フォロワーファンタジー ー小豆味ー   作:ニャル太郎

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暴走する怒り

「我が『慈愛』を似て、救済しましょう」

 

その言葉が言い終わると同時に、潰れる。

 

木が、鳥が、生きるもの全てが、三人以外(・・・・)が潰れる。

 

「ふむ、『神圧(しんあつ)』が意味を為さないとは」

 

何かした女はその事が当たり前のように呟く。

 

金髪の女性、炎の瞳、どこか神々しい佇まいを感じさせるその姿。

 

「……誰だ、テメェ」

 

東雲が質問する。

 

初対面の相手にこの態度は失礼だとはわかっている、が。

 

なぜか、”殺意”を覚えた。

 

身体が、脳が、本能が叫んでいる。

 

“殺せ”と、ただそう叫んでいた。

 

「聞き方がなってないようですね」

 

女は呆れた顔で言葉を放った。

 

まるで自分は特別な存在だと思わせるように、こちらを見下した。

 

「……いいから、質問に答えろ女」

 

ひしひしと怒りが溜まっていき、握った拳に力が入る。

 

「いいでしょう」

 

女が答える。

 

「私の名は『慈愛』の神、アールマティ」

 

ブチ、と頭の中の何かが切れた。

 

──あぁ、そういうことか。

 

なぜこの女に“殺意”を覚えるのか、ようやくわかった。

 

こいつが、ボクの嫌いなモノ()だからか。

 

なら簡単だ。ぶっ殺せばいい(・・・・・・・)

 

地面を蹴る。

 

距離はおおよそ十五メートル。自分の足なら到達までは数秒。

 

懐まで入り、間合いを詰めた。

 

──捉えた。

 

拳を握り、そいつの顔面目掛けて放った。

 

「──なっ!?」

 

放ったはずの拳は土で出来た壁に塞がれていた。

 

「おかしい、さっきこんなのはなかったはず……」

 

カツ、と左から足音が聞こえた。

 

アールマティが、左にいるのだ。

 

「分を弁えなさい」

 

アールマティが指を動かすと、壁から土の柱が飛び出て直撃した。

 

「ガッ!?!」

 

そのまま十メートル吹き飛ぶ。

 

「東雲さんっ!?」

 

「ッ、!」

 

既の所でニャル太郎が東雲を受け止める。

 

「サンキュニャル太郎!」

 

「無事か?」

 

「今ので無事に思える?」

 

「どうだか」

 

東雲を降ろし、アールマティを睨む。

 

「先に仕掛けてきたのはそちらですが」

 

「そうだな」

 

確かに、それは事実だ。

 

しかしそれはニャル太郎もシノタロスも敵と認識していたから。

 

何も言わなかったのも、何もしなかったのも、本能で敵だと理解していた。

 

「こちらの指示に従ってればいいのです」

 

「……敵の言う事を聞く馬鹿がどこにいんだよ」

 

ニャル太郎が吐き捨てるように答える。

 

東雲は溜息をつき、口を開いた。

 

「そうだよ、大体なんでボクらがただ存在してるだけで特に何もしねえ無能な生き物の言う事を聞かにゃあいけないんだよ」

 

風が吹く。

 

「自分は存在してるだけで偉いって思って供物もらってぐーたらして何もしないただのクソニートごときの言うことを聞けと?ご冗談にも程がありますこと」

 

本音を吐いた。

 

アールマティの表情は変わらない。

 

数秒後、ぱちんっと指を鳴らした。

 

同時に三人の足元がふわりと浮く。

 

「えっ……!?」「はぁ……!?」

 

地面が割れ、三人はそのまま落下していった。

 

「お二人とも!」

 

シノタロスがエンジンを蒸し、動き出す。

 

ニャル太郎はハンドルを掴み、「掴まれッ!!!」と東雲に手を伸ばし掴む。

 

「フルエンジンですわ!!」

 

崖を駆け走り、地中から飛び出る。

 

「んじゃニャル太郎!」

 

「オーケー!」

 

空中でドライバーを取り出し、装着する。

 

「変身ッ!!!」「変身!!!」

 

黒と白の光、そして橙の光がアールマティの前に着地する。

 

「フォームチェンジですわッ」

 

着地と同時にライダーフォームに変わる。

 

「やる気だねぇ」

 

「んで、と」

 

三人はアールマティ()を目視した。

 

余裕な立ち振る舞いで、こちらを見下している。

 

「我が救済を必要としないのですね」

 

「テメェの救済?そんなやつ、こっちから願い下げだッ!」

 

東雲が言い終わると同時に駆け出す。

 

「そうですか、では」

 

アールマティが右手を向けた。

 

「言葉を慎め、獣」と振りあげる。

 

地面から柱が飛び出てきた。

 

「うおっ、あぶ──」

 

ギリギリ避けたが、根元から新たな柱が出てきた。

 

「イ゛ィッッッ!!!」

 

吹き飛ばされながらも体制を立て直した。

 

「ってえなぁ」

 

口を拭うような仕草をして、相手を見据える。

 

「こいつの突破口を見つけ出さないとなぁ、ニャル太郎なんかわかったりしない?」

 

「無茶言うな」

 

「こういう時は先手必勝ですわ!」

 

いつものハンマーを取り出し、アールマティの方まで走り出す。

 

「なるほど、賢い!」

 

シノタロスについていくように走り出す。

 

「おい無鉄砲にい──」

 

突然ノイズが走る。

 

「ニャル太郎!おいニャル太郎ってば!」

 

東雲(あいつ)を見上げている光景が映った。

 

再びノイズが走る。

 

「……?」

 

今までの予知とは違い、少しだけ動揺した。

 

「今は、いいか」

 

不安を切り捨て、走り出した。

 

一方二人は、何もしてこないアールマティは向かっていた。

 

「隙だらけですのわッ!」

 

一足先についたシノタロスがハンマーを振り下ろす。

 

「ロケットパンチ!」

 

少し離れたところから東雲は腕を飛ばす。

 

アールマティは右手を振り上げると同時に土壁が形成された。

 

「なっ!?」

 

腕は弾かれ東雲の方に戻っていった。

 

「これで砕けないってまじかよ」

 

「これほどの、壁なら!」

 

ハンマーに力を込めた。

 

「砕けるとでも?」

 

アールマティが呟く。

 

直後壁から出てきた柱にぶつかり吹き飛ぶ。

 

「きゃぁ!?」

 

「シノタロス!」

 

後から来たニャル太郎がなんとか受け止める。

 

「大丈夫か?」

 

「おかげさまで!しかし」

 

シノタロスは壁を見た。

 

強く叩いたはずなのに崩れも、ましてや傷ついてもいなかった。

 

「これは相当、苦戦を強いられそうですわ」

 

「そうだね」

 

「気ぃ緩めんなよ」

 

「わーってるよもう!」

 

アールマティの方を見て、三人は構える。

 

風が止むと同時に駆け出す。

 

「二人ともフォーメンション、ええとデルタで!」

 

「デルタとか知らねえよ!」

 

「つまりノリですわね!」

 

「そゆこと!」

 

「適当かよ!!!」

 

東雲は真正面で間合いを詰め、拳を握り踏み込む。

 

ニャル太郎は素早く背後に周り、天高く足を上げ踵を落とす。

 

シノタロスは地面を強く蹴って高く飛び、その頭上に向かってハンマーを叩きつける。

 

アールマティはその光景に呆れ、

 

「喚くな」

 

右手を上げた。

 

理解する隙も、回避をする隙も与えずに、無数の柱が三人を襲った。

 

何もわからず三人は飛ばされた。

 

「理解しなさい、人間如きが」

 

再び指を鳴らそうとした。

 

「さ、せるか!」

 

ニャル太郎がアールマティに近づき、蹴り上げる。

 

確実に捉えたはず、なのに、

 

「ッ……!」

 

当たることはなく、虚空を蹴り上げた。

 

「聞こえなかったのですか?」

 

背後にいるアールマティが呟き、右手を引いた。

 

大きな土柱が背中にぶつかりニャル太郎は吹き飛ぶ。

 

「カッ……アァ……!?」

 

その衝撃でニャル太郎の変身が解ける。

 

「ニャル太郎!」

 

無理矢理体を動かしニャル太郎を受け止める。

 

背中で地面を削りながら、なんとかして止まった。

 

「ニャル太郎!おいニャル太郎ってば!」

 

ゆっくりと目を開け、東雲を見た。

 

「……あぁ……ここか……」

 

「な、何言って」

 

「……わ……りぃ……あと……は……」

 

電池が切れたかのように目を瞑り、ニャル太郎は動かなくなった。

 

「……おい」

 

反応はない。

 

ニャル太郎を抱いていた手が震える。

 

「……ぁあ……」

 

何も出来なかった自分を恨む。

 

その横を地面が砕ける音が響く、シノタロスが駆け出した。

 

動機は仲間が傷つけられた。彼女にとってそれだけで充分すぎる理由だった。

 

ハンマーの柄部が折れるほど強く握りしめ、アールマティに振りかぶった。

 

「よくも!よくもよくもよくも!ニャル太郎さんを!!!」

 

攻撃は壁に塞がれ、突然飛び出た柱に当たる。

 

「うっ、く」

 

よろめいたが、すぐさま体制を立て直す。

 

「こんなところで、倒れる訳にはいけませんわッ!!!」

 

再び地面を踏み締め、向かっていった。

 

「………………ッ」

 

泣くなと、言われた気がする。

 

ニャル太郎を安全な場所へと移動させる。

 

「ちょっといってくるわ」

 

それだけ言って、シノタロスの元へ急いだ。

 

何も返ってこないのはわかってるが、いつもの癖が出た。

 

一歩踏み締め、駆け出す。

 

「うあぁっ!!!」

 

吹き飛ばされていたシノタロスを受け止める。

 

「し、東雲さん」

 

「おまたせ」

 

「ニャル太郎さんは……」

 

「気失ってるだけだよ」

 

そう言うと、ホッとした仕草を見せた。

 

「ささっとあいつぶっ飛ばそ」

 

「そうですわね!」

 

ぱしんっ、とシノタロスは自分の顔を叩き前を向いた。

 

「行くぜ!」

 

合図とともに、二人が走り出す。

 

「全く、ここまで立場を理解していないとは呆れますね」

 

パンッと手を叩いた。

 

アールマティの周りにある柱が砕け、無数の土塊となり飛んできた。

 

「……そーゆうのもありかよ!!!」

 

「下がってくださいまし!」

 

放たれた土塊を全て、アールマティに向かって跳ね返す。

 

「無駄なことです、諦めなさい」

 

どれひとつ、当たることなく砕け散る。

 

「そんなっ……!」

 

「当然です、我が『神隔』では無意味に等しいのです」

 

あぁまずい、と東雲は考える。

 

これほどの実力差、なおかつバリア的なもの貼られている。

 

実力も、情報も、何もかもが足りない。

 

(……こいつを確実に殺す(・・・・・)方法……)

 

思考を巡らしたせいで、

 

「危ない!!!!」

 

シノタロスが自分を庇った。

 

瞬間。無数の柱が飛び出し、シノタロスの背中に突き刺さる。

 

「うっ!」「ぁああ!」

 

衝撃に耐えきれず、二人は吹き飛ばされた。

 

「シノタロス!しっかりしろ!」

 

シノタロスの変身が解けるのと同時に、背中から大量の砂が漏れ出す。

 

「……あぁ……ぶじ……で……よか……」

 

糸が切れたように意識を失った。

 

「……ッ」

 

二人がやられたのは、自分(・・)のせいだ。

 

もし自分が攻撃を与えていたら、もし自分が思考を巡らせなければ、もし自分がもっと強ければ。

 

きっと、こうはならなかったかもしれない。

 

「!」

 

落ち込む暇さえ、この空間では許されない。

 

飛び出してきた柱に当たり、体が宙を舞う。

 

「ガッ、ハァッッ……」

 

地面に叩きつけられ、変身が解ける。

 

「まだ……動ける……」

 

自分に言い聞かせるように呟くが、体が動かない。

 

それに立ったところでまたねじ伏せられる、結局同じことの繰り返しだ。

 

「これで充分わかったでしょう」

 

所詮は人間、神には勝てない。

 

この程度だと理解(わから)せられた。

 

結局のところ、自分はここまでなのだと。

 

倒れた二人にかける言葉も権利も、今の自分にはない。

 

己の無力さを実感し、絶望する。

 

「……ご……めん……ふたり……とも……」

 

意識を手放す瞬間。

 

 

────起きろ。

 

 

“誰か”の声が聞こえた。

 

その声に起こされるように、ゆっくりと立ち上がる。

 

まだ動ける、体が悲鳴をあげても、四肢がもげようと。

 

この殺意が、この怒りが、自分を動かす理由になるならば。

 

こんなところで立ち止まるわけにはいかない。

 

「まだ動くのですね」

 

冷たく言い放たれたその言葉に反応するように顔を上げる。

 

「負けず、嫌いなんで」

 

吐き捨てるように言う。

 

「認めなさい、人間はその程度だと」

 

確かに、実力も何もかも、目の前の奴には天と地の差がある。

 

「だからなんだよ」と吐いた血を拭い、口角を上げる。

 

「大人しくこちらの言うことを聞けば良いものを」と指を動かした。

 

直後地面から出てきた岩に直撃する。

 

「ゴハッッ!!?」

 

体が吹き飛ばされる。

 

なんとかで踏み止まったが、痛みに耐えきれず血を吐く。

 

このままだと確実に意識が飛ぶ。

 

「……一か……八かッ……!」

 

残された手はこれだけ、それに全てを賭けた。

 

左手でアホ毛を握る。

 

アホ毛を握った瞬間、頭の中に言葉が流れる。

 

 

「──己の夢を追い、己の理想を(えが)き、己の現を壊せ」

 

 

それを合図に、アホ毛を引いた。

 

眩い光が周りを包む。

 

光が晴れると、そこには一人の人間が立っていた。

 

閉じていた目は開き、相手を見据える。

 

「さァてと、復帰戦(第二ラウンド)だ」

 

先程との口調とは違い好青年な雰囲気、しかし明確な殺意と怒りが感じられる声色。

 

パーカーのポケットから黒と白と橙のボトルを取り出す。

 

ボトルをドライバーに突き刺し、レバーを左に引く。

 

〈感情認証:成功 人格認証:成功 変身:可能〉

 

無機質な声が告げる、東雲の幻想屋(本来の自分)()れと。

 

「──変身ッ!」

 

レバーを右に引いたと同時にブザー音が鳴り響く。

 

黒と白と橙(三本)の光が“クラウドドライバー”から飛び出し、東雲の幻想屋を包む。

 

光が消えると、そこに転生者(ライダー)が立っていた。

 

橙色の鬼の仮面に黒い甲冑、背中に白いマント。

 

兜の部分は日輪と月、そして雲の立物が装飾されていた。

 

「再生せよ、ボクの最強武器(黒歴史)

 

ドライバーに刺した黒いボトルをを抜く。

 

キィン……と耳をつんざく音があたりに響き渡る。

 

黒いボトルだったはずのものは黒く光る刀になり、柄の一部が銃のグリップのような形をしていた。

 

感情(モード):選択要求〉

 

無機質な声が問いかける。

 

頭に流れ込む“殺意”と“怒り”の文字。答えは出ている。

 

「……怒り(ぶっ殺す)

 

〈承認 感情(モード)(暴走)

 

ドクンッと、心臓が鳴る。

 

一瞬の静寂。

 

その静寂を砕くように、地面を蹴り上げる。

 

──目の前の(てき)を排除しろ。それだけだ。言葉は不要。慈悲は無用。肺が破けようと、骨が砕けようと、命が尽きようと、目的を果たせ。

 

──殺せ。己の意思のままに。

 

速度を上げ、地面を踏み込む。

 

同時にアールマティが拳を握る、東雲の幻想屋を囲うように壁が形成される。

 

壁は東雲の幻想屋を捉え、押し潰した。

 

「やはり、所詮は」

 

はずだった(・・・・・)

 

突然壁が壊れ、中から何かが飛び出た。

 

速度を落とさずに、獲物に向かって真っ直ぐと。

 

── 必要な思考は殺意。余計な思考は捨てろ(殺すことだけを考えろ)

 

地面を踏み込み、加速する。

 

「獣が」

 

指を鳴らすと、地面が割れた。

 

そのまま落下したが即座に断崖の部分を駆け上がり、地上に到達する。

 

到達と同時にもう一度踏み込み、高く飛ぶ。

 

──いける。

 

刀をライフルのように構える。

 

マガジンに白いボトルを装填し標準を合わせる。

 

〈標準固定:完了〉

 

無機質な声が応えるのと同時に空は闇になる。

 

〈発射〉

 

引き金を引いた。

 

月光砲(ライトライト・キャノン)

 

直後。銃口から轟音と閃光が放たれた。撃った衝撃で体は後方に吹き飛び、そのまま墜落した。

 

その閃光は月のように輝きながら、アールマティに向かってゆく。

 

「そんなものは我の前では無意味である」

 

笑みを浮かべ、指を動かす。

 

壁が出現しアールマティを守る。

 

放たれた閃光は壁を打ち砕くことなく、消えた。

 

「言っただろう、無意味と」

 

ぱらり、と欠片が落ちる。

 

それを合図に壁が一気に崩れた。

 

(馬鹿な、今まで崩れることも、傷つくこともなかったはず)

 

その事実に、一瞬動揺をした。

 

しかし、動揺は漂う殺意の気配によってすぐに消えた。

 

倒れていた東雲の幻想屋はゆっくりと起き上がり、武器を構えた。

 

──感覚はわかった。

 

そして余計な思考を切り捨てた。

 

息を整え、駆ける。

 

二十メートル(一歩目)十五メートル(二歩目)十メートル(三歩目)と距離を詰める。

 

五メートル(四歩目)を踏み締めようとした時。

 

アールマティが手を引いた。

 

その行動に応えるように地面から複数の柱が囲うように飛び出る。

 

回避は間に合わない、なら。

 

マガジンから白のボトルを取り出し橙のボトルを差し込む。

 

〈装填:完了〉

 

──斬るのみ。

 

日暈斬(サンシャイン・スラッシュ)

 

刀を一振した瞬間、刀から閃光が出る。

 

その閃光が空間を切り裂いたかのように暗い空が明けた。

 

飛び出た柱に斬撃が襲い、崩れ落ちる。

 

刀を構え、再び地面を蹴りあげる。

 

──この距離なら、今度こそ確実に。

 

刀を振りあげる。

 

「……ふっ」

 

アールマティが笑う。

 

地面から無数の柱が飛び出し、東雲の幻想屋の腹部に直撃する。

 

十五メートルほど吹き飛ばされ、地面を転がり、そのまま動かなくなる。

 

「獣ごときが、我を捉えたとでも思っていたか?」

 

当然の結果だ、と思った瞬間。

 

ゆらり、とその体が起き上がる。

 

(あれほどの攻撃を受けて、まだ動くのか)

 

悲鳴すらもあげない“それ”に不気味さをも覚えた。

 

今一度呼吸を整え、東雲の幻想屋は相手を見る。

 

刀をドライバーを差し込む。

 

〈装填:完了 起動準備〉

 

地面を蹴りあげる。

 

目の前の敵に向かって走り出す。

 

壁に押し潰されそうになれば、地面を踏みしめさらに加速。

 

地面が割れても割れた崖から崖へと飛び、地上に飛び出る。

 

岩を飛ばされても、全て殴り捨て駆ける。

 

柱が飛び出て、回避が間に合わず当たっても。

 

立ち止まるな、と心に叫ぶ。

 

──己の怒りを。

 

全身に黒い炎を纏う。

 

──己の意思を。

 

地面を踏みしめ、翔ぶ。

 

──貫け。

 

標的に向かって、一直線に。

 

「少しだけ、本気を見せてやろう」

 

カツンと、爪先で地面を叩く。

 

その一瞬、時間が止まったかのように静まり返る。

 

直後。無数の土の塊が東雲の幻想屋を囲む。

 

それを見た瞬間、理解する。

 

──あ、無理じゃね?

 

同時に思考が遮断される。

 

静寂。静寂だけがそこに残る。

 

東雲の幻想屋は、アールマティが作り出した山の中に埋まった。

 

駆けることも、避けることも、できなかったのだ。

 

「我が救済を受け取れば、こんなことには」

 

斜面を降りるように小石が転がった。

 

山に、亀裂が入る。

 

亀裂は広がり、そして、

 

八熱地獄(インフェルノ・キック)

 

黒い閃光が山を打ち砕いで真っ直ぐとアールマティに向かって突っ込んできた。

 

その蹴りはを捕らえた、はず。

 

「……ッ!」

 

軌道がずれそのまま体制が崩れ崖側まで転がる。

 

それでもなお、意思は折れなかった。

 

──まだ、動ける。

 

体を無理矢理立たせた直後。

 

〈解除〉

 

無機質な声が告げた。

 

体が光り、変身が解ける。

 

「アァ……ァ゛……ァア゛……」

 

激痛が身体中を走る。

 

原因は積み重なる負荷(ダメージ)

 

痛みは怒り(暴走)に飲まれて感じてはなかった。

 

しかし、体はすでに限界を迎えていた。

 

「……まじ……か……」

 

変身が解けたことより、その後のことに驚いた。

 

音が完全に聞こえなくなった(・・・・・・・・・・・)

 

(右耳ならともかく……両耳聞こえないのはまずい……)

 

アールマティは依然としてそこにいる。

 

(どうにか……この状況を……!)

 

思考を動かす瞬間、視界が上がる。

 

「……ぇ」

 

視界を落とすと、地面がひび割れていた。

 

ズシリ、と崩れ落ちた。

 

「ぁ、べ」

 

動くことも出来ぬままそのまま落下する。

 

手を伸ばしたところで、掴んでくれる人はいなかった。

 

(……あぁ、そっか……)

 

アールマティが見えなくなった途端、殺意も怒りも消え失せた。

 

(……結局、ボクは……)

 

澄み渡る青空を見て、微笑む。

 

 

「──ごめん、二人とも」

 

 

目を瞑り、全てを受け入れて。

 

着水した。

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