ジェノス、追懐ボスラッシュ   作:へるしぃーぼでぃ

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『追って壊す』。


災害レベル:鬼×3

ヴヴヴヴヴヴ、と耳をつんざく不快な音。

無人の街の空に君臨するのは、害虫の女王。

 

「その子たちは必要なくなったのよ。バカねぇ」

 

()が集めた血、周囲五十キロ圏内から集めた生き血を一身に集積した彼女の姿。虫の妖しさと女性の艶めかしさを備えた、自らの想定しうる究極体である。

 

「……標的を視認。推定災害レベル鬼。仮名、モスキート娘」

 

早々にポテンシャル全開となった敵──モスキート娘に対して、一人の男が立ち塞がっていた。

金髪の偉丈夫、ジェノスだ。

 

「排除を開始する」

 

カッ!と放射される熱線。

邂逅。からの速攻に対し、モスキート娘の翅がヴン、と消えた。

 

「こんなに強くなったんですもの!」

 

熱線を回避、強化された爪がジェノスを切り裂いた。

──が。

 

「あら?」

 

ガクン、と地に這いつくばったのはモスキート娘。彼女の片足と片翅が、鋭利な断面を残してジェノスの足下に落ちていた。

 

「過去のデータから、今の俺はあらゆる武器を装備している」

 

肘から展開された仕込み刀、それを収めながらジェノスは淡々と語る。

 

「加えて強度・馬力もこの頃とは比にならないほどアップしている。もはや貴様程度に苦戦することはないようだ」

 

「……ッ!」

 

「焼却」

 

機動力の半減したモスキート娘に容赦ないトドメを見舞うサイボーグ。

カッ!と閃光の走った先、そこにモスキート娘の姿はなかった。文字通り『焼却』である。

 

「さて、次は……」

 

「あらぁ?また新しい兵隊さんが来たのかしら?」

 

佇むジェノス、その背後から巨大な拳が振り下ろされた。ゴバン!とコンクリートが砕け、水道管が破裂したのか盛大な水しぶきが上がる。

 

「次点標的を確認。推定災害レベル鬼。仮名、深海王」

 

「あらぁ?速いのねアナタ」

 

深海王の背後、彼の拳を超スピードで避けたジェノスがクラウチングスタートの体勢を取っていた。

 

「排除する」

 

「ッ!?」

 

気づいた時には、王の顔に鉄の拳がめり込んでいた。続けてカッ!と閃光が瞬き、深海王は熱波に吹き飛ばされる。

砲の衝撃波が地を揺らした。

 

「手応えはあった。……だが油断は禁物だ、対象が無力化出来たかどうか、この目で確かめなければ」

 

慢心はない。ジェノスは自らが吹き飛ばした深海王を追う。

そして辿り着いたのは──

 

「ここは……」

 

「うわぁ!?怪人だぁ!」

「シェルターが壊れた……もうおしまいだぁ……」

「ヒっヒーローは何をやっているんだ!?」

 

そこは、巨大なシェルター内。避難民が大勢いる場所で、全身から煙を上げる深海王が起き上がるところだった。

 

「効いたわ……ッだいぶね!」

 

ビキビキと肉体が変形する深海王。水を浴びて真の姿となった彼は、周囲に怒気を振りまいていた。

 

「加速」

 

「グチャグチャにしてあげる!」

 

ジェット噴射で飛来、蹴り抜く。

振り抜かれる豪腕、顔面を穿つ。

両者互いに一撃を喰らい、膝をつく。

その一瞬の隙。突如始まった怪物同士の戦いに人々は恐怖し、畏怖し、そして感謝しながら逃げ惑う。

 

「周りが鬱陶しいわねぇ」

 

「避難民救助モデルか……、いいだろう」

 

──ヒーローとは。

敵を倒す者ではない。それは結果であって、本質はその過程にこそある。

 

「死になさい」

 

深海の圧力で練り上げられた拳。その王から繰り出される破壊の奔流がヒーローを襲う。

 

「排除する」

 

それに真っ向から殴り合うジェノス。

高圧と鉄の拳が幾重にも衝突──したのも一瞬。深海王の両腕が肘からひしゃげた。

 

「?、あらぁ?」

 

「さすがはクセーノ博士。俺の要望通り、いやそれ以上のパワーです」

 

現在のジェノス──サイボーグ体はパワーに極振りした形態である。災害レベル鬼の猛攻すら粉砕する威力に、ジェノスは博士に感謝した。

 

「うおおお!すげえええ!」

「何してんだ!早くトドメをさせぇ!」

「頑張れー!」

 

それを見ていた観衆がめいめいに叫ぶ。驚く者、焦る者、そして声援を贈る者。

 

「うるさい」

 

それは、業を煮やした深海王の八つ当たり。

騒ぐ民衆へ、鉄すら溶かす溶解液が吐き出された。

 

「やはりこのシーンの再現か」

 

溶解液が射出された瞬間、刹那のスピードで回り込んだジェノスは思う。

以前は身を呈して庇い、そのまま戦闘不能に陥った。逆に言えば、これさえ凌げば勝てた可能性が高い。

──彼は日々進化する。

 

「流水岩砕拳、起動」

 

シュパァ!と腕の円運動により霧散する溶解液。表面が一部爛れたが、機能性にはまったく問題ないレベルで危機を退けた。

 

「な……なによソレは……ッ」

 

「バングから液体を払う体術を見せてもらった。その動きをプログラムし、起動しただけだ」

 

流水岩砕拳──S級ヒーロー三位、バングの超体術。

ジェノスの格闘センスでは修得に至らなかったが、幸いにしてその肉体はサイボーグである。ならばバングの動きをトレースし、必要な際に起動できるようプログラムしたのだ。

本家には遠く及ばぬ機械仕掛けの動きだが、飛散する液体を散らす程度ならばそれで十分だった。

 

「ぐっ!?この……ッ!体内ウツボ!」

 

肉弾戦では勝てず、溶解液でも溶かせぬ相手。追い込まれた深海王は苦肉の策の体内ウツボを吐き出すが──

 

「マシンガンブロー」

 

ボッ!と百発の拳が一打で繰り出される。ウツボは一撃で粉砕され、拳の壁が深海王を穿ち貫く。

ドォ!と倒れた深海王に、ジェノスは無慈悲の追撃のために飛び上がった。

 

「ロケットスタンプ」

 

自由落下とロケット噴射による圧殺。この一撃で深海王の頭は潰れ、怪人は二度と動き出すことはなかった。

 

「S級ヒーローか……。君もゴキブリは嫌いかね?」

 

背後、それも直近からの問い掛け。ジェノスは振り向きざまに拳を振るうも、それは空を切った。

 

「ハハハ!そう毛嫌いするな!」

 

「推定災害レベル鬼。仮名、覚醒ゴキブリ」

 

おちょくるような表情をした男性型の怪人、覚醒ゴキブリ。彼の登場にジェノスは再三、常套句を吐いた。

 

「お前を排除する」

 

「フッ、果たして排除出来るかな?私は……」

 

ヴォン、と黒い影が消えた。

 

「強いぞ!」

 

ガガガ!と甲皮による連打がジェノスを襲う。反撃で殴り返すが容易に避けられ、さらに三打返される。

威力も高い。鉄の拳と同等の破壊力を持つ覚醒ゴキブリの連打は、鋼鉄の肉体内部に鈍いダメージを与えていた。

 

「恐るるに足らず!鬼サイボーグ!」

 

「ちっ!」

 

カサカサ動くと言えば弱そうに聞こえるが、対峙するとこうも厄介な敵はいない。

ただ速いだけではない。先読みに長けたゴキブリのスピードは、実に三億年の実績に裏付けされた真の素早さである。

 

「それでも所詮はレベル鬼……。お前程度に手こずっている暇は……ない!」

 

──加速。

全身から噴射装置を迸らせ、ジェノスは亜音速の領域に踏み込む。真っ向からねじ伏せる勢いだ。

 

「私とスピード勝負か!よかろう、遊んでやる!」

 

ズガガガ!と目に見えぬ攻防、金と黒が縦横無尽に空間を駆け巡る。

だが、回避能力に絶対の自信を持つ覚醒ゴキブリである。

事実、スピードは勝りながらも傷が増えていくのはジェノスのみ。黒い害虫は変わらず無傷であり、彼は勝利を確信した。

 

「さらばだ!鬼サイボーぐおっ!?」

 

突然、害虫の動きが空中で止まった。

状況を把握出来ない覚醒ゴキブリ。その下で全身から排煙を噴き上げるジェノスが、罠にかかった獲物を前に悠然と独りごちた。

 

「あの時は先生の試合を観に行くために焦っていたとはいえ、足下に接着剤を垂れ流すという仕掛けは雑すぎた。しかも最終的には逃げられ、戦略的にも完全な欠陥だ。だから改良した」

 

覚醒ゴキブリが目を見開けば、体にまとわりつく無数の紐が見えた。

 

「特殊繊維で編んだ紐に、粘着性を持たせた特注品だ。それを高速移動中に仕掛けた」

 

先の超スピードの戦闘はこの為の布石だ。わざと敵の土俵で戦い、油断を誘って害虫を罠に嵌めたのだ。

 

「っま、待て!」

 

「焼却」

 

命乞いを無視、情け容赦ない閃光が害虫を駆除する。

 

そこでようやく静寂が訪れた。

 

災害レベル鬼相当の怪人を立て続けに三体、しかも軽度のダメージでの完勝だ。

この結果を称えるように、虚空から老人の声が響いた。

 

『まさに鬼のような戦いぶりじゃったの、ジェノス』

 

「クセーノ博士。見ていらしたんですか」

 

虚空の声──クセーノ博士の姿がジェノスの前に現れる。その姿は半透明で、どうやら実体ではなかった。

 

『ワシが修理・改造している間に、毎回新装備のシュミレーションしているのは知っていたよ。……それで、今回の装備はどうだね?』

 

「はい、とても良好です。俺の要望通り、パワーの底上げも想像以上です。これならこの先の戦いで戦力外になることはないでしょう」

 

『……そうか』

 

一方的に師として仰ぐサイタマからのアドバイス『パワー』を愚直に求めたジェノス。その要望に応えたクセーノ博士であるが、生き急ぐ若者の姿に老輩は一抹の不安を抱いた。

だがヒーローは止まらない。

 

「過去、敗北に喫した災害レベル鬼は容易に倒せました。しかし、俺が試したいのはこの先です」

 

今までの装備では災害レベル竜──ムカデ長老を倒すことは叶わなかった。

そこでサイタマに助言を仰ぎそれを実現したのが、この攻撃力特化型バージョン。

それを試すための脳内仮装実験中である。

 

「自分の圧倒的な力不足を感じた[[rb:コレ> ・・]]を、まずは超える」

 

場面は変わり、見上げた天。遥か天空から飛来するは、全てを破壊する巨大な岩。

 

『緊急避難警報!災害レベル竜!やばいので逃げて下さい』

 

物々しいサイレンを聞く余裕すらない、圧倒的な死の気配。

ヒーロー着任から初の、災害レベル竜との対峙。

──巨大隕石である。

 

 

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