001
私、立花葵は一般人だ。当たり障りの無い女子高生で、こうやって言っておいて最終的に異能の力で世界を救ったりする人が何人も居るけど、私は最後まで一般人なのだ―勿論、あらゆるベクトルを意のままに操れたり、コート上のどこからでもシュートが入ったり―なんでも知ってなどはいない。
この話の中でも何らかの力に覚醒することは無い。
強いて言うなら、これから起こるのは、義務教育を終えたばかりの、まだ世界のことを何も知らない、ただの子供の一人芝居なのである。
002
「誕生日おめでとう!」
「あ、ありがとう…」
11月19日。それは私の誕生日だった。私も人の子だ、誕生日を祝われて、それも親友の礼奈に祝われて嫌な気持ちはしないし、寧ろとても嬉しいのだが、如何せんこのタイミングで言われても戸惑うばかりだった。
何故ならここは更衣室で、私は今着替えている最中だからだ。
「ねー、なんで誕生日祝ったのにリアクション薄いの!?もっと喜ぼうよ!」
「いや、今は着替えているから待ってほしいんだけど…」
「何分何秒!?地球が何回回るまで待てばいい!?」
「お前は小学生か!」
それに何日も掛けて着替えるつもりはない。
「だって着替え遅いからさー」
「着た経験が無いから難しいんだよ…」
そうだ、確かに私は着替えるのは遅い。だけど言わせてもらいたい。
メイド服を着た経験なんて無いよ!
「いやーだけど、水筒を取りに来たら葵が居たからねえ。誕生日を祝うの忘れてたしねえ。」
だからってもう少しタイミングはあるだろう。
「そういえば、何でメイド服着てるの?」
「あー…撮影なんだよね…」
「何の?映研!?映研だよね!でも何でメイドなの!?いや似合うけど!あ、ちょっと待って当てるから!あれでしょ!新入生歓迎会の為のPVでしょ!絶対そうだ!」
取り合えず着替えさせてほしい。
003
章を跨いだけれど、特に改めて説明するようなことは無い。礼奈の言った通り、映画研究部による新入生歓迎会用のPV撮影の為の衣装だ。そして私はこれから撮影があるから着替えていただけの話だ。
「よい…しょっと。どうかな?合ってる?」
「おっけーだよ。それにしても似合うねえ…可愛いよう…」
「何が悲しくて誕生日にメイド服を着なくちゃいけないんだろうね…」
まあ撮影が押しているからなのだが。
「いいじゃん似合ってるよ!これを見たら真咲君も惚れ直しちゃうよ!」
「素直に喜べないなあ…真咲君には私が惚れてるだけだしね」
真咲君は私がずっと好きだった人だ。中学校まではずっと同じところに通っていたのだが、高校は別々の所に行っていた。
「それはいいけど礼奈、部活戻らなくていいの?」
「おっとそうだった、失敬失敬!これにてあっしは失礼するでござる!さらばじゃ!」
「はいはいさらばー」
「待って!?ちゃんと突っ込んで!?」
なんて言いながらも、そのまま更衣室から出ていこうとする礼奈。こうゆう一つ一つのネタを割りきっている辺りは好きだ。
「んじゃねー。あ、誕生日おめでとうー」
「はいありがとー」
…テンション高かったなあ…着替えるだけで疲れちゃったよ…
「って、私も戻らなくちゃ」
撮影は押しているのだった。そろそろ行かないと―
―そう、思っていた。
振り返って向いたドアの前に、小学生ほどの大きさの鳥が居たことに気が付くまでは。