今年も、海灯祭の時期がやってきた。
僕は例年のように朝早くから忙しそうに仕事に奔走する甘雨を見守っている。彼女がしっかり休むように言って欲しいとの刻晴様からの指示を受け、特別に自宅で仕事をしている甘雨のことを監視...しているのである。今日も可愛いなぁ...。
「もう...私だって最近はちゃんと休むようにしています」
少し不満げに甘雨が零す。口調とは裏腹に手の動く速さは尋常ではないが。
「まあまあ...甘雨のことを思ってだから、ね。それに僕は仕事をしている甘雨が見られて嬉しいし」
僕の言葉に驚いたのかうっかり紙を落としてしまう。
「ごめんごめん、拾うよ」
「いえ、自分で拾いま...」
お互いが同じ紙を拾おうと手を伸ばし、必然的に手が触れ合う。
「「あっ...」」
咄嗟に手をひこうとした僕だったが、甘雨にしては珍しく、僕の手をしっかりと握ってくる。
「どうしたの?」
僕がそう言うと、甘雨は慌てて手を引く。
「あっ...いえ、つい最近人探しを手伝った時に少ししんみりした話を聞いてしまって」
いつもはお触り禁止!と言ってきそうな彼女だったがどうやらいつもとは違うらしい。
「甘雨、少し休憩しようか」
「でも...まだたくさんお仕事が」
少し躊躇う彼女にもう一押し声をかける。
「もし間に合わなかったら僕のせいにしてくれていいから、ほらおいで」
手を広げて控えめに抱きついてくる彼女を受け入れる。
「僕はね、甘雨。キミが他の男の人と喋ってるだけで嫉妬しちゃうくらい甘雨の事が好きなんだ。」
抱きしめている彼女の背中が少し熱を帯びる。
「はぃ...」
消え入りそうな声が耳元で聞こえる。
「だからさ、甘雨が嫌だって言うまでそばに居るよ。この先もずっと」
息を飲む音が聞こえる。
数瞬後、甘雨が言葉を紡ぐ。
「私が嫌というはずありません。あなたはいつも私のことを支えて、お世話をして、そばにいてくれます。寿命だって、何とかしてみせます。」
少し抱きつく力が強くなる。まるで僕らがひとつになってしまいそうな程に強く抱き締め合う。
何分こうしていただろうか、どちらかともなく離れる。
「ありがとうございます、お仕事に戻りますね」
そう言って机に向かう甘雨の後ろ姿は、さっきまでと違ってとても幸せそうで、楽しそうであった。
夜。海灯祭のメインステージが開催されるとの事で、港の方に赴いていた。
「毎年思うけど、すごいよなぁこのお祭り。」
「璃月だけでなく、協力してくれる全ての人のおかげです。こうやって毎年引き継がれるのもありがたいですね...」
僕らは少し離れたところからステージを眺めている。あまり聞き馴染みのない音楽だが、不思議とワクワクする曲だ。
「この案、私が七星に提案したんです。音楽やったらどうかって。」
甘雨もテンションが上がっているのか自慢げにそう話してくる。
「へぇ...凄いね甘雨は。みんな楽しそうだし大正解だ。」
「まぁ...元は他人の提案なんですけどね、蛍さんたちがどうにかならないかと私に相談してきて」
「でもちゃんと形にしたのは甘雨でしょ?やっぱり璃月には必要だね、甘雨は」
ステージを眺める彼女の横顔が少し遠くなった気がした。
「何を言ってるんですか、私はあなたがいなければ、あなたが支えてくれなければ仕事以外はあまり出来ない人なんです。」
そう言うと僕の手を甘雨が握ってくる。
ステージは佳境を迎え、花火が上がる。そして皆がそれぞれの想いを霄灯に乗せ、空へと飛ばす。いい一年を過ごせますように、そう願いながら──
海灯祭を祝して。
あけましておめでとうございます。今更感はありますが本年も本小説をよろしくお願いします。