見慣れない天井がある。
「……ん?」
体を起こし部屋を見渡す。
窓から朝の日差しが差しこめていた。
「……ここは……てか……ボク今まで……」
記憶を巡る。
確か慈愛の神って名乗ったアールマティにボッコボコにされたはず。
……………………………。
「はぁああ!!!思い出した!!!!あのクソッタレファッ○ン[放送禁止用語]クソ野郎女ァ!!!今度こそぶっこイタタタタタ!!!!!」
立ち上がった衝撃で骨という骨が悲鳴をあげ始める。
「痛い痛い!?!?!?あぁめっちゃ痛い!?痛い!!!」
あまりの痛さにベッドから落ち、床を転げ回った。
勢い余ってベッドの足にぶつかる。
「ふんげっ!?いてて、て?」
左耳に意識を集中すると、音が聞こえないことに気づく。
「まーじか」
いやなんとなく、こうなるなとはわかっていた。
二度目の変身で右耳が聞こえなり、二人にバレないように過ごしていた。
そしてあの時の変身中、すべての音が聞こえなっていた。
気づいたのは変身が解けた後だったけど。
ため息をつき天井を見る。
「……まあ片耳なら安い方か」
気持ちを切り替え体を起こす。
「うぐっ、流石にまだ直ってないわな」
「そうですよ、怪我人はベッドで寝てください」
柔らかい口調の男性が答える。
声の方に振り向くとそこに白いシャツに黒いスラックス、黒髪で後ろを結んでいる男が両手に食事を持って立っていた。
「命に別状はないですけど、悪化する可能性もあるので安静にしてくださいね」
「は、はぁ」
服装から見て医者ではない、けど妙に安心感がある。あと食事が美味しそう。
「ただ左耳の聴覚に関しては原因不明なんですよね」
「……あんらま」
「一応お医者さんに見てもらったんですけどね、まっ左耳以外は大丈夫ですよ」
「さいですかぁ……」
生きてるだけでも御の字、逆によく生きてたなと思えてきた。
「にしても、何をどうしたらあんなボロボロになるんです?」
「ええと、神に喧嘩売りました」
「……なんて?」
「あの、そのまんまの通りです」
「なるほどね、なんだか東雲さんらしいですね」
「それってどういう、ってなんで名前知ってるんです?」
「あぁ、名乗り忘れてましたね」
机に食事を置き、「こほんっ」と咳払いをする。
「初めましてと言っときますか」
手を広げた後、左手を出してきた。
「どうも、
「エア……リアル……さん……!?」
その言葉を聞くと条件反射で頭を床にぶつける。
ベコッ、と床が凹む音が響いた。
「この度は!!!!大変失礼な態度を取りまして誠に申し訳ございませんでしたぁ!!!!」
「……わかってたんですけどそれ毎回やるんですね、怪我が悪化するんでやめたほうがいいですよ」
「まさかこんなところでTLの平和の象徴に会えるなんて、光栄ですわぁ」
「聞いてないし、えっ待って自分そんなふうに思われてたんですか?」
「違うんですか」
「その、曇りなき眼で見られると、なんというべきか」
「TLの良心なんですから自信持って!」
「……後々色んなところで響きそうだ……嫌な方に」
首を傾げる東雲の幻想屋をさておき、Airealは口を開く。
「何はともあれ、朝ご飯でも食べてください」
「ありがとうございます!いやあお腹ペコペコなんですよ〜!」
久しぶりの朝ご飯な気がする、めっちゃ美味しい。
「でしょうね、なんせ丸三日寝てたんですよ」
「ング!??グエッゴホッッ!!!」
衝撃的な事実に喉を詰まらそうになりながら、飲み込む。
「丸三日!?あっごちそうさまでした!おいしかったです!」
「ゆっくり食べてていいんですよ……」
やれやれ、と言う顔しながら口を開く。
「それで、神様と喧嘩売ったって具体的には何したんです?」
「……ドチャクソに煽りました、やーいクソニートって」
「はぁ、ある程度はわかりました、そんなに落ち込まないでくださいよ」
自業自得では、と目が語っていたのは突っ込まないでおく。
「意味わからんくらい強かったんだわ、まじで神って感じがしてぶっ殺したくなった」
「東雲さん、神様嫌いですもんね」
「嫌いって言ってもボクのは人間の都合的なやつだから神から見たらなんやお前ってなると思うけど、まあボクはクッッッソ嫌いだけどね」
「なんでそんなに嫌いなんですか?」
「神は法則なんですよ、どっかのブログで言ってたのが腑に落ちちゃって」
「はぁ」
今になってようやく気づく。
確かに神は大嫌いだ。しかし
あの殺意は、もしかして自分の意思とは別物なのか?
「あの殺意、まじでなんだったんだろ」
「あの殺意?」
「見た瞬間、頭の中がその神を殺すことだけを考えるようになっちゃって」
「ふむ、その神様の名前は?」
「『慈愛』の神アールマティって名前なんですけど、聞いたことあります?」
「いえ、聞いたことないですね」
「さよかぁ、それで話を戻すとそのアールマティを見た瞬間頭が怒りとか殺意に飲まれちゃって、その、勢いで煽ってしまって」
「なるほど、その殺意の感覚はとやらは初めて聞くな」
「エアさんはなんか知らないんですか?」
「自分も
「帰る方法、は見つかってないですよね」
「見つかったらすでに帰ってると思うんですけど」
「残された者達にメモかなんか残して、Airealの秘宝っぽくしてくださいよ!」
「誰がそんな秘宝欲しがるんですか、いや帰れるなら秘宝にも頼るか」
「せやぞ、現にボクがそうですからね」
胸を叩き、骨を痛める。
ん?と思い出したかのようにAirealに質問をする。
「エアさんってなんでボクのこと知ってたんです?今日が会ったのが初めてですよね?」
「あぁ、自分転生してからずっと旅してたので、たまたま寄ったところに東雲さん達を見かけまして、ちょっとデータを」
どこからともなくタブレットを取り出し見せつけてくる。
「……大丈夫?忠誠誓う?」
「誓う相手がいません」
「そりゃそうか、じゃないわ、なんで声とかかけてくれなかったんですか!」
「タイミングちょっと合わなくて、あの時180チーフと一緒にいたでしょ?」
「あの時からいたの!?全然気づかなかった」
「シノタロスは気づいてたみたいですけどね」
「そうだったのか……ん?あれ?二人は?」
「見つけた時は貴方一人でしたよ」
「それじゃあ」
二人はまだあそこにいる。
クソデカいため息を吐き、立ち上がる。
「ゴボァッッッ」
立ち上がった衝撃で骨が痛む。
「急に動くと体に響きますよ」
「いやでも……オ゛ッ……」
ばたりと体が倒れる。
「寝てたほうがいいですよ」
「そうしたいのは山々なんですけど……二人を残してるので……」
三日も寝ていれば体力も落ちるか、と考え無理矢理体を起こす。
「こうしてるうちに二人になんかあったら、嫌だし」
「でしたら一緒に行きましょう」
「ほんとすか!?」
「準備が終わったら下に来てください」と言い残し部屋を出た。
やはりTLの良心。
そうと決まれば早速準備をする。
重たい体を起こし畳んであったパーカーを手に取る。
「あらやだボロボロじゃん」
あの時の戦いで破れたのか、所々穴が空いていた。
「仕方ない、腰に巻いとくか」
パーカーを腰に巻こうとして、鏡を見る。
「ん?」
鏡に近づき、そして異変に気づく。
鏡を見てもずっと閉じていた目が開いていた。
それだけなら気に留めなかったのだが。
「……ボクの目の色ってこんな感じだっけ……」
右が白、左が橙、さらに目の中央に星形のマークが入っている。
「まいっか、オッドアイもオサレだし!」
転生の影響で多分目の色が変わったんだろう、そう思うことにした。
今まで開かなかったのがちょっと気がかりではあるが、特に考えないことにした。
「よし、いい感じいい感じ」
身体中の包帯がいい味を出してるように思えてきた。
身だしなみを整え、一階に向かった。
一階に降りるといつもの図書館、ではなくどこかの洋館のホールだった。
「どこだここ……」
「ここはオリュンポスの屋敷ですよ」
ソファーに座ってタブレットを見ていたAirealが答える。
「オリュンポスの屋敷?」
首を傾げる東雲の幻想屋を見て、Airealはタブレットの時計を見て再び目線を戻す。
「……なんですかそのTシャツ」
「え、ショタTですけど」
自慢げにTシャツを見せつける。
「だ……なんでもないです」
「今ダサいって言おうとしました?」
「いえ、そんな事は」
「ボクのことはダサいって言ってもいいですけど、ショタTをダサいっていうのは許しませんからね!」
「そこ?」
「そこ」と真顔で答える。
「はぁ、準備できたんですよね?」
「はい!早速二人を探しに行きましょ!」
外に出ると、前の町とは違い活気あふれる雰囲気が漂っていた。
Airealに案内されながら大通りを歩く。
街の中心に行くと大きな塔があり、異様な存在感を放っていた。
「あのクソでかい塔なんです?」
「ギルドですよ」
「ギルド?ギルドってRPGとかに出てくるあの?」
「それ以外にあるんですか?」
「いやその、これのせいで世界観が……」とドライバーを取り出す。
「あぁ、まあ」
「ファンタジーな世界なんだろうけど、これが雰囲気ぶち壊してなんとも」
「多分一番言っちゃいけないやつですよそれ」
「そういうの気になるタイプでさぁ、突っ込まずにはいられない体質なのよねぇ」
全く困った体質だ、と吐き捨てながらギルドを通り過ぎる。
「あれ、ギルドに寄らなくていいんですか」
「この手のパターンは大体の確率で転生者はおらんとみた」
「東雲さんってたまに確率がどうとか言いますよね」
「確率は裏切らない、失敗率三パーセントを許すな」
「私怨が出てる……」
アホ毛が怒りの炎でもえそうになるのを抑えながら、歩いていく。
「にしても、どうしてドライバーなんてものがこの世界に存在するんでしょうかねぇ」
「どうしてって、転生した時にもらえる物みたいなものじゃないんですかね」
「いや普通はやたらクソ強い魔法とか能力でしょ、なんでこんな現代モノゴリゴリなんだろうなぁって」
ドライバーを眺めながら呟く。
「異世界転生モノってなんか神的な存在が現れてなんやかんやしてくれるんじゃないの」
「あれ?東雲さんってあの人に会ってないんです?」
「あの人?」
「えぇ、神様ですけど」
「………………あぁ?」
「そんなに嫌そうな顔しないでください」
「いやだって嫌いだし……てか神ならあったし……」
「じゃなくて、転生する時に会いませんでした?すごく美人な人」
「生憎最初にあったのは暴力と暴言がお得意な
まさかあいつが神な訳あるまいし、と思いながらAirealに問いかける。
「会ったって言いましたけど、具体的には?」
「魔法もらいましたけど」
「……はぁ?」
異世界転生物にはお決まりの単語が出てきて思わず混乱した。
「今まで特撮的なノリだったのに、ここにきて急にファンタジー要素が出てきたな」
「しばらくはその魔法使ってたんですけど、突然黒スーツの男性が現れてこれを渡してきたんですよね」
どこからともなくドライバーを取り出した。
赤と黒を基調とされた色合いで、片方にスロットのようなものがある。
具体的には2009年から2010年の日曜の朝に流れていた某ライダーのドライバーに非常に似ていた。
「それ、ロス──」
「はい」
それ以上は言わないでください、と雰囲気を出しながらドライバーをしまった。
「でも魔法なんてものがあるのになんでドライバーなんて物を」
「そこなんですよね、聞いても全然答えてくれなくて、目を離した瞬間いなくなったんですよね」
(……リチャードさんだ……改めて思うとめちゃくちゃ怪しいなあの人……)
「ドライバーもらってからはずっとこれで戦ってますね」
「せっかくもらったんですから、魔法と同時に使えばいいじゃないですか」
「東雲さん、魔術と超能力を同時に使ったらどうなると思います?」
「アッ、はいそういうことっすね」
「そういうことです、いやあ使った時は死ぬかと思いましたよ」
どっかの小説か何かで“魔術と超能力の掛け持ちは理論上不可能“と書いてあったのを思い出す。
おそらく魔法と仮面ライダーの能力の掛け持ちは理論上は無理なのだろう、と思ったが。
「ん?でもそしたら変身するたび吐血してるんです?」
「同時にですので、変身中に魔法を使わなければなんともないですよ」
「あぁなるほどね、ちなみに同時に使ったらどうなったんです?」
「……聞かないでください」
目から光が消え、優しい笑みから無表情に変わった。
「あぁ、はい」
めちゃくちゃ気になるが多分ろくなことにならなかったのだろう。
「あの魔法、確かに強いんですけどなんせ副作用が強くて」
「え、使うたび味覚失うとか?」
「それどこの明日のパンツを探す人ですか、ほらいきますよ」
「違うのかぁ」
少し残念に思いながら、後をついていく。
(でも魔法やらドライバーやら、なんでこんなものを渡す必要があるんだ?)
あぁアールマティのようなやつと戦うためだったら必要か、と思った時ふと気づく。
(……いやなんでそんな必要がある?そもそもあんな格上の相手と戦う必要なんてあるのか?)
あの時の殺意も含めて、この世界はおかしな点が多すぎる。
(なんだろう、何か、あと何か確証に至る情報さえあればこの異世界の、いやボクらの転生した理由に繋がるはず……)
「東雲さん?」
「ワギャァ!?は、はい?」
「呼んでも反応なかったんで、どうしたのかと」
「あ、あぁすみません、ぼうっとしてまして」
「大丈夫です?やっぱり寝てたほうが」
「大丈夫大丈夫!体動かしたいし!」
「ならいいんですけど」
気がつくと街の門まで出ていたようだ。
しばらく歩き森の中に入ったあたりでAirealが口を開く。
「ここら辺ならいいかな」
ドライバーを握り、「召喚、エアロカレン」と呟く。
上空に魔法陣が現れ、鉄の竜が降りてきた。
〈おかえりなませマスター お初にお目にかかりますマスターのご友人様〉
機械的な声を出し、東雲の幻想屋に話しかける。
「せかいかんこわれりゅ」
「いや竜ですのでギリギリファンタジーですよ」
「そういうことじゃないんだわ、急に戦闘機みたいなの出てきてびっくりだよ」
「一応バイクにもなりますけど、やっぱ空飛んだほうが速くて」
「そうだね速いね、世界観考えようね?」
「ドライバー出てきてる時点で世界観もクソもないと思うんですけど」
「そうだね自分が言ってたからごもっともだわ!」
ツッコミのし過ぎでそろそろ肺が痛くなってきた。
「なんだろ、バギーと戦闘機ときたら次はロボット来そうだな」
「ちょっと見てみたいな……五十メートル超えの音速の挙動の
「はいはい科学の話は一回置いときましょうね」
頭を掻いてエアロカレンの方を見る。
こちらの視線気づくとエアロカレンも目線を合わせてきた。
「んで、この子がエアさんのバイク的な存在?」
〈初めましてご友人様 当機体はエアロカレンと申します〉
「あぁ初めまして、東雲の幻想屋です」
〈登録いたしました 以後よろしくお願い致します〉
お辞儀のように頭を下げるそぶりを見せた。
「うーん、メイド服着てそうな雰囲気だ」
「勝手に着させないでください」
「でも戦闘機かぁいいなぁ」
「東雲さんにもバイクはあるでしょ?ほら水上ボートになる」
「あるけど、あれシノタロスいないと使えないし、それにボク単体だとなんか出せないんですよねぇ」
「一応呼んでみたらどうでしょうか」
提案してくれて断るのもなんか気がひけるので、“クラウドドライバー”を天高くかざし、「
「とまぁ、こんな感じでなにも来な──」
突然ドライバーから白い煙が吹き出した。
「おああああ!?なんだ敵襲か!?」
「ここら辺はモンスターもそんなにいないし明かにドライバーから出てますよ!」
数秒後に煙はなくなり、目の前に見覚えのあるバイクが現れた。
「………………………………」
橙色の塗装が施されており正面の部分は狐の顔がつけられていた。
震える手で頭を撫でてみたりするが反応はない。
間違いない、これは中身のない
「…………ごめんエアさん」と振り向き、「カレンちゃんに乗せてもらってもいいですかね、ボク免許持ってないんで」と声をかけた。
「いいですけど、あの」
「いやぁこの歳になっても免許のひとつも持ってないのはさすがにまずいですねぇ」
雲ひとつない空見ながら呟く。
「……大丈夫ですか?」
「えぇ?大丈夫ですよ?全然動けますし、なんか体の痛みが全部ひいちゃったっていうか」
感情もなにもこもってない声で続ける。
「なんか吹っ切れちゃったていうか、完全に目覚めたというか、はははははっ」
ため息をつき頭を掻く。
「なんか変だな、
「やっぱり、やめときます?」
「いやいける、多分久々の外でテンション上がってるだけだと思う」
「なら、いいんですけど」
「ごめんなさいねぇ、現代でバイクの乗り方くらい覚えとけばよかったわ」
再び白い煙が現れ、その煙は“クラウドドライバー”に吸い込まれていった。
(この煙、シノタロスの変身中に出てきたやつによく似てるなぁ)
「東雲さん乗らないんですか?」
「乗る乗るー、ファーストクラスでお願いします」
「全席エコノミークラスとなってます、文句は受け付けていません」
「はーい」とエアロカレンの背中に乗った。
「とりあえず東雲さんを見つけたところから寄ってみますか」
「そしたらそこから川を伝ってもらっても?落ちる時水に落ちたので」
「了解です、エアロカレン」
〈承知 安全運転かつ迅速に〉
鉄の翼を開き、ジェット機から火を吹き上昇した。
「掴まっててくださいね」
「えっ」
ゴォオン、と音を立て空を駆けた。