ひめな実装記念と更新の大幅な遅れによる謝罪の意を一つに束ね初投稿です。
「ねー、昨日さ、アレ見た?」
「見たよー。アレ面白かったよね、あの芸人がさー…」
ふうん。この主人公、意外と度胸あるんだなぁ。第一印象は、ちょっとヘタレっぽい感じだけど…
ページを捲る。
「ねー、テラピチ読んだ?」
「うん!可愛いのいっぱいだったー」
「あ、やっぱし?あたし、昨日買えなかったー!」
うん、いいね。ヒロインとの仲も少し深まって…。ちょっとえっちぃハプニングが多いのは、まぁ気になるけど。
ページを捲る。
「宿題やったー?」
「あ!私まだやってないや!やっば!」
「今日出さなきゃ、先生怒るよー」
あれ、なんか不穏な雰囲気になってきたなぁ。時間帯も夜に近いし、なんかが主人公達に迫ってきてる感じだし…。
ページを捲る。さて、こっからどうなってく…?
「あの…今、いいかな…ですか?」
「?」
ん。なんだろう。自分の席に誰か近寄ってきて、本を読む手が止まる。目線を上げてみると、そこにはクラスメイト。確か、学級委員をやってる子だったかな。
話したことはない。親しくもない。どういう用事なんだろう。予想はつくけど。
「えっと、宿題の回収で…」
「うん」
あぁ、やっぱりね。それくらいじゃなきゃあ、仲が良いわけでもない私に話しかける理由なんて。
「はい、これ」
「うん。ありがとう。…ございます」
「………」
アニメや漫画が好きな私だけど、だからって、学校のことを疎かにしてるわけじゃない。幸いなことに、成績も良好。もちろん、宿題だってちゃんとやる。
で、とっくに済ませておいた宿題のプリントを渡したのはいい。いいけど…。
「なんで、ちょっと丁寧な感じになるの?」
「えーっと……」
「うん」
「話しかけづらいから…。いっつも静かだし、本読んでるし…」
「ふうん」
まぁ、気持ちは分かる。自分の世界作っちゃってる人っていうのかな。居るもんね。私もそういう奴ってことなんだ。
宿題を受け取ると、クラスメイトは離れてった。近寄り難いみたいに言われちゃったけど、私は別に、それに対してなにか思うことはない。
さ、彼女の用事は終わったんだから、私も早速、本の続きを…
「あー、鐘なったー」
「次なんだっけ」
「体育」
…と思ったけど、どうも思ったより時間が経ってたみたい。ちょっと残念だけど、読み進めてたところに栞を挟んで、本を閉じた。
最近発売された、ラブコメもののライトノベル。表紙のイラストに惹かれたから、なんとなく買ってみたやつだった。
「えーっと、体操着は…」
よかった。ちゃんと持ってきてる。体育ってことは、移動して着替えて…。なんだか面倒だなぁ。
クラスメイト達の喧騒をBGMにしてた読書は、もう終わり。ここから放課後まで、まだ少しだけ学校の生徒をやっておかなくちゃ。
「はい、次ー!」
「あー。次私かよー」
「がんばれー」
「うっせーっつーの」
「…………」
今日の体育は、外での授業。バーを設置して、安全の為の分厚いマットもセットして。要するに、走り高跳び。
同級生のキャイキャイとした会話を聞きながら、体育座りで順番を待つ。私の番は、まだ少し先。
(今頃みんな、なにしてるのかなぁー)
退屈な待ち時間を、ここ最近で知り合った人達のことを考えて、潰す。
何してるって、皆 授業受けてるに決まってるけどね。あ、年長さんは分かんないか。大学生だし。
(前のタコパ、またやりたいなぁ。や、タコじゃなくても)
一昨日に皆でやった、タコ焼きパーティーのことを思い出す。料理上手な年長さんが主導で作ってくれたり、上手に作るコツを教えてくれたり…。
具もいっぱい揃えてあって、すごく美味しくて、楽しい時間だった。
「でもなー。あの日はなぁー…」
ボソッと呟いた私を、近くに座ってたクラスメイトがチラッと見てくるけど、気にしない。
そう。タコ焼きが美味しかったのはそりゃあ素敵なんだけど、その前に一悶着あったんだよね。あの時は私も、マズいなって思った。
なにがって、そりゃあ。ウワサのこと。
『見えた!先輩さんの家です!』
『分かってる!』
あの日。二日前。赤さんと二人で、自分達の中にある、色んなものを晴らしに行った日。
強過ぎる魔女と戦って、ボロ雑巾みたいになったり、マギウスの翼の人から極めて平和的に話を聞くことが出来たり、まぁ、色々あったんだけど。
先輩達がピンチかもって思った私達は、急いであの廃ビルから退散。三人で先輩さんの家に向かった。
『…なぁ、これ』
『はい。感じますよ。魔力』
『〜…』
家の敷地に入った途端、魔力の反応があったのを覚えてる。それは魔女のやつでも、魔法少女のそれでもなかった。
多分、アレがウワサの持ってる魔力の質なんだろうなって。なんか、とにかく異質な感じ。
『いくぞ…!』
赤さんが玄関の取手を掴んで、恐る恐るでドアを開けて。それで、三人一緒に家に入った。
『っ…』
アレは嫌な空気だった。それなりの期間置いてもらって、すっかり慣れた場所だったのに、全く別の空間に入り込んだような感覚。
家の中は嫌に静かで、物音ひとつしなかったのが、不気味さを後押ししてたっていう。
『先輩!マジ子!居んのか!』
『年長さんも!居たら返事してください!』
大きい声で呼びかけながら、家の中を歩いた。二階に居るのかと思って、階段から声をかけてみたりしたけど、特に返事もなくて。
じゃあ、やっぱりリビングに居るのかと思って、そしたら。
『赤さん…!おチビさん…!』
『っ!先輩か!?』
『ダメ、です…。こちらへ来ては…!』
『は…!?』
やっぱりっていうか、リビングの方から声が聞こえてきて、それが先輩さんのものなのがわかった。
…けど、来るなって言われた理由が分からなくて、赤さんと目を見合わせて。
『なんか知らねーけど…!』
「バカ言ってんじゃねーっつーの」なんてボヤきながら、リビングと廊下を隔てるドアまで、ズカズカ歩いてく赤さん。
先輩さんが、意味もなく「来るな」なんて言うとは思えない。けど、それ以上の情報が得られないままで、詳細が不明瞭。
なにより、こっちに呼びかけてきたあの人の声は、苦しそうだった。なら、やっぱり何かあったのかって、思わずにはいられないでしょ。
赤さん、シーさんの後ろにくっついてって、ドアの前に立つ。赤さんはこっちに一瞬目配せしてから、ドアノブに手をかけた。
『っ!』
『皆さん!』
そうして、リビングに突入した、私達が見たもの。
それは、ソファに寝そべったり、床の上にペタッと座り込んだりして、ぐったりとしてる皆の姿。そして、部屋いっぱいに展開された、結界のように見える何かだった。
後で聞いたけど、アレがウワサの持つ結界らしい。
『先輩!?おい、どうした、これ…!』
『あぁ…、マジ子さん!年長さんも…!』
当然、そんなことになってる三人を黙って見てることはできないから、近くに寄って状態を確かめる。三人共、特に外傷とかは見られなかったけど、とにかく衰弱してるように見えた。
シーさんはまぁ、単に赤さんに引っ付いてたって感じだけど、まぁそれはいい。
『う…。赤、さん…』
『先輩…!おい、大丈夫…ではないか。見りゃ分かる』
『お馬鹿…来るなと言ったでしょ…』
『あぁ?そんなお前…。なんでさ、それ?』
リビングまで来たことを、先輩さんに叱られた。理由を赤さんが訪ねるけど、少し荒い呼吸が返ってくるだけ。それだけ弱ってたんだと思う。
『そうだよぉ…。ここ、来たら…』
『吸い、取られる…皆…』
マジ子さんも年長さんも、そんなこと言うし。ていうか、吸い取られるってなにって、思った。
そう、思ってたら。
『っ!?あっ…?』
『!チビ!?』
なんだか急に力が抜けて、ガクッと膝をついちゃった。立ちあがろうとしても上手くいかなくて、そうしてる間に、もっと力が抜けていって…。
『うぅ…』
『チビ!おい、チビ!どうしたんだって!』
『あぁ、やっぱり…』
『言わんこっちゃありませんわ…』
『あぁ!?』
どういうことだって食ってかかる赤さんに対して、皆は庭の方を指差すことで答えた。私も頑張って、庭の方に目を向けた。
果たしてそこにあったのは、出かける前よりも大幅に大きくなった、あのカイワレ。それも、2本に増えているってオマケ付きだった。
『あの植物…!』
『マジ子さんが…。二人への、サプライズにと…』
『でも、いきなり変に…マジ子ちゃんが、もう一本、植えたら…』
『なんか、ブワーッて広がったん…。ケッカイ…』
『!』
この急な脱力。もしかして、あのカイワレ…ウワサの影響なのかと思ったけど、案の定だったってこと。
マギウスの翼が言ってたこと、間違ってなかったんだ。けど、なんか癪だなぁって。
『………?あれ…。ちょっと、待ってください』
『ん…!』
『なんで、平気そうなんですか。赤さん』
『あ?……そういえば』
正確に言えば、シーさんもそう。部屋に入って、ウワサの影響が及ぶ範囲に捕まってしまったんなら、二人にも何かしら変化があったっておかしくなかったのに。
『…って、いいだろそれは!いや、よかないだろうけど、少なくとも今はさ!』
『そうかもですけど…うぅっ!』
『!?なんだ!次はどうした!』
赤さんと話してる間に、脱力感が更に酷くなる。そこまでいってようやく、年長さんの言った「吸い取られる」の意味が分かった気がする。
『赤さん…!吸ってる…。吸い取ってるんです。カイワレが…!』
『なにを!』
『元気とか、活力とか、あと、魔力とか…。色々ですよ…!』
『…!?』
確信はなかったけど、きっとそう。なんかこう、自分の中からサーッと抜けてく感覚があった。そしてそれがずっと終わらなくて、結果、どんどん弱っていく。
先輩達も同じ状態なんだって、その時悟った。いや、私達が帰宅するよりも前から吸い上げられ続けてるんだから、もっと酷いことになってたのかも。
全く。最初はいい感じにスッキリさせてくれる癒し系かと思ってたら、今度は絞れるだけ絞ってくるとか…。そんな悪徳業者みたいな…!
『チッ…!』
大きく舌打ちをした赤さんは、リビングの窓に駆け寄ってった。ロックを外して、外に出ようとしたんだと思う。
『シー!』
『?』
『何があるかわかんねー!お前も手伝え!』
『………』
『お仲間だからって、日和ってんなよ!ここに居る以上は働け!』
『!』
赤さんに言われて、シーさんも付いていく。鍵は解除されて、庭に繋がる窓が開かれた。
『ぬっ!』
それと同時に、赤さんが怯む。外の空気と一緒に、カイワレ達自身から発せられている魔力が、部屋の中に吹き込まれてきたから。
グロッキーになってた私達には、割とキツかったなぁ…。
『クッソ…!やっぱウワサなんて、ロクなもんじゃねえじゃねーか…!』
『〜……』
『あーもう、何しょげてんだこんな時に!いいから早いとこ、このカイワレモドキをっ…!?』
ちょっとだけ揉めながら、カイワレをどうにかしようとした時。二本のカイワレに異変が起きる。
『おいおいおい……なんだよこりゃ…』
元々大きくなってたのに、赤さん達が手を下そうとしたのを察知したのか知らないけど、更に長大になり始めた。
おどろおどろしいオーラみたいなのも纏いだして、ついには外に居る二人に影が落ちるくらいに成長して…
『え、や、これデカ過ぎ…』
呆気に取られる赤さんを他所に、カイワレのオーラ的なやつが膨れ上がっていく。いけない!って思ったけど、その時の私に、動く力なんて残ってなかった。
『っ……!!』
『〜!!』
危機を察したらしい赤さんが、身構えたのが見えた。シーさんが赤さんを庇うように、前に出たのも。
そしてとうとう、カイワレ達の発するオーラ(仮)は限界まで膨らんで、それが全部解き放たれて、赤さんやシーさん、そしてリビングに居る私達を、家ごと蹂躙して、吹き飛ばして………
『……………あれ?』
『〜?』
………なんてことにはならずに、突然にオーラは霧散。二本の巨大カイワレは、まるで逆再生みたいな速度で萎れて小さくなって、やがて枯れてしまった。
それこそ、あのローブの人達の言う通りに。
いきなりそうなっちゃったから、赤さんも放心したみたいに固まってる。無理もなかったと思う。リビングからかろうじて眺めてた私も、同じ気持ちだったから。
『………な』
『?』
『なんだそりゃあ……』
気が抜けたのかバランスを崩して、開いた窓の桟に思いっきり尻餅をつく赤さんの姿を眺めながら、私の身体はだんだんと調子を取り戻していった。
「………」
「よし!次の人!」
当時のことを思い出してるところに、何度目かの、先生の声が聞こえてくる。うん。どうやら私の番が来たみたい。
立ち上がって、お尻の部分を軽くはたく。頭を切り替えて、授業に集中することにする。
走り高跳びの結果は、まぁ、そこそこだった。
「えーっと、連絡、連絡…」
時間は更に過ぎて、放課後。校舎を後にした私は、スマホを取り出して、先輩さんに連絡を取る。これからそっちの家に行って、合流する旨を伝える。
「皆、居るかなぁ」
そう言ってるとすぐに返信が来て、向こうの了解を報せてくる。私以外は、もう集まってるみたい。
「行く前に、ちょっと本屋覗いてこうかな…」
お金に余裕があるわけではないから、買ったりはしないけど。まぁ、次に読んでみたいやつを探してみるのも、いいかなと思って。
「みゃーこせんぱーい!お待たせー!」
「おー、来たか。じゃ、早速手伝ってくれー」
「おっけおっけ!で、今日 なにやる感じ?」
「まったく…。ちゃんと伝えてあったろ。今日はなぁ」
校門の方から元気に走ってきた、歳の近そうな、元気な女の子。制服からして、新西の市立大附属の人なのかな。
その女の子が、白衣を来てる小さい女の子と一緒になって、校舎に向かうのを見送りながら、学校を出た。
…あの白衣の子、先輩って呼ばれてたけど、まさか、歳上なのかな。
うちの制服を着てたけど、初等部で見かけたことはない。もしかしたら、中等部。それか、高等部の人なのかもね。いやはや、人体って不思議だなぁ…。
「…………」
てくてく、てくてく。もうすっかり行き来し慣れた道を、集合場所目指して進む。自分の他には誰も居なくて、私の靴の音だけが鳴り響いてる。
「あ、そうだ…」
またスマホを取り出して、親に連絡を入れておくことにする。今日はお父さん、少し遅くなるって言ってたっけ。じゃあ…
(『皆と集まるから、少し遅くなるかも。晩御飯はちゃんと家で食べるね』……っと)
一旦止まって、お母さんにメッセージを送る。スマホをしまって、また歩き出した。
(…数日前の私なら、こんなことしなかったんだろうなぁ)
頭に血が登って、怒りっぱなしだった私なら、きっとそうだった。我ながら子供だなぁって恥ずかしくなるけど、事実、私は子供だもんね。
(赤さん達には、感謝しなきゃ)
我儘な私を家に置いてくれて、皆 フレンドリーに接してくれて。
赤さんには酷いことも言っちゃったけど、それでも今は、なんやかんやで仲良くなれた…と、思う。多分。
私が最終的に家に帰る決断ができたのも、あの人達のお陰だと思うから。
そう決めて帰宅したからこそ、両親の気持ちを、知ることが出来たんだから。
『おかえり』
それが昨日、ちょっと気まずい心境になりながら帰った私への、両親の言葉だった。
あんなことがあって、娘が数日、自分達の目の届かないところに居たって言うのに、いつも通りに出迎えてくれて、笑って抱きしめてくれて。
情けないかもしれないけど、両親の温もりが、なんかすごく久しぶりに感じられて、私は少し泣きそうになった。
それからは家出したことを謝って、お母さんの手料理を食べて、お風呂に入って、自分の部屋で寛いで。そして、赤さんやマジ子さんと、メッセージでやりとりしてる時、お父さんに呼ばれた。
居間に行くとお母さんも居て、話があるから、聞いてほしいって。なんとなく察しがついてた私は、素直にソファに座って、両親の話を真剣に聞いた。
『お父さんとお母さんが、あんなことを言ったのは、ちゃんと理由があるんだよ』
お父さんは、最初にそう言った。赤さんも私にそう話したけど、やっぱりそうだったんだ。頭ごなしに、「やめろ」とか「ダメ」とか、言ってたんじゃないんだね。
『お父さんとお母さんも、大好きだった。アニメとか、漫画とか…』
話を聞いていくと、どうも私の両親は、そういうものが好きだったみたい。学生の頃から、お小遣いやバイト代で、一種の、「オタ活」ってものをやってたんだって。
二人は違う学校に通っていたけど、そういうことをしてる中で知り合って、仲良くなって。それで、付き合い始めたんだとか。
じゃあ、どうして私の時はあんなに怒ったの?って、聞いた。二人共、私と同じような趣味を持ってたのに、何故。当然、疑問に思ったから。
そしたら、お父さんが言った。「肩身が狭かった」って。
クラスの人はみんな、話題の映画やドラマ、ファッション、スポーツに夢中。ゲーム、アニメ、漫画。そういうのを本格的に嗜んでる人は、居なかったんだって。
話題に上げてるのを見かけても、一般にも周知されてるような、メジャーな作品の話題。当時自分が熱中してたような、深夜アニメだとか、ライトノベルだとか、そういうのは全然だったらしい。
…でも、それだけで、あんなに私に怒ったりするものなのかなぁ。
言っちゃあなんだけど、それくらいなら、何の問題もない気がする。
だって、それってある意味そうじゃない?まず個人の趣味嗜好自体が、千差万別なんだから。アニメ、漫画にしても、コアな作品になればなる程、知る機会は少なそうだもん。
そこまでは私も、両親の話がいまいちピンとこなかったんだけど…
『お父さん、クラスの人から虐められてたみたいなの』
お母さんのその一言で、少し驚いた。イジメって…。
お父さんは、「悪いのはお父さんなんだけどね」って、続けたけど。
曰く、お父さんは自分の趣味を積極的に人に話すことはしなかったけど、特に隠したりもしてなかったんだって。
自分はクラスでは目立たない人間だし、学校でライトノベルを読もうが、お昼休みに教室で、手持ちのお絵描きノートに絵を描いてようが、気にする人は居ないだろって。
でもある時に、ちょっとやらかしたんだって。
無遠慮、無配慮な人っていうのは、何処にでも居るんだって話みたい。それも、学生なら尚更って、お父さんは言う。
要するに、周りにバレちゃったみたい。趣味のこと。
休み時間におトイレから帰ったら、自分の席に、勝手にクラスメイトが座ってて。何人かで集まって、駄弁ってたんだって。
「それ自体は別にいいけど、そろそろ休み時間も終わるし、悪いけど退いてもらおう」
そう思って、近付いたら…。
『皆して、見てた。広げてたんだよ。お父さんの、お絵描きノートとか…』
声をかけようとした時に見た、自分のノートやノベルを広げて、しげしげとイラストを見るクラスメイト達の姿。それがすごく恥ずかしくて、急いでノートを引ったくった自分を見る、彼らの揶揄うような視線。
「今でもよく思い出せる」って、寂しそうな顔をして、お父さんは笑った。
勝手に席に座られて、勝手に机の中を漁られて、そして勝手に、自分を形作ってるものの一部を覗かれて。
お父さんは怒ったけど、件のクラスメイト達は、ヘラヘラ笑いながら、のらりくらり、躱すばっかりで。
「わざとじゃない」
「きまぐれ。なんとなく机の中を見たらあった」
「なにマジになってんだよ」
「つーかこんなもん、学校に持ってくる方がおかしい」
自分は本気で怒ってるのに、向こうは真面目に取り合ってくれない。それどころか、もっともらしい正論まで持ち出した。
悔しい。悲しい。許せない。そういうのが全部混ざったようになって、始業を報せるチャイムが鳴っても、先生が教室に来ても、お父さんは泣きっぱなしだったらしい。
『先生が、なにかあったのかって聞いてくれてさ。お父さん、話そうとしたんだけどね…』
そしたらすかさず、集まってた人達の中の、一人が手を挙げて言ったんだって。「そんな話してても時間の無駄なんで。早く授業始めましょう」って。
ただでさえ、色んな気持ちでグチャグチャだったのに、そこで追い討ちをかけられたお父さんは、茫然自失のまま、放課後まで過ごしたらしい。授業だっていうのに、ノートを取ることも出来ないままで。
学校が終わって、待ち合わせ場所に会いに行ったら、お父さんが大声で泣き出しちゃって、ビックリした。お母さんは、そう言ってた。
それからの学校生活は、卒業するまで、度々揶揄われて過ごしたらしい。変なあだ名まで付けられて。心休まるのは、家に居る時と、恋人…お母さんと居る時だけ。
件のクラスメイト達は、単なるお遊び程度にしか思ってなかっただろうけど。でも、お父さんはきっと、本気だった。
本気で嫌だっただろうし、悔しかっただろうし、自分の好きな作品のことまで、バカにされた気分だったんだと思う。
勿論、学校に関係の無いものを持ち込んだお父さんだって、いけないと思う。だけど、どうしてだろう。そう言い切ってもいいって、そんな気持ちには、なれなかった。
『それからは、お母さんと一緒の学校に進学して、卒業して、結婚して…』
そうして、私が生まれて。
その中で、お父さんは遠ざけちゃった。アニメも、漫画も、大好きなものは、全部。
何人かのクラスメイト達に笑われて過ごした、その時の記憶。それがトラウマになったお父さんは、持ってたものは全部封をして、家の倉庫の、奥の方にしまっちゃったんだって。そういうのが好きだっていう、自分の気持ちごと。
けど、意志の弱い自分には捨て切ることも出来なくて、今でも気になる作品をついチェックしてしまったり、録画して、こっそり別の媒体へ保管してるんだって、ぶっちゃけた。
いつまでも、過去のつまらない一幕を引きずりながら、生きてるんだって。
『お母さんは、学生時代そういうの無かったんだけど…。なんか…なんかね。お父さんの気持ち、分っちゃって』
だから、お父さんのやり方に合わせることにしたって、お母さんは話した。
…理解してくれる人が居ただけでも、お父さんはまだ、良かったのかもしれない。
「私に、自分と同じ目に遭ってほしくなかった。かぁ…」
要するに、それが私に怒った理由らしい。私自身に怒ったっていうよりも、私が自分達と同じ趣味を持ってるのを見てしまって、危機感を抱いちゃったのが原因。
自分と母さんの可愛い子供が、自分と同じことで悲しんで、泣いて帰ってくるかもと思ったら…。
そんなの、きっと耐えられないって、両親は悲しそうにしてた。
「取るに足らないこと、だよね」
世の中には、もっともっと悲惨なことがあって。お父さんみたいに、声を上げて怒れるような人ばっかりでもなくて。
それに比べれば、なんでもない。学生時代の、ほんの一瞬。一ページ。どこにでもある、単なる苦い思い出。当時お父さんを揶揄っていた人達も、その時のこと、とっくに忘れて生きてるんだと、思う。
「……………」
けど、違うんだね。そういうことじゃ、ないんだよ。
マジになるようなことじゃない。それはあくまで、クラスメイト達の考え。
取るに足らない、なんでもないこと。それはあくまで、私の気持ち。
だけど、お父さんは違う。その時、その瞬間の中において、お父さんだけが、違ったはず。
苦しかったと思う。悔しかったと思う。悲しかったと思う。だから怒ったし、だから泣いたんだ。誰よりも、本気だったってこと。
だからこそ、私が生まれた時、将来 同じ思いをしないようにって。私が笑顔で楽しく過ごせるようにって、そう、二人で決めて…。
ごめんね、お父さん。ごめんね、お母さん。
私を思って、言い聞かせてくれたことなのに。私は怒って、飛び出しちゃって。
きっと、辛かったんだよね。お父さんも、お母さんも。好きなものを無理して遠ざけて。そんなお父さんの姿を、お母さんも見続けてきて…。
両親からの話が終わった時、気付けば私は、声を上げて泣いちゃってた。お父さんとお母さん、二人にしがみ付いて、長い間。
両親の想いを理解できたからなのか、同じオタクとして、お父さんの昔話が悲しかったからなのか、それは分からないけど。
とにかく、ありがとうって、思った。
「………だけど」
はぁって息を吐き出して、思う。それはそれ。悪いけど私は、自分の趣味を捨てるつもりも、それが好きだっていう気持ちを押さえ込むつもりもない。
話の後は一緒にお風呂に入ったり、幼稚園以来、家族みんなで川の字で眠ったりもしたけども。それとこれとは別かなって。
「大体、私、学校では ぼっちだしなぁー」
昼間に学級委員の子から言われたけど、どうも私は近寄り難いらしい。まぁ、確かに世間話とか、友達付き合いとかで話しかけてくる子って、居たことない。
ライトノベルとかアニメ雑誌は学校でも読んだりしてるけど、何か言われたこともない。予鈴が鳴れば鞄の中に一々仕舞うから、うっかり見られちゃうってこともないしね。
「そもそも、バレたからってね…」
今の時代、そういうサブカルも世間に浸透してきてるんだし。アニメも漫画もライトノベルも、配信サイトが増えたりしてさ。マニアックな作品っても、広告等で触れる機会も、少しは増えたんじゃないかな。
…まぁ、それでも好き嫌いってのが、人にはある。私の意外かもしれない一面を知って、後ろ指差したり、軽蔑する人も居るかもだけど。
「それがどーしたってんですかー」
そんなくらいで捨てちゃうほど、私の「好き」は軽くない。お父さんのような、繊細な心だって持ち合わせちゃあいないんだから。
好きなものは好きなんだ。笑わば笑え。好きにしろ。なんとでも言えってんですよ。
私は、多分大丈夫。可愛い娘と思うなら、どうか、私を信じてほしいな。お父さんにも。お母さんにも。
(それに……)
お父さんに、お母さんっていう理解者が居るように、私にだって、居てくれるから。
ありのままの私を分かって、受け入れてくれる人達が。
赤さん、先輩、マジ子さん、年長さん。
シーさんは…どうだろ。
(会いたいな…皆に)
あの人達のことを考えて、自然に足が早くなる。途中で書店に寄ろうと思ってたけど、それはまたの機会にしよう。
なんだか良い気分で走ってると、ふと、あのカイワレのことを思い出した。
私が拾って、皆と出会うきっかけになった、あのウワサ。
一人で居れば活き活きとして、二人以上に集まれば、膨らんだ末に枯れてしまう。
「一本だけなら、ストレスや悪感情をいい感じに吸ってくれるが、二本以上になると暴走し、見境なく吸い上げた末に、枯れていく」
タコパの最中、私達の報告を聞いた先輩さんは、そう推測してみせた。
ウワサのシーさんはともかく、赤さんがなんで無事だったのかってのは、結局、謎なままだったけど。
(一人で居た方がいい。それ以上なら、上手くやれない。かぁ)
ある意味、同じだったのかもしれない。私と、あのカイワレは。
私だって、そうだった。友達は居ないけど、勉強は出来た。運動もそれなり。魔女だって、大抵は一人でなんとか出来て。一人でも何も問題ないじゃんって、何処かで、そう思ってた。
そしてある日、あのカイワレを拾っちゃって、赤さん達と出会っちゃって。慣れない集団行動に、見事に振り回されて、ポカやって。
そう思うと、偶然じゃなかったように思えてくるから不思議だね。私と、ウワサ。一人ぼっちだった奴らが、出会っちゃったのは。
「でも、私には皆が居るから」
だから、もう違う。今の私は、一人じゃない。
今の私は、(仮)とか見習いとか、そういうのは、とっくの昔に外れてるんだ。
私だって、魔法少女。チームの一人。もう正式に、皆の仲間になったから。だからね。
「ひとりぼっちは、もうお終い」
誰に聞かせるわけでもなく呟いて、一目散に駆けていく。
いつの間にか見つかった、私の居場所へと、向かって。
マギレコ本編の出来事
・さなをひとりぼっちの最果てから連れ出して、何日か経った頃。ももこ達に事の顛末を話すいろは。ももこ達が三者三様のリアクションを見せたところで、やちよと買い物の約束をしているからと、学校を後にする。
相変わらずやちよとの蟠りが解けないももこは、自分の抱える「隠しごと」を誤魔化すように、かえでとレナにじゃれついていた。