ご都合展開あります、許して
つい先程、僕がプレゼントした指輪をつけ少し慌てて仕事へ行った甘雨だったが、すぐに帰ってきた。
「あれ、どうしたの?なにか忘れ物?」
それにしては走ってきた様子もない。
「それが、今日は誕生日なんだからゆっくり過ごしてこい、と言われてしまいまして、、」
「なるほど、まあ確かにいつも仕事漬けだもんね。そういうことなら、おかえり」
外気で少しひんやりした彼女を抱きしめる。
「こうやってあなたに抱きしめられるの、とても好きです」
なんて嬉しいことも言ってくれる。
しばらくして、ソファでのんびりと書籍に目を落としていた甘雨がそういえば、と話し始める。
「最近、仕事で翹英荘(ぎょうえいそう)に行くことが多いんですけど、自然豊かで動物も多いしとても静かで落ち着くんです」
「へぇ、あんまり行ったことないしお茶くらいしか知らないけどそんなにいいとこなんだ」
基本的に家にいる僕からしたらほぼフォンテーヌでもある翹英荘はモンドと同じくらいの認知度しかない。
「のどかで、とても平和なんです。ということで今から、行きませんか?」
「え、今から?歩きで??」
「いえいえ、先程蛍さんにお願いしたので一緒にワープして連れて行ってもらいます」
「それ、僕大丈夫なやつ??死んだりしない?」
「大丈夫です、私がしっかりお守りいたしますので」
甘雨に流されるまま蛍さんと合流し翹英荘へ向かうことに。
万民堂付近まで連れていかれ、わーぷぽいんと?とやらの前に到着した。
「じゃあ、しっかり掴まってて」
言われるがまま、蛍さんに掴まっている甘雨の腕に掴まる。
「え、あの、これ本当に大丈夫??」
そんな僕の心配をよそに、蛍さんがわーぷぽいんとに手をかざす。
足元が急になくなったかのような浮遊感を感じたのも束の間、目の前の景色が切り替わり、水の流れる音が聞こえてくる。
「本当に一瞬で着くんだな...」
不思議そうに辺りを見渡す。見慣れない地形や滝のような水音からしてどうやら本当に着いたらしい。
「あれ、蛍さんは?」
「もう行ってしまいましたよ、あとは2人でごゆっくりとのことです」
周囲に気を取られているうちにどうやら行ってしまったらしい。お礼はまあ、帰りの時でいいかなどと考えていると甘雨に手を引かれる。
「さあ、こっちです。美味しいお茶屋さんにご案内しますね」
いつもより少しだけテンションの高い彼女に手を引かれ、久しぶりのデートを楽しむことにした。
「なんか、めちゃくちゃ見られてない?」
甘雨と手をつなぎながら歩いていると、すれ違う人に度々見られている気がする。
「そうですかね?わ、私の旦那様がカッコ良いから...でしょうか?」
少しどころかかなりテンションの高そうな甘雨が滅多にないことを言ってくる。
「ま、まぁ甘雨の方が素敵だし可愛いけど?」
僕も僕で訳の分からない返事をする。
すれ違う人たちが「最近見かけるクールな七星の秘書様、あんなに楽しそうに男の人と歩いてる」 なんて話す声に聞こえないふりをしながら、甘雨の隣を歩く。
「こちらです、ここのお茶と地元の野菜で作られるお料理が美味しいんです」
しばらく歩き、少し人里から離れた標高の高い場所にある店に到着する。店に入ると、見晴らしの良い案内される。
「景色も凄くいいね、確かにのどかで良い場所だ」
「そうなんですよ、うっかり何度か昼寝してしまったこともあります」
こんな場所で昼寝をする甘雨もさぞ可愛いんだろうななんてことを考えながら彼女の頼んだおすすめ料理が来るのを待つ。
「この静かで平和な雰囲気、絶雲の間で修行してた頃を思い出すんです」
それは僕が生まれるよりずっと前のことだろう。
「その頃から一緒に居たかったなぁ」
うっかり僕から漏れてしまった本音に甘雨が少しだけ申し訳なさそうな顔をする。
「私も、あなたと昔から出会えていたらなと思います。そうすれば今までの時間ももっと色付いてたはずなのにな、とも」
机の上に置いていた手をどちらかともなく握り合う。
「でも、これからずっと、ずーっと一緒に居て、今の話が大昔になるくらいの時を過ごせば、私たちが出会う前の時間なんて一瞬のことになると思うんです」
甘雨が僕の手を握る力が強くなる。
「それに、ずっと一緒にいてくれるという証も頂きましたし」
微笑みながら指輪に目を落とす。
「そんな長い時間ずっと一緒にいれたらいいんだけどねぇ...」
寿命がほぼない甘雨に対し、僕は長くて100年、埋めきれない差に少しだけ寂しくなる。
「あ、寿命の事なら心配いらないと思います。留雲真君に頼み込んで特別に処置してもらったので」
「え?」
何やら不思議な話が聞こえた気がする。
「ですから、私と一緒ですよ。永遠にずっと」
少しハイライトの消えかけた目でこちらを見てくる甘雨を見て、何も考えないことにした。
そんな少し冷えた場の空気を破るように、料理とお茶が運ばれてくる。
「うーん、新鮮だとこんな調理法もあるのか」
なんて分析しながら美味しいお茶と料理に舌鼓を打ち、のんびりとした時間が過ぎていく。
一通り食べ終わり、砂糖を使っていないというお茶スイーツが来るのを待つ間、甘雨が地元の子供たちに教わったという山の歌を聞かせてくれることに。
「~♪」
透き通るような彼女の声と優しい歌い方に目も耳も、そしてとっくに奪われたはずの心も釘付けになる。
これから先、幾度となく迎える甘雨の誕生日をこうして共に過ごせることを祈りながら、彼女の歌声に揺られながらゆっくりと食後の眠気に身を任せてしまうのだった。
「どうでした?って、寝てしまってますね。ふふ、いつも私がお昼寝して寝顔を見られてばっかりなので今日ばかりは堪能させてもらいます」
と甘雨が幸せそうに僕を眺めていることを知る由もないまま、翹英荘でののんびりした時間が過ぎていく。
留雲真君なら甘雨のお願いで寿命問題を解決してくれるはず。代償は多分惚気話聞かせろとかしつこいやつ。