TSから始まる世界征服魔王道   作:カンさん

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第七話

 私、魔王の娘のロゼリア! こっちはアスモロセウスの生首! 何故か髪の毛が絡み付いて血で固まったのか取れないの。んもぅ寂しがり屋さんなんだから(ウインク)。

 

 今私ね、霧で前が全然見えない森の中に居るの! 多分この首輪を作ったプラちゃんのせいだと思うんだ。帰ったらお仕置きだぞ? ぷんぷん!

 でも私ちょっと怖いな……だって周りから獣の唸り声が止まなくて、ふえーんって感じ。お友達にはなれなさそうで、ロゼリアがっかり。

 とりあえずお家(魔王城)目指して張り切って行こう!

 

 

 できるかボケ。死ぬわ。

 

 

 私はできるだけ右腕に装備させられた呪いの生首を視界に入れない様にしつつ、出来るだけ遠ざけて、現状を嘆いた。

 濃霧と森。この二つで私は現在どこに居るのか直ぐに分かった。魔都ロトスの東南に広がる常霧の大森林、テリオス。

 異常な環境で抜け出すのに一苦労する迷いの森で、常に腹を空かせた魔物が蠢くヤバい場所。つまり今なお聞こえる獣の唸り声はその魔物であり、そんな場所に転移させたのは十中八九プラタナスだ。

 

 私の敵が見つかった様だな。

 絶対にあのあん畜生を殺す為に、私はこの森からの脱出を試みた。

 待ってろよクソ野郎プラタナス。絶対にその顔をぶん殴って、眼鏡にベタベタ指紋付けてやる!

 

 

 プラタナスさん助けてぇぇぇぇえええ!

 もう疲れたぁぁぁあああ!

 お家帰りたいよぉ!!

 そんな風に叫びたいのを抑え込みながら、私は必死に歩いていた。走れ? 疲れたから無理。あれから二時間は移動し続けているのだから。

 私は精神的に参っていた。歩いても歩いても景色は変わらず、常に魔物の唸り声が聞こえる。精神攻撃としてはこれ以上ないくらい強い。

 霧が濃いから進んでいるのか分からないし、魔物の姿も見えない。いつ襲われるか分からない恐怖ってこんなに疲れるんだな、と一つ賢くなった。やったね。やったねじゃねぇよ。

 

 さらに右腕には魔族の頭一つ分の重りがある。それがさらに私の体力を奪った。もうグロいとか怖いとかそういう感情は全くなく、ただただ邪魔でしかない。

 というか、コイツ催眠で色々と悪い事やってんだろ? 可愛い女の子を催眠で言いなりにしてんだろ? そして【自主規制】や【自主規制】みたいな事して、【自主規制】するんだ。

 何ともうらやま……けしからん。

 だいたい催眠自体嫌いなんだよ。私は純愛派だ。自分の事を好きじゃない相手を催眠で好きにさせるなんてとんでもない。

 ツンツンな女の子とわちゃわちゃして、最初は嫌悪されながらも何とか絆深めてさー。いずれは仲良くなって「……ありがと」「え?」「っ、なんでもないっ」みたいなのが良いんだ! それを催眠おめーはよぉ!

 

 ……ちょっと興奮し過ぎた。

 思考がバカになってる。これじゃあ帰る前にダウンしてしまう。

 ああ。誰か助けてくれねぇかな。

 

「――」

「……ん?」

 

 そんな風に考えていると、何か聞こえた。

 足を止めてキョロキョロと辺りを見渡す。しかし濃霧によって何も見えず、やはり魔物の唸り声しか聞こえない。

 しかし、今のは……人の声? それも子どもの。

 その声は未だに私の耳に届き、自然と足がそちらに向かっていく。

 誰? 誰なの?

 フラフラと着いていく私はまるで花の香りに釣られた蝶々の様だ。

 

 先の見えない森の中。腕に巻き付いた生首。いつ魔物に襲われるか分からない緊張感。それらから生じたストレスにより生み出された幻惑なのかもしれない。しかし今の私にはどうする事もできず、ただ着いて行く事しか出来なかった。

 

 そして10分程歩いた所で、周りの景色に変化が起き始めた。

 

「霧が……」

 

 濃いのには変わらないけど、霧が薄っすらと晴れて来た。100メートル先位までなら見れるくらい。

 確か魔都近くの森は比較的霧が薄れている。

 

「助かった〜……ありがとう!」

 

 何処に居るか分からない相手にお礼の言葉を送る。当然返事がある筈もなく、私の声が響くだけであった。しかし、何となく「どういたしまして」と返事をしてくれた気がした。さらに魔物の唸り声も遠のいていき、やがて聞こえなくなる。誰だか分からないけど、ありがたい……。

 しかし結局姿を見ることはできなかったな。妖精さんかな?

 深い森の中に出会ったのは熊さんではなく妖精さんだった訳だ。今度お礼をしに行こう。プラタナスやアストラを連れて。

 

 さて、その為には魔王城に帰らないといけない。此処を真っすぐ進めば着けるのかな?

 そう思って私が一歩足を踏み出した途端、ガチャガチャと金属と金属のぶつかるやかましい音が聞こえた。前の戦争の時に聞いた音だ。

 その音は私の進行方向先から聞こえ、さらに霧の奥に影が見えた。その影はどんどん大きく、いやこちらに向かって来ている。

 

「あれは……」

 

 目を凝らして見ていると、見覚えのある鎧姿が見えた。

 魔王軍だ。魔王軍がこっちに来ている。もしかして私を助けに来てくれたのか!?

 私は駆け出し、生首が絡みついていない方の腕を振りながら叫ぶ。

 

「おーい! みんなー!」

 

 向こうも気づいたのか、先頭にいる騎士甲冑の男の視線と私の視線が交わる。

 よかった、これで帰れる……。ほっと安堵の息を吐いていると、ガチャガチャと音を立てて指揮官っぽい人が私の前に立つ。そしてこちらに駆け付けたその他の魔王軍たちはそのまま私を取り囲み、武器を突き付けてくる。……え?なんで?

 

「ようやく見つけたぞロゼリア」

 

 そう言って目の前の指揮官は兜を脱いで、外に晒したその顔は。

 

「ピレアお兄様……」

 

 ここまで迎えに来てくれるなんて、お兄様ったら優しい! ……なーんて事は無さそうだ。

 こちらに武器を向ける兵士たちの空気。そしてこちらを見下すピレアお兄様。

 察しの悪い私でも分かる。これは……。

 

「勝手に城を出て怒っています? 確かにそちらからすれば家出のように見えまずが、これには海よりも深い理由が」

「道化を演じなくて良い――もう分かっているのだろう」

 

 あれ? 私が思い浮かべていたのとは違うの?

 

「ペアルキアが殺された。お前が居なくなった後に判明したことだ」

「あぁ。それなら」

 

 ひょいっと腕に絡みついている生首を、お兄様に見せる。その生首の顔を見てお兄様と兵士たちは驚いた様子を見せる。

 

「このアスモロセウスがしました。この通り既に死んでいますけど」

 

 私もプラタナスから聞かないと知らなかった情報だ。さらに催眠でバレないようにしていたから、お兄様達が知らないのも無理はない。

 その事を事細かく説明すると、お兄様は頷きながら私の話を聞き続け、コソコソと兵士の人達と何かを確認している。

 

「なるほどな」

 

 そして納得した表情をした後に、笑みを浮かべ。

 

「此処で貴様を殺し、その首を持って帰れば私が次期魔王という事だな」

「そうですね、私を殺せば――ってはい?」

 

 思わず呆けた声を出してしまった。

 そんな私に構わず、魔力で精製された剣を取り出し突き付けてくるお兄様。

 周りの兵士たちも武器を構えて戦闘態勢に入り……ちょっと待て!

 

「何でそうなるんですか???」

「今魔王城で、ペアルキアを殺したのはお前だという話で持ち切りだ」

「しかし、犯人はこの……」

「ああ、もはや真実はどうでも良い」

 

 笑みを浮かべながら私の言葉を遮るお兄様。

 おっとこれは不味いのでは?

 何となくお兄様が考えている事が分かってきた。

 

「ペアルキアを殺したのはお前で、そしてアスモロセウスと繋がっていた。そしてその賊をこのオレ様が処断した――分かりやすい筋書きだとは思わないか?」

 

 やっぱりね! そんな事だろうと思ったよ!

 でもそんな法螺話、誰が信じるものか! 

 ……よく考えたら私嫌われているから、別に嘘でもその話を採用しそうな件について。

 で、でもアストラとかルアナが黙っていないぞ! ゴルァ!

 

「ふん。弱き魔族に誰が着いていくか。貴様が死ねば、あの二人も目が覚めるだろうよ」

 

 せやな……怖い時のアストラを思い出すと、私は無意識に頷いていた。

 という事はよぉ――私、ご臨終?

 OH。今世の終わりは唐突に来るんですね……。

 でも私死にたくないんだよな。やりたい事、たくさんあるし。

 だから、何とか生き残る為にもするしかない。

 

 土下座をよぉ……!

 

 スッと右足を下げ、いつでも繰り出せる様に意識を集中させる。

 覚悟しろよお兄様。私は自分の命の為なら泣き叫ぶ事だってできるんだぜ?

 

「--退がれ、下郎」

 

 割れる寸前の風船の様に空気が張り詰める中--空から二つの影が落ちてきた。聞き慣れた声とともに。

 その影は手に持った長刀を横に一閃し、お兄様を弾き飛ばした。お兄様は苦悶の表情と声を上げながらも、しっかりとこちらを睨みつけている。正確には私の前に居る二人を、だ。

 

「――アストラ・サタウランティウム! ルアナ・レヴィリウム!」

 

 お兄様の憎々し気な怒号に、二人はそよ風の如く受け流している。

 それどころかアストラは目の前のお兄様を心底見下し、鼻で笑う。

 

「浅ましき男だ、ピレア。この情勢下でロゼリア様を失う事の意味を、理解していないと見える」

「貴様こそ……! オレに逆らうという事は魔王家、いや魔界全てを敵に回すという事!気でも狂ったか!」

「--うるさいですね」

 

 アストラとお兄様の問答に割り込むルアナさん。でも、その、物凄く怖いですね……。

 こっちに背中を見せているからどんな表情を浮かべているのか分からないけど……声、空気、あとお兄様の怯えた表情で何となく察せる。

 

「貴方こそ気でも狂いましたか? ロゼリア・ルシファブルムを亡き者にする? ああ。ああ。ああ――なんと愚かな。理解していましたが、あなた方はやはりこの世界の害虫でしかない。害虫ならさっさと掃除しないといけませんわね」

「貴様……! 混血の分際でよくも!」

「--」

 

 あ、ルアナさんの空気がさらに変わった。これ、地雷だったのでは?

 お兄様の混血発言によって空気が地獄も生温いと感じる程に重くなる。というか混血って事はルアナさんハーフ? それにレヴィリウムって確か六大名家の……。

 

「--どのみち」

 

 私が混乱している中、アストラは普段と変わらない様子で口を開き、まるで散歩をすると言わんばかりの気楽さで宣った。

 

「この場に居る者全員、生きて帰すつもりはない」

 

 ギロリと周囲の魔族を睨みつけて。

 

「此処は我らにお任せを、我が王よ」

「すぐに片づけますので、少々お待ちを」

 

 二人は当たり前の様に私にそう言って、それぞれ敵陣に突っ込んで行った。

 ……いや、任せるも何も私戦えないんですけど。

 というか、本当に仲間割れするの!? これ最終的にパッパに色々言われるの私じゃん! ふざけんな!

 

 しかし小心者の私は何も言えず、その辺の木の幹に座り「がんばれー」と生首を抱えながら応援することしかできなかった。

 

 

 

 

「親玉は任せましたわ」

「心得た」

 

 ルアナは当たり前のように、この場で一番強い敵をアストラに任せ、アストラは当然の様に引き受けた。

 アストラは埋没させる程の力で地面を蹴ってピレアに突っ込み、そのまま別の場所へと連れていく。

 

「は、放せ!」

「断る」

 

 それを見送ったルアナは、周りに居る兵士たちを見た。

 彼らの目にはルアナを蔑む色が深く滲み込まれており、明らかに彼女を下として見ている。

 

 混血。先ほどピレアがルアナに向けて放った言葉。

 その言葉の意味はまさにその通りで、ルアナは純粋な悪魔ではない。彼女の父が奴隷であったルアナの母との間に遊びで作られた望まれぬ半魔族。

 混血であるが故に父にも、異母兄弟にも認められず、六大名家の魔法も継承されずーー彼女は自分の血を憎んでいた。

 故に彼女に対して混血という言葉は禁忌であり、逆鱗に触れる事となる。

 

「さっさと此奴を殺し、ピレア様の加勢だ!」

「混血程度に臆する必要はない!」

 

 故に、彼らの命運は決まっていた。

 

「本当に愚かな存在」

 

 ルアナは心底軽蔑した声を吐きながら一歩一歩目の前の敵に向かって歩き出し――シュルリッと布切れの音がする。

 発生源はルアナ。しかし、そんな事は兵士たちも、ロゼリアも分かっていた。何故なら、今まさに目の前で彼女が服を脱いだからだ。

 その場に居た全員が絶句する。抜群のプロモーションを誇る美人メイドが服を、下着を脱ぎ、公然の場で生まれたままの姿を晒すのだから。

 あまりにも美しいその裸体に目を奪われていた兵士の一人が意識を取り戻し、次にニヤニヤと下品な笑みを浮かべてルアナに言葉を投げかける。

 

「なんだ、混血メイド? お前はそっちの戦いの方が好みか?」

 

 その魔族に呼応するように、次々と下劣な声が響いていく。

 

「メイドさんよぉ! だったら俺に奉仕してくれよ!」

「あんたの体は前から好みだったんだ! 一度味わってみたかったぜ!」

「もっと媚びろよがはは!」

 

 しかしこのメイド、涼しげな顔をして聞き流している。

 まるで虫の羽音を無視するかのように。

 

「なんならそこの魔王様の娘と一緒に、俺たちを楽しませてくれよ!」

 

 それでも、聞き流す事ができない言葉もあったようで、

 

「かぴゅ」

 

 次の瞬間その魔族の顔が潰れた。

 まるで握りつぶしたトマトのように。

 魔族たちの笑い声が止まり、霧の深い森の中でルアナの冷笑が存在感を示す。

 

「わたくしのあの服は、ロゼリア様にご奉仕する為の大切な服。あなた達の汚い血で汚れてはいけませんから」

 

 ルアナの足元から黒いナニカが蠢き、彼女の白い肌を覆っていく。

 同時にルアナの瞳が反転して黒く、髪も全ての色を混ぜたかのように深い黒へと変わる。

 

「わたくしは闇の精霊と魔族のハーフ」

 

 彼女の身に纏わりついた闇は、まるで男を魅了するかのようなミニスカメイド服へと変わる。魅惑的な脚が外に晒され、ぞっとする程に白い肌と闇の黒が見る者を惑わせる。

 

「あなた達半端な魔族よりも、なお昏き存在--さぁ引きずり込んであげる」

 

 ペロリと長い舌を唇の上で躍らせながら、彼女は熱に浮かされた表情で男たちを見た。まるでこれから情熱的な閨を共にするかの様に。

 

「わたくしの闇を受け止めて……?」

 

 兵士たちは睨まれたカエルの様に縮み上がって動けず――死ぬ直前になって叫び声をあげる情けない肉塊となった。

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