フォロワーファンタジー ー小豆味ー   作:ニャル太郎

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ほらお色気シーンだぞ、喜べよ

はるか昔、ここは名のある秘湯だった。

 

旅人や冒険者の癒しとして有名だったが、モンスターの増加や環境の変化によって秘湯は枯れ荒地に成り変わってしまった。主にロックシャークが原因なのだが。

 

水脈を食い荒らし、地形を変形させ、いつしか人を寄せぬ荒地へと変えてしまった。

 

ロックシャークの(ネスト)も現れ、いよいよ手がつけれらなくなっていたところに苦瓜と旅行気分の一同が無事討伐。

 

晴れてここは、名のある秘湯に戻ったのだ。

 

「〜♪」

 

橙色と紫色が交わる空の下。

 

硫黄の匂いに混じって、ご機嫌な鼻歌が風に乗る。

 

源泉の雨が身体を癒す。ボロボロの身体に秘湯のお湯が染みゆく。

 

肌を撫でると手触りの良い感覚が伝わる。秘湯の効果だろうか。

 

回復効果と美容効果が混じった最高の温泉を引き当てたな、としみじみ思う。

 

ここしばらくシャワーで済ませていたためか、身体に溜まっていた疲れが滲み出ていくのが全身から伝わる。

 

灯りは僅かな夕日と、持ってきていたランタンのみ。

 

揺れる仄かな光がどことなく、そういう雰囲気を演出していた。

 

草木の間から見える艶やかな肌色。白い湯煙がが視界を阻む。

 

徐々に湯煙は晴れて、そこで見えたのは──。

 

 

「美人な女性かと思ったぁ〜〜〜???ざぁんねぇんボクでぇ〜〜〜す!!!」

 

 

東雲のさほど鍛え抜かれていない腹筋だった。

 

「と、いるはずもねえ覗き魔に向かって煽り散らかしたところで意味なんて無いんだけどさぁ」

 

物音が聞こえたから振り向いて見たら、ただの小動物なんてよくあること。

 

肩まで浸かりなおし、再び温泉タイムを楽しむ。

 

「にしても、近くに川あって良かった」

 

万が一の為に男の自分が先に温泉に入って正解だった。

 

最初に入った瞬間、片足が溶けたかと思うくらい熱くて三十分は転がっていた。片足を引きずりながら小さい川を作ってやっと入る温泉は格別。

 

湯加減も丁度良くてこれなら女性陣も安心して入れると、そのまま顔半分沈んでいった。

 

「東雲さーん、湯加減どうでしょうかー?」

 

「きゃー!?!?!?」

 

突然聞こえてきたシノタロスの声に驚き、身体が飛び跳ねる。危うくモザイク補正が入るとこだった。

 

「びびびび、びっくりしたぁ!」

 

「すみません、かなり時間がかかってたので心配して見にきてしまいました」

 

「え、そんなに時間かかってた?」

 

「もう二時間半もかかってますわ!」

 

「あららだいぶ長風呂してたのか、ごめんごめん」

 

「……もしかして変身しました?」と畳んである服の横に置いてある“クラウドドライバー”を横目に問いかける。

 

「シ、シテナイヨ」

 

小さな川作るのにちょっと変身したなんて口が裂けても言えない。

 

「ですわよね、そもそも変身のしすぎは身体によくありませんもの。東雲さんがよくわかっていますものね」

 

「ソウダネ」

 

「ともかく何もないならよかったですわ!着替えとタオル、ここに置いときますわ!」

 

「ありがとう、ってニャル太郎じゃないんだ」

 

いつもはニャル太郎が服を投げ込んでくるので、シノタロスが持ってくるのは割と珍しい。

 

「ん?ニャル太郎さんは女性ですわよ?」

 

「え?君も女の子でしょ?それにこういう場所には……」

 

東雲の口が止まった。ギリギリ大事な部分は隠れているとはいえ今は全裸。

 

そして、シノタロスの頭から煙が出ていることに気づく。

 

「あ、いや、そのね?」

 

「へ、変態ですわー!!!」

 

「まってなんでそうなぐべあっっっ!?」

 

いつものハンマーの小型版が東雲の顔にクリーンヒットし、そのまま温泉の底へ沈んでいった。

 

・ー・ー・

 

「悪い、オレの言葉たらずが問題だった」

 

「いえワタクシの察しの悪さが問題ですわ……」

 

目頭を抑えるニャル太郎と正座するシノタロス。

 

「何があったんです?」

 

「日本語の事故だよ……」

 

焚き火の近くで肉を焼く苦瓜と髪を乾かす東雲。おでこに赤い跡がついているのは内緒。

 

「確かに服を渡してくれとは言ったけど、直接渡せとは言ってないんだよなァ……」

 

「えぇ……わかっておりましたとも……でも直接渡さないと動物さんたちにとられてしまうかと思いまして……」

 

「……あぁ……」

 

「いや納得するんかい」

 

「ここら辺はロックシャークの他に凶暴なモンスターが多いんですよ、服が食べられてもおかしくはないかと」と焼けた肉を東雲に渡す。

 

「そうなんだ……」と受け取り、「いっただきまーす」と齧る。

 

「ん!おいしい!」

 

「ふふっそうでしょう、半年も一人暮らししていたら慣れるものです」

 

「……半年もいたの!?」

 

「はい、突然綺麗な女性の方が現れて、なんかまほう?みたいなのもらったんですけど」

 

やっぱり会っているのか、例の神様的なやつに、と東雲は眉を顰める。

 

そんな顰めっ面を気にせず苦瓜は続けた。

 

「オリュンポスの屋敷で、このドライバーとロックシードを見つけたんです」

 

戦極ドライバーとゴーヤを模したロックシード、通称LSー58ゴーヤロックシードを見せる。

 

「アタッシュケースに入ってて、メモに“苦瓜様へ、貴方様が希望するドライバーを発注いたしましたのでどうぞお使いください”って書かれてました。頼んだ覚えないんですけどね」

 

(リチャードさんだ……)(リチャードじゃねえか……)(リチャードさんですわ……)

 

ほんとに何者なんだあの人、と三人が空を見上げる。夜空に混じってサムズアップするリチャードが映ったように見えた。

 

「でも怪しくないか?名も知らない相手からの贈り物なんて」

 

「正直すごく怪しいかったですよ、でもドライバーって書かれてつい……」

 

「開けちゃったんだ」

 

「はい、戦い慣れるまで大変でしたが、慣れると戦いやすくて」

 

「モンスター狩れるとお金稼ぎ捗るもんねぇ」

 

「そうなんですよ、おかげでギルドから色々頼られちゃって大変ですけどね」と肉を頬張る。

 

異世界(こっち)の人間達はこのドライバー見て怪しいとか思わねえのかな」

 

「鍛冶屋のおじさん方に見せてみましたけど、興味津々でしたよ。“これは神からの授かり物か?”って」

 

ピクリと三人がその言葉に反応した。

 

「神からの、授かり物」

 

「確かにそう言ってました」

 

三人は互いの顔をしばらく見つめ合う。

 

もしこのドライバーが本当に神からの授かり物ならば、アールマティ()に対するあの殺意は一体なんなのか。

 

そもそも神自らが人間に授かり物なんて送るのか、それも自分達に殺意を向ける転生者にこんなものを渡すのかと頭の中に駆け巡った。

 

「?、どうしたんです?そんなに見つめ合って」

 

「あぁー、ええと、実はね」

 

一週間に起きた話。

 

地母神アールマティとの対決、そして敗北。

 

その戦いの中で現れた神に対する殺意。

 

『神圧』と『神隔』の存在。そしてその二つは転生者(自分達)には効果がないということ、あくまで仮説ということも付け加えて、もろもろ全て洗いざらい話した。

 

「……なんか、ニチアサの中盤の終わりあたりに出てくる話になってきましたね」

 

「うわなんかそれっぽく聞こえてきたわ」

 

いやミーム汚染かよ、とツッコミをしたくなるのを黙って聞くニャル太郎、その隣で聞き覚えのある鼻歌を歌いながら肉を焼くシノタロス。

 

「しかし神様が存在する世界ですか、ほんとにファンタジーですね」

 

「そうだねえ、ファンタジーって優しいカテゴリで片付けられる話じゃなくなってきたけど」

 

「う〜ん、難しい話はJKにはわからない」と頭を抱えた。

 

「わかる、こういうでかい話は頭が痛くなる」と同じく。

 

「……はぁ」と溜息を漏らし、目頭を抑えるニャル太郎。

 

パチパチ、と火の粉が舞い上がりしばらくして、「上手に焼けましたわ〜!」とシノタロスが肉を掲げる。

 

「わからないのであれば今は端っこに投げて、お風呂にしましょう!」

 

「私も入ろうかな、今日の戦闘でちょっと疲れてしまった」

 

「でしたらタオルお貸ししますわ!たっくさん持ってきたので!」

 

登山用か?と言われてもおかしくない大きさのリュックを開けると、中から大量のタオルと着替えが出てきた。

 

「いいんですか?」

 

「もちろんですとも!予備はたくさんありますので!」

 

「ではお言葉に甘えます」

 

「じゃあ行くか」と立ち上がり、温泉へと足を運ぶ。

 

「逆ですよ」と苦瓜は逆方向を指さした。

 

「…………………間違えた」

 

「もう、こっちですわ」

 

「へいへい」と目頭を押さえる。

 

二人を見送ったの後、苦瓜は何か思い出したようにリュックから予備の着替えとお香を取り出した。

 

「それは?」

 

「モンスター除けのお香です、虫除けスプレーみたいなものだと思ってください」

 

「進化前の個体にもたしたら進化するアイテムですか?」

 

「違います」

 

「ですよね」

 

「東雲さんは火の番をお願いします、お香があっても焚き火が消えるとモンスターが近寄ってくる可能性があるので」とお香に火をつけた。

 

「はーい」

 

「もし彼らが近寄ってもくれぐれも変身なんてしないように、ね」と釘を打った。

 

「……はい」

 

バレてーら、と頭を掻く。

 

「何かあったらちゃんと呼んでくださいね」

 

「わかりました、お風呂楽しんできてね〜」

 

苦瓜を見送り、言われた通り火の番をする。

 

焚き火の匂いと混じって、ふんわりとお香の爽やか香りが漂い始める。

 

「……やっべ寝そう」

 

火の番を任されてる人が今一番言ってはいけない発言は、焚き火の音と木々の揺れる音でかき消された。

 

・ー・ー・

 

「なーんか、ひっさびさに湯船に浸かった気がする」

 

「異世界で温泉なんて、粋ですわぁ」

 

「身体に染み渡る……これが秘湯……」

 

温泉上がりの三人の女性の声が暗い森を彩る。

 

一歩、それは歩み寄った。

 

白い湯煙にわずかな月明かりとランタンに照らされ、いい感じの雰囲気を醸し出していた。

 

もう一歩、それは歩み寄った。

 

ちょうど源泉の噴射も収まり湯煙が晴れ、木々の隙間から見える肌色。

 

草を踏みしめ、それは歩み寄った。

 

「──ッッッ!!!!」

 

ヒュンッッッ!!!と風を斬る音が響く。掠っただけなのに葉っぱの半分が抉れる。

 

「……どうかしました?」

 

「いやなんか、妙な気配がして石投げちまった」

 

「石ってあんな早く撃てるんですね……」

 

突然ガサガサッと、投げた方から音がした。

 

「え、何、マジの覗き?」

 

「いえ、あれは」

 

低木が揺れた、いや動いた(・・・)

 

徐々に大きくなる足音。のそりと、一歩また一歩と地面を踏みしめ、姿を表す。

 

それは、四足歩行で背中の部分が低木のような葉を生やした亀に似た生き物だった。

 

「えっ!?ハーブタートル!?」

 

「ハーブタートル!?ってなんだよ……」

 

「とっても可愛らしい顔ですわね!」

 

こちらに近づくと、ハーブタートルはゆっくりと腰をおろした。

 

「ハーブタートル、通称クサガメです」

 

「いや外来種じゃねえか……」

 

「失礼な!こちらの世界ではれっきとした在来種です!」

 

「あぁ、そうなのか」

 

「ロックシャークの環境破壊によって絶滅したと言われていた可能性があったんですけど、こんなところで会えるなんて」

 

「どんな生き物なんですか?」

 

「温厚な性格で争いとかを好まない性格の生き物で、背中に生えているあの葉っぱはポーションの調合によく使われるほど効き目がいいんです」

 

「……ポーション、か」

 

「えぇ、ですが最近の環境破壊や乱獲によって数が激減してしまってんですよね」

 

「お詳しい……やっぱり異世界先輩は違いますわ……!」

 

「ギルドから討伐と同時に生態調査も頼まれてしまったので」

 

「……大変なんだな」

 

「慣れると楽しいですよ、休みも取り放題ですし」と着物の紐を締めた。

 

「すまん、先に戻ってくれねえか」

 

「どうかなさいました?」

 

「ちょっと散歩してえ」

 

「でしたら私も、ちょうど夜風にあたりたいなと思っていたので」

 

「わかりましたわ、先に戻っていますので!」と二人に手を振ってこの場を走り去った。

 

しばしの静寂。空は星々が並び始める時間になり始めた。

 

「……綺麗だな」

 

らしくないと思いながらただ、そう呟いた。

 

木々が揺れる音が響き渡る。風が頬を撫でる。

 

ゆっくりと、苦瓜が口を開く。

 

「見えていないでしょう?」

 

予期せぬ言葉がニャル太郎の耳を刺す。

 

「……バレてたか」とエプロンをつけ、深い溜息を吐く。

 

「なんとなく気づいてましたよ、さっきのだって明らかにおかしかったですから」

 

流石に隠し通すのはもう無理か、ともう一度溜息を吐いた。

 

「見えてないわけじゃねえ、視界がぼやけて見えるんだ」

 

「身体の不調なら、すぐ伝えるべきかと」

 

ゆっくりと目見開き、話始める。

 

「さっき魔法の話をしたよな?」

 

「……えぇ」

 

「オレ達は、まあ正確にはあいつのだけど。あいつの魔法によってオレ達は生まれた(分離した)、オレ達の身体は二人はあいつの精神の一部で構成されてんだ」

 

淡々と語るニャル太郎の話を苦瓜は静かに聞いていた。

 

「だから不安定なんだよなオレの体、諸刃の剣ってやつ」

 

ここまでいいか?と首を傾げる。何も言わずにこくり、と頷く。

 

「あいつの魔法は便利な代わりに消費するものが多すぎる、魔力(MP)っていう概念がないから尚更だろうな」

 

現に東雲(あのバカ)は片耳の聴覚を失っている。その事実に気づいたのはAirealに言われてからだった。

 

「……彼には、言いましたか?」

 

「言ってねえ、言ったらあいつはきっと後悔するから」

 

「ですが、」

 

「言えばあいつは二度と 魔法を使わねえ(オレ達に会わねえ)

 

言葉を遮るように放った。反論なんてもの全てを叩き切るように。

 

「あいつは元から不安定な性格だったから足りない部分を補うように支えるしかねえんだ、オレ達はそう言う“魔法“なんだ」

 

目覚めた時から、東雲(あいつ)の隣に立った時から“オレ達はそういう存在“と告げられる。

 

他の誰でもない、()と名乗る男に。

 

──彼を守ってあげて、彼女もすぐキミ達の元に送るから。

 

神が告げ、自分達は異世界へ投げ出された。

 

何も知らぬまま、何からこいつを守るのかさえ教えてもらえずに、見知らぬ世界に投げ出されたのだ。

 

そしてようやく出会えた。殺す(・・)べき対象に。

 

なのに圧倒的な力にねじ伏せられ、何もできないまま意識が闇に落ちた。

 

その後、東雲の幻想屋は暴走した。

 

制御できずに、怒りに呑まれ、殺意に従った。

 

まるで兵器のように、その瞬間だけは()を殺すためだけに生きていたと思えるほどに。

 

「……あぁ悪い、つまんねえ話しちまって」

 

苦瓜の方を向き直し、そのまま続ける。

 

「ま、なにが言いたいかっていうと、オレの身体に関してはあんま気にしなくていいぜ」

 

それだけ言って、歩き始めた。

 

「ニャル太郎さん」

 

苦瓜の声が響く。思わず振り返る。

 

悲しみも怒りなんていう感情は全く感じさせない、ひどく落ち着いた優しい声。

 

「どうか、無理はなさらないでください」

 

今どんな表情をしているかわからないが、きっと優しい表情なのだろう。

 

「……当たり前だ、オレは鼻から死ぬつもりはない」

 

「ならいいんです、ニャル太郎さんは貴女だけなので」

 

真横を苦瓜が通り過ぎる。

 

「そういえば」とこちらに振り返り、「街に戻ったらパン屋さんの右にあるお店に立ち寄ってみてください、評判のいいポーション屋があるので」と教えてくれた。

 

「……帰りに寄ってみるか。助かるよ苦瓜さん」

 

「いえいえ、いいんですよ。さて戻りますか」

 

「そうだな、今は腹が減って仕方ねえや」

 

夜空の下を歩き進める二人。戻ってると肉のいい匂いが食欲をそそった。

 

「二人ともおかえりなさーい」

 

「おかえりなさいませ!さあご飯にしましょう!お二人の分もちゃんとありますので!」

 

「ポイントさんから教わった美味しい肉の焼き方をしてみたよ」

 

「えっチーフもこの世界に!?」

 

「うん、今は別の街でお店開いてるはず」

 

「待望のエネミー食堂が実現……!」

 

「エネミーの食材を使ってるから、案外風の噂で流れて来るかもな」

 

「確かに、うまく言ってるといいなぁ」

 

「もし見つけたら、今度食べに行きましょう!」

 

「いいねそれ!」

 

「私も行きます!チーフの手料理食べてみたいです!」

 

ウキウキの三人をみてニャル太郎は「すまねえポイントさん、アンタの冷蔵庫は守り切れなさそうだ」と空を見ながら呟く。

 

その後四人は夕食を済ませ、無事街に戻った。

 




街に戻った四人。戻った頃には大抵店は閉まっていた、酒場の灯りが街を彩っていた。

「では私はギルドに報告してきます」

「今日は本当にありがとう苦瓜さん!」

「この御恩は忘れませんわ!」

「あぁ、ありがとう」

「困った時はお互い様ですから!それでは!」とギルドの方へ足を運んだ。

「……にしてもさ、急に運転してくれなんてびっくりしたんだけど」

「たまにはいいだろ、お前一応は運転できるみてえだし」

「緊急時以外はやりたくないの!そもそも無免許だし」

「それリアルだと普通にアウトだもんな」

「当たりめえだろうが、普通に犯罪なんだぞ」

「そうですわ、三年以下の懲役または五十万円以下の罰金ですのよ?」

「なんでシノタロスはそんな詳しいんだい?」

「えっへん!ですわ!」と胸を誇らしげに張る。

「でも免許取りたくてもこの世界に教習所なんてないだろうし」

「まあそうだな」

会話を弾ませながら街中を進んでいく。

転々と灯りが消え、街の人々も眠りにつこうとしていた。

今日はだいぶ疲れた、早く帰って寝ることにしよう。

「戻ったらバイクの免許、取ろうかなぁ」

「運転免許書は個人の証明にもなりますからいいと思いますわ!」

「そうだねぇ〜、でもお金かかるからめんどいんだよなぁ」

「大体十五から二十万ですわ、自動車より安いと思いますの」

「よう知っとるねぇ〜」

二人の背中を見て、ふと思う。

(あぁそうか……この旅が終われば……オレもシノタロスも……)

足が止まる。この何気ない会話も、現世に戻ればできなくなる。

いや、しなくてすむ。いつものようにあいつがただ面白おかしく狂うだけ。

欲のままに、本能のままに、それが正しいあいつの姿のはずなんだ。

けど、あいつが最初から一人だったら。あの時(・・・)に死んでいたのかもしれない。

──彼を守ってあげて。

頭に響くあの言葉。どこの神ともわからないやつに、自分の片割れを託された時に言われたその言葉。

「……はっ、上等だよクソッタレ」

旅が終わるまでの間だが、最後まで付き合うつもりだ。

どんな奴が敵だろうが、言われた通り守り切ってみせるさ。

「ん?どしたーニャル太郎?」

何も知らないあいつが声をかけてきた。

「いや、なんでも……」

顔を上げると、パン屋が目に入った。

“街に戻ったらパン屋さんの右にあるお店に立ち寄ってみてください、評判のいいポーション屋があるので“

苦瓜が言うならばと右に目を送る。

いかにも、いかにも怪しい(ポーション)屋がそこに佇んでいた。

視界が霞んで入るものの、パンの匂いに混じって薬品臭がする、いやよく嗅ぐとパンの匂いかき消されるほどに強い。

「ほんとにあった」

「何がー?」

「どうしましたの?どこか痛みますの?」

「苦瓜さんから教えてもらったポーション屋」

「何それ!ボク知らない!」

「ワタクシもですわ!」

「言ってなかったからな」と歩き始め、「ちょっと寄ってかね?」と二人を見る。

「いくいくー!面白そうだしー!」

「跳躍に再生、水中呼吸に耐火に力!暗視のポーションもあるのでしょうか?」

「それゲームのだねえ、四角いブロック積んでいくゲームの」

ポーション屋の前までつき、ドアノブに手を回す。

中に入ると禍々しい内装で、色とりどりのポーションが怪しく並んでいた。

部屋の真ん中にはいかにも、魔女とかが怪しい薬を作っている鍋が置かれている。

思わず扉を閉めた。

「うし、帰るか」

「ここまできて!?」

「せっかくですし見ましょう!」

「思ってたのなんか違う!やめろ二人とも!引っ張るな!」

しばらく奮闘したが根気負けし、大人しく中に入った。

「綺麗ですわ〜」

「どんな味するんだろね」

「これ、びやくって書かれてますわね。なんですのびやくって?」

「うーん爆発する薬かなぁ」

「はわわ、そっと戻しましょう……」

子供のように目を輝かせ物色する二人を横目に、一つ一つ棚に並んだポーションを見ていくニャル太郎。

「毒、毒、毒、猛毒、劇毒、治癒、あった」

棚に置いてある種類に関してはノーコメント。

緑色に輝く液体を見つめながら、振り返る。

「“お買い求めですか?”」

「うわぁ!?」

突然現れた老婆に驚き、手からするりとポーションが落ちる。

間一髪のところで東雲がキャッチしことなき得た。

「っとぉ!気をつけろよな」

「わ、悪い、ええと“すみません“」

「“いえいえ、いいんですよ”」

優しい笑みを浮かべながら老婆は「“お買い求めですか?”」と聞いてくる。

「“ええ、まあ、これが一番効き目がある薬でいいんですか?”」

「“もちろんです、当店は一流を目指しておりますので”」

「何ニャル太郎、これ欲しいの?」とポケットから財布を取り出した。

バリバリバリィ!と情けない音が店内に響き、数枚の札束を老婆に渡した。

「“お買い上げありがとうございます、今後ともご贔屓に”」と釣りを渡し深深く頭を下げる。

「“ありがとねおばあちゃーん”」

「“ありがとうございましたわ”」

「はぁ……“ありがとうございます”」

異世界で初めてスムーズに買い物を済ませた三人は、帰路を歩く。

「お前なぁ、すぐ金出すのやめとけってあれほど言ったろ」

「欲しいものはすぐ買うに限る、買わない後悔より買った後悔!」

「東雲さんの財布、不思議な音が鳴っていましたわね」

「法律とか詳しいのにマジックテープは知らないんだ!?」

二人から少し離れて歩きながら、ポーションを見つめる。

これを飲めば視界は元に戻る、とコルクを外し一気に身体に流し込む。

「ゲホッウエッ!!!まっず!!!」

「良薬は口に苦し!って言うじゃん?」

「そうだけど……あ?」

全身の痛みは引いた。ほんの少しだけ。

視界は、元には戻った。いや正確には僅かながらに視界がぼやけていた。

一流品じゃねえのこれ、と吐き捨てようとした時あることが頭をよぎる。

「なあお前、オレみたいな白髪メイドさんが回復系ほぼ効かない体質だったらどうする?」

「興奮する」

素早く右足を下げ、全意識を右手を装填し、発射。

「グボァア!?!??!」

綺麗な放物線を描き、五メートル吹き飛んだ。

「オレお前のことほっんと大っ嫌い!!!死ね!!!」

空瓶が割れるほど握りしめ、オリュンポスの屋敷へと足早に帰った。

「ええぇ……何急に……」

元凶は何かしたかなと顔を上げる。

その肩をポンッとシノタロスが叩き、「流石にそういうのはどうかと思いますの」と珍しく低い声で答えた。

「シノタロスまでぇ!?」

無自覚とは恐ろしいものだと、理解させられたニャル太郎。

「……全く」

だが、どことなくのそ表情は嬉しそうにも見えた。
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