なんか第四次聖杯戦争に神霊が来ちゃったんですが…。 作:イビルジョーカー
更新が予想異常に遅くなってしまいました(汗)
冬木教会の地下にある自室でソファーに腰を降ろし、疲れたような溜息を吐く綺礼。
原因は倉庫街でのあの惨状だった。これが聖杯戦争だということを考慮としても、
ここまでの被害は正直言って目に余るばかりか、下手をすれば神秘の漏洩に繋がり
かねない。
神秘の漏洩は……彼が所属していた聖堂教会の教義に反するもの。
だからこそ綺礼は時臣と同じく、今回の事態については疲労を感じざる得なかった。
「どうした綺礼。随分と疲弊の様子が見受けられる」
「……お前も見ていたのなら知っているだろう。そもそも、この聖杯戦争に貴様の
ような神霊が召喚されること自体、ありえない異常だ」
霊体化を解いて現れたのは、この聖杯戦争においてアサシンの座を与えられた神霊
『ダークライ』。
黒い衣を纏った得体の知れない、幻影のような容姿。頭部には白い髪の様なものが
あり、 またその髪の毛の様なものから片目だけが覗いている。
首元には赤い牙の様なものがあり、そのミステリアスでダークな雰囲気からは何処か
本能的な恐怖を掻き立てられる。
「私と感覚共有してあの戦場を見た感想がそれか。まぁそもそも『神々同士』の戦い
を目すること自体、普通ならばないからな」
「……アサシン。お前から見てセイバーとランサー、そしてライダーにあのオベリス
クと名乗るサーヴァントをどう見る」
皮肉を感じさせるダークライの言葉を無視し、綺礼は自分の任の一環として意見提供
を求めて来た。
それに対しダークライは『つまらん奴だ』とでも言いたげな表情をしながらも、自分
から見たサーヴァントたちの観察結果をマスターである綺礼へと報告する。
「まずセイバーだが、どうやら意思を持つ武器の宝具を持っているようだな。加えて
その宝具と自身を共鳴させることで内蔵魔力をより増幅し強化している。
厄介な敵になるのは必須だ。ランサーは現時点で見る限りは『私と同じく影に潜む
宝具』をもっているようだ。他にも手札を隠している場合の可能性を想定するなら
これも脅威に違いない。ライダーは……馬鹿としか言いようがない。あれほどまで
に生粋の馬鹿というのも珍しいが油断は出来ない。
あいつが幻想種の頂点に君臨する竜を宝具としている以上、甘く見るのは愚かしい
と考えていいだろう。
最後に現れたあの異形のサーヴァントは……おそらく正規ではない。サーヴァントの
宝具によって二次召喚された神霊と見て取る可能性はある。まぁいずれにしろ、尋常
な敵は一人たりともいない、ということだ」
ダークライの言葉に綺礼は深く考える。
確かにセイバーは厄介だ。先ほど言った意思の持った武器との共鳴行為は、爆発的な
魔力を生み出し、強力な一撃を単発ではなく連発して放つことも可能になるだろう。
他のサーヴァントに関しては、まだ色々と不明な部分が多い。
ランサーは確かに『アサシン』と似た能力系の宝具を有しているようだが、それだけ
とも限らない。あまりに未知数だ。
ライダーは無論、バカだ。
非の打ち所もないほどの大バカだが、幻想種の頂点に君臨する竜を宝具として操れる
ことから、こちらも未知数ではあるものの実力はあるものと考えていい。
最後に『オシリスの巨神兵』と名乗った異形……ダークライ曰く『二次召喚された
神霊』とのことだが、情報が少なく憶測しかできない。
「分かった。お前は引き続き、各陣営を監視しろ。お前の『分身』は気付かれては
いないな?」
「ああ。その点は問題ない。私の気配遮断スキルを舐めてもらっては困るな」
「ならいい。引き続き『各陣営の情報』を収集しておけ。私は時臣師に一通り報告
して来る」
綺礼はソファーから立ち上がりドアノブに手をかけようとするが。
「言峰綺礼。貴様は何故、そのような空虚な心で聖杯戦争に挑むのだ?」
手が止まる。この声の主は他ならぬダークライからだ。
「……どういう意味だ?」
「意味も何も、貴様の心は『虚』だ。時臣殿に頼んでお前の経歴を一通り見させて
もらった。見た上で私は確信した。お前の心は何も感じられないほどに…『虚』で
あるとな」
「サーヴァント風情が、私の何を語る気だ?」
「事実を言っているだけだ。それで、結局のところ貴様はこの戦いに何を求め何を
得ようとしている? マスターに仕えるサーヴァントとしては気になるところだ」
綺礼は思案する。本来ならば、たかがサーヴァントの戯言と断じ無視するところだが
何故かこの時はそうすることができず、気がつけば自らの人生を語り始めていた。
物心付いた時から、様々なものに関心がなく興味もなかった。
普通なら人として満たされる筈のものが、綺礼に至っては何故か満たされなかった。
そんな虚無の地獄のような日々の中で綺礼は信じた。いつか高名な神の下に導かれ
この身は救われると。いつか……いつか……そんな風に思い続ける中で、綺礼は
ようやく悟った。
もはや自分と言う人間は神の愛をもってしても救われないと。
救われたい一心で苛烈な修行の数々に身を投じた綺礼には、結果的に何も得られず
『意味もない無駄な徒労』という事実だけが下された。
そんな虚無な人間である筈の彼が聖杯に選ばれた。最初は訳もわからなかったが、
時臣によって自分が聖杯の選別に抜擢されたマスターであることを悟るが、正直に
言って大した興味もなかった。
それがどれほど凄いものと理解しようが、関心も興味もなく、また無駄な徒労が
始まるのかとさえ思えた。
もはや綺礼にとって何かをするということは、『無駄な徒労』に過ぎないからだ。
だか彼は、初めて『興味』というものを抱いた。
それが『衛宮切嗣』。『魔術師殺し』と呼ばれた男だった。
彼に関する書類を一通り目にした綺礼の感想は『破綻してる』の一言。
まるで死地へ赴くことに何らかの強迫観念があるかのような……そんな自滅的とも
言える行動の数々。
利己というものが微塵も感じられず、実利とリスクの釣り合いが破綻している。
時臣は切嗣を『金目当ての下賎なフリーランサー』と称したが、綺礼にはそうは
思えなかった。
自分と同じ虚無なる人間。そして長年探し求めて来た『答え』を……。
「下らない」
綺礼の語りの最中に突然飛来した一言。それは他でもなくアサシンのものだった。
「度を越した愚かさだ。まったく。よくもそこまで屈折できたなと関心してしまう」
「……自分から聞いておいて、その感想がそれか?」
怒気を含ませた口調にアサシンは別段、怖じ気付くこともなく答える。
「ああ。これだが? 人間も含め生き物とは存外自分のことを分かっていないもの
だが……ここまで自分のことを知らない生き物はそうもないな。仕方ない。この私
が簡潔に教えてやろう」
アサシンの鋭い目が、綺礼を捉えた。
「さっきはお前を虚無だと言ったが、実際は違う。お前は虚無などではない。
お前はただ単に綺麗なものを愛せないだけだ。万人が色鮮やかに輝く薔薇の姿を
好むのなら、お前は薔薇の朽ちた姿を愛でる。万人が宝石のような蝶などの虫を
好むのなら、お前は薄汚い蛾などの蟲を愛でる。ようはそういうことだ。お前は
綺麗なものを愛することができず、醜いものしか愛せない。
お前は二年間妻を持ったそうだが、その妻が病に侵されていた時どう思った?
『早くよくなってほしい』か? 『また共に人生を歩んでほしい』か?
それはあまりに陳腐で的外れな言葉だ。お前はその時、こう思った筈だ。
『この手で妻を苦痛に歪めた上で殺したい』と。『もっと地獄の苦しみに喘ぐ姿
を見せろ』と。それが貴様の揺るがぬ本性だ。言峰綺礼」
最後まで言い終わった瞬間、何かが風のようにアサシンの横を瞬時に通り過ぎ、
後ろの壁へと突き刺さる。
それは聖堂教会の代行者がよく使う短剣の武器『黒鍵』と呼ばれるものだ。
「いい加減にしろっ! 神の教えに従い殉じる私が、そのような悪鬼の如き
魔性と言いたいのか!! 私は断じて違う! そのようなものなど決して」
「なら怒りなどで誤魔化すな。素直にその時どう思ったのか言ってみろ」
綺礼の怒りなど、神霊たるアサシンにとっては何て事などない。
ただ虫が喧しく鳴いているのと大差ない。
そして。そんなアサシンの言葉に対し、綺礼は何故か答えられなかった。
否定したい筈なのに。声を大にして言い張りたい筈なのに。何故か言葉が出ず、
ただ沈黙してしまった。
「それが答えだ。いい加減認めてしまえ。自分は普通とは違い、どこまでも
歪んで破綻していると、醜悪極まりない人間だと、認めてしまえ。まずは己
という存在を受け入れること。それが肝心だ。それなくしては……望む答え
に至るなど不可能だ」
「わ、私は……」
「言っても受け入れられぬか。まぁ、あくまでもこれは私個人の解答であり
決してお前のものではない。どのような解答を得るかはお前次第だ。代行者
言峰綺礼」
それだけを言い残し、アサシンは霊体化してその場を去って行く。残された
綺礼はただ…突きつけられた、その真実に苦悩する他に何も出来なかった。
それはまるで『虫』だった。
いや、この際、表現するのはもう何でもいいのだろう。とにかく頭の中に次々
と流れ込んで来ると同時に心を掻き乱していくかのような、そんなおぞましく
狂いそうな感覚が間桐雁夜を支配しようとする。
当然彼は、その感覚と戦う。しかし飲まれないようにするだけで精一杯だ。
ほんの一瞬の、僅かな気の緩み一つでこの未曾有の恐怖とも呼べる感覚にずっぼり
と飲み込まれてしまいそうな、本当にそうなってしまう気が雁夜にはあった。
「……カカッ、カカカカカカカカカカカカーーーーッッ!!」
自身の頭を両手で押さえ、必死にその感覚と戦う雁夜を余所に臓見は声を高らかに
して狂喜するかのように哂う。
いや、本当に狂喜しているのだろう。
何せ雁夜が召喚したものは出来損ないの雑魚英霊などではなく、英霊を超えた位置
にある領域の存在……『神霊』だったからだ。
「ククッ、この聖杯戦争。出来損ないの雁夜なんぞに元々期待などしていなかった
が……まさか、これほどの上玉を引き当てるとはのぅ。やっと儂にも運が巡ってき
よったわ」
厭らしくも満足気な笑みを浮かべる臓見。しかしそんな老いぼれ一人など気にも止
めず、召喚されたバーサーカーのサーヴァントは、静かに雁夜へと歩み寄る。
「ッッ!」
得たいの知れない、且つ圧倒的な存在の前に雁夜はその顔に恐怖の二文字を刻んだ
表情でバーサーカーを見る。近い距離で見てみれば中々に格好が奇妙なものだと気
づくだろう。
何せ黒くストレートな短髪の前髪辺りには、縦の目のような模様が幾つか綺麗に
並んでおり、顔も凛々しく整ったものなので結構な美顔に入る。もっとも額に第
三の目がなければの話だが。
そして肝心の格好は白い前髪のと同じような縦目模様が描かれたロングマフラーで
顔をぐるぐる巻きにし、様々なサイデリックな柄の厚着シャツを何枚も着用してい
るという風貌だった。
いかにも、いや、もはや確信的に変人の部類に入るだろう。
そんな彼はじーーっと自分のマスターである男の顔を見つめていた。
別にそう意味ではなく、何の感情も伺えないような(マフラーが邪魔で本当に伺え
ないが)様子でゆっくりと首を傾かせる。
「………………………………………………………………………………………………
…………………………………………………………………………………………………
…………………………………………………………………………………………………
…………………………………………………………………………………………………
……………………………………………………………う、う、う」
「……う?」
「うぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああ
あああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
あああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
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ッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
大音量。と、言えばそれでお終いだが、神霊であるバーサーカーの叫びは蟲倉……
いや間桐の屋敷を中心とした周囲の空間を振動させてしまっていた。
一定区域限定とは言え、空間そのものを揺らすほどの大音量を間近で受けている雁
夜と臓見にしてみればあまりに『ただの大音量』では済まされない。
まず臓見は自身を構成している蟲たちが一匹残らず死に絶えた。
とは言え臓見は自らの呪術により、自分の本体とも言うべき核たる魂を特定の蟲の
中に収め、尚且つ『ある場所』に置いてある為に無事だ。
しかし一方で雁夜はと言うと、非情に危険な状態だった。
臓見の蟲でさえバーサーカーの叫び声で死んだのだ。なら、雁夜の中で擬似魔術回
路としての役割を機能している『刻印蟲』はどうなるのか……言わずもがなだ。
当然ながら死に絶える。
雁夜は自身の体から刻印蟲が次々と死んでいくのを感じながら、深い闇へと意識を
手放した……。
保険で言っておきますが、雁夜おじさんは死にません。