚束ないままで、チビもゆっくり起き上がる。私と同じように、血を吐いた。
「わり…油断、しちまっ…」
「済んだ、こと、ですよ…。それ、より…けほっ…!」
チビの言いたいことは、なんとなく分かる。今の私ら、マジでヤバい。今度こそは、ホントのホントに。
私もチビも、叩きのめされてこのザマだ。全身痛くてまともに動けず、しかも血だるまですときてる。
そんでなんだよ。魔女のやつはまだ生きてて、しかも、さっきより腕も増えてて。なんの冗談なんだよ全く…。
(魔力だけは、まだあるけど…)
だからどうしたってんだ。仮にパイルを撃ったところで、あんなに白い腕が生えてちゃ、すぐ防がれて終わるだけ…。
「…………」
「………赤い、人…」
やれることが、思いつかない。
虫の息の、小さな獲物。私達に引導渡してやるために、魔女が大量の腕を振り上げる。私に出来ることったら、せめて、それを睨み付けてやることだけ。
「赤い…人!赤い人!」
白い腕達が振りかぶって、そして次々に放り出す。手に握ってた、尖った杭を。
「あぁ、そうだよな。持ってるもんなら、投げられたっておかしかないか」
そう、頭のどっかで考えながら、凶器の群れが飛んでくるのを、眺めて待って。
「あー、も…!赤い人ってばー!!」
やがて私達のところに、雨みたいに降り注ぐ。
直前、私に飛びついてきたチビのことなんて、特に気にしちゃいなかった。
侵略者が、やってきた。
それが、この魔女が、二人に抱いた印象だった。
この魔女は、それなりに充実した毎日を過ごしていた。
魔女自身はもう覚えていないが、ある日マギウスによって捕らえられ、そして目的の為にと飼育されて、現在まで至っている。
自分のものでないのは癪だが、それでもこの結界は魔女にとって好都合で、今やすっかり居心地の良い、第二の城と化している。
天敵達はやってこず、自分がなにもしなくても、何処からか食事が流れ込む。それを遠慮なく頂くことで、自身はより強くなる。
そんな夢のような環境。不満など、何処にあろうものか。
だが、今日という日に現れたのだ。自分の領土を土足で荒らす、ずうずうしい輩共。魔力を持った、小さき者。間違いない。天敵だ。敵なら、倒さなければならない。
だから戦った。戦って、叩きのめしてやった。少しは抵抗したようだが、今の自分の敵ではない。
その証に、見ろ。二匹の敵は、無様にも這いつくばっている。なんとも、他愛のないことだ。
さて、ここまでだ。後はさっくり殺してやれば、自分の世界に平和が戻る。またいつも通りになるのだ。それは、なんて素晴らしいこと。
日を追う毎に、出せる量の増えていった、己の白く、美しい腕。それを一斉に振るってやり、奴らに雨を降らせてやった。
鋭く尖った雨も止んで、敵の居た場所を見てやれば、そこには見事な、杭の畑ができている。
あの小さな天敵達は、見当たらない。死んで、我が地のシミになったか。魔女は歓喜して震えた。
だが、同時に不思議でもあった。
敵が姿を消したのに、奴ら天敵から感じる力の反応。それが未だ、消えないから。
これはおかしい。どういうことか。奴らが死んでくれたのなら、持った力も、また、消えなければ。
魔女にはなにも、わからなかった。
消えたと思った侵略者が、今、再び姿を現したことも。彼女達の手が重なり、そこから眩い閃光が、発せられていることも。
私とチビが、手を合わせる。二つの魔力が一つになって、目が眩むくらい、輝いてる。
死んだと思った。ダメだと思った。だけど生きてる。生きてなんとか、立ち上がってる。
(縮小…か)
今さっきに話してもらった、チビの使う固有魔法。
名前の通り、小さくする。自分も、相手も、他のものも。魔女には効かない、維持にも魔力を使う等、制約も多いみたいだけど。
とにかく、チビは自分と私にそれを使って、魔女の攻撃を、なんとか凌いでくれたってこと。
(……情けねー。私…)
今日だけで、何回助けられた。自分よりも歳下の、しかも小学生の子供に。
なにより一番情けないのは、あの時、諦め入ったことだ。
魔女が腕を大量に生やして、杭を一斉にブン投げてきた、あの時に。
(頭、叩かれちまったじゃねーか)
バカ。チビにそう怒られて、思いっきりシバかれた。
最後の最後まで諦めるなとか、アニメや漫画のキャラクター達も、こういう場面で頑張ってたろとか、ここで負けたらムカつくだろとか、色々言ってくれちゃって。
なんだそりゃって、呆れちまった。アニメじゃねーし、漫画じゃねーし。最後のやつとか、単に意地になってるだけじゃねーか。
(でも、それでいい)
結局、私もそうだから。相手の方が強いだの、こんなの育てたマギウスはヤバいだの、そんなの、今はどうでもいい。
やつを倒す。私とチビが抱えたもの、ここで全部清算する。その為なら、なんとしてでも。
そういう意地が体を支えて、こうして、どうにか立ってるんだから。
「チビ」
「…はい」
「悪かった」
「………ん」
手詰まりになったからって、ボーッと死ぬのを待ってるなんて。勝ってやろうって人間が、そんな態度じゃいかんでしょ。
小学生に怒られて、そのことに気付かされるとはね。
「なぁ」
「………」
「勝つぞ」
「…当然!」
一つに混ざり合った魔力を、チビの方に流してやる。手詰まりなんて言ったけど、本当はまだあったんだよな。最後の最後。奥の手が。
「行くぞ!コネクト!」
神浜の魔法少女に与えられた、この戦術。なかよし作戦の成果を示すには、この上ないやり方じゃねーか。
先日マジ子とやったのに、なんで今の今まで思いつかなかったんだか…。
(や、それはあれだから。チビとやって成功するか分からんかったし、コネクト頼りになっちゃうのも、なんかアレかなってなってただけだし…)
きっとそうに違いない。魔女に対抗するのに必死で、素で忘れてたとかじゃないはず。バカじゃない。私はバカじゃない…!
「私も貴女も、もう限界です!ここで決めますよ!」
「え、あ、えぇ!?あ、うんお、おおともさぁ!」
「?」
あ、やっべ。変なこと考えてたせいで、変な返事になっちゃった。チビも、変な目で見てくるし…。
あぁもう!どうでもいいんだって、それは!
「これが最後だ!やっちまえぇ!」
「叩っ斬ります!この袖でぇー!」
コネクトが発動したことで、武器の形が変わっていく。袖の周りに刃が生えて、高速で振動し始める。それを一つに束ねたら、まるでデッカいチェーンソー。
強そうだけど、これだけじゃちょっと不安かも。だから…。
「『乗算』!」
魔力がごっそり無くなる代わりに、チビの武器が強化される。もっと大きく。もっと長く。
いける。これがあれば、多分倒せる。
けど折角だ。大盤振る舞いと行こうじゃねーか!
「これで、駄目押し!!」
減った魔力を更に使って、もう一度『乗算』をかける。無理したせいで少なくない血を吐いたけど、知ったこっちゃねー、そんなもん!
「ぶちかませえええええええええ!!」
「どぅおりゃあああああああああああああ!!!」
気合一閃。チビが一回転して勢い付けて、袖を横に真っ直ぐ振るう。魔力の使い過ぎで倒れたお陰で、私は巻き込まれずに済んだ。
二度の『乗算』をかけられて、長く、大きくなり過ぎた袖。
遠心力と速度を得たそれが、魔女と腕を、全部纏めてぶった斬る。
真っ二つになった体から、なんか色々撒き散らして、魔女は消滅していった。
ざまーみろ。見たか、二人のなかよし(笑)パワー。
魔女の居なくなった結界に、二人の息遣いだけが響く。
終わってみれば、なんだかあっという間だったけど、体の痛みと流れる血の赤が、戦いの苛烈さを物語ってる。
でも、まぁ、なんだ。なんにせよ。
「やってやったか…」
「ええ…。勝ったんです。私達…あっ」
戦い終わって気が抜けたのか、ガクッと膝を折ったチビ。相変わらず、肩で息をしっぱなし。
「だいじょぶかー…」
「…………」
一応声をかけてやるけど、特に返事は返ってこない。けど、構わない。そのくらい疲れてるだろうから。
「……………」
「……………」
倒れたままで、黙って空を見つめてると、結界が静かに崩れ始めた。
魔女が消えたからなのか、流石に暴れ過ぎたからなのか、それは知らない。
「………赤さん」
「んー……?」
「私、家に帰ります」
結界がどんどん消えてって、外の景色が見え始める。綺麗な青空を見つめながら、チビがそう言ったのを聞いた。
「………そっか」
この後、もう一仕事あるんだよねー。あーめんどくせ。
私の頭は、そういう気持ちでいっぱいだった。
「赤さん」ってチビが呼んだことには、全く気付かないままで。
マギレコ本編の出来事
・第一部 第5章六話 終了後〜第5章七話 開始前