ゴゴゴゴ……と天と地が揺れ動いていた。
逢魔が時に現れた、数多の生物に終焉を告げる異様な存在──災害レベル竜、巨大隕石の襲来。
その落下地点と思わしき高層ビル屋上に辿り着いたジェノスは、件の巨大な絶望を独り見上げた。
「落下まで残り五分。ボファイ……メタルナイトのミサイル着弾を見届けた後の時間設定だ」
新装備の威力テストであるので、その爆撃すらもカットした隕石は完全な無傷である。どちらにせよさほどの違いはないが、単独でレベル竜を退けたいジェノスはそこに拘った。
「いくぞ」
キイィ!と両腕にエネルギーを装填。猛攻が開始された。
「螺旋焼却弾!」
ドドドド!と無数の砲弾が天に昇る。一発一発は隕石の威力に遠く及ばないが、射出口の工夫により強烈な回転が掛かっていた。
爆発での破壊は不可能だと、過去のデータで分かっている。
ならば削る。
隕石といえどその実態はただの岩だ。エネルギー砲が当たれば端は削れる。そこに回転力を併せれば、飛躍的に巨岩を破壊できた。
「……ッッぐ!」
だが、相手の質量は圧倒的。故に時間が足らなかった。
個人の砲で削りきるにはあまりに時間的余裕がない。完全破壊までに凡そ一時間は必要だと算出された。
(やはり通常形態ではレベル竜に対して攻撃力が足らない!……使うしか、ない!)
砲弾を止めたジェノスは覚悟を決める。
その全身、体の節々に埋められた動力源からカッ!とエネルギー光が迸った。
──よいな、ジェノス。使えるフルパワーは十秒まで……
クセーノ博士の忠告が脳裏によぎる。
バチバチと燐光を纏ったサイボーグ。溢れ出るエネルギーに高層ビルが耐えきれず、ボロボロと倒壊していく。
(この場にはサイタマ先生も、バングすら居ない。この状況を切り抜けるには、隕石の完全破壊しかない)
前回は己の全てを捧げても破壊できず、あまつさえ行動不能に陥りバングに助けられた。
結果だけ見ればただのお荷物、まさに戦力外だ。
そんな自分に克つために、再びここに来た。
「隕石を、排除する」
飛び上がるジェノス。全身から蒼白いエネルギーを放出しながらの飛翔は、さながら龍が顕現したが如く幻想的な姿であった。
斜陽に照らされ、隕石と龍の巨影が街を覆う。
一瞬の溜め、ジェノスが仕掛けた。
「穿天雷光砲!」
ヴオッ!と天を穿つ雷光が射出された。
龍の
勢いのままに中核を貫き、見事に質量の塊は空中分解した。
「まだだ!」
隕石の破壊には成功。
しかし鬼サイボーグ──ヒーローの仕事は終わっていない。
ジェノスは龍の口をさらに広げ、広範囲に雷光を展開した。
飛散する隕石の破片の掃討だ。
「うぉぉおおああっ!」
一片たりとも逃さぬと龍が吼える。
頑強な岩群がレーザー光で蒸発、その痕跡を跡形もなく消していく。
そして数秒後。災害の痕跡は、霧散した雲だけとなった。
訪れた静けさの中、ドカァアン!とジェノスが派手に着地した。
「ッはぁ!ッはぁ!」
ブシュウゥゥ!と金属の体から盛大に水蒸気が上がる。
限界域ギリギリ、熱暴走一歩手前の体。ジャスト十秒で隕石を屠ったサイボーグは、熱と冷却装置の狭間で身悶えていた。
(なんとか破壊できたが、活動限界の十秒すべてを使ってしまった……!これではレベル竜クラスとの連戦が予想される次の戦いでも、満足な戦力としては……)
ジェノスは項垂れているが、隕石を破壊できる者などS級ヒーローでもほんのひと握りだ(生き残るだけならば全員が可能だろうが)。
こと攻撃力・殲滅力に関してならば、ジェノスはすでにS級トップクラスである。
幸か不幸かサイタマという次元の違う存在が、ジェノスに強さへの無限の渇きを与えているだけで……──
『ジェノスや。ここらでひとつ茶でも飲まんかね』
そんな強さに飢えた若者へ、好々爺のお節介が水を差した。
ジェノスを孫のように想っているクセーノだが、当の孫は老人の胸中など知らず生き急ぐ。
「いえ、まだ実験は終わってません。次のレベル竜との戦闘に移ります」
『それでも構わんが、負けるのは確実じゃろうな。結果の分かりきった実験をして、一体何になるんじゃ?』
「……連戦が予想されますので、疲弊した状態でどこまで食い下がれるかを……」
その言葉に博士はため息をついた。
『ワシにとっては、おヌシが無事に帰ってきてくれることがなにより嬉しいんじゃがのぉ』
「……」
『そもそもこの仮装実験の目的は性能テストなんじゃ。万全の状態で災害レベル竜との戦闘データはまだ一回しか取れておらんし、しかも相手は無生物。……今度は生命体との戦闘データが欲しいところじゃの』
ニッコリと微笑めば、若者は表情こそ動かさないものの、体から力を抜いた。
「……分かりました。休憩を挟んで、万全の状態で次の戦闘に臨みます」
博士は満足気に頷くと、ジェノスの意識は現実へと浮上した。
◆◇◆◇
「やはりフルパワーを発揮する前に、どれどけ相手を削れるかがポイントですね」
仮想空間から戻ってきたジェノスは、全パーツパージ状態で細い体を晒しながらこう結論づけた。
その言葉にクセーノ博士も同意する。
「そうじゃの。フルパワーの維持は十秒が限界じゃし、溜めの隙もデカい。これは本当に最後の手段じゃと心掛けてくれ」
できればフルパワーを使う機会がないこと願う技術者。しかし先程の隕石相当の敵が跋扈していると聞けば、この若者は躊躇なく限界を超えて戦うだろうと想像できた。
「そうなると更なる工夫が……しかし奴らに小細工が通じるのか……」
ブツブツと思考に耽る若者に、老人は想いを呑み込んでその課題を手助けした。
「パワーを上げるとは言うが、それは砲の威力とサイボーグ本体の馬力、どちらが優先じゃ?」
「そうですね……、砲の威力でしょうか。近接攻撃に関してはすでにサイタマ先生が居るので、俺にしかできない攻撃方法である遠距離攻撃を強化した方が伸びしろがあると思います」
「そうか。ならばこんなモノはどうかね?」
「素晴らしいアイデアです。ではより詳細な設計図を作成後、スキャンして仮想空間で試してみましょう。あと俺からも一つ、こんな兵器を搭載できればと……」
「ふむ。戦えぬワシでは思いつかない、斬新な発想じゃ。試せるものは全て試してみよう」
血の繋がらぬ彼らだが、その想いは常に共にある。
倒すべき敵、超えるべき相手、憎き仇。
それらの強大な壁は、彼らに更なる知恵と力を実らせていった。
そして一時間後。
ジェノスは再びの仮想空間へと降り立っていた。
『それではジェノス、準備はいいかの?』
「はい。いつでも始めてください」
仮想空間とはいえ、やはりジェノスが戦う姿は心苦しく思うクセーノ。しかしここで詳細なデータを取らなければ、取り返しのつかぬ現実での戦いに活かせない。
凛とする若武者に、震える老骨は意を決して開始ボタンをした。
瞬間、ズゴゴゴ……と地鳴りが響く。
(細かな改良は施したが、基本スペックは変わらない。あとは俺の判断力・応用力が肝だ)
舞台は森林の中。鳥たちが一斉に飛び立ち、周囲から命の気配が遠ざかっていく。
その中で足下、地面の中に超巨大な生体反応があった。
大地が隆起する。
ボゴオ!と漆黒で巨大な柱が空へ昇っていき、それに連鎖するように周囲一帯がボコボコと揺れ動く。
立つ地面が掘り返され、ジェノスは漆黒の柱に追随するように飛び上がった。
ギュイン!と六つと一対の光る目が、飛来するジェノスを捉えた。
「今回の宿題を果たします、先生」
グアアアアアア!と蟲の咆哮がヒーローの呟きを塗り潰した。
討伐対象、災害レベル:竜【大怪蟲ムカデ長老】