海灯祭が幕を開けた直後のある朝、普段より重く火照った身体とともに目が覚める。
前日夜遅くまで甘雨の手伝いをしていたせいか、はたまた連日の疲れがまとめて来たのか、どうやら風邪をひいてしまったらしい。
朝食の支度と積み重なった今日の用事に対しどうしようかと頭を悩ませていると、隣で寝ていた甘雨が目を覚ます。
「...ん...ぁ、起きてたんですね、おはようございます...ふぁ...」
「あぁ...おはよう、甘雨」
「元気がないみたいですけど、、大丈夫ですか?」
僕の声色に覇気がないのを感じ取ったのか、彼女が質問してくる。
「うーん...どうやら少し熱があるっぽいんだよね。でも大丈夫だと思う。」
「熱...ですか。最近ずっと私の事務仕事手伝ってもらってましたし、疲れでしょうか...」
「まあそうだとしても甘雨が気にすることじゃないよ」
「でも...万が一があったら大変です...私が言えることではありませんが今日はしっかり休んでくださいね」
「甘雨がそこまで言うならそうするよ。ありがとうね。それと、朝食の準備できなくてごめん」
僕が謝ると、怒ったように頬を膨らませて僕に布団をかぶせてくる。
「もう、私だって料理くらい出来ます。あなたほど美味しいものは作れませんが...。とにかく、寝てください」
甘雨が寝室から出ていったあと、ぼんやりと考え事をする。
しばらく考え事をしていると、次第に頭痛が酷くなり、心做しか熱も上がったような気がする。
甘雨が部屋のドアを開ける音がする。
「仕事、行ってきますね。って...かなり息荒いですけど本当に大丈夫ですか...?」
「行ってらっしゃい...さっきより悪化してるかもだけど、寝てれば多分大丈夫だよ」
すると甘雨が僕の額に手を当ててくる。
「かなりの高熱じゃないですか...仕事休む旨を伝えてきます。流石に心配です」
「ごめんね...甘雨...ありがとう」
「いつも私がお世話になりっぱなしなので、これくらいはさせてください」
そういうと甘雨が急ぐように部屋から出ていく。
数十分後、甘雨が戻ってくる。
「戻りました。急用で休むってことを伝えたあと、不卜盧で薬を貰ってきました」
「本当にありがとう、、甘雨」
「いいんです。あなたには一昨日から言ってましたけど、どっちにしろ明日から休暇を取るつもりだったので気にしないでください」
「そういうことなら...遠慮なく甘えさせてもらうよ。とりあえず、もう少し寝て様子を見てみるよ」
「はい、ゆっくり休んでくださいね」
昼頃、目を覚ます。
額に感じる冷たい心地良さは甘雨が用意してくれた濡れタオルだろうか。
朝からは多少良くなったものの、未だに酷い頭痛と倦怠感が体を包んでいる。
「あ、目を覚ましたんですね。ちょうど良かったです。お粥、持ってきました」
「濡れタオル、ありがとうね。お陰様でちょっと楽になったよ。」
甘雨がお粥の乗った盆を持って僕のそばに腰かける。
「とりあえず、お粥作ったので食べれるだけ食べて、しっかり体調治してくださいね。」
僕が匙を手に取ろうとしたところを遮るように彼女がびしっと言ってくる。
「私が食べさせてあげますね」
「え、いや、自分で食べれ...」
「私が、食べさせて、あげますね。」
有無を言わさぬ迫力に口を開けることしか出来ない。
「はい、あーん。...熱くないですか?」
優しい味が口の中に広がる。
「ちょっと熱いかな、でも美味しいよ」
「そういえばあなた猫舌でしたね...ふふ、そういうことなら...」
そう言うとお粥をよそった匙を自分の元へ近付ける。
「ふー、ふーっ....はい、あーん」
「い、いやこれはさすがに恥ずかしいというか...」
熱の火照りなのか恥ずかしさの火照りなのか体温が上昇する。
「せっかく私が作ってあげたんですから、しっかり食べてください。はい、あーん」
上手く言いくるめられてしまった気がするが、大人しく口を開ける。
「ありがとう...うん、、やっぱり美味しい。とっても優しい味がする」
「そう言って貰えて嬉しいです。まだ食べれそうですか?」
「食べれる、、けど、自分で食べるよ」
さすがに恥ずかしいので、彼女にお願いする。
「ダメ、です。私の方もちょっと楽しくなってきたので最後まで食べさせてあげますね」
今日は甘えさせてもらうと言った手前、これくらいの恥ずかしさは我慢するべきだらななんてことを考えながらお粥を食べさせてもらうのだった。
昼食後、薬も飲んだ僕は再び横になり、眠気に身を委ねようとしていた。
すると、もぞもぞと甘雨が布団に入ってくる。
「甘雨、近くにいてくれるのはとても嬉しいけど風邪移っちゃうから、離れて、、ね?」
「半仙は風邪をひかないので大丈夫ですよ、それにあなたがさっき熱で魘されてる時に私の名前呼んでたのを聞いてドキッとしちゃいまして...」
どうやら無意識に彼女の名前を呟いていたらしい。
「え...なんか恥ずかしいな...。でも風邪引かないってことなら、横にいてくれると嬉しい」
「そ、それと...」
恥ずかしそうに言葉を発する彼女が、僕の腕に抱きついてくる。
「私、氷の神の目を持っているので少しひんやりしていると思うんです...」
心地よい冷たさと甘雨の香りにドキドキする。
「私を、氷の抱き枕だと思ってしっかり風邪、治してくださいね」
そう言うや否や、僕を抱きしめる力が強くなる。
横に好きな人がいる幸せをかみ締めつつ、たまには風邪をひくのもアリか...なんてことを考えながら今度こそはと眠気に身を委ねる。
結局、甘雨のおかげで翌朝には元気になっていたが、彼女に抱きついて寝てしまう癖が着いてしまうようになってしまったのはまた別の話──。
半仙が風邪をひかないって設定、多分ないけど大目に見てください()