誕生日メールをくれた甘雨とは誕生日の価値観が違うってことで許してください
12月2日、今日は僕にとって最も重要な日だ。
遡ること3日前。甘雨の誕生日プレゼントに何を贈ったらいいか相談するために、璃月に滞在してるらしい蛍さんの元へ向かっていた。
「蛍さん、こんにちは。今ちょっと大丈夫かな?」
万民堂でパイモンちゃんと買い物している所へ話しかける。
「問題ない。パイモンとおやつを食べに来てただけだから。それで、なんの用?」
辛そうな料理を食べて涙目を流しているパイモンちゃんを尻目に要件を話す。
「なるほど。甘雨さんの誕生日に何を贈ったらいいか分からない、と」
「蛍さんもなにか用意するとしたらそれと被っちゃいけないし、なかなかいい案も浮かばなくて...」
「私からはとっておきの聖遺物を渡す予定だから問題ない。あなたからは...手作りのものとか良さそう。」
それを聞いたパイモンちゃんが話に入ってくる
「甘雨はおまえの手作りならなんでも喜ぶと思うぞ!冬っぽいものとかで良いんじゃないか?」
「パイモンたまにはいい事言うね」
どうやら蛍さんもこの案に賛成のようだ。
「なるほど、その路線でいってみるよ、2人ともありがとう!これ、僕の奢りってことにしとくから。」
お礼がわりに2人の支払いを済ませ、万民堂を後にする。
「ああいうところを甘雨さんは好きになったのかもね」「だな!」
後ろでこう会話してるとも知らずに...。
その日の夜。遅くまで残業してたらしい甘雨を出迎える。
「思ったより遅くなっちゃいました...ただいま、です」
「おかえり、甘雨。近頃冷え込むけど寒くなかった?」
寒さで頬が紅潮してる甘雨を抱きしめ、こう続ける。
「んん、やっぱり冷えてるな。先に風呂にする?」
「ふふっ、お風呂よりも温まることをして貰っているので大丈夫です。お腹すきましたし」
恥ずかしそうな声色の彼女をもう一度だけ強く抱き締め、リビングへ向かう。
「そういえば今日、万民堂であなたと蛍さんが親しげに会話しているのを見たという話を耳にしたんですけど、何してたんですか?」
若干ハイライトの消えた目で甘雨が聞いてくる。暖房が効いてるはずなのに、心做しか温度が下がった気がした。
「少し相談事があって蛍さんを探しに行っただけだよ。万民堂にたまたまいたからそこで要件を済ませたんだ」
「なるほど...私に相談してくれなかったのが悲しいですが...まあそういうことにしておきます」
少し悲しそうな表情の彼女に罪悪感を感じつつ、心の中で3日後まで待ってくれと唱えるのだった。
そして3日後に話は戻る。
「おはよう、甘雨。誕生日おめでとう」
「ふぁ…おはようございます…ありがとうございます」
眠そうな目を擦りながら洗面所から出てきた甘雨はそのままもぞもぞとコタツに入り込む。
「コタツって、いいですね…また寝てしまいそうです」
「甘雨ですらだらけてしまうコタツの魔力、恐るべし…って感じだね。朝ご飯、できたよ」
キッチンから顔を出し、彼女をリビングへ誘う。
「もう、揶揄わないでください…いただきます」
「あ、そうだ甘雨、今夜は豪華な料理を用意しておくからできれば残業なしで帰ってきてほしいな」
「大丈夫ですよ、昨日のうちにほとんど終わらせてしまったので今日はほとんど皆さんのサポートをするだけだと思います。料理、楽しみにしてますね」
「では、行ってきます。」
「いってらっしゃい。気をつけてね。」
誕生日と言えど朝から仕事に向かう甘雨を送り出し、コタツに入りながら誕生日プレゼントの仕上げにかかる。
我ながら良い出来かもしれない。喜ぶ彼女の笑顔を想像し思わず表情が綻ぶ。
すっかり日も落ちた頃、時間通りに甘雨が帰ってくる。
「ただいま、戻りました。」
両手いっぱいの清心を抱えた幸せそうな笑顔の彼女を出迎える。
「おかえり、甘雨。また随分とたくさんもらったね」
「月海亭の皆さんから貰いました...お仕事中に少し摘んでしまったんですけど、まだまだあります。うーん、幸せです」
そう答える彼女の荷物を受け取り、リビングに入る。
「今料理持ってくるから手を洗っておいで」
「んん~...とっても美味しそうな匂いです...」
そう言い残し洗面所に向かう彼女を見送りながらキッチンに入る。
「よし、いい具合に炊けてるな。うーん、我ながら美味しそうだ。」
予想以上に美味しそうに炊けた清心の炊き込みご飯をよそい、食卓に並べる。
「あとは、絶雲の唐辛子とスイートフラワーのドレッシングをかけた清心のサラダと、メインディッシュの仙跳牆(せんちょうしょう)をよそって...っと」
「うわぁ...!とっっても美味しそうです...!」
食卓に並べ終わった時にちょうど洗面所から戻ってきた彼女の声から嬉しそうな様子がひしひしと伝わってくる。
「さぁ、食べようか。」
「はい!」
「「いただきます」」
上品ながらもすごい勢いで料理を食べ始める彼女に嬉しくなった僕は話し始める。
「この仙跳牆、甘雨のためだけに作ったオリジナルなんだ。清心とか人参とかを3日くらい前からずっと煮込んでた。」
「どうりでとってもおいしい訳です...今までで1番美味しい料理かもしれません...幸せです」
「こっちのサラダは昔作って好評だった料理で、炊き込みご飯の方は少し味を薄目に作ったんだけどどうかな?」
「とっっても美味いです!仙跳牆との味のバランスが良くて、うっかり食べすぎてしまうかもしれません...」
「食べすぎちゃったら、蛍さんに冒険に連れて行ってもらわないとね」
軽口を叩く僕に彼女は拗ねたように返事をする。
「もう...からかわないでください...」
「あ、そうだ甘雨。せっかくの誕生日だしおもてなししていいかな?」
程よく食が進んだ頃、僕が提案する。
「もう充分もてなされる気もしますが...せっかくなのでお願いします」
それを聞いた僕は匙にご飯を乗せ、彼女の口元に近づける。
「はい、甘雨、あーんして」
「えっ、あっ、あーんですか??は、恥ずかしいんですけど...」
「いいからいいから、ほら、あーんして」
恥ずかしそうに口を小さく開けて口を開ける彼女にご飯を食べさせる。
「どう、おいしい?」
「恥ずかしすぎて味が分かりません...こんなにドキドキするんですね、これって」
「味がわからなかったなら、もう1回してあげようか?」
「ちょ、ちょっと待ってください...次は私があなたにする番です」
そう言うと彼女が僕に向かって匙を向けてくる。
「はい、あーんしてください♪」
弾むような声でそう言ってくる彼女に従い口を開ける。
「どうですか?美味しいですか?」
「これは...思ったより恥ずかしいし、本当に味か分からないな...普通に食べよっか」
「それがいいと思います」
「「ご馳走様でした」」
「うーーん...本当に蛍さんに冒険の件をお願いした方がいいかもしれません...」
「美味しそうに食べてくれて嬉しかったよ。明日からはしばらくヘルシーなレシピにするね」
食べ過ぎたことを心配する甘雨に提案する。
「ありがとうございます...すっかり胃袋掴まれちゃいましたね。」
「大好きな人に離れて欲しくないからね、僕だって頑張るさもちろん。さ、食事も終えたしちょっとまっててね、渡したいものがあるんだ。」
リビングに戻り、コタツに入り込んだ甘雨の正面に座り込む。
「甘雨、お誕生日おめでとう。ちょっと歪になっちゃったけど、僕からのプレゼント」
3日前から夜なべしてつくりあげた手編みのマフラーを渡す。
「わぁ...!こんなにすごいもの、ありがとうございます...」
「実は甘雨に何を渡したらいいか全然思いつかなくて3日前に蛍さんに相談に乗ってもらってたんだよね。」
「そういうことだったんですね...ふふっ、これは本当に嬉しいです」
「この時期かなり冷え込むし、マフラーなら暖かいかなって。色も悩みに悩んだけど甘雨の髪の色に近い色にしたんだ。」
嬉しそうに甘雨がマフラーを首に巻く。
「どうですか?似合ってますか?」
「あぁ...これは...マフラー渡したの失敗だったかなぁ...」
「え、、似合ってませんか?」
「ごめんごめん、そうじゃなくて。あまりにも可愛くて、璃月の人みんな振り返っちゃうんじゃないかなって。」
「もしかして、嫉妬ですか?ふふっ、大丈夫です、私が好きなのはあなただけです。」
テンションが上がったのか、足を伸ばして座ってた僕にこたつの下で足をぶつけてくる。
「えいっ、えいっ。」
「ちょ、甘雨、くすぐったいっ...」
「夕ご飯の時にからかってきたお返しですっ、えいっ」
足の裏をなぞられるような感覚にぞくっとする。
「ああっ、もう、暴れないでください。」
「こうなったら、僕もお返ししてやる。えいっ。」
こたつの中で激戦(?)が繰り広げられる。
数分後。我に返って落ち着いた僕に甘雨が話しかけてくる。
「誕生日プレゼントと、美味しい料理とっても嬉しかったです。感謝を伝えるために...少しだけ積極的になります...」
そう言うと彼女は立ち上がり僕とこたつの間に入り込んでくる。
「はふぅ...前も後ろも暖かい...です。」
僕の方に寄りかかってくる彼女を後ろから抱きしめる。
「甘雨、好きだよ。大好き」
「私もあなたのこと大好きです。」
下から見上げるように返事をしてくる彼女のことを強く抱きしめる。
「私、とっても幸せです。今までの長い人生で1番幸せです。」
「ありがとう、甘雨。僕のこと好きになってくれて。」
「私の方こそ、ありがとうございます。あなたと出会ってから毎日とても幸せです。」
ぐりぐりと体重をかけてくる彼女を受けとめ、甘くむず痒い沈黙を楽しむ。
「あの...これだけプレゼントを頂いておいてワガママ言うのも気が引けるんですけど、1つだけおねだりしてもいいですか?」
「誕生日じゃなくても聞くつもりでいるけど、いいよ、言ってみて」
こたつの温もりを惜しそうにしながら甘雨が向かい合って僕の上に座ってくる。いつもより積極的な甘雨にドキドキしながら、彼女を抱きしめる。
「えと...その...口付けを...して欲しいなと」
緊張したような顔で見上げてくる彼女に自分の顔が真っ赤になるのを感じる。
「わ、分かった...ちょっと待ってね....落ち着くから」
彼女の緊張がすっかり僕にも伝播してしまったらしく、高鳴る鼓動を落ち着けるために深呼吸をする。
「よし、だ、大丈夫だ。ちょっと恥ずかしいから、甘雨、目を瞑ってくれる?」
「ふふっ、緊張してるの可愛いです。分かりました。」
目を瞑った彼女が顔を上げ、お互いの距離が近づく。
「...んっ」
普段耳にすることの無い艶めかしい声にさらに顔が熱くなる。
お互いを抱きしめる力が強くなり、啄むようなキスを繰り返す。
唇が離れると名残惜しそうな彼女と目が合う。
「ふふっ...きもち、よかったです」
舌なめずりをしてそうな笑顔で僕に微笑んでくる。
「やっぱりキスって恥ずかしいな...」
さっきよりも少し離れた距離で会話を続ける。
「からかってきたお返し、です。」
「さっきもそう言ってたよな...」
「誕生日なので大目に見てくださいね」
幸せそうな顔で僕の胸元に頭をぐりぐりしてくる彼女を抱きしめながら、からかう頻度を減らさないと身が持たないな、と密かに思うのだった。
その夜。明日からマフラーをつけていきます!と嬉しそうにいいながら眠りについた彼女の頭を撫でながら、これから毎年、何年経っても幸せに過ごせることを祈りつつ、誕生日が過ぎていくのだった。
「甘雨さん、幸せそうだね。あんなに甘えてるところ初めて見たよ。」
「うわぁ...なんかこっちまで恥ずかしくなってきたぞ...」
「誕生日プレゼント、渡せなかったね...頑張って甘雨さんに知られないように秘境行ったのにね。」
「さすがのオイラもあそこに割り込む勇気はなかったぞ..」
「また今度渡そっか、パイモン」
後日、甘雨と僕のこたつでの1幕を目撃してしまった旅人から取っておきの聖遺物を渡されたのはまた別の話。
いつもの3倍の文字数になってた。マフラーの色はみ空色という色をイメージ。