──やばい、やばいやばい。どうしてこうなった!?両手はベッドに縛り付けられてるし、ろくに身動きも取れない...この状況にやぶさかでは無いと思っている自分もいるけど...。
甘雨に監禁された。僕の心の中はもう大パニックを起こしている。朝いつも通りに起きて、甘雨が用意してくれた飲み物を飲んだあと急に眠くなって...気づいたら両手をベッドにしばりつけられていた...。前々からちょっと僕に対する独占欲が強いなとは思っていたけど、まさかこんなことになるなんて...。
「おや?目が覚めました?おはようございます」
いつも通りの笑顔のはずなのに、どこかいつもと違う迫力を感じる。
「あ、あぁ...おはよう甘雨」
外はもう暗いしどれだけの時間寝てたかは分からないけど、どうやら僕を放置して仕事にいってたみたいだ。ずっと座った状態で居たためか、腰やら尻やらが少々痛い。
「今日からあなたの身の回りのことは全部私がやりますから、安心してくださいね」
僕の顎を片手で持ち上げるように手を添え、彼女が目線を合わせてくる。状況が未だに理解できない僕は、「あぁ...」と返事をすることしか出来ないのだった。
「夕飯、食べさせてあげますね。」
料理をお盆に乗せ、そんなセリフとともに甘雨が部屋に入ってくる。
「はい、お口開けてください、あーん」
普段なら甘々とした状況に胸を躍らせるところだが、あいにく僕にそんな余裕はない。
「あ、ありがとう...美味しいね」
「ふふっ、あなたのために特別なもの、入れましたからね...」
目の前に料理の乗った匙を差し出しながら彼女が話す。
「けつえ──あっ、愛情とか」
わざとらしく"しまった"みたいな顔をしているがそんなことよりも聞き捨てならない言葉が聞こえた。
「いま、血液って言おうとしたよね?本当に入ってないよね??」
「ふふっ」
目が、全然目が笑っていない。せっかく作ってくれたものだし、食べないわけにもいかず、一体何が入ってるのか分からない料理を食べさせてもらう。
ふと、匙でも彼女の顔でもなく、手元に目が移る。
「手、怪我してるけど大丈夫?消毒とか…」
「あぁ、これですか?愛情の証ですよ、料理を作ったときに少し、ね」
愛おしそうに自分の手の傷を撫でる甘雨に対し、寒気が走る。
「おや?顔色が悪いですが大丈夫ですか?体調悪かったら言ってくださいね」
「いや、体調というか手は痛いけど」
「手、ですか?それは我慢してくださいね。」
「ソウデスカ…」
食器を片付けたらしい甘雨が部屋に戻ってくる。
「さて、私がどうしてこんなことしたか気になりますよね?」
足を伸ばして座るような状態の僕の膝の上に彼女が馬乗りになってくる。
「も、もしかして昨日の…」
「もしかして、見られてないと思ってました?あの女性の方は誰なんですか?」
ハイライトの消えた目で迫ってくる。
「以前少し料理を教えたことがあって…それでお礼に食事でもって言われて…本当に何もなかったよ、信じて甘雨」
すると、唇の端を少しあげた甘雨が鼻がふれあいそうな距離まで近づき、僕の頬を両手で挟み込んでくる。
「あなたが私のこと大好きなのは知っています、でもこれはお仕置きです。覚悟してくださいね?」
その言葉を聞いた瞬間、反射的に目を瞑ってしまう。
「んむっ!?…ちゅ…んっ…ちょ、甘雨、まっ…んんっ…」
今までの啄むようなキスと比べ物にならない激しいキスをしてくる。
数十秒、いや、数分経っただろうか。一方的に口内を蹂躙された僕の唇から甘雨の唇が離れる。扇状的な唾液のラインが今までの激しい行為を表すようだった。
「これで、わかりましたか?あなたには私だけがいればいいんです。」
「ごめん、僕が悪かったから、この手を解いてくれないか?」
「まだ、反省できてないようですね?」
すると今度は僕の首元に甘雨が近づいてくる
刺すような痛みが数回僕の首に走る。
「あなたが私のものだっていう印、たくさんつけておきました。ふふっ、これくらいにしておいてあげますね」
そう言って僕の手首を解いてくる。
両手が自由になった僕は、甘雨に抱きつく。
「えっ、あの、ちょっと」
お返しと言わんばかりに彼女の首元に吸い付く。
「んんっ…ちょっと、くすぐったいです」
「これ、今のお返しね。僕のだっていう印、ちゃんと付けておいたから」
首元から唇を離し、目を合わせる。
「当たり前じゃないですか。他の人に触らせることすらさせませんよ、あなたのための私の身体なんですから。」
やっぱり甘雨って独占欲がかなり強いのでは...。なんて心では思っていながらも彼女のハイライトの消えた瞳から目が離せない僕がいるのだった──。
我慢できなかったッ...溢れる妄想が我慢できなかったんだ...ッッ