甘雨に手のマッサージをして、天ぷらを堪能した日の午後。午前と同じようにのんびりした時間が流れていた。
「そういえば帝君が亡くなってからもうすぐ1年か...毎年のように行ってた迎仙儀式がなくなるって言うのはなんか変な感じだな。」
「そ、そうですね...。でも大丈夫です、帝君が居なくても璃月はもう動き始めてますから...」
ソファーでくつろぐ僕の問いかけに、庭先で瑠璃百合の手入れをしている甘雨が反応する。
「七星の方々と甘雨が居てこそ、って感じだよな。よし、璃月代表として感謝の意を...」
「さ、さっきも言ってもらったので大丈夫です...ちょっと...恥ずかしいですし」
顔を上げ僕の方を見て、甘雨は少し顔を赤らめる。
ちょっとした沈黙の後、甘雨が思い出したかのように話し始める。
「そういえば少し前に、凝光様が天然の瑠璃百合を入手して蛍様に贈っていたんです。」
「天然の瑠璃百合か...そりゃ凄いな。入手した凝光様も、それを贈られた蛍さんも」
瑠璃百合と言えば、天然のものはとても高価で知られる花だ。
「確か、玉京台で甘雨が育ててたよね?」
「確かにそうですが...あれは手が加えられているものなのでそこまで希少ではないんですよね」
庭先で花の手入れをしている甘雨を眺めながらふとあることに気づく。
「あれ?野菜も育て始めたの?食欲を抑えきれる自信がありません...って最初言ってたのに」
まだ整えたばかりで真新しい畑を見ながらそう問いかける。
「そ、そうなんですけど...」
甘雨は一気に顔を赤くしたあと、こう続ける
「あなたの作ってくれる料理が美味しいので、せっかくなら自分が育てた野菜を使ってもらいたいなって...思って」
可愛らしい独占欲を抱く彼女に近づきながらこう返す。
「それじゃぁ、朝市に行く頻度が減るかな?朝も甘雨と居られる時間が増えそうだ。」
野菜と花の手入れをする彼女を後ろからそっと抱きしめる。
「あの...急には...恥ずかしいです」
作業をしているからか、照れからなのかいつもより少し高めの体温の彼女にこう囁く。
「甘雨、好きだよ。」
抱きしめていた僕の腕を解いた彼女はこちらを振り返り、抱きつきながらこう返す。
「私も...好きです。」
高鳴る胸の音は隠れるはずもなす甘雨の耳に届く。
「鼓動、早くなってます。ふふっ」
幸せそうに笑う彼女の奥、街の方から蛍さんが歩いてくるのが目に入る。
「か、甘雨、蛍さんがこっちに向かってるよ」
「ほ、本当ですか!?」
名残惜しそうに僕の胸から耳を話した甘雨がいそいそと道具を片付け始める。
ある程度片付いたタイミングで、蛍さんとパイモンちゃんが甘雨に話しかける。
「甘雨さん、清心どうだった?」「オイラたちの壺で育てた特別な清心だぞ!」
「とても美味しかったです!天ぷらにして作ってくれたんですよ」
会話に入るのも申し訳ないなと思った僕は少し早めの夕食の準備をしながら3人の会話に耳を傾ける。
「でも、清心って苦いんだろ?天ぷらにしてもオイラは食べれないと思うな...」「パイモンには今度私が作ってあげようか?」
「蛍さんの料理も美味しいですから、生よりは食べやすいと思います!もし無理だったら私が食べますよ?」
「それは甘雨が食べたいだけじゃないのか!?」「甘雨さんブレないね...」
楽しそうに会話をする彼女たちの声をBGMに、野菜の下ごしらえを行う。
いつもあんな風に楽しそうに蛍さんの旅に同行してるのかと思うと、一抹の寂しさを感じた。今夜は甘雨に旅の話をしてもらおう、と決意しながら。
──その日の夜
「...ということがあったんです。稲妻ではずっと雷雨の場所やとっても大きい桜の木など、様々な場所がありました。雨の場所ではとても重宝されました...!」
嬉しそうに布団の中で稲妻での思い出を話す彼女にこう返す。
「甘雨はどこにでも引っ張りだこだな、さすが甘雨。蛍さんとの旅も順調そうで良かったよ。」
寂しいなんて口に出せずに取り繕ったような笑顔で返事をする。
「蛍さんとの旅もいいですけど、やっぱり私の帰る場所はここしかないです...」
作り笑顔に気づかれたか、そうしたかっただけなのか分からず、抱きついてくる甘雨を受け止める。
「私がさっき蛍さんと話してる間、寂しかったですか...?」
改めて言われると情けなくもなるが、どうやら僕は彼女にかなり依存してしまっているらしい。
「甘雨が蛍さんととても楽しそうにしてて...旅の話とか全然聞かないなって思って、なんとなく寂しかった」
「大丈夫ですよ、私はここに居ますし、いつでも返ってきますから。今日は抱き合ったまま...寝ましょうか」
そう言った甘雨は、僕を抱きしめる手に力を込める。負けじと抱き返し、そのまま眠りにつく。
こうして今日もまた名前のない夜が更けていていくのであった──
か、甘雨ママッ...。
異様に寂しくなる時あるよね、あるよね?(圧)