キモチ戦を頑張っているので初投稿です。
お母さんが死んでから、お父さんは元気がなくなった。まだ小さい子供だった私は、お母さんを失ったショックで、ずっと泣いてた。
お父さん、自分も辛かったはずなのに。毎日泣いてばっかの、私の面倒も見てくれて。
それからなんとか、二人で過ごして、精一杯やってきて。
年月が過ぎた、とある日のこと。飯を食いに出掛けたら、知らない女の人を紹介されて。それが、お父さんの新しい恋なんだって、分かった。分かっちまった。
「あの、いいですか?」
「……………」
昼休みに廊下をブラついてる私を、教師が呼び止める。担任だ。私のクラスの。
「えっと、あなた…なにか、あったの?」
「なんすか、なにかって」
「連絡、来たから。えっと…親御さんから」
「………」
「親御」。親ね…。担任の言葉を聞いて、自分ってもんの内側が、一気に波立って、荒れていく。
先生はただ単に、自分の仕事をしてるだけなんだろうけど。でも、すごくムカついてきたよ。私。
「すごい心配してたっていうか、よろしくお願いしますー!って、念押しされたんだけど…」
「はぁ」
「だから、何かあったのかなって。喧嘩したとか、もしかしたら、家出とか…なんて」
「………」
「まさか、へそ曲げた小学生じゃあるまいし。ねぇ?」なんて、目の前の教師は笑う。冗談めかして言ったことなんだろうな。
すげーな、先生ってのは。ドンピシャだ。正解だよ。言わんけど。
「それで」
「え?」
「あっちが電話してきたから。私になんかあるのかもしれないから。それだから、なんだってんすか」
「いや、それはさ?」
それは?なによ。
「それは、ほら。なにか良くないことになってるなら、謝るとか、仲直りするとか…」
「ふーん」
「ふーんて。なぁに、そんな態度で…」
「はいはい。すんませんね」
適当に返事して、担任に背中を向ける。これ以上話をしても、時間の無駄。さっさと離れさせてもらう。
「あ、ちょっと、話を…!もう…」
「………」
「人生、いつ何が起こるか分かんないし、親だって何時までも居てくれないんだから!ちゃんと仲直りしなさいね!」
「……………」
もっともらしいこと言ってくれてさ。ああ、そうだろうな。先のことは分からない。親は先に居なくなる。そりゃそうだろーよ。
でもね。私はもう、それを経験してるわけ。何年も前に思い知ってんだ。今更それ、指摘するってかよ、私に。
そりゃどうも。だったら礼でもくれてやる。
「チッ!」
でっけー舌打ち。精々ありがたがってよね。腹ん中ボコボコ煮えたぎってる私から、精一杯の感謝の気持ちだ、クソ!
「………」
「それで。今度庭に、別の花を植えようと思って」
「いいですわね。ちょうど、時期のものもあることですし」
「んー、でももう、けっこうキレーじゃね?カダン」
「誰が世話してると思ってんですかぁ」
いつもの日。いつもの放課後。そしてまた、いつものように我が家に集まる、チームメイト。私が言うのもなんですけれど、他にやることありませんの?貴女がた。
まぁ、どっちでもいいんでしょうね。あろうと、無かろうと。ここに集まって、女同士、話せれば。内心そう考えながら、紅茶を飲んだ。
「そんでさーあ?そん時コボしちゃったの、アタシが!」
「そう、なんだ…」
「そー!やー、もう、そんで赤ちんがまた怒るわけよ、服にぶっかけちゃったから!ね?」
「……………」
「あれ。赤ちーん?」
楽しそうなマジ子さんが話を振るけれど、赤さんは何も反応を示さない。
どうも先程から、この場に居るのに、彼女だけ私達と隔絶されているような。そんな雰囲気が感じられている。
「はぁ…!」
「あ、ちょ。どこ行くんさ、赤ちん」
「何処でもいいだろ」
「あ、トイレ?」
「くたばれ!」
乱暴に吐き捨てて、私達から離れていく。なんでしょう。今のはこう、少し怖かった。いつも言葉の中に含まれているような、暖かみのようなものが感じられない。
前までは、乱暴な言葉でさえ、それはあったのに。
「〜」
「あーもう…引っ付くなって…!」
「〜!」
「やめろって…!うっといなぁ!」
赤さんを追いかけて、構ってもらおうとするシーさん。見慣れた光景のはずなのに、赤さんは本気で煩わしいと思っている。
でなければ この光景、こんなにも気まずさを感じるものになってはいないでしょう。今までずっと、なんだかんだと仲の良さげな雰囲気だったのですから。
「………なんか」
「分かりますよ、年長さん」
人間、ここまで変わりますか。まだ齢17の私でも、心の動きというものには驚かされるばかり。というか、これ…
「やっぱり、原因って…」
「うん。先日、の…」
「でしょうねえ」
分かっている。分かってはいるのです。だからこそ困る。デリケートですわよ、こんなの。
「はー…」
ため息を吐いて、思い出す。幾らか前に起こったこと。赤さんが不機嫌なままになってしまった原因であろう、あの日の出来事を。
この前のこと。赤さんの下着のストックが尽きてしまったということで、彼女は外へ出て行った。この家ではない、元々住んでいるという家へと。
私としては、待とうと思った。コンビニに買い物へ行くのと同じ…ではないにしろ、言ってしまえば、ただ出掛けただけなのですから。
『ね、ね!追っかけてみない?赤ちん!』
けど、我がチームの誇る元気印は違ったらしく。私達の注目を集めて、そんなことを言い出した。
そんな、わざわざ尾行するようなことをしなくても…。私はそう返したのですけどね。
『えー、気にならんの?みんな。赤ちんのスジョーとか、スガオとか』
『アタシたち、チームじゃん!もっと知ってこーよ、おタガいのことー!』
『てか先輩、いっぺん赤ちんのリョーシンにアイサツしとかないとじゃね?えーと…アレ!ホゴシャみたいなもんじゃん?』
こう言われては、まぁ、一理あるというか。最後のものは、特に。
前に何故家に帰らないのかを聞いて以来、踏み込むのは避けて来ましたが、家を預かる者として、そこは通しておくべき筋。
だから、結局は皆で追いかけた。遠巻きに、見つからないように。そこそこにゆったりと。
『こんにちは』
そうして、新西区に入ってしばらくした辺りで、赤さんがシーさんを伴って、一軒のお宅に入って行ったのを見て。
これからどうしようかと話し合おうとしたところで、挨拶されて。そして、あの人達と出会ったのだ。
『なんだか、大所帯なんですね』
『まぁ、はい』
『………』
柔らかい物腰と、穏やかな雰囲気。朗らかな笑みを顔に浮かべた、あの女性。そして彼女に連れられた、一言も発さなかった、小さな男の子。
そこから少し立ち話をする内に、その女性がどうやら、赤さんの母親だということ。そして、連れていた男の子は、その人の子供……要するに、赤さんの弟さんだということが分かった。
『オトートくんかぁー…。こんにちは〜。やっほやっほー』
『……………』
『…隠れちゃった、ね…』
『すみません…。この子、少しだけ人見知りで』
『あー、いっすよゼンゼンそんな!だいじょぶっす!』
こんな一幕があったのは、まぁ置いておくとして。
『それで、その…貴女が…』
『ええと、はい。赤さん…じゃない。あの子を、私の家に保護しているというか、住まわせているというか…』
『そう、なんですね…。ごめんなさい、ご迷惑をおかけして…!』
『いえ、そのような!むしろこちらこそ、娘さんを家に帰すこともせず、ご心配を…』
私達の用事が、赤さんにあると分かった時の女性の慌てようときたら、それはもう激しいもので。
「あの家に入っていった」と、マジ子さんがとある家屋を指差したところから始まり、必死そうな表情で、「黒い髪じゃなかったか」、「背丈が低い子じゃなかったか」等々、赤さんの特徴を次々と挙げて…。
『でも、よかった…。あの子に、こんなに沢山お友達が出来て…!』
『彼女、全然人を寄せ付けないといいますか、いつも独りだったから。私、ずっと心配だったんです…』
どうにか落ち着かせると、その後はとても安堵して、心底安心したような顔を見せていたのを覚えている。
家から出て行った後も連絡は送り続けていたけれど、今まで一度も返事が返ってこなかった為に、尚更に不安だったと言っていた。
だからこそ、この前の帰宅が本当に嬉しかったのでしょう。たとえ、止むを得ずという形の、一時的なものだったとしても。
『あの。本当に心配なのでしたら、私の方から説得して、お家に帰すこともやってみますけど…』
なんにせよ、赤さんは一度、家族ときちんと話し合う場を持つべきなのでは。そう思って、そういう提案もしてみたけれど…
『それは……その。難しいと思います…』
彼女からの返答はこうだった。あんなに必死になるほど、赤さんを心配していたのに。
『えー、なんで!?家族なんしょ!?一緒に居たほーがよくない?』
『私が一緒に居たくても、あの子は…。それに…』
家族なら というのはともかくとして、未だ庇護の下にあるというなら、そうするべき。学生の身で、寮に入っているだとか、私や年長さんのように、自分から一人暮らしを選んでいるだとか、そういうのではないのであれば。
私も、チームの皆さんも、同じような感想を抱いていたはずです。けど、事はそう簡単ではなくて…
『だって、私…。あの子の本当の母親じゃあ、ないですから……』
「…………ふぅ…」
振り返ってみると、改めて 一筋縄ではいかないと感じる。母親は母親でも、まさか義理のお母様だなんて。そりゃあ、溜息の一つ 二つ、出ようというものでしょう。
「ほんとのお母さんじゃないって、どんな感じなんだろ…」
「さぁ…。でも」
「ん…?」
「赤さんが、家出した私をしきりに説得しようとした理由は、分かった気がします…」
「それって?」
「自分はもう、血の通った家族を失くしちゃってるから。だから、出来るだけ仲良しで居られるようにとか、そういう」
「知りませんけどね」っておチビさんは続けるけど、きっと、そうだったと思う。家族の大切さを知っているから、自分のような目に遭ってほしくないから。そんな思いがあったはず。
それくらい大事だったのでしょう。大好きだったのでしょう。亡くなってしまった、産みのお母様のこと…。
「…再婚って…。どうなの、かな」
「どう、とは」
「どっちか、居なくなって。それで、片方が知らない人になって…。そういうのって、どんな気持ちかなって…」
「そりゃー、さー…」
「自分達の親がどっちか死んで、残った方が別の人を好きになって…」
「もしかしたら、その方が家庭に入ってくるかもしれない。その方との間に、新しい家族が誕生するかもしれない…」
『……………』
それを、赤さんはこれでもかというほど味わっているわけで。そう考えると、言葉が出ない。
彼女にも非があることは分かる。辛いだろうけれど、このまま家族から逃げていて、あの子の為になるのか?ということも…。
けれど、何故だろう。面と向かって、そういった言葉をかける気にならない。それが正解なのかと、疑問に思って動けない自分が居る。
「なんとか、ならないのか…な…?」
「難しいですよ。そんな…」
「あの女の人、いい人だったじゃん?なかよくすんの、そんなムズいかなー…?」
「………」
あの女性と、赤さんの父親と。良い出会い方をしたらしいことは、女性本人の口から聞いている。
一緒に居ると気が楽で、たまには揉めることもあるけれど、共に生きていけると、互いに思えるような人だと。
心を止められないのが人という生き物の性だというなら、二人してそうやって惹き合う思いも、頭や理性では阻めないのでしょうから。
(でもそれが、周囲に良い結果をもたらすとは限らない、か…)
赤さんは、その「周囲」の中に居たと。赤さんだけが反発しているのだから、むしろ、彼女しか居なかったということなのか。やり切れない気持ちを、吐き捨てる場所も無いまま。
(あの男の子は、大丈夫でしょうけど…)
あの場に居て、最後まで一言も発することのなかった、小さな男の子。まだ幼い、おチビさんよりも低い年齢の、赤さんの弟。
『ねえ。お姉ちゃんのこと、好き?』
『………』
『お姉ちゃんのこと、大事?』
『………』
『一緒に遊んだり、お話したり…。そういうこと、したいんだ?』
『っ………』
家から出てきて、家族と話して。終いには怒りを爆発させて、赤さんは去って行ってしまった。私の静止も、乱暴に切り捨てて。
その後に、弟さんに聞いたのだ。お姉さんのこと。赤さんを、どう思っているかを。思いきりしゃがんで、彼としっかり、目線を合わせて。
結果、首の動きだけとはいえ、質問の答えは全て肯定だったのだから、弟さんは赤さんを好く思ってくれているのだ。そう信じたい。
だから、彼はきっと大丈夫。
「………やっぱり、ダメ…!」
「うわ、ビックリしたぁ!」
「ダメって」
「このままって、いうの…。ダメ…!私、どうにかしてみる…!」
肝心の赤さんは、如何したものか…。悩み始めたところに、年長さんが急に、勢いよく立ち上がる。マジ子さん程ではないけれど、私も少し驚いた。
「え、なに。何すんの年長さん」
「赤ちゃんのとこ…行く。説得、してみる…から…!」
「いや、今の赤さんにそんなことしても…あー…」
やる気になったらしい年長さんに、おチビさんの声は届かず。いやに堂々とした足取りで、リビングを出て行った。
「いいん?なんか、行っちゃったけど…」
「んん…。よくは、まぁ、ないですけど」
「そもそも、今日ってまだ本題入ってませんよね?」
「ええ…。これについて、話し合おうと思っていましたのに」
学校から帰宅した時。ポストに届いていた、この 一通の手紙。
テーブルに乗ったそれを手に取って眺めながら、内容と、これを送り付けたであろう人物達について、考える。
「おテガミじゃん。ダレから?」
「翼ですわよ、翼。ほら、マギウスの…」
「あー…」
「しかも、いつもの特務隊」
「うわー…。で?どんなやつなんです。中身」
中身…中身ですか。まぁ、御丁寧に便箋に入っているのですから、それは当然、何かしらが記された紙が入っているわけで。
ただ、そこに書かれていたものが問題というか。丁寧なんだか、フランクなんだか。文面がチグハグで、不慣れだったのが丸分かりだった。
書き損じた部分が多いのか、黒線や塗り潰しが、そこかしこにありましたし。
「なぁんか、講義がどうとか書いてありましたけど…」
「講義ぃ?」
「コーギー?え、ワンちゃんがどしたん?」
「おバカさん」
マジ子さんの一言と、リビングに続く廊下から聞こえてくる、怒ったような赤さんの声。
ほうら、言わんこっちゃない…。どちらも困ったものですわ。
そんなふうに呆れかえって、私はまた、溜息を一つ吐き出した。
マギレコ本編の出来事
・みかづき荘へと訪問してきたみふゆと、外へ出て 二人だけで話したやちよ。みふゆは去り、みかづき荘へと戻ると、いろは達に心配される。
「もういちど勧誘された」「気分が悪い」と自室へ引っ込んでしまったことで、いろは達が日頃のお返しにと買ったお揃いのコースターは、また日を改めて渡すことに。
やちよ抜きで夕食を摂る中、みふゆは本当にやちよを勧誘しただけなのか…と疑問を抱くいろはだった。