積層世界と殲滅聖女の狂詩曲   作:ターンアウトエンド

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続いた


第一話 美少女ジャンヌ・エルトワの可能性

暑い。

 

 

「ジャンちゃん、大丈夫?」

 

 

唸るようなため息を吐きながら、私は歩いていた。

地獄の釜程じゃなかろうが、おたま位は有りそうな暑さである。

 

「ほら、こうしたら涼しい?」

 

「ありがたい」

 

隣を歩く母が、魔法でそよ風を送ってくれる。

助かる。出来ればひんやり冷やした風を所望したいが、割りと高等技術らしく前に却下されたので高望みはしないでおこう。

 

さて。

 

なぜいたいけな()()()である私が、熱線降り注ぐ夏の歩道を母と行脚しているのかと言うと。

 

私の住んでいる地域に在る、魔法教室にお邪魔する為だ。

 

 

「この辺だったかしらねぇ・・・」

 

天然混じる我が母の案内はあまりアテにはしておらず、目の前に見える『スーパーサワディ』の向かいに在ると言うので視線を巡らす。

 

「あれじゃない?」

 

「あ、そうね、見つかってよかったわねぇ!」

 

本当である。

私の母は、方向音痴な上目的地を探せないタイプの人である。

たまに居るだろう?「お店は右に有った」というような経験情報で場所を覚えるタイプ。まさにあれなのだ。

 

タクシーみたいなのは有る。バスもある。

だか、ここは家から歩いて10分の場所。さすがに気が引けた。

 

次からはタクシーを使おう。

 

 

 

「やってるかしら?」

 

 

『フロン魔法教室』と可愛らしいフォントで自動ドアに書いてあった。

近付くと音もなく開いたので母が持ち前の鋼メンタルで即座に切り込んでいく。

 

初めての施設って緊張するでしょ、普通?

私がコミュ障と言う訳ではない。

 

 

中は前世の遥か昔に通っていた予備校の様な雰囲気だ。

パーティションで区切られており、奥まで見渡すことはできない。ただ、中央には奥まで続く廊下が見えていて、割りとこの魔法教室が大きいことが知れた。

 

 

入って右側には、事務室兼職員室だろうスペースがあり、一番近くに居た女性スタッフが気付いて対応してくれる。

 

「ようこそ、入学ですか?」

 

「はい、この子をこちらでお願いできればと思いまして」

 

「・・・・(コク)」

 

重ねて言うが、私はコミュ障ではない。

 

そもそも不思議だったのが、私はこの年齢(8才)まで、学校に通ったことがないのだ。勉強?

勉強はしてる。パソコンみたいなのは学習教材がある。しかも私が優秀なのかこの世界の人間が優秀なのか、どちらかは知らんが学んだ事はほとんど忘れない。だからさくさく進む。今の私の学力は前世で言う大学レベルだと思う。

 

まぁ、知識がついた=知恵がついた、と言う訳ではない以上、まだまだ学ぶことは一杯有るのだが。

 

ちなみに人間関係の形成はと言うと、それにもある装置がある。

それはなんと、バーチャルリアリティゲームだ!

ヘッドセットをかぶり、システムをオンにすると、その世界に入り込んだように操作できる超感覚ゲームだ。

これで公的なシステムらしく、年齢で分別されたサーバーにログインし、遊びを通して同年代の人間関係を育むと言うのがこのゲームの目的らしい。

 

ただ、VR化されたとは言ってもゲームはゲーム。

まだモラルも育っちゃいないガキがオンラインゲームでどんな行動をするかは、まぁ、入る前から想像がついた。

荒れるクソガキ泣く子供、余波でエリアブロックの巻き添えを喰らいカウンセリングの案内も来る始末。

 

全部が全部そこまでひどい訳じゃないし、自由度の高いエリア以外はわりと平和である。

 

それに、あまりひどい行動を繰り返すと、接続をブロックされた上強制カウンセリングと保護者指導が入るそうだ。

そこそこ洗練されたシステムだと思う。

 

VRゲームをやり始めの時に何度か、この低年齢用サーバーに入ったあとは、親とカウンセラーの推薦をもらってもうすこし上の年齢対応サーバーに移籍した。

 

こうやって子供の情操教育を段階的に進めていけるわけだ。

先進的だなぁ。

逆に言えば、成長できない奴はいつまで経っても上に行けないと。

 

ドライなシステムである。

 

 

 

で、その他の技術、例えば魔法、例えば気功法などは大学の選択履修のように自分と家族で選んで学べるようだ。

 

私の住んでいる地域にも幾つか在った。そのうちのひとつがここである。

 

選んだ動機は、ネットの評価が星4.4と高かったからだ。

 

 

 

「各コースは此方ですね」

 

「ふーん、うちの子は他に通ったこともないし、特に家庭で何かしたこともないのだけど・・・」

 

「あ、であればこの入門コースが良いですね」

 

「あら、そう?・・・ねぇジャンちゃん、入門コースだって」

 

 

パンフレットの学習要項を見ていた私に母が問いかけてくる。

それでいいんじゃないかねぇ。

 

「だいじゃうぶ」

 

「まぁ!さすがジャンちゃんねぇ!自分で選べて凄いわぁ」

 

「それほどでもない」

 

 

母よ、あまりオーバーな対応は控えてくれ。

目の前の女性スタッフの目が、親バカモンペを見る目に変わりはじめている。こころがいたたまれない。

 

 

結局、終始母の誉め殺しに晒されながら、手続きは滞りなく進んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

なんやかんや有ったが、この魔法教室に通い始めてからはスムーズにことが進んだ。

 

すわ驚異の魔力量で政府や悪の組織から狙われるストーリーになるか、魔力がゼロで周りの対応が反転しの追放系からザマァへ繋がるストーリーとなるか、といった妄想を膨らませつつ測定した魔力は、一般的に見たら多いものの、凄いねジャンヌちゃん、で済む範囲であり、良くも悪くも山も谷もない集団生活が始まったのだった。

 

 

 

 

 

体に巡る、魔力。

 

 

それを意識しつつ手のひらに光源を出す。

 

これは初歩の魔法らしい。

 

これに熱はない。

 

情報量が多いと、掛かる負担と魔力を多くなるそうで、ここに熱を加えたり、触ることが出来るようになったりは、まだまだ先だそうだ。

 

 

光源を人指し指の先に移動させ、中指の上にもうひとつ光源を作る。

 

他の子供を教えていた先生が視線を向けてくるので、笑顔(どや)と共にそれを見せると、笑顔でうなずいてくれた。

子供ムーブで誤魔化したが、これをやった最初は軽い騒ぎになったものだ。

と言うのも、魔法の並列起動はそこそこ高い技術らしく、もっと上の学年で習うそうだ。

それをまだ習い始めたばかりの子供がやったのだから、そこは驚かれた。

 

光源を消して、また一つずつ光源を作る。

 

一つ作ってもう一つ。

 

練習である。三つ目を作れるように。

 

暫くしたら、三つ目を作っても不思議ではないように。

 

今は二つしか作れない、ちょっと優秀な美少女だ。

 

 

 

 

その方が面倒臭くなさそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

魔法を習いはじめてから思ったことがある。

 

 

気功法について。

 

 

 

魔法を習う前に、もちろん両方について調べた。

 

もし魔法を習ってしまったら気が使えなくなる、もしくはその逆の可能性を危惧したのだ。

幸い、平行しての習得が可能であったため、私の心配は杞憂だったが、極めるに当たってはそうもいかなそうだった。

 

魔法を納めて魔法使い、または魔法士になる。これは魔法が使える人が一般的に呼ばれる呼称で、習いはじめからベテランまで、この呼び名が通称になる。

 

次に魔導師と呼ばれる位階があり、魔法士を教える魔法士、もしくは新しい魔法概念を作り出す存在を、魔導師とするらしい。

この魔導師までいける魔法士は少なく、国でもそんなには居ないと調べにはあった。

事実かは分からんけど。

 

そのさらに先、魔導師のうえも在るらしい。

らしいと言うのは、都市伝説レベルの話しか無かったからだ。

少なくとも国では認知してない。

 

私は在ると思うけどね。

国が認めてない時点でアヤシイ。隠してそう。

 

呼び名は『魔人』とか、『魔女』といった類いだそうだ。

魔王も居そうだなオイ。

 

 

 

 

気功法も似たようなものだ。

 

気功法を納めると、まず気功士となる。

これは一般的な呼称であり、初心者からベテランまで、気功法を使うのは気功士である。

 

で、ここで気功士として上の位階を目指す学徒を道士と言い、 学んだ系統の気功法の皆伝を受けると仙人の位階をもらえるそうだ。

こうなるとイベントや講演会に呼ばれるようになり、年もとりにくくなるのでよく見かける気功士は仙人であることが多い様だな。

 

・・・一流芸人と見習いの関係みたいだと言うのは私の心の中だけで留めておこう。

 

 

そんなわけで、私は魔法を習い始めるに当たって気功も学んでみたいと思ったわけで。

 

しかし魔法教室に通ったことで、私は衝撃の事実を知ったのだ。

 

実は元々、魔法があると知ったときから体の中を巡るナニかが有るのには気付いていた。

そのなにがしは、私の意思である程度操作でき、巡らし様に由っては体の調子にもいい影響を及ぼすことから魔力の類いだとアテはついていた。

 

 

魔法教室に入り、最初にやったのが魔力の喚起だ。

 

習い初めは魔力を知覚できず、練習に入る前に体の中の魔力を認識出来るようペンタイプのスターターで体内の魔力を動かすことが必要になるとのこと。

 

前もって認識していた私には必要無さそうだと思いつつ、一応初心者なのでスタートプログラムには従おうとスターターを握ったところ、なんと。

 

なんと、今まで魔力だと思っていたものとは違う何かが体のなかで動き出したではありませんか!

 

 

・・・つまり今まで魔力だと思っていたものが、実は『気』だったわけで。

 

気に気付いたこの2年、暑さと寒さに弱くなったのは、どうやら気を体に巡らしたことで感覚が鋭くなったのが主な要因らしい。

 

まさしく『魔』抜けであるな。ちゃんちゃん。

 

 

 

 

 

 

で、だ。

 

ネットや魔法教室の教員などに由れば、気と魔力は反発しあって同時に高めるのは不可能だそうだ。

 

 

 

 

 

 

体に巡る『気』を圧縮しつつ手や足の末端まで通す。

鋭敏化する感覚がフィードバックを増大させるが、私の脳のキャパシティはまだまだ余裕を持っている。鋭敏化した感覚が、体に纏う別の存在、『魔力』を知覚してその動きを細部まで認識出来るように成る。魔力は体と魂を繋ぎ、感覚を通さない第六の知覚野を広げてくれる。その第六の感覚は、確かに私の体から漏れ出る気の滾りを、知覚できていた。

 

 

魔力とはなにか?

 

気とはなにか?

 

今はまだ解らない。

 

ただ、分かったことはある。

 

 

 

 

 

私の才能(タレント)は、『マルチタスク』であると。


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