知られることのない話   作:まるイワ

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夏イベ開催中なので初投稿です。





6-3 講義当日

 

 

 

 

お父さんが、また恋をしたこと。それ自体を否定したりしない。だって私の父親の前に、人なわけじゃん。男じゃん。女の人くらい、好きになるよ。

 

でも どうしても、モヤモヤした気持ち、止められなかった。お父さんとあの人が、どんどん仲良くなっていくのを見てると。

 

あの女の人は良い人で、優しかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………はぁ」

 

「………」

 

 

夜。自室に篭る私は、もう何回吐き出したかわからないため息を、また一つ吐いて。

 

でも、治まらない。晴れてなんてくれなかった。この内側に抱えっぱなしのモヤモヤも、イライラも。全部。

 

 

「………っ」

 

 

本当は、自分が悪いことしてるって分かってる。誰も彼もに辛くあたっちまってるのは、私だから。

 

だけど、しょうがないじゃんって。腹立ってんだぞって、そういう気持ちのがデカいのも事実で。

 

 

(なんだよっ クソ…!)

 

 

やり切れないから、ベッドに八つ当たりの拳骨。ボスッ ボスッて音が鳴る。何時だったか、前もこんなことしたっけ。そんなどうでもいいこと、考えた。

 

 

「〜」

 

「………んだよ。お前」

 

 

私に思うとこでもあるのか。シーがこっちに寄ってきて、くっ付いてくる。柔らかくて、良い匂い。だからなんだっつー話。

 

 

「やめろよ…」

 

「〜」

 

 

鬱陶しいな。よせって、そんな。離れてよ。

 

 

「〜!」

 

「やぁ…!だから、やめろって…」

 

 

何回も押し返しても、何回もくっ付く。なんだよ。暑苦しいんだってば…。

 

 

「〜…」

 

 

シーのやつ。離れてくれないどころか、そのうち頭まで撫でてきやがる。なんのつもりか知らないけど、それは今の私にはムカつくことで。

 

 

「!!」

 

「〜!?」

 

「やめろってんだろ!え!?」

 

「………」

 

 

だから、無理矢理引っぺがしてやった。思いっきり力入れて、突き放してやったんだ。

 

 

「なんださっきから…。なぁ?」

 

「………」

 

「なにが撫で撫でよ?なんのつもりなんだよ、あ!?」

 

「〜………」

 

「んだよ、その顔さ…!」

 

 

無駄にしんみりした顔しやがってさ…。何がしたいわけ、私に対して。………まさかとは思うけど。

 

 

「なに。同情でもしてるわけ?」

 

「………」

 

「憐れんでんの?それか、慰めてるとか?」

 

「〜!」

 

「や、いいんだわ別に。なんだろうがさ。そんな」

 

 

そう。なんでもいい。ていうか、どうでもいい。イライラし過ぎて、なんもかんも些細なことに思えてきちまう。今の私には。

 

 

「一丁前に真似事ってわけ。人間の。馬鹿らし…」

 

「?」

 

「わかるわけないじゃん。人の気持ち」

 

「……」

 

「人じゃないんだもん、お前。なぁ?」

 

 

そうだよ。お前はウワサ。いくら見てくれが良くたって違うんだよ、私らとは。そんなやつがさ。

 

 

「人でもないやつが、人の心配するってかよ…。バカにすんな…!」

 

「〜!?」

 

「わかんのかよ!人間のこと!私のこと!人のなりしてるだけのお前に!」

 

「〜!〜!」

 

「ほら、またそうやって唸るだけだろ!?やらねーよ、人間なら!」

 

 

別に 分かってほしいとか、そんなんじゃない。慰めとか、励ましとか、そんなのもいらない。余計腹立つだけ。

 

じゃ、こうなるだろ。それなら私だってキレるわそんなん。やめろってのに、そうしないってんならさ。え?おい!?

 

 

「…………」

 

「…………」

 

 

私もシーも、どっちもだんまり。私に散々怒鳴られて、やつの顔はかなり沈んでるように見えた。そういう表情をしてるってこと。

 

 

「〜………」

 

「…わかったろ。キレてんだよ。だから、私のことはほっとい…」

 

「〜!」

 

「だあっ!?」

 

 

流石に懲りたろ。そう思ってた私を押し倒すみたいにして、シーが飛びかかってくる。二人してベッドに勢い良く倒れ込んで、スプリングの軋む音がした。

 

 

「なにすんだっ…!やめろ、どけ…っ!」

 

「〜!〜〜!」

 

「あーもう、馬鹿力!」

 

 

どうにか拘束から抜けようとして 体を捩ったり、思いっきり力入れて、シーを押したり。でもダメ。こいつの方が力が強い。

 

 

「〜!」

 

「ぶえっ」

 

「……………」

 

「…………なんだよ」

 

 

しかもこの女、人をひっくり返すだけじゃない。顔、ガッチリ掴んできやがった。んだよ。ブニッてなってんだよ、ほっぺが。

 

そんでそのまま、ゆっくり顔近づけてきてさ。真っ直ぐ私の目ん玉ガン見しやがって。今度はなに企んで………あぁ。

 

 

「なに。キスでもするって?」

 

「…………」

 

「最近ご無沙汰気味だったもんな。そんでこんなことすんだね?口で反撃できないからって」

 

「…………」

 

 

いいよ。したいならしなよ。すれば満足すんだろうが。あ?

 

どうしたよ。ほら!しなってば!

 

腹が立って、自分以外の誰かがすることなんか、どうでもいいって。そんな風になってる私は、そう思ったんだけど。

 

 

「〜………」

 

「………………あ?」

 

 

でも、来なかった。何回か体験した、あの熱くて、柔らかくて、なんか甘いような感触。あいつの唇が押しつけられる、アレ。

 

それをやらないで、シーはただ私を強く抱きしめるだけだった。いつもの唸り声も無いままで、頭を撫でながら。

 

 

「なんなの…ほんと…」

 

「………」

 

「ほんと……腹立つ…」

 

 

シーの本意だの真意だのも分からないまま、こっちに寄り添うみたいに優しくされて。そんなの気に食わない。イライラするんだよ、こんな。

 

 

「ふざけやがってさ…」

 

 

けど、上からかかる体重と、伝わってくる体温。一定の間隔で、私の頭を撫でてくる手。それらのせいか知らんけど、なんかどんどん眠くなってきた。

 

相変わらず腹は立ったままだけど、それでも身体は正直なのか。気付けば私は寝ちまったみたいで、いつのまにか朝だった。

 

 

あの人の夢を見たせいで、寝覚めは最悪だったけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

休日が訪れた。

 

いつもなら何かと集まってしまう我がチームと言えども、お休みくらいは、各々好きに過ごすのですが。

 

まぁ、今日だけはそうもいかないでしょうね。なにせ…

 

 

「これ、ですわよねぇ」

 

 

テーブルの上にある、一枚の手紙。マギウスの翼の特務隊から届いたそれを手に取って、軽く息を吐く。

 

 

「とりあえず、あのマギウスの人達が言うにはその、講義ですか?それの当日なんですよね?今日」

 

「ええ、まぁ。そう書いてはありましたが」

 

 

だからこうして、わざわざ皆さんには家に集まってもらって待ってるんですけれど…。

 

 

「来ないねー。レンラクもないしさー。もうゴハンも食べちったよ?」

 

「んー…」

 

 

今日のお昼は、豚丼とサラダ、そしてワカメとお豆腐のお味噌汁。勿論、年長さんお手製。とても美味しゅうございました。

 

ま、それはいいとして。

 

 

「来る…の、かな?ほんとに…」

 

「いやまぁ、時間にルーズなだけかもしれませんが」

 

「ちょっと見せてくださいよ、手紙」

 

「いいですけど…」

 

 

はい どうぞって、おチビさんに渡してあげる。受け取った彼女は早速、手紙を読んだけれど。

 

 

「……あえぇ?」

 

 

なんとも形容しがたいリアクション。もうちょっとお上品になさりなさいな、貴女…。

 

 

「なに、書いてあるの…?」

 

「あー、アタシも見たーい!」

 

 

興味を持ったお二人が、おチビさんに寄って一緒に手紙を見始めるけど、結果は同じ。「なんじゃこりゃ」っていうお顔。

 

まぁ、無理もないとは思いますけれど。だって…

 

 

 

 

拝啓

 

暖かいんだか寒いんだかよくわからん候

 

邪魔者共お邪魔虫の皆様に置かれましては ますます調子こいてる絶好調のこととお喜び申し上げます。

 

平素はひとかたならぬご高配?をなんかアレして、すごい感謝じゃねーや厚く御礼申し上げます。知らないけど。

 

さて 早速ではございますが、これまでの鬱憤、屈辱への憤怒の意を込めまして、次の休日、私ども特務隊におまえら皆様方への講義を開催させていただきたく存じます

 

あの、もしアレだったら皆でお迎えに上がりますんで、マジ逃げないでくださいお願いします何でもしますから!

 

敬具

 

 

 

 

……あんな内容ですもの。本当、思い出すだけでうわぁって苦笑い出ますわね、あの手紙…。

 

不慣れなのなら、畏まった内容になんて無理にすることありませんのに、もー…。

 

ぐっちゃぐちゃですわよ、文章。最後なんて、面倒くさくなったのか砕けっぱなしでしたし…。

 

 

「これは…」

 

「バカみたいですね」

 

「バッサリ!」

 

 

まぁ、致し方なしですけども…。せめて時間帯までは指定して頂きたかったところ。

 

 

「とりあえず、いいの、かな?待ってれば…」

 

「ムカえに来てくれるんしょ?車かな?黒ヌりの高いヤツ!」

 

「そんなわけないでしょ。金持ってなさそうですもんあの人ら。そもそも未成年ですよ?リヤカーが精々です。リヤカー」

 

「それもそっかぁー」

 

 

しれっと失礼ですわね貴女方…。いやまぁ、私達と同じような年頃なんですから、金銭面に関しては当然ではありますが…。

 

 

「でも、罠って可能性もありますよね?」

 

「え、そうなん!?」

 

「まぁ、敵対関係ですし。こうやって油断させといて、ここに奇襲をかけてくる気かも…」

 

「え、でも…近所の目、とか…。騒いだら、流石に…」

 

「それはほら。家に来るだけ来て毒ガス撒くとか」

 

「テロリストじゃないんですから…」

 

 

…いや、割とテロ染みてはいるんでしょうか。多かれ少なかれ、一般人にも被害は出ているのでしょうし。

 

しかし、罠ですか…。んー。

 

 

「ねー、どー思う?赤ちん」

 

「……………」

 

「あれ。ねー!赤ちーん?」

 

「……………チッ」

 

 

マジ子さんが意見を求めるけれど、私達から離れたところに座る赤さんは、不機嫌そうに舌打ちをして終わり。何も答えない。

 

話しかけるなという雰囲気をひしひしと感じます。ここ最近の荒れようが、更に酷くなっているような…。

 

 

『ねー…なんか機嫌悪い?』

 

『赤さんですか?見りゃ分かるでしょ』

 

『そーだけどさー』

 

『会話、してくれない…私達と…』

 

『ええ。それに、その…』

 

 

顔を見合わせた私達は、彼女を刺激しないようテレパシーに切り替え、会話続行。少しおっかなびっくりで、赤さんの方をチラッと見る。

 

正確には、赤さんから少し離れて座る…いえ、遠ざけられていると言った方がいいのか。

 

とにかく、そんなシーさんに目を向けた。

 

 

「〜………」

 

「……………」

 

 

赤さんの近くに居るけれど、不機嫌さを隠そうとしない彼女に近付けない。近付けさせてくれない。そんなふうに見える。

 

だってシーさん、目に見えてしょげているんだもの。

 

いつもならペタペタとくっ付いていって、赤さんが満更でもなさそうな感じで、照れ臭そうにして。そんな感じだったのに…。

 

 

『……なんか、ヤな感じ』

 

『それは赤さんが、という?』

 

『んーん。違くて…』

 

 

では、何が嫌なのか。続きを促したけれど、マジ子さんは上手く言葉にできないようだった。

 

けど、私には分かる気がした。赤さんの態度がという話ではない。いや、それもあるけれど。

 

雰囲気と言えばいいのか。空気。私達チームの間に、不穏なものが漂い始めているような。そんな感覚。少し、不安を感じているということ…?

 

 

『まぁ、とりあえず置いておきましょうよ、キレた若者は』

 

『え…チビちゃん若い…一番…』

 

『ん〜…じゃ、さ。とりま、備えとく?』

 

『備え』

 

『だってワンチャンさ、ワナかもなんでしょ?だったらアタシらもー』

 

 

そうやって、マジ子さん達が別の方向へ話題を切り替える中。

 

私は何故だか、赤さんに対して少し、物申したい気分になってしまっていた。「抱えているものがあるのは分かる。けれど、そこまで露骨に態度が悪いのはどうなの」って。

 

何故赤さんの機嫌がより悪くなったのか、私は知りもしないのに。そこまで苛立つくらいなら、一緒に居る私達に、愚痴くらいは吐き出してしまえばいいのにって、そう思ってしまって。

 

 

それが、彼女に抱いた苛立ちなのだということを理解するのは、まだ少し後の話。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん〜…」

 

「どう?なんか見える〜?」

 

「とりあえず寛いでっけど。お菓子とか食べて」

 

「マジかぁ〜。私らもなんか買ってくりゃよかったかなぁ」

 

「飴ならあるよ?サイダー味」

 

 

神浜市、某邸宅。その周辺に陣取って、遠巻きに様子を伺う、マギウスの翼。その特務隊の面々。

 

一人が双眼鏡で、邸宅の中の様子を確かめつつ、仲間とああでもない こうでもないと話す。

 

時刻は現在、正午の辺り。彼女らは自分達の言う講義を行うべく、敵対する魔法少女のチームの根城へとやってきていた。

 

 

「どう?様子は」

 

「隊長」

 

 

そうして、敵状を遠くから見やる黒羽根達の元へ、リーダーの白羽根がやってくる。何故いつまでも迎えに上がらずにこんなことをしているのかと言ったら、彼女を待っていたからなのだ。

 

 

「我らの邪魔を散々してくれた赤いイレギュラー共は何処?」

 

「あー、はぁ…。あちらの、お宅の中に」

 

「ご苦労。後は私がやるわ」

 

 

現れてそうそう、やる気満々で宣言する白羽根。部下の黒羽根達といえば、「え、なにこの人いきなり」という目で、自分達のリーダーを見つめた。

 

 

「…えーっとぉ。隊長自らが?」

 

「これ以上貴女達に犠牲が出ちゃあ困るものね」

 

「はい?」

 

 

犠牲ってなにさ。いつ、誰がそうなったの?相も変わらずフルメンバーなんすけど。え、なに。この人ついにおかしくなったの?いや、元からだったわ。

 

そんな、呆れつつも冷ややかな視線で、のしのしと勇んで敵地に乗り込むリーダーを見送った。

 

 

「流石だぁ…」

 

 

部下の内、誰かがポロッと漏らした、皮肉だった。

 

 

 

 

中々に立派なお宅へと乗り込んでいった白羽根の、およそ年頃の乙女とは思えない絶叫が聴こえてきたのは、それから間もないことである。

 

 

 

 

 





マギレコ本編の出来事

・講義の会場である記憶ミュージアムが、神浜記録博物館という、既に使われていない施設にあるのではと当たりを付けたいろは達。相変わらず冷たい態度のやちよに対し、行き先だけは伝えて、目的地へ出発。
みかづき荘に一人残ったやちよは、「気をつけてね」と、心配そうに呟いていた。

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