春一番と共に梅の花の香りが運ばれてくる3月の頭。寒さのピークを超えた璃月の活気も芽吹きのように上り調子になりつつあった。
「うーん...なにかいい案はないかな」
暖かい日差しの下で庭をぼーっと見つめながら、僕は愛しの甘雨からバレンタインに貰ったチョコのお返しを考えていた。
14日まではまだ10日程あるが、早めに決めておく方が良いだろう。
「誕生日に身につけるものは渡したし、お菓子とかも難しいだろうし...うーん...」
「最近は暖かくなってきたのでマフラーは大事にしまっておきますね」なんてことを言ってた甘雨のことを考えていると、ふと庭先にある清心の花が目に留まる。
「花束...はなんかつまみ食いしそうだし...よし、この案で行こうかな」
我ながらいいアイデアだなと思いつつ、そばに寝そべる。暖かな陽気に包まれながらうとうとしてしまう。
「ただいま戻りました...」
夕刻、甘雨が帰ってくる。
「あれ、居ませんか?いつも出迎えてくれるのに...って、そんなところで寝てたら風邪ひいてしまいます。」
縁側で寝そべっている彼を見つけると、心配するような顔で甘雨が近づく。
「ほら、起きてください、まだ夜は冷えるんですから」
そうやって寝ている彼の肩を揺すり、起こそうとする。
「ん...ぁ...寝ちゃってたのか...あれ、甘雨おかえり」
見上げると愛しい甘雨の顔が目に入る。
「もう、こんなところで寝てたら風邪をひいてしまいます...ただいま、です」
僕のことを見下ろすように見ている彼女が返事をしてくる。
「いやー、ついうっかりうとうとしてしまって...出迎えできなくてごめんね」
「ちょっとだけ寂しかったですけど、可愛らしい寝言聞けたので許してあげますね」
そう言って揶揄うように微笑んでくる彼女に対し返事をする。
「え、なんか恥ずかしいこと言ってた!?」
「んーっと...甘雨大好きって呟いてました」
「あー...まあ確かに甘雨と過ごしてる夢見たけど声にまで出てたか...」
すると驚いたような表情をする彼女がこう言ってくる
「まぁ...寝言は言ってなかったんですけど...私の夢、見てたんですね。なんか、照れます...」
「え、これもしかしてカマかけられた?」
少しだけ悔しくなった僕は続けてこう返す。
「まぁ...夢の中の甘雨よりも、こうやって僕の目の前にいる甘雨の方が可愛いけどね。」
「もう...すぐ調子のいいこと言って...ほら、疲れた私のために夕ご飯作ってください」
そう言って僕の背中を押す彼女の耳は、少しだけ赤くなってるような気がした。
ホワイトデー当日、10日ほど前から制作していたプレゼントを大事にケースに入れ、甘雨の帰宅を待つ。
最近再び建築された群玉閣の中に甘雨は入ったことあるんだろうか...なんてどうでもいいことを考えていると、彼女が帰宅した音が聞こえる。
「おかえり、甘雨。今日もお疲れ様」
「ただいま、戻りました。」
そう言って微笑んでくる彼女を抱きしめようとすると声がかけられる。
「あっ、抱きつくのはちょっと...」
その一声で僕は硬直してしまう。
「え、ごめん...」
すると慌てたような彼女が
「あぁいや...嫌とかではなくて...その...今日は少しだけ暖かくて汗ばんでしまったので...恥ずかしいというか...」
と恥ずかしがりながら言ってくる。
「まぁまぁ、僕は気にしないから、ね?」
「そういうことなら...」
抱きつこうとした姿勢で硬直したままの僕に遠慮気味の彼女が抱きついてくる。
「ここ最近、あなたから清心みたいないい香りがします...んん...落ち着きます」
その言葉に少しだけドキッとした僕は彼女の耳元でこう囁く。
「夕飯の前に甘雨に渡したいものがあるから、ちょっと着いてきてくれる?」
「はい、分かりました...」
名残惜しそうに僕から離れつつ、部屋に戻る。
部屋に戻り、荷物を置いて着替えた甘雨にプレゼントを渡す。
「はい、これ。ホワイトデーのお返し。あんまり出来栄えも良くないし数も少ないけど...どこかに飾ってくれると嬉しい」
「これ、清心...ですか?ケースに入ってますけど...」
「プリザーブドフラワーって言う、枯れないように加工した花だね。頑張って作ってみたんだけど、これだけしか成功しなくて...」
花束と言うには少なすぎる量のケースに入った清心を見た彼女が目を開いて返事をしてくる。
「え、これあなたが作ったんですか...?すごい...すごいです。ちょうど職場の机の上に置くものが欲しかったんです...ありがとうございます」
嬉しそうに清心を見つめる彼女に僕は言葉を返す。
「水やりは必要なくて、湿気とか気温が高くないところなら多分数年くらいは大丈夫だと思うけど、もちろんつまみ食いはダメだよ?」
すると怒ったような口調で返事が返ってくる。
「さすがに食べないですし、最近はあなたの食事で満足しているんで大丈夫です、すぐそう言って揶揄ってくるんですから...」
「ごめんごめん、それにしても喜んでもらえたようでよかった。沢山失敗しちゃって花束っぽくはなくなっちゃったけど許してね」
「こんなに凄いものを貰ってとても幸せです...本当に、あなたには敵いませんね...。大好きです...」
またひとつ、幸せそうな彼女の笑顔が見れたことに幸福を感じながら取り留めのない甘雨との日々を送っていくのだった。
プリザーブドフラワーをプレゼントしてからというもの、職場で机に置いてある清心の花をうっとりした目で見つめることが増えたらしい甘雨の仕事量がさらに増えたとか増えないとか...そんな噂を耳にするのはまた別の話。
主人公くん...スペック高すぎでは?