ジェノス、追懐ボスラッシュ   作:へるしぃーぼでぃ

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最終回です。お読み下さりありがとうございました。


災害レベル:竜【阿修羅カブト】そして……

かつての進化の家、その地下。白く巨大な実験場の中で、彼らは対峙していた。

 

「俺を……排除するだァ?」

 

発言を反芻し眉根を寄せる怪人、阿修羅カブト。彼は無遠慮な視線で敵のつま先から頭のてっぺんまで見渡すと、ブハッ!と吹き出した。

 

「ブハハハ!出来るワケねぇだろテメェみてぇなザコに……っよ!」

 

唐突な接近、からの裏拳。

無造作な一撃がジェノスを吹き飛ばす──……はずだった。

 

「んあ?」

 

「雑魚はお前だ」

 

裏拳が捉えたのは、残像。

ジェノスは敵の背後に回っており、その手にエネルギーを集約させた。

 

「焼却」

 

カッ!と熱線が虫を焼く。

エネルギーの奔流をまともに受けた怪人は、しかしノーダメージでそこに佇んでいた。

 

「スピードはまぁまぁだが、肝心の攻撃力がイマイチだな」

 

「マシンガンブロー」

 

余裕の阿修羅カブトに拳撃が叩き込まれる。が──

 

「っお?さっきよりかはマシだなっと」

 

ノーガード、真正面からジェノスの攻撃を受けて多少仰け反る程度の阿修羅カブト。余裕の表情はなお崩れず、真上から無造作に拳を振り下ろして連打ごとジェノスを叩き潰した。

ゴン!と地面にヒビが入る。

 

「ぐっ!」

(装備を刷新したとはいえ、この怪人との実力差はいまだ健在かっ)

 

「へっ……ま、そこそこ楽しめたぜェ」

 

トドメとばかりに今度は足が振り下ろされる。ズシン!と地面に亀裂が入った瞬間、蒼の輝きが怪人の目を灼いた。

 

「マグナムスマッシュ!」

 

阿修羅カブトが認識できたのはそこまで。

ドガァッ!と気づいた時には、彼ははるか後方の壁にメリ込んでいた。

 

「っがは!〜〜゛っな、何が!?」

 

「殴る瞬間のみフルパワーを解放した。これならば長期的に戦える」

 

排煙に包まれた鬼サイボーグが、その双眸を光らせ答える。

十秒しか使えぬフルパワーならば、それを局所的・瞬間的に使用する。彼がたどり着いたひとつの答えだ。

ボゴォ、と壁から這い出てきた怪人は、全身の血管を浮き上がらせてジェノスを睨んだ。

その目に浮かぶのは、明確な殺意。

 

「へっ、強ぇな〜オメェ……ッブッ殺すぜ!」

 

ヴン!と巨体が掻き消える。

その巨体からは想像もできぬ、静かさ極まるスピード。だがジェノスはそれに反応した。

ガッ!と双方の拳──怪人は地面を、ヒーローは敵の腹部を穿っていた。

 

「オラオラオラオラ!」

 

「加速」

 

しかし阿修羅カブトは止まらない。

蒼い光を纏った状態でなければ恐るるに足らずと開き直り、彼は猛攻に徹する。

対してジェノスも止まらない。

スピードは僅かの差でこちらが上。確実なダメージを与える機会を狙い、敵の猛攻を縦横無尽に避ける。躱す。掻い潜る。

そしてその瞬間は訪れた。

 

「ぬっ!?」

 

ビタッ、と阿修羅カブトの動きが止まった。その目が捉えたのは、覚醒ゴキブリ戦で使用された粘性の特注紐。

燐光が怪人を照らした。

 

──マグナムスマッシュ

 

ズドンッ!と龍を宿した拳が、腹部を再度穿った。

衝撃波が後方に突き抜ける。敵は白目を剥き、ワナワナと開け放たれた口からは声にならぬ声が絞り出された。

 

「……阿修羅モード」

 

ゴッ!と風音。

ジェノスが知覚できたのはそれだけ。気付けば自分は壁にメリ込んでおり、遅れて視界内がアラート表示で埋め尽くされていく。

ガララ……と瓦礫と共に転がり落ちるジェノス。

千切った特注紐を踏みつける阿修羅カブト。

一撃。

ただの一撃で形勢は逆転した。

 

「ふしゅるるるぅ……こうなった俺はもうッ止められねぇぜェエエエエ!」

 

焦点の合わぬ目で叫び散らす怪人。

茶色だったカブトの甲殻、それがメタリックな紫に変色。角などさらに禍々しくなり、全身の筋肉が異様なほどに膨れ上がっていく。

 

──阿修羅モード

 

この怪人の究極戦闘形態。

このモードになると自身でも制御が利かず、一週間は破壊と殺戮を繰り返すまさに阿修羅の化身となる。

 

「ウォオオオオ!!」

 

新人類を目指して造られたとは到底思えない、畜生極まる咆哮。ビリビリと万物が震え上がる。

ただでさえ格上の怪人。そんな阿修羅カブトの阿修羅モード──本気を前に、ジェノスは漏電する体で静かに構えた。

 

「ようやく、お前をここまで追い詰めることができた」

 

改良する度にこの思考実験をしてきた。

それでもこの阿修羅モードにまで辿り着くことは叶わず、己の弱さに歯噛みし続けてきた。

 

「加速ッ!」

 

「死死死死死死死ィ!!」

 

──だが今!

真なる災害レベル竜が襲い来る中、若者の胸中は高揚感に満ちていた!

この強敵から本気を引き出せたことに。

確かに強くなっていく自分に。

……憧れのヒーローの背に、ほんの少しでも近付けたことに。

死を連想させるパンチの嵐を掻い潜り、彼は猛った。

 

「デュアルブレードラッシュ!」

 

(ジャ)ァアアアア!!」

 

無数の剣閃が紫角の一撃で砕ける。

超振動刃の破片がキラキラと舞い、傷ひとつ付かぬ角が妖しく輝く。もう、小手先は通用しない。

カッ!とサイボーグが燐光で煌めく。

 

「マシンガンドラゴンブロー!」

 

()ァアアアアアアアアア!!」

 

フルパワーの激突。

蒼龍の連打、それを紫虫のタックルが龍ごと吹き飛ばす。

ドカアァン!と壁に埋まる鬼。そこに阿修羅の怒涛の追撃が降り注ぐ。

 

怒羅羅羅羅(ドララララ)ァアッ!……ッ!?」

 

荒ぶる連打、しかしサイボーグの姿はそこに無かった。

カブトの背後から蒼の矢が飛来する。

 

「ドラゴニックアロー!」

 

エネルギーの塊と化したジェノスが標的に直撃。

凄まじい衝突音。フルパワーのジェット噴射は怪人と共に実験場の壁をブチ抜き、なお出力を上昇させる。

 

「ウォォオオオオオオ!!」

 

()ィィイイイイイイ!!」

 

ボゴォオン!と眩い太陽光がヒーローと怪人を射す。

眼下は大森林。崩壊した進化の家の跡地があるだけで、周りに生物の気配は皆無。

ジェット機構と飛翔器官が展開される。

 

()ャアアアアア!」

 

「ォォオアアアア!」

 

ドドドド!と遥か天空、唯一の生物同士が殺し合う。

速すぎて彼らの姿は視認できない。伝わる衝撃波のみが、二名の生存を確認できる唯一の事象だった。

 

「……っジェノス!」

 

現実世界、この戦いをモニターするクセーノ博士は戦慄していた。

フルパワーの使用は十秒までと諌めた。しかしこの戦い方は、もう……

 

「これが、この先の戦い……」

 

愕然とする老境の想いとは裏腹に、若武者は止まらない。

頂の見えない高みを目指し、画面の中の蒼龍はどこまでも飛翔していく。

 

──最大出力00′07”69秒経過

 

思考加速最大倍率の視界内、活動限界までのカウントダウンを横目にジェノスは思考する。

 

(俺の知る怪人で、やはりコイツが最上級のパワーだ!茫然していたとはいえ、あのサイタマ先生さえ吹き飛ばすこの腕力……)

 

裂断しかける手足。ブレる視界。熱暴走寸前の体。

満身創痍。この状況で想うのは、敵の打倒ただひとつのみ。

 

(今日、俺はコレを超える!)

 

取れる小細工はすべて弄した。残り数秒、この身が果てる前に標的を排除する。

 

雄羅(オラ)ァァアアア!!」

 

勝利へ気合いを入れ直すジェノス、その刹那の思考を修羅は見逃さなかった。

両手を頭上で組み振り下ろす──ダブルスレッジハンマーがヒーローを襲う。

ドカアァン!と爆発の如き打撃音、激しく散る燐光。

サイボーグは遥か地面に叩き落とされ、クレーターを作り出しスクラップと化した。

 

「隙ありだ。消えろ」

 

()ッ!?」

 

理性なき怪人。確かな手応えから確実に葬ったと感じたが故に、反応が遅れた。

阿修羅カブトの上腕、そこに一本の粘着紐で張り付くジェノス──上半身のみの姿が。

攻撃の直前に下半身を自切。加えて燐光を激しく散らし目を眩ませ、難を逃れていたのだ。

バチバチッキュィイイ……と装填される砲。

 

穿天──

 

飢我(ウガ)ァアアアアア!!」

 

──螺旋雷光砲!!

 

暴れる怪人、その直前に胴体と両腕から殲滅の光が放たれる。

ゼロ距離、そして広範囲にすべてを貫くエネルギーが敵を蹂躙していく。

堅い甲殻、膨れる筋肉では到底抗えない破壊の奔流。

僅か一秒の放射だが、虫の痕跡は跡形もなく消えていった。

 

「なんとか……勝ったか……」

 

力尽き自由落下するジェノス。

しかしその途中で意識が暗転し、彼は現実世界で目を覚ました。

ハッと周りを見渡すジェノス。傍らには、苦悶の表情を浮かべたクセーノが佇んでいた。

 

「ジェノス……、ワシは悔しいぞ。お前に苦戦を強いらせてしまうワシの不甲斐なさがッ」

 

「博士……」

 

災害レベル竜との戦いを三度、試した。しかし勝利こそ掴めど、無事だった結果が一例もない。

科学者として親として、己の無力さをただただ悔やむ博士だった。

 

「それと同時に……恐かった。自分の死をも厭わぬおヌシの戦い方が。格上の敵を前にして退かぬ姿、それはヒーローとしては鑑じゃろう。だが、ワシは……」

 

乾ききった老人の心、そこに刺すような痛みがその瞳孔を潤わせた。

そんな老人の訴えに、若者は自分の拳を見下ろしながら呟いた。

 

「確かに俺は、自分の命を代価に敵を討てればこの命を差し出すでしょう。しかし最初から命を棄てているワケではありません。あくまで最終手段、取れる手がない時であって……」

 

「もうよい。お前の考えは分かっとるつもりじゃ。それでも、な……」

 

生きて帰ってきてほしい。ただそれだけの願いが、なんと困難なことか。

敵はあまりにも強大。クセーノの儚い願いなど、一笑に付すかなように壁は高い。

 

「それに博士、思考実験はまだ終わっていません。最後にもう一体、怪人協会を相手するに当たって本命の怪人がいます」

 

「なんじゃと?先の阿修羅カブトとやらが、出会った敵の中で最強なのではなかったのか?」

 

驚愕する博士だが、ジェノス自身困窮しているのだ。

底の浅い自分では、敵のレベルを尊敬するサイタマと同等かそれ以上と見誤ってしまったのだ。

サイタマの強さを正しく認識出来ないのは仕方ないとしても、敵はたかだかレベル竜に収まる脅威。敵わぬ敵として認識してしまった自分に、心底腹が立っていた。

かつて敗北に喫した鬼・竜を倒した今、怪人協会の幹部の強さを改めて実感せねばならなかった。

 

「怪人の名はゴウケツ。負傷していたとはいえ、俺を一撃で再起不能にしたヤツです。怪人時のデータは少ないですが、人間だった時の武術資料を参考に仮想ゴウケツをプログラムしてみました。では戦ってきます」

 

「ッも、もう少し休憩……行ってしまったか。焦る気持ちは分かるが、余裕を持つのもいつか覚えてくれんかの……」

 

モニター越しに若者の奮闘を見守る老人に、ジェノスは強大な敵と戦いを何度も繰り広げていった。

 

 

 

──戦力外。

S級ヒーローと持て囃されようと、その言葉を痛感するシーンに枚挙に遑がないジェノス。

理想とするサイタマには近づけず、そもそもの次元が違う。

改良を施せど、次から次へと現れる怪人に叩き潰される日々。

それでも立ち止まらない。立ち止まれない。

このサイボーグ体に誓った復讐を遂げるまでは……

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