年の瀬も迫り、朝晩の冷え込みも酷くなってきた12月の2日。どれだけ忙しなく時が過ぎようとも、忘れることの出来ない日がやってきた。甘雨の誕生日である。
この日へ向けて半年ほど前から様々なプランを考えていたが、結局何も決まらないまま当日を迎えてしまった。
「おはよう、甘雨。昨日はお疲れだったね?」
朝食の準備をした後、部屋に戻ると既に甘雨は起き上がってぼーっとしていた。可愛い。
「おはようございます。すみません、早くに寝てしまって...。」
「いいよ、まあ少し寂しかったけどね。ちゃんと休めた?」
「おかげさまで。それよりも、寂しかったなら...ふふ、こっち来てください」
寝起きで眠そうな目のまま、僕のことを暖かい布団へと誘ってくる。当然僕は抗うことも出来ないまま彼女へと抱きつく。
「んふぅ...暖かいね」
「あなたも、お布団より暖かいです」
柔らかな抱き心地と温もりでこのまま寝そうになるが何とか踏みとどまる。名残惜しそうに僕の方を見てくる甘雨に心苦しさを感じる。
「お誕生日おめでとう甘雨。」
そう耳元で囁いて頭を一撫でしつつ寝室を出る。
「今のは...ずるいです」
なんてことを後ろで呟かれていたことを僕は知る由もなかった。
「じゃあ、いただきます。」
2人で朝食を食べ始める。会話の内容はなんてことのない世間話だが、そんな時間が僕は好きだ。
「そろそろ冬の野菜が出てくる頃だね。何か食べたいものとかある?」
「そうですね...寒いですし少し辛みがあるものがいいです。」
「了解、夜はそれっぽいもの考えるね」
「ありがとうございます。ふふっ、今日も頑張れそうです。」
こんな会話をしながら朝の時間を堪能したのだった。
「ただいま、戻りました。」
外の冷気と共に、甘雨が帰宅した。
「おかえり。今日もお疲れ様。」
そう言うと共に彼女を抱きしめる。ひんやりしているが、それと共に温もりも感じる。
「ふふ、やっぱりあなたに抱きしめられるの好きです。」
甘雨の荷物を受けとり、そのまま食卓へと座る。
「今日は甘雨の誕生日だから、少し気合を入れたよ。遠慮せず食べてね。」
「わぁ...!どれも美味しそうです。いただきます。」
「どうぞめしあがれ。」
目を輝かせながらどれから食べましょう...とつぶやく彼女を微笑みながら見守る。
「いつも美味しい料理をありがとうございます...。ただあの...最近忙しかったので冒険に出れてなくて...私太ったりしてません?」
数瞬前のキラキラした表情から一転、少し曇り気味の表情を浮かべたその落差に笑いをこぼしてしまう。
「笑ってる場合じゃないんですよ...もう」
「ごめんごめん、どんな甘雨も可愛いとは思うけど、そういうことじゃないよね。僕は気にならないけど、時間できたら少し散歩とかしようか。」
「いいんですか、?よろしければぜひ...。あ、これ美味しいです。」
にこにこしながら料理を頬張る彼女に愛しさが込み上げてくる。
「大好きだよ」
自然と溢れたその言葉に自分自身も驚く。
「ありがとうございます、私も大好きです。なんか少し照れますね...。」
誕生日と言えど、いつもと変わらない日常をすごしいつもと変わらない愛しさがそこにはあった。
「ごめんね、大したプレゼントもなくて。だいぶ前から考えてたんだけど全然思い浮かばなくて...。」
甘雨と共に布団に入ったあと、ふとそんなことを呟く。
「大丈夫ですよ、私にとって求めてくれるあなたがいて、そんなあなたを私も必要としてる。そんな日常が既にプレゼントなんですから。気にしないでください、いつもありがとうございます。」
その言葉を聞いて色々と込み上げてしまった僕は彼女に抱きついてしまう。
「ふふ、よしよし。いつもはかっこいいのにこういうところは可愛いの、とても素敵だと思います。」
そう言いながら優しく僕の頭を撫でてくる。
そのままだんだんと意識が遠くなり、睡魔の誘うままに眠りについてしまう。
「あら、寝てしまいましたか。もう、仕方ないですね。」
そう言いながら優しく頭を撫でるその姿は、仕事に追われ残業尽くしだった頃とはまるで違う、長生きした仙人ではなく1人の少女のようだった。
「あなたのおかげで、契約のために生きていた頃よりもずっと楽しく色づいた日々を送れています。本当に、出会ってくれてありがとうございます...大好きです。」
すやすやと眠る彼にキスを落とし、彼女自身も共に眠りにつくのだった。
甘雨さん、ママみが強いですよあなた。