──ジェノス、無茶だけはするでないぞ……
──ジェノス君、一人でやるというのか?それは賛成できん……
──勝ち目がないと分かっててそんなに無茶するもんじゃない。若モンには未来がある……
「ぉぉおおおっ!」
「クアアアア!」
レーザー光の輝きを害虫の甲殻が反射する。
サイボーグVS節足動物。場は早々に乱戦となり、森林公園は荒れに荒れていた。
(無理、無茶、無謀……。そんなことは俺にも分かっている)
老境たちからの警告に若者は憤っていた。
心配される自分に。
何も守れない自分に。
負ける自分に。
砲撃を撒布的に浴びせながら、彼は激しく怒っていた。
(俺は弱い。俺にはバングのような技もなく、メタルナイトにも科学力・軍事力は劣るだろう。サイタマ先生に至っては近づける気が一切しない)
しかし螺旋焼却弾の効果は薄い。あの厚すぎる甲殻は、かの巨大隕石の岩盤よりも堅いようだ。
逆にムカデ長老の顎肢、多脚、尾節などの一挙手一投足すべてが必殺の威力で迫り来る。
ジェノスは高速攻撃・回避を繰り返しながら、やはり顔面付近への攻撃しかないという結論に帰結した。
「目障りなハエだ……」
扁平な頭に意識を向けた瞬間、それを察知したムカデ長老が動いた。
「!?」
──百足大うねり
この世の終わりを思わせるような巨大な地響きが起こる。傷付けられた大地が悲鳴を上げているようだ。
全長キロ単位、幅クジラ並のこの質量が意思を持って暴れるのだ。ただの移動でいくつもの街が壊滅し、文明が滅んでいく。
これが『天災』大怪蟲ムカデ長老。これが災害レベル竜。
これが怪人協会幹部の、一体。
「だからこそお前を、排除する」
暴れる災害に、遥か天空からジェノスが超速度で落下してきた。うねりを開始した瞬間、彼は回避と次の攻撃に備えて飛翔していたのだ。
緻密極めるジェット口の調節、火柱燃え盛るジェット噴射にて、目標の頭部を捉えた。
「ジェットドライブアロー!」
「ぐぅ!?」
ズンン!と極大の一撃が、地響きの元凶を止めて新たな地響きを生んだ。
脳天を勢いよく踏みつけられた長老の顔が歪む。その顔面に、サイボーグの無慈悲な拳が襲いかかった。
「ハイボルテージフィスト!」
「ぐぅぉおおお!?」
バチチィ!と電撃を纏った強烈な打撃。グツグツと老人の顔が爛れるが、その目がクアア!と光った。
──百足大とぐろ
ムカデ長老がその場で廻転。
顔面を守るように渦を巻き、巻き込まれぬよう後退したジェノスはそれを見上げた。
「確かにコレは『天災』だな」
旋回し続ける大ムカデ。
ギャリギャリギャリと堅い甲殻のぶつかり合う音が鼓膜を破かんばかりに劈く。もしあの回転に巻き込まれれば、その先は想像にかたくない。
激しい摩擦により雷すら発生しており、その様相はさながら生きた台風であった。
他の竜クラスですら攻めあぐねる、ムカデ長老最大最強の大技である。
そんな災害が、少しずつジェノスに近づいてきた。この意思を持った天災は、明確な殺意を孕ませ目の前のヒーローを滅ぼそうとしていた。
「爆撃ですら破壊できない甲殻に、唯一の弱点である顔面も完全に隠している。そこに回転が加わり一切の手出しもできない……」
ジェノスは後退を続けながら、状況を冷静に判断。
そしてとぐろ状のムカデ長老に対し、彼はこう言った。
「ならばこそ、押し通す」
カッ!と蒼い光が瞬いた。
ムカデ長老が思わず視線を向ければ、そこには蒼い龍がこちらに口腔を開け放っていた。
ジェノス、全身全霊のフルパワーだ。
「焼却」
──穿天雷光砲
ヴオッ!とエネルギーの奔流が放たれた。
ムカデ長老は大とぐろに籠るが、その堅牢な甲殻が龍の息吹に剥がされていく。
「ぐぅぉぉおおお!?」
無敵の大とぐろは、しかしこの状況においては悪手であった。
殲滅の光は厚い甲殻すら溶かし、全身くまなくその光を浴びせる。暗闇と光の中で、ムカデ長老はその身を焦がしていった。
「流石のヤツも、この砲撃は効いたか……」
ブシュウゥゥ!とジェノスから勢いよく排煙が撒き散らされる。フルパワーの使用時間は三秒。余力はまだ十分に残していた。
辺り一帯に巨大生物の燃える悪臭が立ち込める中、ジェノスはいまだ緊張感を保っていた。
(圧倒的なパワーで屠る。その点に置いて、体内に潜らずにムカデ長老をダウンさせた威力は誇っていいだろう。だが……)
ミチミチ……グググ……、と奇妙な音と共に動き出す大怪蟲。燃える肉体を超再生する肉が埋め、焼け爛れた老人面の口から新たな人面が這い出てくる。
ニタアァ、と醜悪な笑みを浮かべ、ムカデ長老はさらにデカくなって復活した。
「よくもやってくれたな……」
太く鋭くなった尾節が横薙ぎに一閃された。
「ッ!!」
咄嗟に両腕でガードした鬼サイボーグだが、この質量差だ。ただの一撃で両腕がひしゃげ、そのまま吹き飛ばされる。
遠のくムカデ。しかしジェノスは冷静に思考していた。
(やはり倒せないか。コイツらのしぶとさは尋常ではない。一撃で倒すには、先生のように跡形もなくす威力が必要……)
そこまで考えてジェノスは、吹き飛ばされた勢いそのままにジェットを展開。さらに後方へ向かった。
要するに遁走した。
「ッ怖気付いたか……」
それに気付いたムカデ長老が追随する。
木々をなぎ倒し大地を削り、トドメを刺さんとその超巨体からは信じられぬスピードで獲物に迫る。
「くっ!?」
「逃げられると思ったか……」
飛行するヒーローの背に追いついた怪人。
確実なトドメを刺すために、さらに凶悪さの増した顎肢を大きく振りかぶった。
「それを待っていた」
ジェノスが反転。カッ!と再びの燐光。
顕現した蒼龍、そのエネルギー波が顎肢を一瞬塞き止めた。
「なに!?」
「喰らえ」
一秒にも満たぬ余白。
バシャッ!とジェノスの胴体が開放された。
──真螺旋焼却砲!
醜悪な顔面、そこにレーザー光の杭が突き刺さる。
螺旋するエネルギーは顔面を突き破り、蟲の体内を抉りながら直進する。内臓を掻き分けて貫通していく。存在を穿ち貫いていく。
「ぐぅぼぉっォっおぉっおオ!?」
顔を潰され、声にならぬ長老の断末魔が上がる。
螺旋の遠心力により肉と甲殻が強引に混ぜられ、辺りに黒緑色の体液が撒き散らされていく。再生しようにも端から削り取られていく。
ジェノスに追いつくため、体がほぼ一直線になっていた巨大生物。結果、その巨体は端から端まで砲の餌食となり、グチャグチャに蹂躙されていった。
ドパアァン!と最後まで残っていた尾節が爆発四散し、勝者を称えるように大地に降り注いだ。
「なんとか……勝ったか……」
後には体液まみれになったジェノス──の生首が転がっていた。彼も顎肢の一撃を避けきれず、断首されていたのだ。
傍らに落ちた肉体の方も、ムカデを滅ぼすまでフルパワーを放出し続けたせいで指先ひとつ動かせそうにない。
勝てたはいいが戦闘継続は困難。ほとんど相打ちのようなものであった。
生首のまま反省するジェノスの前に、ブオン、とクセーノ博士のホログラムが浮き上がった。
『本当にあんな怪物を倒せるとは……。ひとまずご苦労じゃったな、ジェノスよ』
戦闘終了を見計らっていた博士は、若者を労うようにこの戦果に称えた。
同時にジェノスの体にノイズが走ると五体満足になり、戦闘の傷が全て消える。
ジェノスは兎にも角にも、まずは老翁に礼を言った。
「勝てたのは螺旋焼却砲の改良が素晴らしかったお陰です。これほど強力な兵器を搭載していれば、俺でもこの先の戦いで活躍できるでしょう」
前回──現実の戦いで放った超螺旋焼却砲は、ムカデ長老の再生力に追いつけなかった。
しかし今回放った真螺旋焼却砲は、かつてのサイタマのマジ殴りの如く怪人を粉微塵にして見せたのだ。威力の違いは一目瞭然である。
『うむ。回転力と貫通力を極端に上昇させた、今のワシが提供できる最高の威力じゃ。役に立ちそうで何よりじゃの」
青年の言葉に、自分の兵器があの恐ろしい怪物に通じると聞いて少し誇らしい博士であった。
ジェノスもこの新兵器には少なからず興奮を覚えており、それだけに最後の攻撃を避けられなかったことを悔いていた。
(博士には最高の装備を提供してもらった。あとは俺自身のセンス、技量、……そして覚悟に懸かっている)
シュミレーションとはいえ、災害レベル竜を立て続けに二体撃破した形だ。S級ヒーローの功績としても最上級の戦果だが、しかし課題はまだ残っている。
「博士、次の相手を出してください。このまま戦います」
『本当に大丈夫か?少し休憩を挟んでからでも……』
「いえ、精神面だけでも連戦の雰囲気に慣らしておきたいのです。お願いします」
ただでさえシュミレーション──仮装実験なのだ。被験者がやる気に満ち満ちていればこそ、実験の質も上がる。
精力的な若者の勢いに押されれば、もはや老人に止めることはできなかった。
「無理はするなよ、ジェノス」と一言残し、博士のホログラムが消え代わりに巨影が現れた。
「あ?なんだァおめェ」
ジェノスを覆い隠す背丈。筋肉で膨れ上がった横幅。
凛々しくも禍々しい頭角が妖しく光り、キツい双眸がギロリとヒーローを睨んだ。
ジェノスが何かと苦戦を強いられる、既知の昆虫系怪人の最上位個体。
「推定災害レベル竜、阿修羅カブト。……怪人協会の幹部ではないが、お前を排除する」
かつて完膚なきまでに叩きのめされた相手、阿修羅カブトへのリベンジに臨む。