年の瀬も押し迫った12月の24日。
蛍さんからクリスマスという概念を聞いた僕は甘雨と二人でパーティーをすることにした。
年末など関係なく仕事に出向いた彼女にサプライズという形になりそうだが、喜んでくれると思う。
誕生日以降頻繁に冒険に駆り出されている甘雨のために、比較的ボリュームのある料理を拵える。とは言っても食べられるものが限られている彼女を驚かせるメニューを考案するのは大変だ。
今朝入手した蓮の花と自宅で採取した人参を少し小さめに切り、ラズベリーをベースとしたソースを作る。
あらかじめ炊いておいたお米の上に形を整え盛り付けたら四方平和の完成だ。
以前僕の誕生日の時に彼女が作ってくれたとても思い出深い一品であり、そこそこボリュームもあるということでメインディッシュは完成。
デザートにはカボチャの甘みを生かしたパウンドケーキを作る。もちろん砂糖は使わない。
一通り完成させた頃、甘雨が帰ってくる。
「ただいま、戻りました。」
髪やマフラーが少し濡れている。
「おかえり、甘雨。少し濡れてるけど雨でも降ってた?」
僕と目が合うと甘えるように手を伸ばしてくる彼女を抱きしめる。
「はふぅ…暖かいです….。濡れてるのは少し雪が降ってたからですかね」
「まぁここにいても寒いだけだしリビングに行こうか。」
甘雨が着替えに入ったタイミングを見計らって急いで料理を机に並べる。
真ん中に四方平和を置いて、両脇にはサラダとケーキを並べ、彼女がくるのを待つ。
「メリークリスマース!!!」
「め、めりーくりすます????」
可愛らしく首を傾げながら席につく彼女に僕は言葉を続ける。
「さぁさぁ、今日のためにご馳走を作ったから食べよう食べよう」
「わぁ…これもしかして四方平和ですか??」
目を輝かせながら聞いてくる彼女に返事をする。
「そうだよ、昔僕の誕生日に作ってくれたのが嬉しくて、今日のためにこっそり練習してたんだ」
「この脇にあるの、もしかして清心ですか?美味しそうです…」
「それもちょっと前から準備しておいた清心の塩漬けだね。味が濃いから米と一緒に食べてね。くれぐれもだべすぎないように」
「もう、それくらいわかってます…」
拗ねたように料理を取り分ける彼女の頭を撫でつつ、ごめんごめんと返事をする。
「さて、食べようか」
「「いただきます」
「ん〜!この四方平和とてもおいしいです!私が作るやつよりおいしい気がします…」
「確かに我ながら美味しくできてると思うけど、僕にとってはやっぱりあの時の甘雨が作ってくれたやつの方が美味しいかなぁ」
「お互い様、ですね」
目を合わせてどちらからともなく笑みが溢れる。
「この漬物、とってもおいしいです。四方平和の薄めの味付けも相まってずっと食べれてしまいます…」
「最近冒険で忙しそうにしてるからね。食べごたえのある物を作ろうと思って思いついたんだ。」
「いつも私が好きなものばかり作ってくれますけど、たまにはあなたが好きなものを作ってもいいんですよ?」
「うーん、昔はお肉とか好きだったんだけど、甘雨と生活しているうちに野菜メインの生活に慣れてきちゃってね。それに、試行錯誤した料理をおいしいって食べてくれる人が近くにいるから僕はそれで満足かなって」
ふと、甘雨の食事の手が止まる。何かまずいことでも言ってしまっただろうかと、冷や汗が流れる。
「そういうところ、本当に大好きです」
目を合わせて柔らかくそう言ってくる彼女に心臓が高鳴る。顔が熱くなるのを感じる。
「あれ、もしかして照れてますか?ふふっ、今日は私の勝ち、ですね」
悔しくない敗北感といまだに高鳴る心臓を抑えるために無言で料理を食べ進める。いつまで経っても彼女に勝つことは出来なさそうだ。
「さて、デザートのパウンドケーキを食べようか、、ってもう切り分けてるし」
「えへへ、、ちょっと我慢できませんでした。とっても美味しそうなのが悪いんです!」
美味しそうに食べ始める彼女に、疑問に思ったことを聞く。
「なんの抵抗もなく食べ始めてるけど、食べられないものが入ってるかも、とかは思わないの?入れるわけないんだけどさ」
「前にも言ったかもしれませんが、匂いでわかります。それに、あなたが作るものは安心して食べられるっていうのは分かりきっているので」
そんな無条件の信頼を寄せてくる彼女に対し、短時間で二回目の敗北を喫した気分になる。
「ありがとう、甘雨。」
そう返すことしかできない自分に対してむず痒さを感じながらもケーキを食べ進める。
食事の後、こたつで一息ついていると、同じくこたつに入った甘雨がこう問いかけてくる。
「来年も同じように過ごせたらいいですね…あなたとの時間がこの先ずっと続いてくれると嬉しいです。」
「そうだなぁ、来年のクリスマスはもっと美味しくてたくさんの料理を作りたいなぁ」
「楽しみにしてますね」
ほのぼのとした時間が続く中、ふと窓の外を見るとしんしんと雪が降っている。
「雪、積もりそうだなぁ。明日はもっと暖かい服装をしないと寒いかも」
「そう、ですね…」
こたつでうつらうつらと船を漕いでいる甘雨を抱き寄せ、ベッドまで運ぶ。
ふと立ち止まった甘雨がこんなことを口にする。
「ところで、クリスマスってなんですか?」
予約投稿万歳(血涙)