この凄惨な現実に追憶を!   作:バニルの弟子:ショーヘイ

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『祝福』 1,17巻 『相談』 (+α 『祝福』 15巻) 既読推奨



今日のこのファンLIVEで体力全部持ってかれた気がします苦笑
にしても、サキュバスの名前がカーラか……。うーん、複雑だなぁ


特別編 たった一人の戦い

 目の前の巨大な建築物を見上げながら、俺は思わず呟いた。

「……ま、禍々しいな……」

 誰がどう見てもボスの城といわんばかりの漆黒の巨城。

 人類が目指す最終地点にして、今日に至るまで誰一人として攻略できなかった、人間の恐怖の象徴。

 そう、魔王の住む城だ。

 本音を言えば、俺だってすぐにでも引き返したい。

 勇者っぽい事には憧れるけど、それは勝率がほぼ百パーセントの時だけだ。

 こんな生存確率が限りなくゼロに近い場所を攻略しようとか、俺みたいな勇者被れがする事じゃない。

 そう言いたい所なのだが……。

 でも俺がやらないと、どうせあいつら、やけっぱちになってまた何かやらかすんだろうなあ……。

 というか、仲間想いなあいつらの事だ、絶対に何かやらかす。

 そんな事すら分かるようになっている自分に、俺は思わず苦笑する。

 ふと、俺は懐にしまっておいた小さな結晶体を手に載せた。

 これはある意味、最終奥義とも呼ぶべきものだ。

 出来る事なら使いたくないのだが、最悪これに頼らざるを得ないだろう。

 手の中に納まる結晶体を、俺は黙ってジッと見詰めた。

 

 アクセルの街の裏路地にひっそりと佇む魔道具店。

 今までに得たツテをフル活用してようやく突き止めたと思ったら、まさかこんな初期の街に辿り着くとは。

 いや、こっちの方がRPGらしいと言えばらしいのか。

 ともあれ、俺は玄関のドアを押し開け店内に。

「いらっしゃいませー」

 のんびりとしたうら若い女性の声が聞こえてくる。

 と、俺の目の前に、ピンク色のエプロンを身に着けた、大柄な店員が現れた。

「へいらっしゃい! 仲間のプリーストに振り掛かった呪いを解呪しようと、誰にも内緒でこの店に辿り着いたは良いものの。思惑通りに成功したとて、凱旋した所を心配した仲間達に袋叩きにされることを恐れる男よ。ウィズ魔道具店へようこそ!」

 な、なんだ。なんなんだコイツは?

 なんで俺の思考がバレてんだ⁉

 というか、この仮面とは前にどこかであった気が……。

 俺が内心ビクビクしていると、店の奥から茶色い髪の美女が顔をのぞかせた。

 その顔にも、やっぱり見覚えがあって……。

「思い出した! あんたらってこの間、デッドリースライムを氷漬けにしたり謎の怪光線を打ったりしてたよな? あんたがウィズだったのか‼」

「は、はい。仰る通り、私はウィズと申します」

「そして吾輩は、地獄の公爵にして全てを見通す大悪魔、バニルである!」

 えっ、見通す悪魔バニルって……。

「そんなに殺気立つでない、死に急ごうとする男よ。確かに、吾輩は魔王軍の幹部ではあるが、汝が警戒する事を魔王軍へ報せるつもりはない。悪魔は契約には煩いので、信頼してもらって結構である」

 ……胡散臭い奴ではあるが、嘘は吐いてなさそうだ。

 猜疑的な目をしながらも、俺は愛刀である虎徹から手を離した。

「バニルとか言ったな。お前ってなんでも見通せるのか?」

「うむ。全てとは言わんが、大概の事は見通せるな。例えば、お前がそこのポンコツ店主に会いに来た理由も勿論分かる。どうすれば魔王城の結界を破れるのか。それは汝一人でも実践可能なのか。なにか魔王城へ攻め入るにあたり有効な対策はないのか、……等々」

 俺はゴクリと喉を鳴らした。

「あの、バニルさん? さっきから一体何の話を?」

 状況が把握できていないウィズが、俺とバニルの間でオロオロと視線を動かす。

 しかし、バニルはそれには答えず、

「汝、遠い彼方の地よりやって来た男よ。実は、汝に丁度良い魔道具があるのだが、お一つどうか?」

 そんな胡散臭い事を言いながら、悪魔らしく邪悪そうに口元を歪めた。

 

「――ったく、あの悪魔。とんでもないもんを押し付けやがって」

 どうにもいけ好かないあいつの事を思い出した俺はグッと結晶体を握り絞め、再び懐へと突っ込んだ。

 と、吹き抜けてきた風がバンダナやマントをたなびかせた。

 なんだか空気が生暖かい。

 魔王城には、魔界から直接魔力を引き込む魔法陣を設置してると言う、世界最強の魔法使いがいるらしいし、その影響だろうか。

 ああ、帰りたい……。

 帰ってベッドに潜り込んでゴロゴロしたい……。

 なんで俺ばっかりこんな危ない道を通らないといけないんだよ!

 ……なんて、悪態は吐いてみるが。

 やっぱり脳裏に浮かんでくるのは、どこまでも聖職者然とした、あいつの笑顔だったりする訳で。

「はあー、やるしかねえか」

 幸いな事に、近くから敵の気配はしない。

 侵入するなら今しかないだろう。

 いつも通りに、女神様から授かった雷の力を愛刀へとエンチャントさせて準備する。

 こうすれば、切断力を飛躍的に上昇させられるのだ。

 今にして思えば、あの綺麗な女神様、随分と気前が良かったな。

 初対面である俺の事を何度もチラチラッと伺ってきて。

 俺が雷の大魔法を選んだ後は寂しそうにしながらも、それだけじゃ心許ないだろうからとか言って、チートの出力や形状を制御できる能力までくれるとは。

 まあ、お陰で魔法剣士として活躍出来てるんだけどさ。

「っ! こんな時に何考えてんだ俺は。もっと意識を集中させろ」

 頭を振って気持ちを切り替え。

 結界に向けて、俺は剣を素早く振り下ろした――!

 

 

 

『侵入者だ! 出会え、出会え! お前ら、この城に侵入者だ!』

『応援を呼べ! 敵はまだ一階にいるはずだ!』

『相手はあの結界に亀裂を入れた強者だ、絶対に油断するな‼』

 城のあちこちから反響する兵達の怒号。

 あいつらが近くを通るたびに、敵感知が痛い程に反応する。

 正直、生きた心地がしない。

『どわっ⁉ な、なんで曲がった先の廊下が凍ってんだよ⁉』

『なんかこっちに見慣れねえ箱が落ちてるぞ! 侵入者の残留品に違いねえ、中を検分してみるか』

『おい、バカ止めろ! 不用意に箱を開けるんじゃ……っ!』

 遠くからいくつもの爆発音が聞こえてくる。

 どうやら俺の張った罠が上手く作動したらしい。

 敵が混乱している内に片を付けたいところだ。

『おい、まだ見つからないのか?』

『結界を破ったのは魔法使いなんだろ? だったら光の屈折魔法を使ってる可能性が高いんじゃないか?』

『それなら俺の鼻が嗅ぎ付けてないのはおかしいだろうが! 潜伏を使ってるんじゃないのか?』

『侵入者は一人だ。魔法使いが潜伏なんか使える訳ねえだろうが!』

 やっぱ、盗賊スキルは便利だな。

 スキルを教えてくれた銀髪の少女には感謝しなければ。

『おかしいおかしい、これだけ探して見つからないのは絶対におかしい!』

『敵は本当にこの階にいるのか⁉』

 聞いた感じ、モンスター共は血眼になって階下の捜索をしてるみたいだな。

 だが残念。俺がいるのは一階ではない。

 敵を錯乱させる目的でトラップを仕掛け回ってる際に発見した、行き止まりの通路の奥に仕掛けられた魔法陣。

 聡明な俺は、それが目的地へと続く最短ルートだと即座に看破した。

 そこで敵の罠に敢えて、敢えて引っ掛かり、こうして上層階にまで移動したのだ。

 現在いるのは、最上階から一つ降りた階層。

 目の前の部屋からは、思わず怖じ気づいてしまいそうな強大な気配を感じる。

 バニルの情報からしても、ここがベルディアの居室で間違いないだろう。

 中から感じる気配は十や二十では利かない。

 しかも一個体ずつがかなり強そうだ。

 はっきり言おう、これは俺一人ではどうにもならん。

 ベルディア本人とサシならば紙一重で勝てるかもしれないが、この数のアンデッドを同時に相手するとなると不可能に近い。

 ベルディアかアンデッドか、そのどちらかがいなくなれば勝機はあるのだが。

 ここにあいつらがいてくれたら、なんとかなる気もするんだけどな。

 なんて、ない物ねだりをしても仕方がない。

 ここまで来た以上、テレポートで帰る訳にも行かないし。

 さて、どうしたものか……。

「………………」

 扉に耳を押し当て中の様子を探ろうとするも、壁が分厚いのか全く分からない。

 否が応でも鼓動が速くなる。

 だだ、大丈夫だ、俺なら出来る。

 いままでに何体も大物賞金首を討伐して来たじゃないか。

 ベルディア対策はちゃんと考えてきた、準備も十全にしてきた。

 今の俺に隙は無い……はずだ。

 そ、それに、俺は幸運値が人よりも高いらしい、きっとなんとかなるさ。

 何度も深呼吸をして精神統一を図る。

 落ち着いてきたところで、俺は一気に扉を開き――

「愚かにも魔王城へ単身で攻め入った侵入者よ! 貴公の無謀ながらも勇敢な行いには敬意を表そう。我が名はベル……」

「『ハイドロ・クラッシュ』ッ!」

 得意の上級魔法で、何か言いかけていたデュラハン諸共、アンデッド共を押し流す。

「そーい!」

 続いて手にしていたポーションをベルディア目掛けて投げつけ、被弾する前にすかさず扉を閉めた俺は、耳を塞ぎ身を屈めた。

『ぎゃああああああああああー‼』

 炸裂音と共に聞こえるベルディアの悲鳴。

 そーっと扉を開けて中の様子を確認してみると、水浸しになった床の上を、ベルディアが転げ回っていた。

 周辺には、爆発で身体が壊された何体ものアンデッドの残骸が。

 水に触れると爆発するポーションだったか、結構使えるじゃないか。

 それでもまだ半数ぐらいのアンデッドは残っていた。

 だが、これは予測済み。

 予め詠唱を終わらせておいた魔法を、ベルディアに向けて解き放った。

「『ライトニング・ストライク』!」

「ひああああああああああー!」

 俺の魔法が狙い違わず、ベルディアの胸を撃ち抜いた。

 更には床の水を通して周囲のアンデッド共にまで雷撃が伝達する。

 ありったけの魔力を込めたお陰か、雷はアンデッド共の魂ごと、腐った肉片を激しく燃やしたらしい。

 身体の機能を保てなくなったアンデッド共はその場に崩れ落ちた。

 チートの特性上、雷属性の攻撃は他の魔法より数倍の威力を出せるが、それでも魔王軍幹部が率いるアンデッドナイト相手に有効かは賭けだった。

 とりあえず、部下達を全滅させられた事は悦ぼう。

「こ、この……っ! 口上もなしにいきなり攻撃を仕掛けてくるとは、貴様はそれでも勇者候補か⁉ 昔からの伝統を弁えろっ⁉」

 体に電気を走らせながら、それでもベルディアはゆらりと立ち上がった。

 流石は腐っても魔王軍幹部。

 結構ダメージを与えたつもりだったが、そう簡単には討伐させてくれないか。

「勇者候補だなんて大層なもんじゃないさ。俺は通りすがりの、最弱職の冒険者だ」

「最弱職だと⁉ 何を抜かすか白々しいっ! お前は最近、王都で有名になってきた冒険者パーティーのリーダーだろ? 職業は魔法剣士だったはずだっ!」

 知らない間に、俺も有名になったな。

 しかし、白々しい、か……。

「別に嘘は言ってないぞ。今の俺は正真正銘の冒険者だ」

「まだ抜かすか! 冒険者如きがこんな城の奥まで侵入できる……訳……が……」

 ベルディアが段々と語尾を小さくする傍ら、俺はゆっくりと間合いを詰めながら愛刀を引き抜いた。

 エンチャント済みの愛刀からは、チチチチッと甲高い音がする。

「城内で戦闘があったという連絡は受けていない……。だが敵の配置も分からずに、こんな上層階まで戦闘なしで来るというのも……。そもそも、光の屈折魔法だけでは獣型のモンスターの嗅覚を誤魔化せるはず……」

 どうやら気が付いたようだな。

 相手の間合いの少し外で立ち止まり、白く輝く剣先をベルディアに突き付けた。

「苦労したんだぜ。お前が俺の仲間にまで死の宣告を掛けたお陰で、俺は敵感知と潜伏を覚えなきゃいけなくなったんだからな。しかもありったけの魔道具を買ったせいで有り金は全部吹っ飛んだ。この落とし前はお前の首で付けてもらうぞっ、賞金五億エリス!」

 やがて、ベルディアが肩を震わせ始める。

 俺の発言に怒ったのだろうか。

 …………いや。

「クハハハハ! 面白い! 面白いぞ! まさか本当に冒険者に成り下がっていたとは思わなかった! よし、ではお望み通り!」

 手元に大剣を引き寄せたベルディアは、それを片手で軽々と持ち上げて肩に背負い、

「この俺自ら、貴様の相手をしてやろう!」

 ちっ、なんつー威圧感だよ。

 今までに相対したモンスターの比じゃねぞ、こりゃ。

 それに、魔王軍の精鋭達の気配が続々とこの部屋に接近している。

 さっきの爆発音で俺の居場所がバレた影響だろう。

 ここで時間を取られれば一巻の終わり。

 だが、俺の残った魔力でコイツを速攻で倒すのは、それはそれで無理がある。

 …………。

 俺は懐から小さな結晶体を手元に取り出した。

 もはや、迷ってる時間はない。

「いやだな……でも、しょうがねえよなあ」

 グッと結晶体を握り絞め、手をベルディアではなく扉の方へと向けた。

「『フローズン・クラッシュ』!」

 着弾した魔法により扉が凍りつく。

 それを見ていたベルディアが訝し気に首を傾げた。

「退路を断ってよかったのか? お前の不意打ちで弱体化したとは言え、ステータス補正の利かない元魔法剣士ごときにやられる俺ではないぞ」

 大層な自信だ。

 まあ、実際その通りなんだろうけどさ。

 相手が俺でなければ!

「というか、さっきから手元でなにを……おい貴様、それは確か……っ!」

 どうやらベルディアはこれの正体を見抜いたらしい。

 それと同時、俺は裂帛の気合を込めて叫んだ。

 

「『インフェルノ』ーッッッ!」

 

 

 

「わ、分かった! よーし落ち着け、呪いだな⁉ お前がここにやって来たのは俺が貴様の仲間に掛けた、死の宣告を解くためだろう⁉ この魔王城の奥深くまで単身乗り込んできた度胸を讃え、仲間の呪いは解いてやろう! だから、今日のところはお互い引き分けという事で……」

「見苦しいぜ、ベルディア! 潔く成仏しろっ‼」

 高く跳躍した俺は、膝をつき喚くベルディアに剣を振り下ろした。

「『メテオ・ブレイク』ッッッ‼」

「ひあああああああああー!」

 ほぼ全魔力を込めた一撃により体を真っ二つにされたベルディアは、切断面から徐々に体が崩壊していき。

 最後には跡形もなく消滅した。

「か、勝ったー!」

 両手を突き上げた俺は、そのまま後ろに倒れ込んだ。

『おい、いまのベルディア様の悲鳴じゃないか⁉』

『嘘だろっ⁉ あのベルディア様がやられたってのか?』

『と、とにかく、早く扉を開けて確認しなければ!』

 外が騒がしいなあ。

 傷口にヒールを掛けながら戦闘痕が激しく残る部屋の中央で、俺は倒れ伏したままぼんやりとそんな事を考えていた。

 それにしても、マジでギリッギリの戦いだったな。

 肉体強化魔法は何重にもかけていた。

 それでも手数・重さ・正確性、どれに置いても剣術ではまるで相手にならない。

 魔法を打とうにも、遠距離魔法ならすぐに間合いを詰められるし。

 小回りが利くのを活かして近距離から打っても、やっぱり躱されるし。

 戦闘中にこっそり散布しておいた聖水を踏み、アイツの気が逸れた瞬間が無ければ、殺されていたのは俺の方だったろう。

 でも、これで仲間の呪いは解呪された。

 後はテレポート分の魔力が回復するまでなんとか凌げば……。

 突然、部屋に飾られていたベルディアの自画像がガタンッと床に落ちた。

 その奥には通路が続いていて……。

 しまった、あんな所に隠し扉があったなんて。

 今の状態じゃ、ゴブリンにすら紙一重で負けるってのに。

 ベルディアから受けた傷とドーピングの反動で激痛が走る体に鞭打って、なんとか戦闘態勢に入る。

 そして、通路から顔を出してきた何者かに魔法を打ち込もうと……。

「カズマ様! ご無事だったんですね?」

「セレナ⁉」

 まったく予想もしてなかった人物の登場に、俺は目を丸くした。

 そんな俺を見て力が抜けたのか、駆け寄ってくる途中でセレナは、よろよろと崩れ落ちてしまう。

「ど、どうしてセレナが? というか、なんでこの部屋に?」

 慌てて俺が膝をつくと、セレナが震えながら顔を上げて。

「じ、実はわたくし、とある方から内密に、魔王軍との交渉を頼まれこちらへ赴いたのですが決裂させてしまい、そのまま捕虜にされたんです。ですが今日になって、急に城内が騒がしくなり。その隙になんとか牢を脱出し、無我夢中で逃げ回っていたら、いつの間にかここに」

 それを聞き、俺はある出来事を思い出した。

 あれは王都での激戦があった日だったか。

 仲間達が執拗に戦場へ引き摺り出そうとするので、俺は宿を抜け出し、城下を散策していたのだが。

 人通りの少ない通りを歩いていると偶然、セレナがとある人物と密会しているのを目撃したのだ。

 相手は俺も何度か会った事のある、レインとか言う魔法使いのお姉さん。

 距離があったので会話は聞き取れなかったが、恐らくセレナは、あの人直々に依頼をされたのだろう。

 その後にすぐ、謎の爆発事件や城から降って来たスライムの撃退に追われたので、今の今まで密会の事をすっかり失念していた。

「とりあえず無事でよかった。だけどこの場所も危険だ。俺の魔力が回復してテレポートが出来るまでどっかに隠れないと」

 外からドンドンッと叩きつけられる壁の方を警戒しながら、俺はセレナの手を取って起き上がらせる。

 どこか隠れられる場所がないものかと部屋を見渡すが、そう都合良くは……。

「あの、わたくしが先ほど通って来た通路はどうでしょう? 道が非常に入り組んでいましたので、時間稼ぎぐらいにはなるかと」

「それだ! 流石セレナ、頼りになるぜっ!」

 相変わらずセレナは頭がキレるな。

 自分だって不安だろうに、こんなにも冷静に物事を判断できるとは。

 そうと決まれば、早速この部屋から脱出を……。

 

「『カースド・ライトニング』ーッ!」

 

 隠し通路の方へと走り出した瞬間、凛とした声が響き、なにかが俺の体を貫いた。

「え……?」

 視線を体に向けると、胸の中心には大きな空洞が。

 訳が分からぬまま俺は背後を振り返った。

 そこには、こちらに向かって両手でスクロールを広げたセレナの姿が。

 だが俺のよく知る、いつも柔和な笑みを携えるセレナの面影などどこにもなく。

 まるで暗く冷たい人形のような無表情を浮かべていた。

 俺が絶句する中、突き出されたスクロールは真っ黒になって崩れ去る。

 と、口の中が鉄の味で一杯になった。

 堪らずに吐き出すと、それは鮮烈すぎる程に真っ赤で……。

 俺は碌に受け身も取れぬまま横に倒れ伏した。

 ヤバ……意識……が…………。

 セレナが何かを話している。

 だが、なにを言っているのかは聞こえない。

 舌の上に残った鉄の味も感じられない。

 薄れゆく視界の中で、なんとかセレナの方を見ようと視線を上げる。

 そんなこちらの様子に気が付いたのか、セレナはわざわざ俺の近くでしゃがみ込み顔を覗き込んで来た。

 その口元には、勝ち誇ったような笑みが浮かんでいて――




面白いよって思って下さった方は、是非とも評価を下さい!

もしつけてくだされば、筆者のやる気が跳ね上がってSSの数が増えるという特典が付いてくる!(……なんて、効果のあるか分からない事を言ってみる。あれ? 寧ろ心証悪くしてる汗)

【出口調査】本作はシリアスに感じましたか?

  • とてもシリアスだった
  • まだ改良の余地あり
  • シリアスとは呼べない
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