TSから始まる世界征服魔王道   作:カンさん

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第六話

 ペアルキア……つまり私の兄が死んだ。

 その事を聞いても悲しいと思えなかった。普段から私に対して罵倒の言葉を送って来ていなかったから……というのもあるが、単純に悲しいと思わなかった。

 魔族になってその辺りの考えも変わってしまったのか、なんて冷静に考える始末。

 そんな私の様子に気付いていないのか、もしくは気付いていないフリをしているのか、プラタナスは続ける。

 

「貴女は知らないようですが、ペアルキア様はそこそこ強い。魔王の血が流れているだけあって、並の魔族とは比べ物にならない魔力と身体能力を有しています」

「単純にその催眠魔族の方が強かったんじゃないか?」

「いえ、アスモロセウスは魔力、身体能力は並の魔族程度。ペアルキア様と戦えば普通に死にます。それだけ魔王の血は凄まじいのです」

 

 私みたいなハズレくじもあるけどな。

 

「ツッコミませんよ。故にアスモロセウスは催眠の力でペアルキア様を殺しました」

「催眠……まぁその魔法で不意をついて意識を奪えば殺せるか」

「いえ、少し違います」

 

 私の予想した答えを聞いて、首を横に振るプラタナス。

 何が違うんだろう。正直催眠で暗殺ってそのくらいしか思いつかないんだけど。

 

「先ほども言ったように。ペアルキア様の身体能力は凄まじい。普通に暗殺をしようとすれば、即座に気付かれて返り討ちです」

「しかし実際死んでいるんでしょ? どうやって殺したんだ」

 

 私の問い掛けに、プラタナスは淡々と答える。

 

「催眠魔法で感度3000倍にして魔力を込めて猫だましです」

「……は?」

 

 全く意味の分からない言葉にて。

 何かの聞き間違いだろうか。私は頭をよく振って意識を少しシャッフル。よし、寝ていないな。

 次はちゃんと聞こうと、プラタナスにもう一度尋ねた。

 うちのお兄様はどうやって殺されましたか?

 

「催眠魔法で感度3000倍にして魔力を込めて猫だましです」

「聞き間違いじゃなかった!」

 

 何でそんな最高に頭の悪い方法で殺されてんだお兄様!

 

「かなり理に適った暗殺だと思いますよ。並外れた感覚機能と身体機能を持つペアルキア様を催眠で強化し、魔力を込めた猫だましでショック死させる。なまじ力がある分、すんなりと行けたのでしょう」

「えぇ……」

 

 何でそんなエロ漫画に出て来そうな能力で効果的な暗殺しているんだ……。お兄様死ぬ時クソ汚い顔しながらクソ汚い断末魔上げてそう。

 私がドン引きしている間にも、プラタナスは続ける。

 

「アスモロセウスの狙いは貴女なのは分かりますね」

 

 分かりたくないですけど分かります。

 

「僕が此処に来る前に貴女を殺そうとこの部屋の前に来ていたペアルキア様は、成り代わり相手としては丁度良かったのでしょう。先の戦いの武功を取られたペアルキア様が、感情に任せて貴女に近づく。周りから見れば不審に見えず、さらに魔王一家に近付いて殺す事も可能」

 

 思っていたよりも考え込まれていた。ちょっと怖いな。というかサラリと殺しに来るなよお兄様。もう死んでるけど。

 でもこれプラタナスの妄想って事は……あっ、無いんですね。分かりました。

 

「しかし、そこで貴女のそのポンコツな体が役に立ちます」

 

 ポンコツって言うな。

 

「向こうは最強クラスのベルゼリディスを殺した貴女を警戒しています。故に殺す時は最も信頼している方法……つまりペアルキア様を暗殺した方法で確実に息の根を止めに来る。しかしポンコツな貴女の体を催眠で感度3000倍にしようと気絶する程度」

 

 ふむふむ、なるほど。

 それはそうとポンコツって言うな。

 

「殺したと安心した瞬間、催眠の力が揺らぎます。そこを狙えば……」

「おお! アスモロセウスを倒せるって訳だな!」

 

 じゃあその事を早速アストラ達に伝えて……伝えて……。

 

「……何でお前が手を下さないんだ?って聞いて来そうだなー」

「ですねー。僕も攻撃魔法はてんでダメなので、逆に殺されますね」

「え……?」

「それにアストラ殿達ではアスモロセウスの催眠の力を突破して、敵を正しく認識する事はできないんですよね」

 

 どういうこと? それじゃあ私このまま感度3000にされて【自主規制】ぉってされるって事? 普通に嫌なんだけど。

 

「落ち着いてください。アストラ殿達の力を借りれない理由は……一応説明しますが、実際に見たら分かるかと。それよりも対策ですが、先ほど僕が言った事を覚えていますか?」

「……?」

 

 あー、アレね。たしかにアレがあればアレになってアレするからイケるわ。流石はプラタナスだわ。

 

「貴女の頭もポンコツだと言う事は分かりました」

 

 ポンコツ言うな。

 

「何も封印魔法だけで今の地位に居る訳ではありませんからね。戦いは苦手ですが、それを補う為の道具を作るのは得意です」

 

 そういえばさっき言ってたー。

 つまりその道具があればアスモロセウスを撃退できる訳だ。

 

「しかし油断はしないでください。腐っても六大名家。格上である事は変わりようが無いですし、貴女はポンコツですので」

 

 貴様はポンコツと言わないと気が済まないのか!?

 

 

 ……以上がプラタナスと最後に行った会話。

 でもそのプラタナスさん、ヤベー人達にドナドナよろしく連れて行かれたんだよね……。大丈夫かなぁ。

 プラタナスの事も心配しながらも、私の頭の中にこびり付いているのはアスモロセウスの事。いつ仕掛けて来るか分からないから、出来る事なら早く対策道具を作って欲しい。加えてアストラ達の手を借りる事が出来ないから、割と死ぬ可能性も高い。まだ死にたくねぇ!

 

「催眠、か」

 

 プラタナスから聞いたアスモロセウスの催眠魔法について考える。アスモロセウスの催眠は一度に一つの内容の催眠魔法しか使えない。つまり【自分の言う事に従え】と【感度3000倍になれ】という風に、催眠をかける事はできない。しかしその分必ず、絶対に、どんな相手でも催眠を掛ける事ができる。そして催眠魔法には二つの種類があるらしい。

 一つ目は個人に一つの催眠を強く掛けるもの。お兄様を殺した催眠もこれに当たり、高い抗魔力を以ってしても防ぐ事ができなかった。正直お兄様の強さ全然分からないから、あまり実感無いんだけどね。

 

『アストラ殿でもアヘる威力だ』

『アヘるって言うな』

 

 ……ちょっと想像したら気分悪くなったな。

 しかしこの催眠は暗殺でしか使えない。何故なら一人にしか掛ける事ができないから。効果は凄まじいけど制限もあるって訳ね。

 

 しかし問題はもう一つの催眠だ。それは……。

 

「──ロゼリア様。魔王様がお呼びです。至急玉座の間にお越しください」

 

 ……どうやらプラタナスの言った通りの展開になったみたいだな。どうにか間に合ってくれよ、相棒よ。

 

 私は心臓をドキドキさせながら、呼びに来た兵士の案内のもと玉座の間に向かう。

 

 

 

 

「ペアルキアから報告があった。この城に賊が入り込んだと」

 

 玉座の間にて、魔王並びに幹部達が召集されていた。しかしそこにプラタナス、アストラ、ルアナは居ない。魔王はその事に対して気にしていない様子だったが。

 

「ペアルキアが始末した様だが、まだ他にも潜伏している可能性がある。……問題は、だ」

 

 彼の視線がロゼリアを捉える。

 

「魔王軍の中に内通者……招き入れた裏切り者が居る」

「……」

「その可能性が高いと、我は考えておる──なぁロゼリアよ」

 

 魔王の問い掛けにロゼリアは答えなかった。その事だ舌打ちをする魔王。惚けるつもりか、と内心苛立ち、彼はロゼリアが裏切り者だと初めから決めて掛かっている様子だった。

 しかしロゼリアはそんな視線に晒されても、疑われても反応を示さず否定も肯定もしない。それがさらに魔王の神経を逆撫でする。

 

 実際はビビって固まっているだけなのだが。

 

 それに気付く者は居らず、そして言い訳もできないのでロゼリアへの疑いは増していく。

 

「そもそもいきなり魔王軍に力を貸した事が不自然だ」

「ベルゼリディス卿を討ったのも疑わしい」

「もしやその際に取引をしたのでは?」

「やはり存在自体が許されないんだ。死刑にしろ!」

 

 白熱して、燃え上がっていくロゼリアへの疑心。当の本人が目を閉じて聴き流してるのもあって、周りの魔族達の不満はさらに増していく。

 

 怖くて目を閉じているだけなのだが。

 

「魔王様、ご提案があります」

 

 周りの幹部達が「こ、このガキ……!」と幼い少女の姿をしたロゼリアに怒りを爆発しようとしたその矢先、ペアルキアが――否、ペアルキアに成り代わったアスモロセウスが発言をする。

 

「言ってみろ、ペアルキア」

 

 魔王に似た容姿ではなく、カイゼル髭を生やした中年姿の魔族。ペアルキアと掛け離れた姿なのにもかかわらず、魔王を含めた魔族全員が気づいていない。

 

 これがアスモロセウスのもう一つの催眠――集団催眠。相手を催眠魔法で意のままに操るのではなく、認識をズラす事で周囲を騙す事に特化した力。

 この力でアスモロセウスは周りから自分はペアルキアだと誤認させて、こうして魔王のすぐ近くまで潜伏する事ができる。もし彼に単純な武力があれば魔王軍は終わっていただろう。

 

(予め教えられていても、ぺの字お兄様にしか見えないなぁ)

 

 ペアルキアの姿をしたアスモロセウスを見て、ロゼリアはそう思った。制約があるとはいえ強力な力だとも。

 

(この騙す催眠を使っている間は他の催眠を使えない。つまり感度3000倍にされて皆の前で醜態を晒される事はない……。

 その制約が無かったら今頃どうなっていた事やら)

 

 こっそり内心で安堵の息を吐いているロゼリアの耳に、アスモロセウスの言葉が入る。

 

「どうでしょう。しばらく私にロゼリアの監視を任せては貰えませんか?」

 

 来た、とロゼリアは思った。

 

「監視だと?」

「ええ。現状どうあれロゼリアがベルゼリディス卿を討ったのは事実として魔王軍全体に広がっています。その状態で疑わしいからと処断すれば、さらなる内部分裂に繋がります。ですので、此処はどうか私に」

「むぅ」

 

 暗殺をし易くする為に違和感無いように理由付けをするアスモロセウス。よく舌が回るなぁとロゼリアが呆れる一方、魔王はその提案に鼻で笑った。

 

「そして、実際に裏切り者なら独断で首を刎ねると?」

「ええ、そのつもりです」

 

 さらにペアルキアは先の戦いでロゼリアを敵視しており、いつ寝首を掻いてもおかしくなかった。魔王もその事には気付いており、しかし止めない。彼もまたロゼリアの存在を疎ましく思っているからだ。むしろ此処で処断したいくらいだが――息子が場を整えてくれているのなら、とニヤリと笑みを浮かべる。これが敵の策略だと気付かずに。

 

「よかろう。全てお前に任せる」

「ありがとうございます」

 

 あれだけ騒いでいた幹部魔族達も静かになり、一同賛成の姿勢を示す。その光景を見て、私嫌われているなぁと遠い目をするロゼリア。

 

「話は終わりだ。即刻去れ」

「はいはい……」

 

 敵に良いように利用されている魔王達を呆れた目で見ながらロゼリアは席を立って玉座の間を出ていき、その後をアスモロセウスが追いかけていく。

 

(さて、何とか時間を稼がないとな)

 

 ロゼリアは背後から突き刺さる視線に耐えながら、なるべくゆっくりと歩く。周りに魔族が居る場所を留まる様に。

 今頃はプラタナスが対催眠用の道具を作っている最中だ。それを受け取るまでは部屋に帰る事はできない。

 

「トロトロと歩くな。さっさと行くぞ」

 

 しかしアスモロセウスに急かされてしまう。

 気取られてしまったのか? と焦るロゼリアに、アスモロセウスがそっと口元を耳に近付け。

 

「君には聞きたい事があるんだよ――ロゼリア・ルシファブルム」

 

 吐息と共にそんな言葉が吐き出された。

 ゾワワッと背筋が凍り、思わず飛び退いてしまう。振り返ってみると、そこには怪しい笑みを浮かべた兄の姿が……否、アスモロセウスの姿が。

 命の危険以外に、別の危険を感じるロゼリア。以前にも似た様な事があった様な、とロゼリアが思い返していると、突如頭の中に声が響く。

 

《ロゼリア殿。ご無事ですか》

《その声は……良いロリコン!》

《そのまま死んでください》

《嘘嘘冗談。だから助けて。何かコイツヤバい》

 

 念話魔法で語り掛けて来たのはプラタナスだった。どうやらあの後アストラ達に殺される事なく生き延びたらしい。

 ロゼリアの冗談にため息を吐きながら、彼は言った。

 

《貴女の部屋のテーブルに対策道具を置いておきました。部屋に入ったらすぐに其れを付けて下さい》

《了解。それを使えば助かるんだな!》

《えぇ。効果は保証しましょう。……これ以上は気取られます。ご武運を》

 

 その言葉を最後に、プラタナスとの念話は解かれ、彼女は歩みを進めた。アスモロセウスはそれを満足そうにしながら見て着いて行き、彼の視線に欲望の色が滲んでいく。

 

 アスモロセウスはベルゼリディスと親友だった。しかしお互いの死を嘆く程に健全ではなく、普段はそこまで仲が良い訳では無い。ただ、己の性癖を語り合う時は別だった。同じ性癖を持つ者同士、大変気が合う間柄だったのだ。

 

 つまりこの男もまた、ロゼリアをそういう対象として見ていたのだ。

 ロゼリアはその事に気付きつつあるが、プラタナスを仲間にした事による安心感から、その答えに至らない。

 

 そして、ついに部屋に辿り着いてしまう。

 ロゼリアはテーブルの上に置いてある物を見つけ、すぐに手に取る。

 

「首輪? 悪趣味だな……」

 

 しかしもう時間がない。振り返らなくても分かる。アスモロセウスが集団に掛ける催眠を解いて、ロゼリアに催眠を掛けようとしている。彼女は直ぐにその首輪を装着し。

 

「油断したな、ロゼリア・ルシファブルム」

 

 背後から聞いた事のない声がし、ロゼリアは振り返る。そして此方に手を翳すカイゼル髭の魔族を見た瞬間――。

 

 

 

 

 

「――此処、何処?」

 

 ロゼリアはいつの間にか、霧の濃い森の中に居た。

 右手に、恐怖に引き攣った表情を浮かべたアスモロセウスの頭を掴んだ状態で。

 

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