暇ならば楽しんでいってください。それでは始まりでございます。
冒険者ギルドの真昼間、普通なら連中が稼ぎに出かけている頃であるが席に座って頬杖を突く男が一人いた。そいつは怪しげにフードを被り、しかしその手にはミルクという不釣り合いな飲料が握られている。男は盗賊・・・・といっても冒険者のだが、それであった。彼は財布をのぞき込んで何か考えているようである。
ああ、無常。金がなし。食っぱくれたので冒険者というものを始めてみたが、仕事がない。コネもない、ソロの盗賊なんて相手にしてくれるパーティーも、依頼人も、なかなかどうしていないようだ。もう一杯頼む余裕もないし・・・・。これを飲み終えたら、どっかで大道芸でもして小銭を稼ぐしかないかぁ。
盗賊はそんなことを考えると、杯の代わりに空っぽの財布を持って立ち上がろうとして・・・・ぎょっとした。いつの間にか目の前にいたのは、女。しかし、顔面にお札を張り付けた女である。彼は自分も言えたものではないが、そのいかにも珍妙な格好に面食らってしまったのだ。
女は、かろうじて見える口元を笑うようにゆがめると、彼の前の席に座る。そしてこう言った。
「君に一つ依頼があるんだ。座りたまえよ。」
「・・・・あ、ああ。」
盗賊は座りなおしながら、職業柄なのか女を観察する。
夏だというのにぶかぶかのローブ、そして何か文字が書き込まれたお札。
これは恐らく、呪術師と言う奴ではないだろうか。
彼は自分の短いキャリアの中からそう判断した。
すると、次の疑問が浮かんでくる。
しかし、自分に依頼とは?
それに答えたのは、目の前の女だった。
「ボクのことを知っているかは知らないが、君のことは知っている。少し前から始めた奴だろ?」
「ええ、そうですけど・・・・。ならあなたも冒険者ってわけですね?なぜ自分に依頼を?」
盗賊は、首をかしげながら言った。
しかし彼の本心はこうであった。
初対面だというのにずいぶん態度のでかい女だ。
冒険者ってのはみんなこんな感じなのか。
疑問を投げかけられた呪術師は、少し押し黙ってから答える。
「・・・・ま、まあ先輩らしく、後輩の役に立ってやろうかな?なーんて。」
「はあ、そうですか。何年くらいやってるんです?」
「な、何年!?」
盗賊はその言葉に首をひねる。
呪術師は慌てて咳払いをしてから、答える。
「あ、えーと、七年さ!どうだい?」
「・・・・七年?」
盗賊はその言葉を受けて目の前の女を見つめる。
顔をお札で隠しているせいでわかりづらいが、声の調子から言ってそんなに年の差があるようには思えない。彼はさらにじっと呪術師を見つめる。
彼女は、なぜか頬を赤らめて言った。
「な、なんだよう。あんまり見つめられると照れるじゃないか。」
「・・・・。」
なんだこいつは。
盗賊はそんな風な印象を彼女に抱いた。
恐らく彼女も新人。
まあ自分よりは先輩なんであろうが。
しかし、どういうわけか魔法職であるのにソロとなっているようだ。
ま、そこの部分は今はどうでもいいだろう。
きっと俺が立ち入る部分でもない。
盗賊はそれだけ考えた。
「ま、まあボクのことはどうでもいいじゃないか。それより依頼だよ!依頼!」
呪術師は手を振って誤魔化しながら、そう言い放つ。
盗賊はそれを見るとさらりとこう返した。
「受けましょう。」
「・・・・え?」
呪術師は、その言葉に面食らう。
彼女は我に返ると、彼に問いかけた。
「い、いや!まだ依頼内容言ってないよ!」
「金もなく、仕事もなかったところです。それに騙そうとする人には見えませんし。」
盗賊は、財布を逆さにして振りながら言った。
(どっか馬鹿っぽいし。)
そのセリフは彼の胸にしまい込んでおかれたようだ。
「・・・・そうかい!良いぞ、そういう勢いのあるやつは好きだよ!」
呪術師は、小さくガッツポーズをしながら言った。
そして手をひらひらさせて、店員に何か合図を送る。
彼が運んできたカップを右手に持ち、もう片方を盗賊の方に押しやる。
「依頼って言うのは・・・・つまるところ冒険なんだが、その前に必要な儀式だ。」
「・・・・なるほど。そいつは良い。」
そして彼らは言った。
「「冒険の成功を願って!!」」
小気味のいい音が鳴り、彼らは笑った。
そして一気に中身を飲み干すのだった。
「本当はどのくらいやってるんですか?」
「い、一か月くらい。」
今回はエタリ防止として、キリのいいところまで書ききってから投稿することにしました。なのでその点だけはご安心ください。安易に投稿してはいけない(自戒)。