おチビのイメージを活動報告に上げてみたので初投稿です。
つんつん。
「ん〜…」
ぺしぺし。
「んん〜……ん〜?」
とんとん、ゆさゆさ。
「まだよ…まだ硬いわこれ…んぬ〜……」
イラッ。
「あ、ちょっと!なに変身して…!」
オラっ、ズドーン!
「わああああ!!」
あ、起きた。おはよークソったれ。
「え、なに!?なになになに!何が起こったの!?ねえ!」
「よう。いい夢見れたかコラ」
「あ、アンタ達…。え、なに…。何がどうなってるのこれ。ちょっと私、状況が…」
んだよ、まだ寝ボケてんのかこいつ。こっちはこいつの為に、散々苦労させられたってのに。
「あ!?ていうか、なによこれ!ふぬっ!動けないじゃない…!ぬっ!」
「あの、縛らせてもらいました。逃げちゃわないように」
「えぇ、ひどい!」
今まで寝こけて、ようやく起きた白ローブが騒ぐ。うるせーなぁ。あんな魔女出してきたおめーの方が酷いだろ…。
クッソ頑張ってヤバい魔女を倒した私達は、結界が無くなった後も気絶しっぱなしな白ローブを発見。確保した。
起こして情報吐かせようにも、私達が居たのは、人通りも近い場所。起きたこいつに騒がれて、人集りが出来ても困る。つーわけで。
「ていうか、何処なのよここ!私達が居たのって、こんな薄暗くて、人気の無いような場所じゃあ…!」
「廃ビルだよ。どっかのな」
わざわざ。こんな場所まで連れてきたってこと。都会ったって、使ってないか、放棄された場所くらいある。探せば幾らか見つかるんだ。
「赤さんがおぶってきたんですよ」
「そう…。……ありがとう?」
「マジかよ、お前…」
「…?なにかしら?」
「いや…」
普通言わないから。こういう場合に礼なんて。…ま、いいけどね。なんでも…。
「あれ!ちょっと待ちなさいよ!」
「ん」
なに。なんだ、今度は。
「そういえば、あの魔女は!?マギウスから貰ったあれは…。え、どこ行ったのよ!」
「何処って、お前」
「倒しましたよ」
「誰が!」
「私ら」
「なんで!?」
なんでってなによ。私らが倒せちゃおかしいんか、オイ。
「秘密兵器よ!?」
「うん」
「マギウスからもらったのよ!?」
「そう…」
「チキベジまで奢ったのよ……?」
「それは知らないから…」
うん、まぁ…お気の毒とは思うけどもね…。
「う〜…!なんなのよ、もー!ていうか、なんでアンタら、そんなケロッとしてんのよ!」
「あ?」
「秘密兵器だってんでしょ!もっとボロっちくなってなさいよ!」
「あー、それは…」
言われて、後ろをチラッと振り返る。ちょっと横に移動して、私の後ろに居るのを、見えるようにしてやった。
「あっ…!アイツ…!」
「………」
「なにやってんのよアレ…」
「さぁ…。私らにもさっぱり」
「〜?」
私達からちょっと離れたところに座って、シーがあれこれ弄ってる。この廃ビルに放棄されてたパイプやらボロ布やらなんだけど、あいつにとっちゃあ珍しいみたい。
…シーの力が強過ぎて、金属部品は折れたり ひん曲がったりしてるけど。
「あいつが治してくれたんだわ」
「アレが…!?そんなこと…」
「助かりましたよね。私の時は、渋られて困りましたけど」
マジ子が怪我した時にも使った、シーの治癒魔法。私らがぐったりしてるとこにひょっこり出てきて、今回も治してくれた。
チビが私を怪我させたって勘違いしたっぽくて、トラブルになりかけたのは、置いとくとして。
「クッ…!忘れてたわ…。そうよね。アンタにはアレがくっ付いてるんだった…」
「ん?」
「でも、なんかおかしいわよ。だって上からの説明には、アレが治癒魔法を使えるなんて一言も…!」
「ふーん?」
私を睨みながら、なんか ぶつくさ喋る白ローブ。てか、うん。ちょっと聞き捨てならないよなぁ?
「なに。やっぱ知ってんだ?」
「え?」
「あいつのこと」
「は?………あっ!」
「やっべー」みたいな顔して、目を逸らした。や、遅いし。そのリアクションもよくないだろ。
「私らさー。今日、外に居るのは理由があって」
「…なによ、それは」
「探してたわけ。お前らを」
「へ……へーえ?そう…」
そうなんです。そしたら見事に、そっちから出てきてくれたよな。ドえらいもんを引っ張り出してきてくれたのは、アレだったけど。
まぁ、ちょうど良かったってやつ。
「聞きたいことが、あるわけさ」
「ふ、ふぅぅぅ〜ん?なぁに、それは。私の趣味?生年月日?あ、それともスリーサイズかしら!あ、申し訳ないんだけど、口座の暗証番号とかは」
また変身して、パイルを生成。ごちゃごちゃうるせー白ローブのことは無視して、顔の前に突き付けてやった。
後ろのシーを顎で指して、話を続ける。
「あいつのこと、教えてくんない」
「っ………」
「逃げてもいいよ。鎖だ布だ、ぐるぐる巻きにしてるっても、魔法少女なら外せるだろうし」
だけど そんときゃあ、ブッ放すのもやむなしかもな。実は脅しで突き付けてるとこもあるから、撃ったとしても当てないけどね。
「で、どうなん」
「ひゃあ!やめて!撃たないで!」
「話せよ、じゃあ」
「それは…!」
あーもう、さっさと言えこのやろー。こっちはお前、お前らマギウスの連中には割とイラッと来てるんだぞ。
だからアレよ。間違ったらズドンするかもだぞお前。
「第一、その…アレよ!こんなとこでそんな得物使ったら、崩れるんじゃない!?耐震性とか…!」
「そんときゃお前は置いてくからな。安心しろ」
「外道よっ!この女ァー!」
おう、なんとでも言えや。こっちはもうすぐ負債全部精算できるとこまで来てんだよ。すっぱり終わらせて帰るんだよね。
それは素晴らしいことだろうが。ん?
「ふ、ふんだ!なによ!撃つなら撃てばいいじゃないの、えぇ!?」
「あー?」
「第一ねえ!魔法少女がそんなことされたところで、どうにかなるもんですか!精々、すっげー痛いだけよ!」
それ、言うほど精々かなぁ。ぬー…。このまま埒が開かないと、本格的にブチ込むことになっちまうかも…
「あーもー、マジめんどくせぇー!!」
「おチビさん!?」
え、ここでお前がキレんの!?急っ!
「やり方がヌルいんですよ、赤さん!聞いた話じゃこの人、質問されたら喋っちゃうんでしょ?だったら、それ利用しなきゃ!」
「や、それは」
「良心に咎められてる場合じゃないですよ。忘れたんですか。今の私達は正義ウーマンなんです。正義ってことは、無敵ってことなんですよ!」
わけわかんねーこと捲し立てるチビ。あー…。悪いとこ出ちゃったかーこれ…。
「そこで見ててくださいよ。私がやってやりますから」
そう言って、変身しながら白ローブに近づく。やる気だな…。ちょっと暴走気味だし、拷問みたいなやり方しないといいけど…。
「さ、聞かせてもらいますよ。変なことすればスパッといくので、そのつもりで」
「うぅ…首筋に当てないで…」
「………」
あのよく斬れる袖を、白いのの首にそっと添える。うぅん…まぁ、大丈夫でしょ…多分。………斬らないよね?
「じゃあまず…」
「ひゃっ…。ちょ、くすぐったいわよ!」
「動かないでくださいよぉ。もう忘れたんですか?これ」
「っ……う〜…」
「うん。いい子です。それじゃあ…」
ぴったり密着したままで、耳元で質問を始める。うん……なんで耳元に寄るの?なんでちょっと声潜めてんの?
「あのカイワレ、ありますよね?私が、貴女達から取ってっちゃったの」
「え、えぇ…」
「あれって、どういうものなんですか?もしかして……ウワサ、だったりとか」
「っ…それは……そうよ」
「あっ。やっぱりそうなんだ?」
………んん〜……。ん〜…?
「それで、どういうウワサです?」
「あれは…その…。人の、ストレスとかを吸い取って育つ、みたいな…」
「うん、うん」
「戦闘能力は持ってないし、吸収量もそんなに多くはないんだけど、その…」
「ん?なに?」
「っ…いえ、別に…。えっと、だから、数をバラ撒いて、トータルでたくさん吸い上げよう…みたいな…」
「ふぅん。そうなんですね…」
…………………えーっとぉ…。
「弱点とかって、あるんですかね」
「あっ…それは、あの…。二つに、なることで…」
「二つ?ん?どういうこと?」
「あのカイワレ、近い場所に二本以上あると、枯れちゃうみたいで…。そういうウワサらしいわね…」
「そっかぁ〜…。あ、ところでぇ…」
「…な、なによ」
…あのさー、これ……。
「どしたんですか?さっきからお顔、赤くないです?耳も…」
「!い、いや…それは、別に。なんでも…」
「あ、もしかして。照れちゃってる…とか?」
「なっ!バカ言わないで!そんなわけっ…」
「小学生の女の子に耳元で囁かれて、気持ちよくなっちゃったんですかぁ?」
「っ……!〜!!」
「歳上なのに、恥ずかしいですね。ざぁこ♡ざぁこ♡よわよわお耳〜♡」
「ふえぇ…新感覚…」
や、なんか いかがわしいなぁ!?
「いや、なに!なんなのこれ!なにやってんだよお前ら。なぁ!」
耳元で囁いて、相手はなんか赤くなって、終いにはなんか、変な煽りまで入れてんの!んだよ、これ!
情報引き出したのはまぁいいよ。気持ちよくなったってなに!?雑魚とか弱弱ってなによ!?
「アレですよ。最近流行りのASMR音声の真似的な」
「知らねーよ!?」
どっから覚えてきたんだ、そんなもん…。あれ、これチビの両親正しかった説あるか…?
「AS…なんとかは置いといてな。カイワレのことは聞いただろ!今度は、私の質問に答えろ!」
「えぇ…?まだ何かあるのぉ…?」
「ちょっと余韻感じてんなよダメ人間!」
ぽけーっとした顔しやがって。こいつ仮にも、特務隊とかいうのの隊長なんじゃねーのかよ…。
「あいつだあいつ!シーのこと!」
「あぁ…」
「結局、あいつはなんなんだ!ウワサなのか!?ウワサだとして、どういうタチのやつなのか!さっさと答えろ!」
私にとっちゃ、この質問が本命なんだ。暴いたところでどうすりゃいいかは、分かんないけど。けど、いい加減はっきりさせとこうじゃねえかよ。
「………」
「どうなんだ!」
「………えっと……」
黙って、白ローブからの答えを待つ。なんだか私、少し緊張してるような気がする。今から自分は、シーを知るんだって。そのことに対して。
「…………」
「…………」
お互いに黙って、静かになる。こいつは聞かれりゃ答えるんだし、口を割らないなんてこたぁ…
「……知らないわ」
「は?」
ついに真実が明かされるのか。そう身構えてた私の耳に飛び込んだのは、そういう拍子抜けな言葉で。
「おい。んだ、そりゃあ」
「だから…知らないって」
「なんで!」
「知らないからに決まってるでしょ!」
「はぁ…!?」
こいつ、ここまで来てシラを…!
……いや、それはありえないのか。嘘をつけないこいつが知らないっていうんなら、それはつまり…。
「マジで知らねーってことかよ…」
「そうよ…。マギウスからウワサの調査を任されたのはいいけれど、詳しい説明もないんだもの!ウワサの居る場所だけ教えられて、定期的に監視しろって!」
「えぇー…」
「私達もえーってなったわよ。監視っても、姿なんて見えないし。なんか知らない間に、『魔法少女のグループと行動してるから、そいつらもついでに見張っとけ』って言われるし!」
「監視してたのに…?」
「他の隊がたまたま見かけたらしいわよ…。アンタ達が海浜公園でボコられてるとこ…」
『だから私ら、警告も兼ねて、アンタら探してたってわけよ』って、続ける。
あー。それ、もしかしてあん時か。年長さんに初めて会ったり、観覧車草原で戦ったりした時の…。
「まぁ、そんくらいよ。うん。知ってることったら…」
「…それ知ってるって言わねーだろバカ!」
「だから知らないって言ってんでしょバカ!」
「や、どっちなんだよ!?」
「や、だからぁ!知ってるけど知らない…あれ、知って…?やっべ、ワケ分かんなくなってきた!」
「なにしてるんでしょう、この人達…」
ほんとだよ。つーかどうでもいいからね、そこは。今、必要なことはだなぁ。
「知らねえならなぁ!聞いてこいお前!」
「はぁ!?」
「本拠地でもなんでも行って、上に話聞いてこいっつってんの!」
「バカ言わないで!私、忘れっぽいんだから!」
「メモでもなんでも取りゃあいいだろ!」
「そっかぁ、なるほど!天才よアンタ!」
「だろぉ!?」
お互い騒いで、ヒートアップ。大声出して喚いてる内に、自分が何言ってんのか分かんなくなってきちまった。
なんかもう、敵ってよりかは友達とくっちゃべってるみたいになってきた、その時。
「!赤さん、避けて!」
「は?いきなりなに…って、うおっ!?」
突然の、チビからの警告。その直後、私達と白ローブの間に、何か撃ち込まれてきた。驚いて思わず距離を取ったところで、それが刃状の武器が付いた、鎖だってことが分かる。
「隊長〜!」
「無事ですかぁー?」
「…!まさかぁ!」
白ローブの表情が、見るからにパッと明るくなった。この武器、そして聞こえてきた声は、いつか見たこと、聞いたことのあるそれ。まさか…
「特務隊ー!信じてたわよー!」
「やー、探しちゃいましたよ。待ち合わせ場所に居ないんで…」
「ごめーん!」
やっぱりか。チビに押さえられてるこいつとは違う、黒いローブの四人組。部下のやつらが来ちまった。
「というかねー、遅いのよアンタ達!リーダーのピンチだってのにー!」
「勝手に居なくなった人がなんか言ってるよー」
「しかも、なんか捕まってるし」
「隊長、バカみたいですー」
「ばーか。隊長、ばーか」
「アンタら、よって集ってねぇ!いいから、早く助けなさーい!」
『はーい』って返事した黒ローブ達が、私とチビを交互に見てくる。こいつら、やる気か。身構えながら、用心する。
「て、ことで。返してくれません?うちの隊長」
「…嫌だっつったら?」
「言ったらアレですけど、こっちが人質取ってるようなものなんですよ?」
「やー。そーなんですよねー」
チビに言われて、呑気に答える黒ローブ。あははーって笑ってるけど、お前らのリーダーだろ?いいんか、そんなやる気なさげで。
「でも、いいんですか?貴女達、こんなところでちんたらやってて」
「……?」
「それは、どういう」
にこやかな顔のまんま、そう続けてくる。いまいちよく分からないって顔してるであろう私達に、黒ローブ達は言った。
「や、ね?他の隊手伝ってる時にー、私ら見かけたんすよねー」
「見た、だぁ?」
「あの、はい…。貴女達の仲間の人が、葉っぱを持って歩いてるのを」
「しかも、ただの葉じゃないんですよー。知ってますよね?アレですよ、アレ」
「カイワレ的な、アレなんだよねー」
言われた言葉、全部反芻して考える。葉っぱ。仲間が、持って歩いてた。それって、買い物に出てた先輩達のことか。
しかもそれは、その辺に生えてるようなもんじゃない。カイワレみたいなやつってことは。それって、まさか。
「持ってたんですか?アレを。もう一本?」
「うん。作戦優先ってことで、そのまま見送ったけどねー」
「マジ子辺りがやったのか?でもなぁ…」
確かに、ウワサを追加で家に持ち込むようなことしたのはアレだけど、白ローブから聞いた話じゃ、増えたら枯れるらしいしなぁ。別に危険があるようには…
「なーんか、ピンと来てないって顔っすね」
「………」
「よくないっすよー、そういうの。絡んでるのはウワサなんすよ?何やらかすか、分かったもんじゃないんすから」
「…なにが言いてえんだ。お前ら」
焦らされるのは好きじゃない。言うなら言え。さっさと。それでいて、はっきりな。
「あのウワサ、二本以上揃えば枯れちゃうんですよ」
「知ってる。この白いのから聞いたからな」
「あ、そうなんですね…。でも、ですよ?」
「私達が聞かされたのは、最後には枯れるってことだけ。枯れるまでに何が起こるか。どうなった末に枯れるのかってのは、知らないんだよねー」
「お仲間さん達、今頃どうなってるんすかねー?」
聞いて、ハッとさせられた。精神的な衝撃を受けて、眉間に段々、力が入ってく。
「んだよ、それ…!そんじゃあ、あいつら!」
「落ち着いて、赤さん!ただの言葉なんですよ?こちらを騙そうとしてる可能性も…!」
「嘘を言ってるって証拠も無いけどねー」
「………」
チビの言うことは分かる。こいつらは、私達を上手く引き剥がす為に嘘を吐いてる。そういうことも、あるかもしれない。
けど、黒ローブの言うように、嘘って証拠が無いのも事実で…。
「そんで、どうする?ま、隊長を拉致ったことに関しちゃあ…」
「っ!?いって…!」
黒ローブの一人が、喋りながら小さい魔力塊を飛ばす。肩に当たって、痛みが走った。
「それで手打ちにしてやっからさ。ここらで終わりにしとこ?な?」
「……………」
「赤さん……」
にこにこ笑う黒ローブを、ジトッと睨み付けてやる。自分達が優位なのを分かってるのか、余裕な態度を崩さない。
「………帰るぞ、チビ」
「赤さん!?でも…!」
「いいから!」
変身を解いて、白ローブから遠ざかる。異を唱えるようなチビを制して、人質状態の白ローブを解放させた。
制服姿に戻ったチビが、渋々こっちに合流してくる。白ローブはフリーになって、そこに黒ローブ達が集まった。
「うー…。なんか、納得いきません…」
「つったってお前。数で劣るんだし、このままドンパチやらかしたって…」
まぁ、今はシーが居るんだし、勝てるといえば勝てるだろうけど。けど、今日は既にヤバい魔女と戦った後。これ以上、魔力を消耗するのは避けたい。
………なんて、考えちゃあいるけど。
今、私の頭を満たしてるのは、危険な目に遭ってるかもしれない、先輩達のことで…。
「行くぞ!」
「あっ!ちょっと、赤さん!んもー!」
廃ビルを出る為に、走り出す。せめて最後に、もう一回特務隊の奴らを睨んでやったら、「またねー」とか言いながら手を振ってた。
くっそ。ムカつくな、ほんと。私を揺さぶってくれた借りは、いつか返してやらなきゃならねえ。
「早く来い、シー!置いてくぞ!」
「〜!?」
今の今まで遊んでたシーが、私の声に反応する。
弄っていたパイプや廃材、金属部品を放り出したか、背後から喧しい音が聞こえてくる。走る私達に、シーはすぐに追い付いてきた。
「〜!〜!!」
「わかった!わかったって!置いてかないから!走りづらい!」
引っ付いてくるシーを落ち着かせながら、三人で家まで突っ走る。
「赤さん!先輩さん達、電話に出ません!」
「チィッ…!」
それを聞いて、舌打ちしながら足を早める。
先輩達のこと。危険が迫ってるかもしれないって聞いた時、どうして私は、あんなに動揺しちまったのか。
なんで私、今もあの人達のことで、頭の中がいっぱいなのか。
胸の内の、その隅っこでそういう疑問が湧いて来たけど、いつも通りの『わからない』。答えなんて、出てくれなかった。
「ふんっ…!あーもう。やっと解放されたわ…」
「だいぶぐるぐるに巻かれてましたねー、隊長」
「隊長巻きだー」
「うっさい。…ま、なによ。助かったわ。ありがとね!」
「まぁ、一応チームですから?私達」
「にしても、だいぶ育ってましたねー」
「ん?」
「アレですよ。あのウワサ」
「育ってるってなによ。分かるわけ?」
「なんとなく、ですけど。そう感じるっていうか」
「へー…。まぁ、確かに 底知れない感じはしたけれど…」
「名前、付けてたっぽいですね。そういえば」
「あー、そういやなんか呼んでたよね。名前っぽいの…」
「ウワサに名前、ねー」
「あ、そうだ!帰りにメモ帳買ってってもいい?可愛いやつ!」
「は?や、いきなりですね…」
「いいですけど、なんでまた」
「アイツらに言われてさー。あのウワサの、詳しいこと聞いてこいって!」
「えぇ…マジすか、この人…」
「?なによ。おかしい?」
「おかしいですよう!だって、その…!あの人達は、その…敵なわけですし…」
「けど、知らなきゃモヤモヤするじゃない?アイツらは腹立つけど、未知を理解しようとする姿勢を持つ人は嫌いじゃないわ!」
「私らはそんなあんたが理解できねーっつーかさぁ…」
「ま。それはそれとしても、よ」
「?」
「これからもこんな調子で邪魔されちゃあ、いい加減に困るわよね」
「それは、まぁ」
「今回もポカやらかしたし、叱られちゃいますよねー。マギウスの魔女倒された隊長は、特に」
「あっ…!?忘れてたわ…。どうしよう。今度は教官に何されるか…。もしかしたら、マギウスから直々の折檻も…!?」
「かもですねー」
「ねーじゃないわよ!アンタ達、チーム組んでるクセにリーダーに対する尊敬ってもんが…って!いいの!そんなことは!」
「はぁ」
「私、今回で理解ったの!このままバチバチ争って、お互いが血を見続けるようなやり方したって、不毛なんじゃないかってことよ!」
「じゃ、どうするんですか?」
「ここらで一旦、やり方変えましょ!衝突を繰り返すんじゃなくて、こっちを理解してもらうことで、邪魔をやめてもらうって試み!」
「具体的には」
「マギウスの翼の、行動理念。救済を目指す、その理由!それを知ってもらえれば、あの子達にだってわかるわよ。私達の素晴らしさが!」
「でも、それってつまり、真実を知るってことですよね…?」
「ちょっと性急じゃないですか?下手すれば、解放の証を見せちゃうことにも…」
「それならそれでいいじゃない。もしかしたら、同志になってくれるかもでしょ?」
「うーん…。そう…かなぁ?」
「そうする為には、あいつらの根城を掴まなくちゃね…。ちょっと!」
「え、私!?…ですか?」
「アンタさっき、あの赤いのに魔力パナしたわよね?」
「それは…はい。しましたけど」
「それの魔力を追って、あいつらの居場所、突き止めなさい」
「えぇ!いや、無茶ですよ…!私、魔力探知はそんなに…。っていうか、普通に考えたら魔力なんて、とっくに散ってて探しようが…」
「なに言ってんの!成せばなる!皆でやれば、なんとかなるわよ!」
「実質ノープランじゃないですかぁ!」
「てか、いつの間にか私達もやることになってるんですけどぉ!?」
「そうと決まれば、準備開始よー!」
「話聞けって、このアホリーダー!」
「マギウスの翼、特務隊!私達なりの、『講義』をするわよ!」
マギレコ本編の出来事
・第一部 第5章六話 終了後〜第5章七話 開始前