第二話でございます。
盗賊と呪術師、彼らは森の中を歩いていた。
短剣、いや脇差のようなものを腰に差した盗賊とは異なり、呪術師は見た目は軽装のままであった。彼女は暇そうにしながら歩く。
「あー、もう冒険も嫌いじゃないけど、やっぱり呪術師ならどっかの王宮とかでさぁ、宮廷魔術師とか!やりたいとは思わない?」
「知りませんよ。なんで俺に聞くんですか。」
盗賊は後ろ手に何かを引きながら答える。
この人は冒険の最中もこのテンションなのか。
その元気がどこから出てくるのか、彼にはとんと謎であった。
冷たく返された呪術師は、ビシッと彼に指をさして言う。
「なんだとぉ。だいたい、君のそれうるさいんだよ!なんだよそれ!」
「荷車ですよ。依頼内容が宝の回収だって言ってたから、持ってきたんですよ。」
自分の数少ない財産の荷車を引っ張り出してきたというのにこの女は・・・・。
宿代がないときはベットにもなる優れものだというのに・・・・全く。
盗賊はそんなことを考えていた。
「あー、そうだ。まだ着かないんですか?」
「いや、ボクの記憶によるとそろそろ・・・・。」
そこまで言いかけたとき、木々の間からそれが見えた。
森の中で怪しくたたずむ洋館。
見るからに古臭いそれは、ある種の悪寒、ダンジョン特有の雰囲気を放っていた。
それが彼らの目的地であった。
盗賊はフードを、呪術師はお札の位置を直す。
新人二人の、それも即席パーティー。
前衛もいない彼らで、ここを攻略しないといけないのであった。
呪術師はローブの中に手を突っ込んでゴソゴソと何かを探る。
盗賊はそれを見ながら、探りやすそうだな、と、すごく失礼なことを考えているようであった。
彼は呪術師がこちらを見る前に、そっぽを向いていたふりをする。
彼女は、そんな様子に少し首をかしげてからこう言った。
「これが、地図さ。あの洋館のね。」
「ええ、さっき言ってたやつですね。別のパーティでも一回探索したんでしょう?」
「その通り。」
呪術師は、その言葉にうなずいて肯定をする。
彼女は地図の上を指でなぞりながら言う。
「普段組んでる連中と依頼をこなしていたんだが、生憎見つけた宝箱には鍵がかかっていてね。
開錠担当がいないので泣く泣く放置したってわけさ。」
「・・・・成程。つまり目的はその中身、自分の役割はそれを開けることだと。」
「安全にね?」
呪術師は、指をパチンと鳴らしながら元気よく言う。
そして地図の上の一室、玄関にほど近い場所を指で指し示す。
「まずはここだ。モンスターはこの前片づけたから、あんまりいないと思うし行ってみよう!」
「・・・・。」
盗賊は、その言葉を聞くと目をつむる。
彼は緊張していたのだ。
はじめての冒険、人が聞けば笑うようなただの一幕。
しかし、彼にとっては偉大なる第一歩であった。
(一歩目から躓かなければね。)
彼はそんなことを思いなおして、目を開ける。
そして緊張をと共に、息を吐きだしてから言った。
「わかりました。行きましょう。」
「オー!!」
荷車を適当な場所に置くと、二人はその洋館に入っていく・・・・。
玄関を開けると、途端に埃臭い空気が顔の横を通り過ぎていく。
見ると埃がたまっていないのはドアの開閉部分だけで、その他には足の踏み場もないほどに充満していた。そこはまさしく一種のダンジョンの様相を呈していた。
盗賊も新人とは言え、頭の回らぬ男ではない。
ダンジョンで無手でいるほど愚かではなく、既に脇差を抜き放っていた。
彼は静かに辺りを見回して観察しているようであった。
(・・・・ん?)
そして、感じるのは違和感。
それが気付きに代わるには大して時間はかからなかった。
「ゲホ!!エッホ!!ゴッホ!!」
彼とは対照的に、呪術師は派手にせき込みながら中に入る。
一応盗賊が前衛、呪術師が後衛という役回りのようだ。
彼女は中をきょろきょろと見回すと、満足そうに言った。
「相変わらずキタネー所だけど、ボク達が前回怪物どもを掃除したおかげか、全然いないじゃないか。」
「有難いことです。我々のパーティー、多分貧弱なんで。」
「確かに。」
呪術師は盗賊の物言いに笑うと、さっさと歩を進めようとする。
それを慌てて盗賊が止めて言った。
「あ、あのーちょっと待ってください。なんかここに足跡があるみたいなんですけど・・・・。」
「足跡?」
彼女は振り向きながら、盗賊が指さした場所を見つめる。
目を何回か瞬かせてから、首をひねってこう言った。
「・・・・見えないけど。」
「ほら、ここです。」
盗賊は床に屈んで指し示すが、やはり呪術師には見えないらしい。
職業柄なのか、暗所では盗賊はやたらと目が効くらしい。
彼は埃に残った足跡を改めて分析する。
「これは・・・・靴だ。人間の靴の足跡。・・・・大きさから言って恐らく大柄な男。」
「あー、そいつは多分カミツギのやつだな。ボクのパーティーメンバーだ。」
彼女はくるりと振り向くと、手を広げて言う。
そしてすたすたと歩きだしてしまう。
「前回冒険に来てた時のが残ってたんだろう。さ、もういこーぜ。ぼかぁこういう埃っぽい場所は
嫌いなんだ。」
「・・・・。」
彼女の物言いに納得はした。
しかし、盗賊の胸に残るのは違和感。
・・・・なぜ、彼のだけがある?
ならば他のメンバーの足跡もなければいけないのではないか?
偶然残っていた?
・・・・自分の考えすぎか?
どうしてか彼の額を一筋の汗が流れ落ちる。
それが地面に落ちた辺りで彼は気づいた。
「・・・・ん?」
呪術師がいない。
どうやらさっさと行ってしまったらしい。
彼は呪術師を一人にするわけにもいかず、慌てて駆けだすのであった。
彼が追いつくと、呪術師は宝箱の前で立って何かをしているようであった。
懐を探りゴソゴソと何かを取り出す様子の彼女に、盗賊は若干の苛立ちをにじませながら話しかける。
「一人で先行しないでくださいよ!魔物だって潜んでるかもしれないってのに!」
「別にいいだろ。いなかったし。」
どこ吹く風と言わんばかりに呪術師は返す。
彼女は取り出したお札を構えると、不敵に笑って朗々と言葉を紡ぎだす。
「生命あらざるものよ!我が言の葉に従い、
「・・・・。」
盗賊はそんな様子の彼女を見ていたが、お札がみるみる形を変えていくのを見ると、目を見開く。
それはもう既にお札ではなく
フワフワと彼女の横を照らしながら、それは空中を漂っている。
・・・・これが呪術ってやつか。
彼は言うべき小言も忘れて、その様に見入っていた。
「ふっふっふ、なかなか良いもんだろう。これでちったぁ明るくなったてもんさ。」
「確かにすご・・・・ハッ!いや、誤魔化されませんよ!」
盗賊は感嘆の途中で我に返ったようであった。
そんな様子に呪術師は笑って言葉を返す。
「まあまあ、こいつが目的の宝箱さ。とりあえず一つ頼むよ。」
「・・・・わかりましたよ。」
盗賊は言葉を飲み込んで改めて宝箱を観察する。
・・・・館と同じように、そこそこ年季が入っていそうな宝箱には埃がたっぷりと積もっている。
錠前がついてはいるが、別に難しい構造ではなさそうだ。
これなら恐らく開錠できるであろう。
彼はそこまで分析すると、罠の確認を始める。
聞きかじっただけの知識であるが、こういうダンジョン内では宝箱を罠とする場合が多いそうだ。
警戒をしすぎるということはないであろう。
ましてや、自分は新人なのだから。
(・・・・ない。)
罠はない・・・・と彼は思ったようであった。
彼はピッキングツールを取り出すと、開錠作業に取り掛かる。
一分、二分と時間が過ぎていく。
呪術師が、今晩のメニューについて思考を巡らしていた時であった。
カチッ!!
心地よい音が響いた。
盗賊は額の汗をぬぐって、ひとまずの完了に安堵する。
呪術師は、嬉しそうに駆け寄って言った。
「おお!!やるじゃないか!!早速中身を見よう!!開けたまえ、開けたまえ!!」
「まだです。もう一度罠の確認をしてから・・・・。」
盗賊の言葉は途中で止まった。
彼の頭をよぎるのはざらついた感覚。
新たなる違和感。
彼の目は、宝箱ではなく、その正面にある壁に注目していた。
『私は汝の脚であり、人類の永遠なる友である。しかし私はいずれ汝を喰らうだろう。』
「・・・・な、に?」
目の前にあるのは、謎の文章。
盗賊の額に汗が浮かぶ。
こんなもんあったか?
いや、正面だ。気づかないわけがない。
・・・・急に現れたんだ。
彼は無意識に腰の脇差に手を伸ばす。
しかし、その間も頭は回転していた。
(汝の脚・・・・人類の友・・・・そして喰らうもの。それって・・・・。)
「誰だ!!」
響いたのは呪術師の声である。
開かれた扉の奥に、何らかの人影があった。
彼女もまた、何かの違和感に気づいていたのである。
お札を構えて即座に臨戦態勢をとる。
彼女は扉を、盗賊は壁を見つめていた。
・・・・だから気づかなかった。
ガコン!!
何かが作動する音と共に床が抜け落ちる。
彼らは唐突な浮遊感で状況を把握した。
「な、穴ぁ!?」
「ま、まずい!これは!!」
あまりの突然の出来事に盗賊と呪術師は、抵抗もできずその穴に吸い込まれていく。
「「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!」」
「・・・・。」
人影は、その穴の縁に立ち、ただ見下ろしていた。
次回は明日の十九時頃の投稿となると思います。よろしければまた見てください。