いつも通りの平穏な日々を送っていたある夜の事。
「甘雨...ごめん、起こしちゃった?」
寝付けずにゴロゴロしていたところで甘雨の目が覚めてしまったらしい。
「どうしました?」
眠そうな声で問いかけてくる。
「いや...なんか今日全然寝付けなくて」
「何か嫌なことでもあったんですか?」
心配そうに甘雨が僕の方へ近づいてくる。
「そういう訳でもないんだけど...ごめんね、甘雨は明日も仕事だろうし静かに目を瞑ってるよ」
「それならいいのですが...」
さっきよりも近い距離で再び眠り始めた彼女の横で瞼を閉じながら寝ようとする。
「...だめだ...寝れない...」
"良い体制"を見つけることが出来ずに悶々と5分か30分か分からない時間を過ごす。
「明日早く起きないといけないんだけどなぁ...」
頭の中で羊...もとい甘雨を数えようとしたものの結局寝れずどうしたものかと頭を悩ませる。
「あの...本当に大丈夫ですか?」
あれから体感では1時間ほど結局寝付けないまま過ごした頃に再び甘雨が話しかけてくる。
「ごめん、なんか全然寝れなくてさ...」
「うーん...分かりました、ここは私があなたのために一肌脱いであげます」
そういうや否や彼女が僕のことを抱きしめてくる。
「こうやって抱きしめて、背中をトントンしてあげます」
「か、甘雨、、これはさすがに恥ずかしっていうか...その...」
まるで子供を寝かしつけるかのように優しい強さで背中を叩いてくる。
「よーし...よーし、私がそばに居ますからね...」
抱きしめられた状態で耳元で囁かれる甘雨の甘い声が、僕を眠気へと誘ってくる。
「甘雨、ありがと...」
「いいんですよ、たまには甘えてくださいね」
耳元で感じる彼女の吐息にくすぐったさを感じながら、襲い来る眠気に身を任せる。
「男性の背中って、やっぱり大きいんですね...素敵です」
なんて蠱惑的な発言が聞こえた気もするが、彼女の腕の中ですっかり安心してしまった僕は漸くの眠りにつくことが出来るのだった。
翌朝。
「甘雨!寝坊なんて珍しいね、このままだと遅れちゃうよ!?」
おそらく僕のせいで、いつもより遅い時間に起きてきた甘雨に対し声をかける。
「起こしてくれてありがとうございます...急いで準備しても時間がなさそうなので...朝ごはんは申し訳ないですが食べずに行きますね」
「元はと言えば僕のせいだからね...軽く食べれそうなものを包んでおいたから行く時に渡すね。本当にごめん。」
「ありがとうございます、気にしないでください。あなたの温もりが心地よすぎて寝すぎてしまっただけですから...。」
大慌てで支度を済ませ、玄関で甘雨に包みを渡す。
「あなたが夜寝かせてくれなかったから寝坊しました、って言っておきますね」
外に出る直前、笑顔で僕にそう行ってくる。
「い、いやそれは誤解を、、事実だけど...」
「ふふっ、冗談です。行ってきますね」
甘雨が人差し指を立てて僕の口元に押し当て、眩しい笑顔で笑いかけてくる。
「い、行ってらっしゃい...」
初夏の陽射しよりも眩しい笑顔だった彼女に対し、完全に言葉を失ってしまった僕は、あざとすぎる甘雨もアリだな、なんて思いながら熱くなった顔を見られないようにいそいそと玄関のドアを閉めるのだった。
あざとい、でもそれが良い...。
メイドの日なんて概念もっと早く知ってれば書いてたのに...無念。