「はい、これお団子。初めてだったからちょっと見た目悪いけど」
「わあ、ありがとうございます。さすがですね」
「夜にこうやってゆっくり月を眺めるのもいいね」
「"お月見"をあなたと出来るなんて最高に幸せです」
月明かりの下、空を見上げながらもふたりの影はぴったりと寄り添っていた。
僕がお月見のことを蛍さんから聞いたのはつい最近のこと。どうやら稲妻にある団子というスイーツを食べながらのんびりと月を見るらしいのだが...。
「ただいま、戻りました」
夜を半袖で出歩くのもギリギリになってきた頃、蛍さんから聞いたお月見を甘雨としたいと思いながら、帰ってきたばかりの彼女に話しかける。
「おかえり、甘雨。今日もお疲れ様」
「はい、ありがとうございます」
そう言って微笑んでくる彼女を無意識に抱きしめる。
「えっと...何か、ありました?」
耳元で囁かれる愛しい声に脳が痺れる。無意識に抱き締める力が強くなる。
「大丈夫、ですか?」
心配そうな彼女の声に焦った僕は返事をする。
「ああ、ごめんごめん。完全に無意識だった。いやー、今日も可愛いね本当に」
「もう、心配したんですから」
なんていつもと変わらない他愛のない掛け合いをしながら食事の席に着く。
「今日は夕飯を少なめにしてあります。」
「な、なんでですか...」
まるで世界の終わりかのような絶望的な表情を浮かべる甘雨に対し、言葉を続ける。
「夕飯の後でデザートが...あります」
「デザート...ですか...ふふ...それは......とても楽しみです!」
先程の表情とは一変、満面の笑み...というかニヤケ顔に変わった彼女と共に夕飯を食べ始める。
「そういえばこの前ちょろっと話してたけど、どうして蛍さんのスメールの探索が予想より早く終わったんだろうね」
不意に疑問に思ったことを甘雨に問いかける。10日ほど探索の手伝いで帰りが遅くなると思いますと言っていた甘雨が3日も早く帰ってきたとなっては逆に心配してしまう。
「あぁ、それは"森の精霊さん"に手伝ってもらったからだって言ってましたよ。あまり私の出番がなかったので詳しくはわからないんですが...」
「へぇ...世の中不思議なこともあるもんだなぁ。パイモンちゃんも不思議だけど」
「そういえば確かにそうですね...」
いつもより少なめの食事を食べ終わり、食器洗いをしていると、甘雨が隣にやってくる。
「あれ、どうしたの?」
「ふふ、私もお手伝いします」
「最近やけに手伝ってくれるけどどうしたの?」
「一緒に並んで料理をしてから、こうやってあなたの隣で同じ作業をするのいいなぁって思いまして...」
そんな嬉しい発言に動揺してしまった僕はお皿を落としかける。
「おっ...と、危ない危ない」
「もう、気をつけてくださいね」
彼女が心配するような表情で僕の方を見てくる。
「いやぁ、あまりにも嬉しいこと言ってくれるからちょっとドキッとしちゃって...」
「落としたお皿で手を切っても、もう指は舐めませんからね?」
「よし、じゃあデザートを食べるんだけど、今夜は満月だしどうせなら縁側行こっか」
「満月は何回も来るのにどうしてまた?」
「蛍さんから聞いたんだけど、稲妻では夏が過ぎた満月の日に月を見ながらお団子っていうお菓子を食べるらしいんだ」
「へぇ...確かにそんな話を聞いたことあるような...ないような...」
「それじゃ、お団子持ってくるからちょっと待っててね」
そう言い残し、お団子を取りに戻る。ちょっと不恰好だけど、初めてにしては美味しそうにできた気がする。
「はい、これお団子。初めてだったからちょっと見た目悪いけど。」
「わあ、ありがとうございます。さすがですね」
甘雨の隣に腰掛け、のんびりと月を見ながら食べ始める。
「お、思ったより美味しくできてるな。ただお砂糖入れてないからすごく優しい味になってるけど」
「あなたらしくてとても良い味だと思います、とても好きな味ですよ」
「夜にこうやってゆっくり月を眺めるのもいいね」
「"お月見"をあなたと出来るなんて最高に幸せです」
「月が綺麗ですね、なんて言ったの懐かしいなぁ」
彼女に告白した月夜の記憶が蘇る。
「あの時よりずっとずっと、あなたのことが好きです」
そんな嬉しいことを言ってくれる彼女の手を、空いた方の手で握りしめる。
「僕も、毎日どんどん好きになってる。いつもありがとう、甘雨。大好きだよ」
「こちらこそ、いつも美味しい料理とか他にもいろいろ、ありがとうございます。」
お互いに手を握りしめたまま、いつまでも月を見上げているのだった。
読んでいただきありがとうございます!