TSから始まる世界征服魔王道   作:カンさん

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第四話

「ペロペロは嫌ァ!」

 

 うおおおお! 私は戦うぞこのロリコンジジイ! だからその汚く無駄に長い舌と手に持った大人のオモチャを収めろぉ! ……ってあれ? 

 

「此処は……」

 

 さっきまで【自主規制】されそうになり【自主規制】な所にロリコンジジイに連れて行かれた筈の私。しかしふと気がつくと……いつもの部屋にいた。

 夢か? そう思って自分の頬を抓るが凄く痛い。いやでも夢の中でも痛みとか感じるって言うし……。

 

「……」

 

 私は無言で掛けられていた布団を捲り、自分の体を見る。いつもの服だ。あのロリコンジジイが無理矢理着せてきた【自主規制】な服じゃない。一応中も調べてみるけど傷付けられていなかった。記憶を失う前の私が守っていた純潔は確かにそこにあったのだ。

 つまりアレは本当に夢だったのだ。

 

「……よっ」

 

 ──良かったぁ〜……! 

 心底ホッとしてそのままベッドに沈む。女に転生してしまった以上、いつかはああいう目に遭うとは思っていたが流石に爺さんにヤられるのは嫌だった。まぁ、そりゃあ? 魔族故に美形でイケオジで、漫画とかアニメだったら黒幕とか胡散臭いお爺様枠で人気出そうな顔をしてたけど、流石にこちらを性的対象として見てたら萎えるわ。というかこえーよ。トラウマになりかけたわ。

 ……あれ? ちょっと待てよ。

 

「今の夢という事は……」

 

 少なからずそういう事を考えていたって事……!? 

 うわ、ショックだわ……。無自覚とはいえあんな夢見るなんて……思っていたよりも疲れているのか? うん、そう考えよう。

 

 先ほど見た悪夢の事を一旦忘れて、私はベッドから降りる。時計を見ると夕方くらいの時間だ。だからだろうか、お腹が空いてそこはかとなく体が怠く感じる。ご飯を食べずに寝過ぎたせいだろうか? 寝る前は何をしていたのか思い出そうとして……。

 

「あっ……そういえば」

 

 私、戦争に行っていたんだった。

 そしてお兄様の指示で別ルートに行って、そこでロリコンジジイとエンカウントして……そこから先が思い出せない。

 う、うーん何が起きたんだっけ? できれば戦争自体が夢だったら良いんだけど、あの時の事はよう覚えているし……。

 私が五体満足で此処に居るって事は相手に負けたって事は無いだろうし。

 情報が足りないな。さっぱり分からない。

 うんうん唸っていると、部屋の扉が急に開かれる。入ってきたのはルアナさんだった。

 

「――お嬢様っ」

 

 勢い良く部屋に駆け込んで来た彼女はそのまま私を抱きしめ……って何事!? あまりにも自然過ぎてそのまま受け入れちゃったよ!? あ、でもやわっこい感触が……。

 

「本当に……本当に良かった……!」

 

 ふざけていた思考が、頭上からの震える声とポタポタと落ちてきた雫で冷めていく。もしかしてルアナさん泣いてる? 

 顔を上げて確かめようとして、止める。何故そうしたのかは分からない。此処で顔をあげれば、おそらくルアナさんは直ぐに涙を拭い、いつもの彼女に戻るだろう。それが何故か酷く寂しく感じた。

 だから私はこのままされるがままに、ルアナさんに身を委ねた。この温もりに何処か懐かしさを感じながら。

 

 

「申し訳ありません。お見苦しい所をお見せして……」

「気にしなくて良いさ。むしろありがとう」

「え?」

「いやこっちの話」

 

 目元を赤く腫れさせながら澄ました顔で謝罪するルアナさん。しかし何処となく頬が赤いのは私の気のせいかしら? 

 さて、落ち着いた所で話を聞こうじゃないか。あの戦いはどうなったのかを。そして何故私は無事なのかを。

 その事を尋ねると、ルアナさんは心底不思議そうな顔をして首を傾げる。あ、今の動作可愛い。じゃなくて! 

 

「何を仰っているのですか? あの戦いはロゼリア様が敵将のベルゼリディスを討った事で敵兵は解放。そのまま勝利したではありませんか?」

 

 ……あー、はん??? 

 

「そうでした。今回の戦いの事で、魔王様から召集が掛かっております。目覚め次第玉座の間に来いと」

 

 ルアナさんの言葉を呑み込めないまま、私はあれよあれよと正装に着替えさせられて玉座の間に連行された。

 道中すれ違う魔族達はこちらに畏怖五割憧憬五割といった視線を向けていた。私何したんだ。

 そして辿り着いた玉座の間にはパッパとパッパの部下達。さらにコピペお兄様たちも居た。あん畜生私をぼっちにしたペの字の野郎もいやがる。ガルルルル……。あっ、こっち睨んで来た、こわ。

 アストラも先に来てたのか黙して立っていたが、私が部屋に入るとルアナさんの反対の位置に移動した。君らそこが好きなの? 

 

「ロゼリア……貴様……!」

 

 さて、玉座の間に連れて来られた私はいきなり魔王様に睨み付けられています。おお、怖い怖い。ルアナさんの話から「よく敵将を討った。褒めて遣わす」くらいの事は言われると思ったんだけど違うみたい。まぁ、私自身身に覚えの無い話なので、むしろその反応はウェルカム。そのまま前線から外してくださいお願いします。

 

「魔王様、何故ロゼリア様をその様な目で見られるのですか?」

 

 しかしアストラはお気に召していない様子。不遜にも魔王であるパッパに向けて意見した。

 

「とても此度の戦の功労者に向けるものではありません。ロゼリア様がベルゼリディス卿を討ったというのに」

「ふん。本当にソイツが討ったのか、甚だ疑問だ」

 

 なんか話が長くなりそうだな。パッパもアストラもヒートアップしてるし。

 暇になった私は適当な椅子に腰掛けこっそり持って来た小説を読み始める。ルアナさんがギョッとしてるけど気にしない気にしない。

 

「虚偽の報告をしていると? 貴方の目は節穴か?」

「アストラ! 先ほどから言葉が過ぎるぞ」

「黙れ。今オレが言葉を交わしているのは魔王様だ。貴様ではない」

「ち、父に向けて何という言い草……!」

 

 ほほう。小遣い稼ぎの為に冒険者になる少年の物語か。今回は王道系かな? 

 

「偉くなったものだなアストラ」

「貴方様程ではありませんよ」

 

 んお? 冒険者登録試験で一位? ツエー系か? ……伝説の勇者とファミリーネームが同じ? でも主人公の反応的に自覚して無いみたいだけど。

 

「話を戻します。我々が発見した際、ロゼリア様はベルゼリディス卿の首を持っていました。その光景をオレ、ルアナ、ペアルキア様が見ております」

「そうなのか、ペアルキア」

「……はい」

 

 おお、小遣い稼ぎで冒険者になった主人公がいつの間にか、殺された父の仇打ちの為に入ったと勘違いされてる。何かそれに共感した先輩冒険者がお兄ちゃん面し始めたぞ。

 

「遺体も本物だと確認されている筈。ロゼリア様の事を恐れるあまり、事実を曲げないで頂きたい」

「貴様! この我がそこの小娘を恐れているだと!?」

「違うのなら、素直に武功を認めたらどうです? そして戦いはまだ終わっていない――此処で戦力を削るつもりか魔王様」

「――ちっ」

 

 ほへー。主人公くん大変だなー。

 コミュ障故に勘違いを正せず、なまじ実力があるから誤解が加速していく。こうはなりたくないなー。

 

「ロゼリア!」

「あ、はい」

 

 レスバ終わった? 

 

「此度の戦に見合った報酬を与える。それまで自室で待機していろ! 以上だ」

「あー……はい」

 

 どうやら私があのロリコンジジイを討った事になるみたいだ。全く覚えていないんだけど。

 でもそれを正す事はできなさそうだ。アストラに睨まれそうだし、パッパも不機嫌になりそうだし、怖いし。

 

 ありがとございまーすと一応の礼をして、私はルアナさん、アストラと共に玉座の間を去っていく。その際にこちらを凄い目で見るぺの字のお兄様はテラ怖かったです。武功、取っちゃったからね……次頑張ってくださいな。

 

 さっさと私の部屋に戻るや否や、アストラがニヤリと笑う。

 

「流石はオレが認めた女傑。まさかあの時の魔法を攻略するとは」

 

 心底嬉しそうにそう言ってくるアストラ。いや、お前も半信半疑なんかい。

 てかさ、君のその反応が意外なんだけど。てっきりアストラ君あたりがコッソリ殺ったのだとばかり。ほら、普段の暗躍みたいな感じで。

 

「はて、何の事でしょうか?」

 

 あ、やばい。このニッコリ顔は不味い。これ以上追求すると「何だテメー、殺すぞ」って言ってくる状態だ。

 故に私はそれ以上の事を言わず、それっぽく頷いた。アストラがやったにしろ、やっていないにしろ、この件は永遠に迷宮入りになりそうだ……。

 

「今回の件で、魔王派閥の中からこちら側に流れる者が出て来ている。やはり力を示す方が支持されやすい」

 

 へー、そうなんだ。さっきのあの視線はそういう意味だったんだな。

 魔族は強い奴に従う習性があるから、クソ雑魚な私には興味を示さないと思っていたのだけど。

 あっ、だから終始パッパ機嫌が悪かったんだ。ようやく納得したわ。……でも普段から機嫌は悪い方だったな。

 

「これからの内戦を利用していけば我らの悲願も達成できる――頼むぞロゼリア」

 

 頼むなよアストラ。

 

 しかし私の願いは届く事なく、アストラは怪しい笑みを溢しながら出て行った。

 結局何が起きたのか分からないまま、私は初の前線指揮官を初勝利という形で終わった。これでニート満喫生活からまた一歩遠のいたのである。クソが。

 

 

 ◆

 

 

 クソがクソがクソがクソがクソがクソが──クソが! 

 ペアルキア・ルシファブルムは己の中で荒れ狂う激情にどうにかなりそうだった。どうしてこうなったんだと、妹であるロゼリアへの憎悪の炎を燃え上がらせる。

 

 今の彼女なら殺せると思った。だから一人になった所を部下達に追わせて殺す様に指示を出した。何なら最終的に殺せるのなら好きにして良いとも言った。

 だが、これは何だ。何故ロゼリアは武功を立て、生き残っている? 

 

 本来なら自分がアストラとルアナを上手く使い、ベルゼリディス卿を討ち取る予定だったと歯噛みするペアルキア。

 しかし現実は裏をかこうとしていたベルゼリディス卿をロゼリアがその行動を読み、討ち倒した事になっている。少なくとも魔王軍内ではそういう事になっている。

 此処でペアルキアが真実を語っても誰も聞く耳を持たないだろう。彼は何もできなかったのだから。

 

 だから腹立たしい。だから憎い。だから――殺してやる。

 

「殺してやる……殺してやる……!」

 

 もはやペアルキアに正常な判断は出来ないでいた。ロゼリアを殺せば全てがうまく行くと信じて疑わなかった。

 真っ直ぐと彼女の部屋へと行く彼の姿は明らかに狂っており、すれ違う魔族達が怪訝な表情を浮かべる程だ。

 そして部屋の前にたどり着いたペアルキアは、扉の向こうにいるロゼリアを強く睨み付け、右手に魔力を収束させ。

 

「――あらあらぁ? 何をなさっているのですかペアルキア様?」

「っ! お前は……」

 

 ペアルキアは、背後から掛けられた声に振り向き。

 

「少し私とお話しませんか? ふふふふふふ」

 

 そこで出会った魔族に目を見開いて――そのまま連れて行かれた。

 

 

 

 コンコンッと扉をノックする音が、ロゼリアの部屋に響く。小説を読んでいた彼女は顔を上げて、扉の方を見て首を傾げる。

 はて、この時間はアストラもルアナも来ない筈。彼らは用事が無い限りこの部屋には来ない。

 一年間此処で暮らしていた経験からそう判断したロゼリアは、自分の父が言っていた報酬とやらかなと当たりを付ける。

 

「入って良いですよ」

 

 入室の許可を出すと、扉が開かれ中に入って来たのは、明らかに伝達係の兵士では無かった。そう断じるだけの存在感が目の前の男にはあった。ロゼリアが思わず佇まいを直す程の。

 

 見た目は年若い風貌の男だった。

 黄色の髪を肩に掛からない程度に伸ばし、体格はアストラや兵士の様に鍛えられたものではなく細かった。

 眼鏡をかけ、白衣を身に纏っているからか、ロゼリアはこの男に対して科学者、医者のイメージを抱く。魔族特有の黒い肌から純血の魔族である事が窺え、そしてこの男の事を彼女は見覚えがあった。

 玉座の間に行った際に、魔王である父の近くの席に腰掛けていた魔族、つまり六大名家の大幹部だ。

 

「貴方は……」

 

 そんな大物の登場に内心動揺しながらロゼリアが彼を見ると、男は仰々しい態度で一礼しながら口を開く。

 

「僕の名前はプラタナス・ベルフェラーム。魔王軍参謀総長を務めさせて頂いております。以後、お見知り置きを」

 

 参謀長と聞いてロゼリアは内心目を見開いた。参謀総長と言えば魔王軍におけるNo.2だ。脳筋な魔族の中でも異端の存在。

 

「そ、それで参謀総長殿がどのような御用件でこちらに?」

 

 なるべく刺激しない様にロゼリアが謙ってそう問い掛けると。

 

「――おやおやおやぁ? これは不思議な事を聞きますねぇ。ロゼリア・ルシファブルム様ぁ」

 

 突如、プラタナスの纏う空気が変わった。

 今までの落ち着いたそよ風から、狂気を孕んだ嵐の様に。

 

「先の戦いの結末に納得していないのは、何も貴女を嫌悪する魔王様一家だけでは無いですよ」

「あ、あわ……あわわわわ!」

 

 ペロリと長い舌で唇を舐め回し、プラタナスは色が反転した眼で彼女を見て。

 

「詳しく、じっくりと聞かせて貰いますよ――アナタの口から、真実を、事実を、全てを」

 

 愉しそうに、追い詰める様に、そう言い放った。

 

 ロゼリアは目の前の大幹部が行うこれからの尋問に「あ、私終わった」と遠い目をした。

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