TSから始まる世界征服魔王道   作:カンさん

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第八話

 現在、うちのメイドによる冥途無双が行われてます。

 ルアナさんの足元から伸びる影が兵士の頭に入り込むと同時にクシャッと潰れたり、何とか避けて斬りかかった兵士は直接アイアンクローで握り潰したり、勝てないと判断して逃げ出す兵士は指先くらいの魔力の塊を飛ばして頭に埋め込んで潰したり……。

 いや潰してばかりだな。

 ルアナさんは闇の引力とか何とか言ってたから、あの黒い魔力の塊は重力球という事なのだろう。日本人の時に読んでた漫画で似たようなのがあった。ルアナさんに黒い髭は無いけど。

 

 それはそれとして……。

 私はルアナさんをじっと見る。重力球で次々と潰しているが、それだけでなく近付いて来た敵の攻撃を華麗かつ激しい動きで避けたりしている。所謂バク転みたいな感じで。

 ……それで、さ。ルアナさん戦う時にメイド服を脱いだんだよね。今はそれは私の膝の上に置いてある。いつの間に……。

 そして一度全裸になった後はミニスカメイド服、フレンチタイプに近い。とりあえずエロいのだ。おっぱいとかお尻とか見えそうで見えなくて。

 それで、ですね。さっき動いた時にチラッとスカートの下が見えたんですけど──あれ、下着履いて無くない? そういえばさっき全裸になったな〜とか思ってたらコレだよ! おかげでグロな18禁よりもエロな18禁にドキドキし過ぎなんですけど? 

 いつも清楚で瀟洒なメイドなルアナさんを見ているから、今のルアナさんを直視できない……。

 

「ロゼリア様」

「わひゃあ!?」

 

 目の前に急にルアナさんが現れて、思わず声を上げてしまった。驚いた私はバランスを崩して後ろに倒れかけ、しかしその前にルアナさんがこちらの腰に腕を回して支えてくれる。おぉ、凄く早い反応速度。それにグイッと引き寄せられてルアナさんの綺麗な顔が近くに来て、ドキドキする。

 そしてルアナさんも私の顔をジッと見つめて、二人の間に沈黙が生まれた。

 

「っ……申し訳ありません」

 

 しかし直ぐにルアナさんが離れてしまい、そんな時間も終わってしまう。あぁ、眼福な時間が……。

 ルアナさんは私の食べ物に毒を仕込んでくる怖い人だけど、それ以外はとても優しいから嫌いになれない……というよりも好きな部類だ。私の体が小さいのもあって、密かにお姉ちゃんだと思っていたり。

 まぁ、そんな事を言ったら「わたくしの知るロゼリア様では無い」とか何とか言われて殺されそうだけど……。

 

「そちらの首は、アスモロセウスの……」

「え? ああ、うんそうだね。何故か絡み付いて取れないんだ」

「……失礼します」

 

 私が事情を説明した所、ルアナさんは氷の様に冷たい表情を浮かべてそっとアスモロセウスの生首に触れる。

 するとアスモロセウスの血に濡れた金髪が黒く染まり、そのまま圧縮されて消え去りつるっ禿げとなった。

 うぉ、眩し!? と思う暇も無くヒョイッとルアナさんに生首を取り上げられてそのまま彼女の影の中に堕ちて行った。

 

「敵将の首はわたくしがお預かりします。さぁ、ロゼリア様。腕の消毒を」

 

 ルアナさんの影どうなっているんだろう。

 しかし直接本人に聞く事はできず、そのままルアナさんによって右腕にこびり付いた血とか髪の毛とかその他汚れを綺麗にされていく。

 

「ぎゃあああああ!?」

「た、たすけてえええ!!」

「おかぁさぁぁぁあああん!」

 

 ……死んでいく兵士達の断末魔をBGMに。

 ごめんね、兵士さん達。私に君達を助ける力は無いんだ。でも私を殺せと言われた時にノリノリだったから、諦めてくれ。

 

 そういえば、アストラは大丈夫だろうか? 

 

 

 ◆

 

 

 ルアナの力は母である闇の精霊を源とした闇の魔法。その効果は万物を引き摺り込む重力。

 この世界に存在するありとあらゆる魔法の中で、上位に位置する魔法。その力と希少さから扱う者は少なく、相対的に闇の魔法の使い手は世界有数の強者として見られる。

 故にピレア・ルシファブルムはルアナを混血と蔑みながらもその実力には警戒していた。

 しかしそれ以上に警戒していたのはアストラ・サタウランティウム。まだ200歳未満の、己の半分も生きていない若造を彼は警戒していた。

 そしてその警戒は正しかった。

 

「くっ!」

「……」

 

 ピレアの剣とアストラの長刀が激突し、圧されたのはピレアだった。

 魔王の息子である彼の魔力は一般の魔族と一線を画す程に強く、濃厚で、鋭い。

 にもかかわらず、アストラの長刀が魔王の魔力に打ち勝つのは、それだけ力の差があると言う事。

 その事を頭で理解しながらも、ピレアの誇りが受け入れられない。

 

「ピレア様! 援護を──」

 

 そこにルアナから逃げ切った一人の兵士が、ピレアを守るように駆け付け。

 

「──」

「え?」

 

 背後からピレアに頭を掴まれ、そのまま容易くトマトの様にグシャリと握り潰した。

 首からを上を無くした身体はビクンビクンと痙攣しながら地面に倒れ、ピレアは血と肉をグチュグチュと手の中で弄びながら呟く。

 

「本来なら貴様もこうなる筈だった」

 

 魔王の力を帯びた手のひらを見つめ、己の力を誇示する様に。

 魔力耐性、肉体強度が高い魔族を容易く殺せると言わんばかりに。

 しかしアストラはそれを冷めた目で見て。

 

「囲いの有象無象を殺して何になる。貴様は……貴様ら兄弟はロゼリアと同じ血を引いているとは思えない程に弱い」

 

 それだけ言うとアストラは再び一息でピレアのもとに跳び、長刀を叩き付ける。ピレアは咄嗟に剣を掲げて受け止めるが、思わず膝を着いてしまう。

 

「ぐ、ぎぎぎぎ……!」

「情け無い。ロゼリアなら鼻歌混じりに斬り返してくるぞ」

 

 ロゼリアなら──。

 その言葉はピレアのプライド、そして彼女に対する嫉妬心を刺激し、激情となって現れる。

 

「舐めるなクソガキが!」

 

 憤怒の表情を浮かべて叫ぶと同時に、跳躍したピレアは眼下のアストラを強く睨み付ける。

 魔法陣を展開し、右手で触れてルシファブルムの力、魔王と同じ力を行使する。

 すると魔法陣はさらに大きく展開され、そのまま大きな穴へと転換される。

 そしてその大穴から顔を出すのは巨大な大岩──否、隕石。

 ピレアは空間転送魔法と魔王の力でこの星の外にある隕石を呼び寄せ、それをアストラに向かって放った。

 

「避けられるものならよ、避けてみよ!」

 

 ピレアが落とした隕石のサイズは直径10km。仮に避けられたとしても、周辺は隕石の落下の衝撃で吹き飛ぶだろう。

 重力に従って落ちて来る隕石を見上げるアストラは、しかしその表情に焦りの色は無く静かに長刀を構えた。

 

「ルシファブルムの力、やはり厄介だな──だが」

 

 一閃。

 

 音を置き去りにする程の斬撃が放たれ、一瞬時が止まったかの様な錯覚を覚えるピレア。

 しかし、視界がズルリと二つにズレ、体に力が入らず地に堕ちていく。そんな最中。

 

「我が剣技の前では塵芥も同じ。多少巨大な石コロ程度、造作もなし」

 

 自分が落とした隕石が粉微塵に斬り裂かれ、砂塵となって風に吹かれるのを見ながら──ピレアはこの世を去った。

 

 

 ◆

 

 

 そして、その光景をルアナさんと一緒に見る私であった。

 

 ……やべぇえええええええ!? 

 

 ルアナさんの闇の魔法から一人の魔族が運良く逃げ出して、それを彼女と一緒に追いかけた私だけど……その先で見た光景に開いた口が閉じなかった。

 なんかピレアお兄様とアストラがバビュンバビュン消えては現れて、その度にガチンガチンぶつかり合って。

 かと思ったらアストラが優勢になって、そらにピレアお兄様が怒って、なんか隕石呼んだと思ったら真っ二つからの粉微塵で……。

 いや、訳分からん。何が起きたのかさっぱりだ。

 分かるのはピレアお兄様は負けて殺されて、アストラは勝ってこちらに近付いている……ってやばいやばいやばい。さっきの光景を見たらアストラが怖い! 

 

「そちらも片付いたか。虫を一匹残して」

「羽虫程度なら誤差でしょう。そういう貴方こそピレア程度に時間をかけ過ぎでは」

 

 しかしアストラは私では無くルアナに話しかけた。それもどこと無く棘のある言い草で。対するルアナも冷たい声と言葉で返した。

 

「混ざり物の癖に、相変わらず口だけは達者だな」

「貴方こそ古臭い名家出身らしい減らず口。これだからプライドで形成された魔族は……」

 

「「……」」

 

「ふん。どうせまた醜い姿を晒したのだろう。これだから痴女は」

「脳筋魔族は口から出る言葉も脳筋らしくて聞くに堪えませんわね」

 

 そういえば二人が話している所を見た事なかったけど、メチャクチャ仲が悪いやん……。

 美形同士の睨み合いは凄い怖くて、二人の間でバチバチと火花が散っているのが良く見える。なんて言うか、こう……デッドボール狙いのピッチャーとピッチャー返し狙っているバッターの戦いみたいだ。ここは黙って巻き込まれない様にしておこう……。

 

「少しはロゼリアを見習ったらどうだ」

「貴方こそ、いい加減ロゼリア様の首を狙うなどと言う世迷言はやめて、奴隷にでもなったらどうですか?」

 

 ──ファウルボールこっち来た!? 

 こっちに向いて「自分の方が正しいよな?」みたいな視線送るの辞めてくれないかな二人とも!? 

 それに私がアストラやルアナさん以上みたいな言い方も辞めて! 私迷子になっていただけだから! 生首装着して歩き回っただけだから! 

 

「……とにかく魔王城に戻ろう」

 

 私は二人の視線を振り切り、魔王城に向かって歩き出す。

 これ以上付き合っていられるか! 私は帰るぞ! 

 

「ロゼリア様、方向が真逆です」

 

 ……ルアナさんの言葉に、私は歩く方向を変えた。少し晴れたけどやっぱり霧が濃いんですけど! 

 

 

 ◆

 

 

 魔王城に戻って来た私達は、そのまま玉座の間に通される。その間、兵士たちの視線が痛かった。ピレアお兄様言ってたもんね、ペアルキアお兄様を殺したのは私だって疑われているって。

 そんな事できる筈も無いんだよなぁ。クソ雑魚ナメクジな私に。

 しかし兵士たちは信じている。何故って? そりゃあ……。

 

「よくもまぁノコノコと帰ってきたなロゼリアよ」

 

 その噂を流したのは、魔王様ことパッパだからだよ! この国の一番偉い人がそう言っているなら、そりゃあ国民は信じるよ! どんだけ私のことが嫌いやねん! 

 アストラから大体の事を聞いた私は、流石に怒った。故にアストラに「私の疑いを晴らして、ガツンと言ってやれ」と命令した。すると彼はニヤリと笑みを浮かべて頷いた。何か先走った感あるけど後悔は無い! 

 私はパッパに睨まれながら後ろに下がり、アストラに全てを託した。

 

「魔王様。ロゼリア様がペアルキア様を殺したという噂は事実無根でございます」

「それを証明できるのか?」

「できません」

 

 その言葉に、他の魔王軍幹部がザワッと騒ぎ出し、パッパもニヤリと笑みを浮かべる。

 ちょっとアストラさん? 大丈夫だよね? 

 

「それ見た事か──裏切り者をこれ以上のさばれようか」

 

 その言葉と共に、兵士たちが武器を手にこちらに向かって来ようとするが。

 

「しかし、逆も然り」

 

 アストラの鋭い視線と覇気の込もった声により止まる。パッパもちょっとビビってる。私は凄いビビってる。

 

「ロゼリア様がペアルキア様を殺したという証拠もありません」

「……世迷言を」

「加えて、敵将であるアスモロセウス卿が魔王城に潜入していた事から、敵の策略と見る方が自然かと」

「……しかし」

「それに、アスモロセウス卿はピレア様を殺した」

 

 ……あれ? アストラさん嘘を吐いてる? お兄様殺したのアンタやん。

 

「我々の尽力虚しく、魔王様の御子息お二人がこの世を去り、さらに精鋭部隊すら全滅させられた! アスモロセウス卿によって! ──しかし、彼らの仇を討ったのは何を隠そうロゼリア様です」

 

 待って。ちょっと待ってアストラさん。

 

「先の戦いでベルゼリディス卿を討ち倒し、さらにアスモロセウス卿すら屠った!」

「こちらがその首でございます」

 

 アストラの言葉に呼応する様に、ルアナさんが生首をその場に出した。

 何でそんなに息がぴったりなんですか? さっきあんなに喧嘩してたのに? 仲悪いんじゃ無いの? 

 

「そんな魔王軍にとっての功労者を、魔王様は──切って捨てるおつもりですか?」

「──っ」

 

 うわ……パッパが凄い顔をしている。そしてそのまま私を睨みつけた。何でやねん。言ったのアストラやん。

 

「魔王様」

「何だ、プラタナス」

 

 プラタナス! プラタナスじゃないか! 

 私は生首と一緒にあの森に追いやったクソ野郎じゃ無いか! 一発殴らせろ。

 

「真偽はどうあれ、敵将の二人を討ったのは事実。此処で無理矢理にでもロゼリア様を処分すれば……反乱軍と戦う前に分裂します」

「くっ……」

 

 プラタナスの言葉にパッパか悔しそうな顔をし、モブの様にザワザワしていた他の幹部達も「ベルフェラーム卿が言うなら……」と納得し始めた。あれ? プラタナス……パッパより信頼されてる? 

 

「……仕方ない。もう下がって良い。褒美は追って知らせる」

 

 物凄く嫌そうな顔をしながらパッパはそう言って、アストラは満足そうな顔をし、ルアナさんは得意気に鼻を鳴らし、プラタナスは私から目を逸らした。

 

 とりあえずプラタナス、お前屋上な? 

 

「……はぁ」

 

 何か敵将二人を倒した事になってる……違うのに。

 私は頭を抱えたくなったが、それをするとアストラに殺されると思ったのでひっそりとため息を吐く事しかできなかった。

 

 どうしてこうなった!

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