第三話でございます。
そこはどこかの地下室。
遠くから聞こえるのは・・・・絶叫であろうか?
「「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!」」
衝撃音と共に盗賊と呪術師は地面に投げ出される。
穴は垂直ではなく、滑り台式になっていた。
そのためダメージがそれほどでないのは幸いであった。
呪術師は、尻を痛そうにさすりながら立ち上がる。
「イタタタ、おお痛い!!・・・・どこだ?ここ?」
「・・・・まあ、あの館の地下でしょうね。」
盗賊も装備を改めながら立ち上がる。
彼は身軽が幸いしてか、対して痛そうにも思えない。
そんなちょっと余裕そうなのが癪に障ったのか、呪術師は腹立たしげに言う。
「なんだい!余裕そうじゃないか!それならレディを抱えて守るとかしてくれよな!!」
「無茶言わんでくださいよ・・・・。」
盗賊は呆れたように言って辺りを見回す。
穴が滑り台式だったということは、目的は侵入者の排除ではないはず。
・・・・地下牢か何かだろうか。
彼はそんなことを思っていたが、予想に反して道は先に続いているようである。
「ここはなんなんでしょうか?せっかく穴に落としたのに、道が続いてるなんて?」
「なんでもいいさ。道があるなら出口もある・・・・かも。ま、穴をよじ登るよりは楽だろうよ。」
呪術師は、そんなことを言ってすたすたと歩いて行ってしまう。
その後をフヨフヨとあの火紙が追いかけていく。
盗賊もそれに続いていく。
・・・・なんだかなぁ。
初めての冒険だというのに・・・・トラブル続きなんて・・・・。
彼はそんなことを思っていた。
その道はそこそこ長く、もうしばらく歩いていた。
恐らく館の外にまで伸びている道なのだろう。
それくらいには長く、しかし部屋も何一つないのであった。
「・・・・えーと、呪術師・・・・さん。パーティーメンバーがいるって話でしたけど・・・・。」
「・・・・。」
こうなってくると、話題はとりとめのない物になる。
慢心はいけないが、同じく緊張もいけない。
冒険とはバランスが大事なのだ。
呪術師は少し沈黙してから言った。
「いるけど・・・・。うーん、実はなんか最近一緒に冒険行ってもらえなくてさ・・・・。」
「え?」
盗賊は結構気軽に話を振ったつもりであったが、急に重い話になり困惑する。
しかし考えてみれば、この女は見ず知らずの自分に依頼としてパーティーを申し込んできたのだ。
ある程度困窮していなければ、そうはしないだろう。
彼は自身の軽率な質問を後悔していた。
その様子を呪術師も気づいたのか、慌てて手を振って口を開く。
「い、いや!!ボクはいずれ宮廷魔術師どころか、自分の領地だって得る女だ!!
一人だって別に大したことないのさ!!」
「・・・・そ、そうですね!!」
呪術師は大げさに笑うが、二人の雰囲気は沈んでしまっていた。
空元気なのが見え透いていた。
ある程度大げさに笑ってから、急に彼女は沈み始める。
両手を前にだらんと垂らし、明らかに落ち込みながら話し始める。
「あー、なんからしくなかったなぁ。別に気にしないでくれたまえ。こっちの問題だ。」
「・・・・知ったようなことしか言えませんが、仲間・・・・なんでしょう?きっと上手くいきますよ。これからもね。」
「・・・・そうだといいがね。」
呪術師はそれだけ言う。
彼女はどうにも、そうは思ってはいないようであった。
暗くなった雰囲気を吹き飛ばしたのは、盗賊の声であった。
「お?部屋がありました。正面です。」
「おお、いよいよって感じだな?」
呪術師は何かを感じてお札を構える。
隠された地下室、その先に眠るのは大抵凶悪なボス・・・・であることが多い。
彼女は経験からそれを知っていた。
部屋に扉はなく、その大部屋の中からは異様な雰囲気が漂う。
呪術師が、火紙を先行させ部屋の中を照らすと、予想に反して何もいない。
それどころか、壊れた家具がいくつかあるだけの質素な部屋であるのであった。
彼女は、周囲を警戒しながらも棚に近づいて一冊の本を手に取る。
パラパラめくると、どうやら日記帳のようである。
老魔術師とその孫についてばかり書かれている日用品のようだ。
(・・・・もう少し価値のあるものがあればなぁ。例えば・・・・。)
盗賊も部屋に入り周囲を警戒するが、やはり何もない。
彼は脇差から一旦手を離し、警戒を緩めようとする。
・・・・そう、その部屋には何もないはずであった。
呪術師が本を手に取ったあたり、その壁にまたいつの間にか文字が刻み込まれている。
『ここは万人の夢。切望せよ。君の望み、全てが叶うであろう。』
文字を読み終えた途端、盗賊の背筋を汗が伝い落ちる。
やばい。ここは何かうまく言えないがやばい。
盗賊の五感は鋭敏にそれを察知した。
今までの違和感がつながった気がした。
「ん?なんだいその文字。望み?」
「ッ!!駄目です!!何も願ってはいけない!何も考えるな!」
盗賊は咄嗟にそう叫ぶ。
間に合うかどうかなど、考えている余裕もなかった。
呪術師は盗賊の鬼気迫る様子を見て酷く狼狽える。
そして壁の文字をもう一度まじまじと見てから、盗賊の方をもう一度見た。
・・・・その顔は蒼白であった。
「え・・・・っとぉー、もう考えちゃ・・・・った。」
「・・・・。」
途端、部屋の真ん中に暗黒が渦巻く。
それは星形の魔法陣を形成し、段々と靄は実体を持ち始める。
盗賊と呪術師は額に汗を浮かべながらゆっくりと振り向く。
そこには在るのは狂気であった。
見上げるほど大きな蜘蛛形の怪物は、感情のこもっていない幾つもの目をギラギラと光らせていた。絶句する彼らを尻目にギチギチと不愉快な音を立てて、そいつは観察していた。
「グギャリギチチチッチッ!!!!カチカチカチ!!」
「「ッ!!」」
彼らは悲鳴を必死に押し殺して怪物に各々の武器を構える。
逃げるにしても、戦いは避けられないのだから。
次回は十九時頃の投稿となります。よろしければまた見てください。