我ラハ怪シキ者ニ非ズ!!   作:庭鳥

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第六話でございます。今回で、このお話は一区切りとなります。




エピローグ 冒険の終わりと成果

冒険者ギルドに併設された酒場、そこには一人のフードをかぶった男・・・・

全身に怪我を負った様子の盗賊がいた。

『欲望の館』での死闘も、もう昨日の話。

盗賊と呪術師は、命からがらあの館から逃げ出すことに成功していたのであった。

どういうわけか、あの長い廊下の中腹付近から、上に向かって、館へつながる隠し階段が伸びていた。何か一つ願い事をかなえることが開放のトリガーであったのだろうか・・・・?

まあ、もうどうでもいいことだ。

少なくとも彼は、もうあんな場所には一生近づきたくはなかった。

 

「・・・・いてッ!」

 

彼はいつものようにミルクを飲もうと手を伸ばし、しかし身体の鈍痛に顔をゆがめた。

昨日の怪我は、どうにかこうにか治療し、呪術師に得体のしれない軟膏も貰って塗っておいたが、

しかし痛いものは痛い。

効果の高い薬品は値が張るしなぁ・・・・。

そういえばそろそろ奴が来る頃であろうか。

盗賊はそんな風に直感した。

 

「やあやあ、盗賊。昨日ぶりだね?傷の具合はどうだい?」

 

盗賊の後ろから響くのは、朗々とした女の声。

現れたのは呪術師である。

顔にお札を貼っていないので、その姿は普段の格好よりはただの美少女然としている。

彼女は、縛られていた手首を擦りながら、座席に腰かけた。

その様子を、盗賊は黙って見やる。

そして彼はその口を開いた。

 

「・・・・絶好調ですよ。依頼主殿。」

 

「やめてくれやめてくれ、呪術師で頼む!」

 

呪術師は鬱陶しそうに手を払う。

そしてコホンと一つ咳払いをすると、彼女は改めて話し始めた。

 

「ま、お互い生きてて何よりだと思うよ。・・・・今日はいくつか話があるんだが、まあまずはこれかな。」

 

そう言うと、呪術師は懐から何かを引っ張り出した。

見ると、それは昨日の唯一の収穫、古びた日記帳であった。

彼女はそれをパラパラとめくりながら話を進める。

 

「あの欲望の館、あんな悪魔の落とし子がどうやって出来上がったのか書いてあったよ。」

 

 

 

 

 

 

そう遠くはない昔の話、あるところに大魔術師がいた。

しかし、彼は善良で人々のためになる魔法ばかりを研究している男であった。

他に彼が大事なものと言えば・・・・それは家族、それもたった一人の孫ぐらいなものであった。

孫との日常、彼はこの小さな幸せを形にしようと、ただの羊皮紙を綴って日記とすることとした。

・・・・しかし、そんな善良であったはずの彼のもとにも、あるいは善良だった彼の身にこそ悲劇は降りかかった。

孫が死んだ。殺されたのだ。

大いに悩んだことは、日記にも記されている。

しかし、彼は結局禁忌に手を染めたのだ。

最愛の孫を生き返らせたかった。どこへいるかも知らない犯人へ復讐がしたかった。

そして・・・・どうなったかは日記には綴られていない。

しかし、大魔術師マギアをその日から見たものは誰もいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・らしいぜ。」

 

その言葉を最後に、呪術師はその本を閉じる。

黙って聞いていた盗賊は、重々しく口を開いた。

 

「・・・・大魔術師だったからこそ、叶えられる距離にいたからこそ、彼は溺れたわけですか。」

 

「・・・・欲望はきっと力の分だけ増大していくんだ。力があるからこそ、死者の蘇生とか、そういう馬鹿でかい願いが出てきてしまったのだろうね。」

 

呪術師は、肩で大きく息をつくと背もたれに体を預けた。

盗賊には、その姿が初めて会った時よりも大人びているように見えた。

彼女は気を取り直したように向き直ると、その日記の角でテーブルを叩いて話を進める。

 

「ま、我々にとってはこれはただのお宝さ。大魔術師の日記帳、多少は金になるだろうよ。」

 

「ほう・・・・となると?」

 

「・・・・ああ、うん。報酬の話に移ろうか。」

 

盗賊はその話を聞くと、露骨に表情を緩める。

元々、彼は貧乏が祟ってこんなことをしている人間なのだ。

まあ、さすがにあんな死に目に会うとは思ってはいなかったであろうが。

兎にも角にも金がなくては始めらない。

彼は手を擦りながら、目を細めて言った。

 

「いや~、これは仮にも依頼!ようやくまともな物が口にできそうで、嬉しいですよ。」

 

「・・・・。」

 

呪術師は、それに対してなぜか黙していた。

その様子に盗賊は首をひねる。

彼女は、目線を逸らしながら口を開いた。

 

「・・・・まずはこの日記帳の処遇なんだが、まあこいつを半分に割るわけにもいかない。私がツテを頼って、魔法の研究機関にでも売りさばくつもりだ。その金を後日折半しよう。」

 

「成程、それはわかりました。・・・・それで?」

 

盗賊はソワソワしたように先を急かす。

彼にとっては、未来の大金よりも、今ある現金の方が重要であるらしかった。

・・・・然るに、報酬の催促である。

このままでは、今日も荷車を背にして寝入らねばならない身の彼だ。

それはある意味、当然のことかもしれない。

しかし、呪術師はうなだれたように話し始める。

 

「・・・・あの館の話をギルドにしたら、調査金として幾らか銀貨を受け取れたんだが・・・・。」

 

「・・・・。」

 

呪術師の態度に何かを感じ取ったのか、盗賊は何も言わない。

彼女は、ついに覚悟を決めたように話し始める。

 

「・・・・あー、なんというか。今、渡せるのは・・・・こ、これくらいなんだ。」

 

「・・・・。」

 

呪術師が差し出したのは、たったの二枚の銀貨であった。

盗賊は、冒険者同士の依頼の相場など知らないが、今夜の宿代にもならない程少ないわけがないこと位は知っていた。

しかし、彼は一つため息をつくと諦めたように口を開いた。

 

「・・・・そんな申し訳なさそうな顔しないでください。ギルドからもらった銀貨、それを使って

俺を治療してくれたんでしょう?・・・・多分、それはその余り。・・・・だから、これでいいです。」

 

それだけ言うと、盗賊は呪術師の手から銀貨を一枚だけひったくる様に受け取った。

彼女は彼の態度に目を瞬かせた。

少しだけ目を濡らした後、それを振り払うように顔は笑顔に変わる。

 

「・・・・そうかい!・・・・そしてありがとう。君は結構いいやつだな。」

 

「ふっ、今頃気が付きましたか。」

 

盗賊はどこか得意げに言う。

今日の宿も知れない身だというのに、彼はそんな風に笑うのだ。

・・・・まあ、ポジティブなのは彼の美点かもしれない。

呪術師はしおらしい態度から、いつもの元気な姿に戻ると声を大にしていった。

 

「そうなると例の儀式をする必要があるな!何か酒・・・・は金が足りないか。私もミルクを頼もう。」

 

「ま、冒険自体は成功したわけですからね。」

 

そう、稼ぎは少ないが金も懐に入り、そしてなにより二人とも生きている。

これが成功ではなくて何だろうか?

盗賊は、店員がカップを運んでいるのをながらそう思っていた。

 

「「・・・・ん?」」

 

店員はカップを()()置いて立ち去ろうとする。

それに気づいた様子の呪術師が慌てて声をかける。

 

「お、おい間違ってるぞ!これ!中身もエールだし、我々は金が・・・・。」

 

「シィー・・・・。」

 

店員は謎めいた様子で唇に指を立てる。

そして軽くウインクをしながらこれだけ言った。

 

「・・・・君たちの友情に。」

 

「・・・・!!」

 

捨てる神あれば、なんとやらか。

二人は、思わず顔を見合わせる。

そして互いに笑いあうと、カップを合わせて叫んだ。

 

「「我々の友情と冒険の成功に!!」」

 

喉からしみる久方ぶりの酒、ミルクではないそれは盗賊の身によくしみた。

その様子を見た呪術師は酒精に少し顔を赤らめながら、思い出したように言った。

 

「・・・・そうだ。あの館。地下室は違うが、上は調査が済んだら好きにしていいらしいぜ。君、あれ貰っちまったらどうだい?」

 

「・・・・ふっ、そいつはご免ですね。」

 

盗賊も少し酔った様子で返す。

呪術師もテーブルに頬杖を突きながら聞き返した。

 

「埃っぽいのは嫌かい?」

 

「そんなんじゃありませんよ。」

 

盗賊は、いつもの相棒。

恐らく今夜も世話になるであろう友を叩いて言った。

 

「あの館は荷車で運ぶにはでかすぎるんでね。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

欲望と願い。それらは表裏一体である。

欲望があるから人は前進し、そして幸福を勝ち取るのです。

そしてそこにはもちろん代償がある。

取捨選択こそ、この世の理なれば。

え?全てを手に入れたいと思えばですか?

それはそれは、大きな代償が必要になるでしょうねぇ。フフフ。

まあ、なんにせよ・・・・。

『仲間が欲しい。』

一人の少女の願いは叶ったのではないでしょうか?

それだけは事実・・・・違いますか?

『金』『命』『名誉』『復讐』・・・・。

何であろうが、私はいつでも、誰でも、お待ちしていますよ?

 

 

 

 

 

欲望の館編 完

 

 

 





彼らの冒険は一先ずここまでです。第二部は気が向いたら書くかもしれません。
説明しきれなかった部分やキャラ紹介などは補足回にあげております。よろしければそちらもご覧ください。


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