冬、と言えば何を思い浮かべるだろうか。朝の刺すような寒さとか、雪の降る静かな夜とか、人によって様々だと思う。僕はといえば...もちろん、甘雨の誕生日である。
12月の2日...もう明日に迫っているが、氷元素を扱う彼女にピッタリすぎる月に産まれたものだ。はて、彼女が生まれた頃からずっと同じ日付の数え方だったのか、当時の12月2日は今で言う○月ですみたいなことはないのだろうか。
...正直に言おう。僕は困っている。去年も困っていたが、それ以上に困っている。何を、今更何をあげれば良いのか、待てど暮らせど会心の案が出てこないのだ。頼みの綱の蛍さんとパイモンちゃんもナド・クライまで旅に出ていて、当分は会えない。とにかく、街になにかいい案は落ちていないものかと外に出ることにした。
昼とはいえもう12月。日向でも寒さを覚えるが、僕の頭はそれどころではなかった。
まるで獲物を探す獣の如く、いいアイデアを探して、店の品を手に取っては戻し、手に取っては戻しを続けていた。
「あんちゃん、いつもこの辺を歩いてるから多めに見るけど、あんまり怖い目でうろつくんじゃないよ。璃月人以外だったら千岩軍に突き出してるところだ。」
「あ、すいません....ちょっと知人の誕生日プレゼント悩んでて」
危うく千岩軍のお縄になるところだった。僕をむかえにきた冷ややかな顔の甘雨が脳裏を過った。それはそれで悪くないかもしれない...。
「プレゼントねぇ...これなんかはどうだい?」
そう言って雑貨屋の店主がみせてきたのは、炎スライムだった。
「えっ、熱くないんですかこれ」
「バカいうなよ!よく見てみろ、こりゃスライムを模したぬいぐるみだよ。あいつら郊外で出会ったら危なっかしいが見た目は可愛らしいからな、一部で人気があるんだよ。」
「へぇ...そうなんですね。せっかくですし一つ頂きます」
「まいど!目つきには気をつけなよ」
雑貨屋を後にした僕は、あるアイデアを突然思いつく。今のスライムぬいぐるみは自分用にすることになるが、このアイデア料にしてみれば安いくらいだ。
「スライムのクッション、作ろう」
そうと決まれば、早速材料を買うところからだ。
そうして、無事に甘雨の誕生日を迎えることが出来た。お手製のまんまる風スライムぬいぐるみにそれっぽいラッピングをして、日付が変わったと同時に布団で寝る準備をしていた甘雨に渡す。
「甘雨、誕生日おめでとう。はい、これプレゼント」
「ふぇ...?誕生日...今日ですか?」
眠そうな声と主に少し驚きの交じった声で甘雨が僕の方を見てくる。
「そうだよ、日付変わって今日、甘雨の誕生日だよ」
「え...もうあれから1年ですか...確かに海灯祭の準備が始まって、何か忘れてるなと思ってましたが...私の誕生日でしたか」
「まあ...数千年も生きてれば年月の感覚もわからなく」
「何か、言いましたか?」
本当に冷ややかな顔の甘雨を拝むことになると昼間の自分に言ってやりたい。
「い、いや...ナンデモナイデス。そ、それより開けてみて、割と良いプレゼントだと思うんだけど」
「ふふ、このプレゼントに免じて許してあげます。どれどれ....」
ガサガサと僕の素人ラッピングを剥がし、いよいよ甘雨と風スライムのご対面だ。
「わぁ...!これ、クッションですか?すごくふわふわです...!」
「抱きしめてもいいし、枕にしても良いと思う。昼休みの仮眠とかで使って欲しいなと思って」
「ふふ、早速今日から持っていこうと思います。デザインもとっても可愛いですし...ありがとうございます。」
我が子のようにクッションを抱きしめそのままもぞもぞと布団に戻っていく甘雨。
おのれ風スライム。僕とそこを変われ。
羨ましそうなのが顔に出てたのか、甘雨が僕に話しかけてくる
「ふふ、大丈夫ですよ、あなたが布団に来たら抱きしめるのはもちろんあなたですから」
さすが、彼女に敵いそうもない。
部屋の明かりを落とし、寝る準備を終えた僕は、甘雨の隣に入り込む。
「お布団暖めてくれてありがとね、めっちゃ暖かい」
「当然です、あなたへのあいのぬくもりですよ」
「甘雨...もう相当眠いでしょ」
「そんなことありませんよ、まだまだあなたとおはなしして、わたしのたんじょうびのおいわいをしてもらうんです」
ふにゃふにゃな声と、いまいち回ってない呂律、もう限界らしい。
「やくそくどおり、ぎゅーしてあげますから、もっとこっちにきてください」
もう半分閉じたような彼女の瞳が、月明かりに照らされて僕の目に映る。
彼女の甘い囁きに吸い寄せられ、彼女の方に身を寄せる。その瞬間、有無を言わさぬ力で彼女の胸元に抱き寄せられる。決して大きくはないが、そこに確かにある柔らかな膨らみに心臓のギアが上がる。
「よしよーし。いいこですね...ふふ」
「甘雨、僕のこと子供扱いしてない?」
彼女の規則正しい心音を聞きながら、そんな話をする。
「わたしのねんれいからしたら、あなたなんかまだまだこどもですよ」
眠そうな声なのに、どうやら先程の発言を根に持ってそうだ...
「ごめんて、まあでも...実際そうか。なんか不思議な感じだね、見た目はずーっと若いのに、その辺のおじいちゃんも子供の頃から知ってるんだもんね.....って寝てるし」
すぅすぅと、可愛らしい寝息を立てる甘雨。どうやら僕は、抱き枕として合格を貰ったらしい。
甘雨の心地いい心音と温もりに包まれて、僕のまぶたを次第に重くなってくる。誕生日を忘れるくらい忙しそうな日々を送る彼女の、少しでも支えになれるようにこれからも頑張ろうと、決意したところで、ぼくも意識を手放した。
「だい...すき」
甘雨の可愛らしい寝言は、僕の耳に遠くの方で届いていた。
いつもありがとうございます!