この凄惨な現実に追憶を!   作:バニルの弟子:ショーヘイ

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『祝福』4,5巻 (+α 1,15巻) 既読推奨

 アクアが天界から俯瞰しているようなイメージです



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幕間  暗躍する魔王軍幹部達

 水と温泉の都アルカンレティア。

 私を崇めるアクシズ教の総本山にして、以前カズマ達と何度か訪れた事のある、私の大好きな街。

 そんな街で一番大きな宿の名物である混浴風呂にて。

「はあーあー。いいお湯ね」

「昼間から良いご身分じゃねえか」

「私は残された休暇を楽しんでるだけだから」

 二人の男女が話し合っていた。

 一見、どこででも話されるありきたりな会話である。

 だけど……。

「忌々しいこの教団もこれで終わりだ。秘湯での破壊工作が終わった。全てが上手くいったなら、後はただ、待てば良い」

 他に客のいない露天風呂に不穏な空気が流れた。

 答えたのは筋肉質で背の高い、茶髪を短く切り揃えた男。

 湯舟には浸からずに、腰にタオルを巻いたまま、女のそばで片膝をついている。

 この男はなんて事を言ってくれるのかしら。

「ハンス、そんな事を一々私に報告に来なくてもいいわよ? というか、私を巻き込まないで欲しいわね」

 もう一人は、赤毛のショートカットの女性。

 猫科を思わせる黄色い瞳が特徴的な、私程ではないけどスタイルの良い女性だ。

 だが、この二人は温泉目当ての観光客ではない。

 というか、私はこの二人に見覚えがある。

「そう言うなよウォルバク。正攻法じゃどうにもならないこの教団を潰せるんだぞ? また定期的に報告に来るから、お前も引き続き、この宿で休暇を満喫していてくれよ?」

 ハンスにウォルバク。

 人類と激戦を繰り広げている、魔王軍の幹部を担う者達だ。

 前までは私の活躍のお陰であっさりと倒されちゃうのだけれど、それでも幹部を任されるだけあって実力は本物。

 ただの人間が相手取ることなど到底出来るものではない。

「それじゃあ、俺はこれから仕事があるから」

 風呂場を出ていくハンスの背中を見送ったウォルバクは、湯舟の淵に身体を預けて肩まで浸かり。

 ふーっと長い息を吐いて、右手を空に翳した。

「……だいぶ力が安定して来たわね」

 これは追々、エリスから聞いて知ったのだが。

 魔王軍に加入して以降、このウォルバクって生意気な邪神は自分の半身を求めて、長い間あちこちを旅して回っていたそうだ。

 各地を転々として、時には湯治をして力の回復を図りながら捜索を続けるも、結局は発見できず。

 当初は再会をほとんど諦めていたんだとか。

 私から言わせれば、ただの温泉巡りにしか思えないけど。

 だけど、今から半年以上前。

 なんの脈略もなく、ウォルバクは本来の力を取り戻していた。

 突然流れ込んでくる自分の知らない記憶。

 長く仕えてくれた部下との契約の強制解除。

 ウォルバクは確信する。

 自分の片割れは部下共々、誰かによって消滅させられたのだと。

「本当はもっとゆっくり温泉を楽しみたいところだけど、そうもいかないわよね」

 憎たらしくもハンスの話では、既にこの街の温泉には毒が混入されているらしい。

 初めはお湯の質が悪いと訝しむ程度だが、その内に体調不良を訴える人が増え、最後には温泉が完全に使えなくなる。

 あと数十年もすれば、この街は崩壊の道を辿るだろう。

 本当にとんでもない事をしてくれたものだ。

 私がその場にいれば、ゴッドブローを食らわせてやれたのに。

「……潮時ね」

 現状を鑑み、ウォルバクは撤収を決意する。

 力が安定して来た以上、いつまでも放蕩としている訳にはいかない。

 おまけに魔王からは、出来るだけ早く最前線の砦の襲撃を指揮するよう頼まれている。

 気は進まないが、これが彼女が魔王と交わした約束なのだ。

 なんとも迷惑な話ね。

「ここの温泉にもう入れないとなると寂しいけれど、仕方ないわよね……」

 ハンスの毒が拡散するまでは、のんびりと英気を養おう。

 そう結論付け、ウォルバクは湯船の中でグーっと体を伸ばした。

 

 

 

 時はちょっとだけ進み、舞台は紅魔の里へと移動する。

 里の中心から少し登ったところにある、コンクリートの建物のように見える巨大施設。

 確かめぐみんが謎施設と呼んでいた地下格納庫の入口に、二つの人影があった。

「ったく、こんな所まで呼び出しやがって。この程度の壁、お前なら強引に開くことぐらいできるだろうが。俺はまだ温泉の監視中だってのに」

 億劫そうなハンスの言葉に、

「そんな事をしたら、中にある兵器に傷が付いちゃうかもしれないでしょ。アタシだってあなたの協力を仰ごうだなんて思ってなかったけど仕方ないのよ。アタシが用意した結界殺しを使っても扉が開かないんだもの」

 一見するとサキュバスにも見える、茶色くくすみ、ウェーブのかかった長い髪をした大柄な女性、シルビアが肩を竦めた。

 女性とは言ってもキメラなこの人は元々、男性だった気もするけれど。

「結界殺しが効かないって事は物理攻撃しかないんだろ? だったら猶更俺が出る幕はねえじゃねえか。お前の部下にでも壊させればよかったんじゃないのか?」

「分かってないわね。相手が必死になって閉じた物を無理やり開けようだなんてちっとも美しくないわ。アタシはそう言う扱いも嫌いじゃないけど、出来ればスマートに入ってきて欲しいじゃない。そんな事も分からないからあなたはモテないのよ」

「うっせえ、だったら俺に何しろってんだ? とっとと要点を言えっ!」

 怒気を声にはらませ、ハンスはギロッとシルビアを睨みつける。

 私を睨んできた時と同じ鋭い眼付だ。

 ハンスの視線を涼し気に躱したシルビアは、コンコンッと扉を叩いた。

「簡単な事よ、あなたの毒でこの扉を溶かして欲しいの。これぐらいの強度の物なら造作もないでしょう?」

「……はああああー。分かった分かった、溶かせばいいんだろ溶かせば。この借りは高くつくからな」

 頭をガシガシと掻き溜息を吐いたハンスは、無造作に片手を壁に突き出した。

 ハンスが翳した手から毒々しい物が噴き出す。

 これが私の可愛い信者達の温泉を汚した、あの忌まわしい毒なのだろう。

 と、ハンスの手の周りから徐々に煙が昇り、扉の表面が下へと爛れ落ちた。

 どんどん大きくなる歪は、遂には扉の向こう側まで貫通してしまい。

 人が一人通れるぐらいまでに空洞が広がった所で、ハンスは毒の放出を止め手を引っ込めた。

「これで満足か? 俺はもう帰るぞ」

「感謝するわハンス、これで兵器が手に入る。でも、折角アルカンレティアから数日掛けてここまで来たんだもの、帰る前にもう一仕事していかない?」

「まだ何かやらせる気か?」

 帰りがけだったハンスはクルッと頭を向け、忌々し気に呻いた。

「そんなに警戒しないで。大丈夫よ、きっと今のあなたなら乗ってくるはずだから」

 自信ありげなシルビアの物言いに、ハンスは怪訝そうに眉を顰める。

「あなた、アルカンレティアでは散々な目に合わされながらもずっと我慢してるから、随分ストレスが溜まっているでしょう?」

「っ!」

「アタシもここの所、紅魔族の連中には散々な目に合わされてずっとイライラしっぱなしなのよ。だから……」

 言って、シルビアはゆっくりと妖艶に頬に手を当て。

「ちょっと派手に遊んで行かない?」

 

「――おい、あれ! 伝説の『魔術師殺し』じゃないか⁉」

「しかもあっちには巨大なスライムが!」

「里を捨てよう! これはダメだ!」

 シルビアとハンスの奇襲に、里の人達は大パニックに陥っていた。

 里中が炎で包まれる中、ある程度の人数が集まると即刻テレポートで離脱し、紅魔族の人達はどんどんと逃げ去っていく。

 この逃げ足の速さはカズマさん並ね。

「燃えろ燃えろ! 頭のおかしい奴らの里など、消えてしまうがいい!」

 新しい力を得て変にテンションが高いシルビアに、本能のまま作物を食い散らかして周囲の汚染を続けるハンス。

 こうして二人の幹部の手により、紅魔の里は陥落した。

 

 

 

「はあー。ったく、ずっと猫被んのも大変だな。体が凝って仕方ないぜ」

 最前線にある魔王軍陣営。

 大勢のモンスターが周囲に犇めき合っている中、仮設的に建てられた掘建て小屋で一人の女性が煙草の煙を一気に吐き出した。

 肩口で切り揃えられた黒髪に黒い瞳、特徴的な泣きぼくろがついた、チンピラみたいな言動をするこの女の名前はセレナ。

 本名をセレスディナと言って、私を散々虐めてくれた魔王軍の幹部だ。

 正直、この人はすごく苦手。

「さっきから元気ねえなベルディア。聞いたぜ、こないだの戦では第一王子に手傷を負わせただけで仕留めきれなかったんだろ? いくら相手が強いとは言えあれだけの戦力差があったんだ、もうちょいやり様はあったんじゃねえのか?」

 セレナの言葉に、先程からテーブルの上に置いた首に手を乗せたままずっと黙り込んでいた、漆黒の鎧を着た騎士ベルディアが溜息を吐いた。

「いや、俺の事はいい。ちょっとバニルに騙されただけだ。それで、お前の方の進捗度合いはどうだセレスディナ?」

 いつもと様子の違うベルディアにセレナは首を傾げながらも経過報告をする。

「首尾は上々だぜ、あんたらが派手に暴れまくってくれたお陰で冒険者達の中に混ざんのは容易かったし、騎士団の上層部の連中にも恩を売れたしな。中枢に潜り込めるのも時間の問題さ」

 清楚ながらも暗く冷たい人形の様な笑みを浮かべるセレナ。

 この私を差し置いてアクセルの聖女の座を奪い取った時の様な柔らかな印象が全く見受けられない、とても冷めた眼付だ。

「ふむ、となると残りの不安因子は、魔剣の勇者を筆頭としたチート持ちと呼ばれる、黒髪黒目の連中と、後は……」

 首がないくせに、ベルディアは顎の位置に手を持ってきて暫く思考を巡らせる。

「そう言えば、最近周辺の大物賞金首を次々と討伐しているパーティーがあるとか言っていたか?」

「ああ、王都の冒険者ギルドにいる連中から聞き出した話なんだけどな。なんでも、ヤバい魔法を操る魔法剣士がリーダーの四人組パーティーだそうだ。だが、現状は魔王軍に敵対する姿勢は見せていないらしい。放っておいても大丈夫だろう」

「甘いぞ、セレスディナ。そういう奴らに限って、後々作戦に響いてくるのだぞ」

 苦言を呈してくるベルディアに、セレナはやれやれと肩を竦める。

「あたしだってなにも手を打ってない訳じゃねえよ。念には念を入れて、近々そいつらにも接触してみるつもりさ。まあ、ギルドでの噂を聞く限りでは問題ないだろうがな」

 セレナがあまりにも堂々と言い放つので、懸念はしながらもベルディアはそれ以上何も言わなかった。

「……お前がそこまで言うなら脇に置いておくか。因みに、戦場に出ず街で燻っている優秀な連中対策は何か講じているのか?」

「そっちに関しちゃ、あたしに考えがあるよ」

 煙草の先をトントンと指で叩いたセレナが、頬杖を付いたままニヤリと笑う。

「国の中枢にいる貴族連中を適度に傀儡化したら勅令クエストを下させて、冒険者達を無理やり戦場にまで引き擦りだす。そうなりゃ後はあんたの死の宣告で一網打尽だろ?」

「お、おい、それはいくら何でも非道ではないか? もっと正攻法で攻め落としては?」

 アンデッドの癖に人情味のある事を言い出すベルディアをセレナは鼻で笑った。

「こうでもしないと殲滅する事なんざ到底できないぞ。さっきあんたが言った通り、こういう連中に限って後々障害になるからな」

「うっ」

 あっさり言い負かされた情けないアンデッドはシュンと項垂れる。

 そんなベルディアを横目にセレナは席を立った。

「そんじゃあ、あたしは王都に戻って最後の仕上げをしてくるよ。時期が来たらまた連絡するから、いつでも出撃できるようにしといてくれよ」

「りょ、了解した」

 弱弱しく答えるベルディアに背を向けたセレナは人類側の陣地へと戻りながら、

 

「この仕事が完了した時こそ、人類が敗北を期するんだ」

 

 ボソッと呟いて、人知れずほくそ笑んだ。




次回はウォルバク編です
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