レナちゃんアニメVer.実装なので初投稿です。
「…………困った」
「なにが」
私の呟きに、先輩が反応する。いや、分かってるだろ。知ってて言ってんだろ、それは。こんにゃろー。
「洗濯物!服だろ!」
「でしょうねえ」
ほらー、やっぱり。遊ぶな。私で。
目の前にある洗濯物。畳まれた私の服を、眉間に皺寄せて見つめる。
「無いんだよ…もう、替えが」
「ええ」
「しかもパンツの!」
「今洗ってますものねぇ」
そう。絶賛洗濯中。今、こうして目の前に畳まれてるやつは、さっき下ろしてきたやつだ。シャツに、ズボンに、靴下、パーカー…
「なんで、よりによってパンツだけ…」
「今の今まで洗うの忘れてたからでしょう、貴女」
「仰る通り。でも、やめてくれるかな」
「おバカ」
なんだとコラ。でも、言い返せないから困る。
「〜、〜」
「ん?」
後ろから、服を引っ張られる。そっちに向くとシーが居て、私になにか差し出してきた。これは、うん。洗濯物だ。私のやつ。
「うん…ありがとう。でもこれ…」
「?」
「や、いいわ…」
畳んでみたのか知らないけど、見様見真似でやったのかな。団子になってぐっちゃぐちゃ。や、お前…ティッシュじゃないんだから。
「〜」
「まぁ、ありがとう…」
「〜♪」
シーを撫でてやる。いや、しゃーねえだろお前…。別に、悪気があってグシャっとしたんじゃないんだろうし。見ろよ、このキラッキラなおめめを。
勢力としては敵側ったって、こんな無邪気なやつを責めるなんてのは、私にはとても…。
「挙式の際には呼んでくださいね」
「しねーわそんなもの」
「さ、服。仕舞ってきて」
「はいはい…」
自分で吹っ掛けといてスルーかよ。ほんともー、この人…。いいけどさ。
シーが寄越した服を畳みなおしてから、自分の服を纏めて抱えて、二階の部屋へ。
今日は休日。穏やかな、午前中の出来事だった。
「なに。赤ちん、服ないん?」
「まあ」
「マジヤバじゃんそれー。あ、もうすぐ勝てそー」
「押しましょう押しましょう」
昼頃。飯を済ませてから、少し経って。
今日も今日とてって感じで、先輩の家に、皆で集まる。まぁ、何か目的があって、こうしてるわけじゃないんだけど。
見ろホラ。マジ子とチビなんて、ゲームしてるよ、ゲーム。スマホでやるやつ。ソーシャルゲームってやつか。
「んー。そんならさー。アタシがイッショに見よっか」
「なにが」
「おヨーフク。赤ちん、ファッションセンスとか無さそーだし?」
「うるせーわ、この」
その通りだけどさ。いいだろ、別にさぁ。オシャレに着飾るとか、そんなん柄じゃないんだって。
「つーか、あれよ。下着だからな。見えねーやつだから、普段は」
「うっそ、マジ?」
「不便じゃ、ない…?着替え、無いの…」
「まぁ、なぁ…。うーん」
年長さんにテーブルのお菓子を取ってもらって、ついでに飲み物のおかわりをもらう。果汁100パー、オレンジジュース。
紅茶とかも用意してあるんだけど、飲んでるのは先輩かチビくらい。私には分からん味だものなぁ。
「あー、じゃさ。アタシが選んだげる」
「お前がぁ?」
「そそ。エロかわいいのチョイスすっから〜」
「それは嫌」
せめて、実用的なのにしてくんない。丈夫だとか、洗濯がしやすいとか…。
買いに行くっても、服ってやけに高いんだよな…。少なからず人の手がかかってる一品なんだから、それはそうなんだけど…。
(家に帰りゃあ、ありはするけど…。でもなぁ……っと、着信…)
気は進まないけど、最後の手段を使うべきか…。そう考えてたら、スマホが鳴る。つい手に取っちゃったけど、この着信音。またかよ。
(やっぱりね)
画面には、あの人からの連絡を報せる文字が表示されてる。今日もいつもとさして変わらない文面なのかと思うと、いい加減うんざりしてきちまう。
(見るだけ見てはおくけどさ…って。ん?)
届いたメッセージを開いて、中身を確認。すぐに閉じて、ゴミ箱にでもブチ込んでやると思ったけど、今日はいつもと違ってた。なんだろう。文章が多いな…。
お元気ですか?今日は良い天気です。
せっかくなので、お散歩のついでに、お買い物に出かけようと思います。あの子と一緒に。
そういえば、知っているとは思いますが、近々あの子が、誕生日を迎えます。
だからその時は是非、家族みんなで、お祝いできたらなと思っています。
あの子も、あなたのお父さんも、あなたに会いたがっています。もちろん、私だって。
無理にとは言いません。顔を出すだけでもいいです。また、あなたに会えたらなと思います。
(………………)
書いてある文章を読み終えて、メッセージを閉じる。すかさずゴミ箱に放り込んでから、削除。スマホをまたスリープさせる。
「チャンスだな」
「なにがです。あ、マジ子さん バフかけて下さい」
「おしゃー!パワーアーップ!」
「何ってお前」
着替えの問題、解決するんだよ。その為のチャンス。
会うだ会わんだいうのは、考える必要もない。私の答えは決まりきってるんだから、それはいい。
いいとして、さっきの文章から考えると、あの人は今日、出掛けるらしい。それも、あいつと。
だったら…
「わり。外 出るわ」
「今からですか?」
「えー、下着買いに行くん?なら、アタシも」
「家だよ。私の」
今、自宅に帰れば、あの人達と顔を合わせずに済む。パッと行って、パッと済ませば、なんてこたぁねえだろ。
…お父さんには会っちまうかもしんないけど、まぁ、あの人達に会うよりはマシ。嫌いってわけでもないしな。
「赤ちゃんの、家…」
「えとー、赤ちんってガッコ、ダイトーだからー…」
「私と一緒ですか?東に家が…」
そうとなりゃあ、さっさと行って、帰ってくるか。もたもたしてたら鉢合わせしたってのも嫌だしな。
「…西だよ。新西区」
立ち上がって、リビングを出る。そしたら当然のことみたいに、シーのやつが付いてきた。
「…………」
「〜?」
「…ま、いいか」
多分、待ってろって言っても聞かないよなぁ。時間の猶予がどれくらいあるか分からない以上、ここでグズられても面倒だし。
靴を履いて、外に出る。この家には人が居るんだから、今日は戸締りはいらんだろ。
シーがくっ付いて腕を組んでくるのも、もうすっかりいつも通りになっちまったなって、ぼんやり考えながら、家に向かった。
実家に向かって歩いて、少し経って。
隣で腕組んでくるシーの柔っこさとか、生き物かどうかもわかんないのに、体温があるって不思議だなって思った私が、つい、シーの頬に手を添えたとか、そんなことはいいとして。
それに気を良くしすぎたシーが、往来で白昼堂々マウストゥマウスをかましてきたからクッソ恥ずかしかったとか、そういうのも……まぁ、いいとして。よかないけど。
「……………」
目の前にドンと鎮座する家屋を、複雑な心境で見つめる。そんな私が不思議なのか、シーは私を覗き込んで、首を傾げてる。
「…はぁっ」
溜息吐いて、腹を括る。たかだか自分の家の敷居を跨ぐだけだってのに、なんでこんなこと。自分が思ってるより、緊張してたりすんのかな。
「なぁ、シーはここで待って…」
「〜」
「…うん、まぁ。出来ねーよな。お前は」
しょうがないから、シーのことも家に上げることにする。ドアノブを引いて、ドアを開けた。
「ん………」
久しぶりの、自宅の玄関。少しだけ、物が増えたかな。
靴を脱いで、家に上がる。しんとして静かな廊下を歩いて、どんどん奥に進んでく。
「……………」
「〜?」
「ん…」
一番奥の、ドアにネームプレートが掛かった部屋。私の名前が貼っつけられた、私の部屋だ。
この部屋に帰ってくるのも、同じく、久しぶり。長らくほっぽっちまってたし、埃とかすごいんだろうなぁ…。
「………あれ」
けど、中に入った私を出迎えた自室は、そんな思考に反して、すっげえ綺麗で、整頓されてて。
まるで、家を飛び出してったあの日から、時間なんて、然程経ってないように感じられた。
「……………」
「〜」
机、ベッド、箪笥。形を確かめるみたいに、近寄って指を添えて、ゆっくりとなぞってく。この家具達と離れてたのも、たった一年とかそこらの間だってのに、なんだか随分昔のことみたい。
なんだか、少し切ない。かも。
「〜?」
「あ、それ…」
机をしげしげ眺めてたシーが、卓上の目立つ部分に設置してあるものを手に取る。写真たてだ。
そんで、そこに写ってるのは…。
「お母さん…」
私の記憶の中にある姿と、全く変わらないお母さん。そのお母さんに抱っこされて、無邪気に笑ってる私。確か、小さい頃に出かけて、その時に撮った物だったはず。
神浜に来る前の、昔の記憶。一番楽しくて、一番輝いてたと思う時間の、その一部。それを切り取って、形にして…。
「…………」
「っ!?〜!?」
「っ…。なんでもない…。なんでも…」
もう戻らない。あの時間はとっくに思い出になっちまって、二度と帰ってこないんだって。それを、はっきりした形で、改めて見せられて。
それがなんか、すげえ心にキちまった。
自分の内側から、なんか登ってくるような感じがして。それが体から…具体的には、目の辺りから溢れそうになったけど。
でも、なんとか踏みとどまった。シーにも、心配かけちまったか。
「…行こう。さっさと…」
押し入れを開けて、奥からボストンバッグを引っ張り出す。昔、修学旅行用に買ったものだけど、ちゃんとあって助かった。
「……………」
箪笥から下着と、ついでに靴下、シャツなんかも多めに放り込んで、バッグを満たす。
これで、目的は達成した。これで、もうこの部屋に用はない。そして、この家にも。
内側に渦巻いてる気持ちを振り切るみたいに、勢いよく立ち上がる。服を詰めたバッグも忘れずに持って、二人して部屋から退出した。
「………………………」
「?」
「ん……。行こっか」
振り返って、ドアを閉めようとするけども。後ろ髪を引かれるような何かが、私の視線を自室に釘付けちまってる。
でも、ダメ。私はここに、居られないから。大切過ぎる思い出と、嫌な今が混ざり合ってる、この場所は。
私には、辛過ぎる。
だから、閉めた。蓋をするみたいに。まるで、見たくないものから目を背けるみたいにして、ドアを閉めて。そして家を出た。
「なにやってんだ。あんたら」
ドアを開けて、家を出て。最後にもう一回、自宅を見上げて。
振り切るみたいに背中を向けた、帰り道。
まだ実家の付近ってとこまで歩いたところで、先輩達と会った。しかもご丁寧に、チーム全員連れ立って。
「…赤さん、その」
「それに」
先輩達と、一緒に居る二人。その二人をはっきり認識することで、私の中に、嫌な気持ちが生まれてくる。生まれてきて、高まってくる。
なんで先輩達がここに、とか。まさかつけてきたのかとか、そんな疑問も、どうでもよくなって。
眉間に皺が寄っていくのが、はっきり分かった。
そんな私とは対照的に、目の前に居る人。小さい子供の手を握ってる、女の人は。
その顔をみるみる明るくさせて、涙目で嬉しそうに笑って。私のところへ、駆け寄ってきた。
「あぁ…!あぁ、良かった…!また、会えて…!」
私に会えて、さぞかし嬉しかったのか。そんなことは知らんけど、その女の人は、私のことを抱きしめた。
とっても大事そうに、強く、強く。
「っ!」
でもそれが、私のことを、もっと苛立たせて。
「離して」
「え、でも!折角こうやって…」
「離してって!」
抱き付く彼女を振り払って、肩を押して突き放す。少し。いや、結構、力がこもった気がする。
「あっ…」
「会いたくなかった。あんたとは」
「っ…!」
一言 吐き捨てて、早足で傍を通り抜ける。シーのやつが相手に食ってかかりそうになってたけど、視線で制した。
「…あのっ!」
「……………」
背中を向けて去ってこうとする私に、話しかけてくる。んだよ…。まだなんかあるってのかよ、え?
「あの!家に…上がったんですか?」
「あ?」
「入ったんですよね?お家に!一時的にでも、帰ってきてくれたのかなって…!」
「だったら、なに?」
本当なら、帰ってくる気はなかったけどな。なんでって、今みたいなことになるかもしれねーからなんだよ。クソ!
「なら…。なら!今は、それでいいんです。今は、それで…」
「…………」
「元気な姿のまま、あの家に戻ってきてくれた。私には、それだけでも」
「あーもう…!」
マジでなんだよ。なにが言いてーんだよ、あんたは…!言うだけ言って、自分だけ理解して、それで満足してんじゃねーぞ。不透明なのは嫌いだっつってんだろ!
「私が元気で、それで家に寄ってきて。だからなんなの?それがどうしたんだよ、あ?」
「っ………」
「拘るよなぁ、私に。毎回毎回、定期的にメールも送ってきちゃってさ」
「それは!だって…!」
「関係ねえだろ、なぁ。一緒にあの家に居たからって。でも、それだけだったろ。何かあったか?今まで!私達の間に!」
語気が、強くなっていく。それと一緒に、自分の家、自分の部屋で生まれた、あの嫌な気持ちもまた、どんどん強くなってくのを感じた。
「………子供を」
「ん。なんて」
「子供を気にかけるのは…当然ですよ」
「子供だぁ?」
そりゃなんだ。私がか?子供?誰の。あんたのか。冗談!
「バカかよ、それ。あんたの子供って。それは、そこに居るやつのことだろ!」
「でも…!でも、子供ですよ!あの人の…。私達の!」
「チッ!」
舌打ち。また、強くなる。広がってく。満ちていく。
嫌なもの。激しいもの。熱いものが。
「だって、そうでしょう?私達…。だって、私達は…!」
その中で、この人が次に、なんて言おうとしてるのか。それがなんとなく分かっちまった私は、もうダメで。
まさしくそれは、火に油。今にも爆発しそうだった、自分の中で膨らむもの。パンパンに張り詰めたそれが、とうとう。
「"家族だ"ってか」
爆発、しちまった。
「そ…そう、です。そうで」
「ふざけんじゃねえよ!!」
「っ!」
叫ぶ。溜まったものを、言葉と一緒に、吐き出すようにして。
「私、何度も言ったよな!?あんたを家族と思ったことなんかねえ。私の家族は、今はもう父親だけだって!!」
熱くなってく。頭も、心も。冷静さなんて、とっくの昔に無くしてた。
「紙っぺら一枚!式を挙げたから!同じ家に住んでます!そんなもんで、納得できるわけねえだろ!!」
「忘れたんなら、また言ってやる!!いいか!お母さんは死んだんだよ!!私の「家族」は、死んだんだ!!」
「お母さんは!あの人だけだ!!私の、お母さんは!!」
「あんたなんか!!母親じゃない!!!」
自分の中に渦巻くものの、残りを纏めて叫んでぶつけて、私は走り出す。
もう、嫌だった。ここに居たくはなかったから。
「赤さん!」
「うるせえ!!」
先輩の声も、すれ違い様に切り捨てて。
未だに荒れっぱなしの心のまま、全力疾走。何処に行くかは、分からない。
そのうち疲れて 日も暮れて、先輩の家に帰った時。
あの場に置いて、一言も発することなく佇んでいた、小さい子供。
お父さんと、あいつの間に生まれた子。
つまりは私の弟が、叫ぶ私を、心配するような顔で見てたこと。それをなんでか、思い出した。
マギレコ本編の出来事
・第一部 第5章 終了後