フォロワーファンタジー ー小豆味ー   作:ニャル太郎

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「なるほど、この展開は考えていなかった」

ザリ、と足音が響く。

土埃の中から傷一つ負っていない(・・・・・・・・・)ナンナが現れる。

「……っぱ、あれじゃ死なねえか。伊達に神様してねえもんなぁ」

東雲はナンナを睨んだ。

(とりあえず『神隔』はこの手で貫ける。壁みたいなものはこの能力で空気中の二酸化炭素を分解して、そのできた隙間に右手を押し込めば通るな)

それだけでもわかったのが大きい。だが手応えを感じない、いや確実に感じていたのにまるで効いていない。

今動けるのは自分だけだ、慎重に行動しなければ一瞬で潰される。

できるだけ最短で対策を考えなければ、と脳を動かそうとした瞬間。

「その思考は無意味に等しい」

考える時間はなかった。数メートル先にいたはずの敵は今目の前にいる。

動作も何も、それらしいこともしていない。瞬間移動、ではない何か、もっと精密な何か。

(………あっ)

思い出した、そういえばこいつは暦の神だった。

神であるなら時間をすっ飛ばして(・・・・・・・・・)移動することも可能なのでは。歩くだけでその時間に飛べるのでは、と。

もしそれが本当であれば、厄介というレベルではない。

どうにか対策を見出せ、と考えたその時。空を飛んだ。

「──ッッッ!!!!」

飛んだんじゃない、ナンナが作り上げた無数の土柱によって浮かされた。

全身に痛みが襲る。打ちどころが悪ければ意識を落としていただろう。

「ン、やろぉ!!!」

奴を見下ろすところまで上げられた。

思考は不要だ。殺意をぶつけろと右手を構える。

無表情でこちらを見るナンナ。またあの灼ける空気の壁で抑えるつも理なのか、と予測した瞬間。

空気が爆ぜる。爆音と共に再び全身に激痛が走り、そのまま落下。

「グッ、ァア」

流石に限界と言わんばかりに東雲の変身が解ける。

背中と地面がくっついたかのように仰向けで、空を見上げながら呟いた。

「……生きてるー?」

「大丈夫ですわよ!」

〈 案ずるな、少々吹き飛ばされただけだ 〉

「生きてるわこのドアホ、勝手に殺すんじゃねえぶち殺すぞ」

「元気ねぇ〜、まあいいことだけどさっ!」

重たい身体を起こし、振り返る。

依然としてそこにいるナンナを見て、思わず笑みがこぼれた。

「その笑みは、諦観と見て間違いないな?」

「んでそう思うんだよ」

「その傷でこの私と戦うなど不可能だ、貴様はもう長くは持たないだろう」

ナンナは東雲の下腹部を指差す。

破れた服の隙間から貫かれたであろう部分が見える。しかしそこに穴は無く、赤く爛れた皮膚だけがあった。

「……知らないのか?焼灼止血法はこの時代ぐらいだと割と支流だったんだぜ?」

あの時、ニャル太郎になんでもいいから火がつけるものを持ってこいと頼み無理矢理焼いて塞いだ。

気は失いそうになり立ち上がることを拒絶しそうになったが、今の自分にそんな資格はない。

目の前の脅威をぶち殺す、その意思だけで立ち上がる。理由としてはそれだけで充分だったのだ。

「お陰でさぁ、二度は気を失いそうになったんだわ」

一歩、踏み出す。

殺意を己を動かす為のエネルギーに変換。変身が解けてもまだ立ち向かえる意志を向ける。

「どうであれ全ては無意味、死を受け入れよ、未来を受け入れよ、運命を──」

「なあ」

神の言葉を遮った。鼻から聞く気のない話に付き合うつもりはない。

「なんでボクらの時間(・・)を止めない訳?」

ナンナの表情がほんの一瞬揺らぐ。それは明らかな動揺だ。

「時間に干渉できるならボクらの時間を止めて煮るなり斬るなり爆破するなりで好きにすればいいじゃねえか、なんでやらないの?」

再び一歩、歩み寄る。確認するかの如く、どんな理由でも聞き逃さないために。

一瞬だけ眉を動かした、それを東雲は見逃さなかった。

「やらなかったんじゃない、できねェんだろ?」

口角をあげた。この言葉(セリフ)が一番言われたくない、気づかれたくないはずだと。

「だったら、なんだと言うのだッ!」

ドガッッッ!!!、と一本の土柱が東雲の腹に直撃。

数メートル吹っ飛び、口から血を吐き出した、だが立ち上がる。

身体は満身創痍にも関わらず、口角は上がり切ったままでその表情は確信を得ていた。

「ハハッ!動揺したな?見抜かれて焦ったな?たかだかこの人間様如きによォ!」

時間に関する神様が自分達の時間を止めなかったのはできなかったからだ。この世界の時間は止められる。動物だろうが人だろうが神だろうが、絶対に。

──だが、この世界から外れたものならどうか?

答えは自分達だ。一度も止められていない。もし止められているのであれば今頃全員あの世行きのはず。

「それと、もう一つ、てめぇの未来確定の能力についてだぜ」

「この、人間風情が!」

その先は語るなと言わせるように、無数の土柱が東雲に襲いかかる。

しかし言葉が途切れることはなかった。

ドォォオオンッッッ!!!、と音ともに赤い弾丸が土柱を貫き、ものの見事に砕いていった。

「ほっんと危なっかしいんだよバカ」

ライウェーを構えたニャル太郎が呟く。

「仕方ないね、(ここ)イカれてるし」

さも当たり前のように返し、ナンナを睨みながら続けた。

「てめぇは未来が見えるだの確定してるだのって言ってたよな?なのにあのパンチは防げていなかった、なんでかなぁ?」

疑問を一つ挙げていく。

本当に読めているのいるのであれば、あのパンチは防げているはず、あのパンチの効果も。

なのに防げていなかった。

「ボクの仮説は九割外れるから聞き流していいんだけどね?お前自分が決めた未来しか見れないんだろ」

「──だから、なんだと言うのか」

『暦』の神としてのナンナは「遠い日々の運命を決める」力を持っていたとされ、彼の練る計画を知った神はいないとされる。

しかし、もし未来を確定できないものが現れたら?法則(ルール)の外にいるものが現れたら?その定義を否定するものが現れたら?

「こっちの能力とか考慮に入れてないわけ、だからボクのパンチの後の分解パンチまでは見れなかったってわーけ」

小馬鹿にするように話す、ナンナは表情を変えずに聴いている。

「そうか、道理で厄介だと、だが」

ナンナが指を鳴らした。

空が暗くなる、いや空は青い。頭上に何かがあった。

突然のことで反応が遅れた。やらかしたな、と死を悟った瞬間。

「どりやぁあああ!!!」

シノタロスのパンチが巨大な岩石を砕いた。

「はぁ……忘れるなんてひどいですわ……」

「悪い、生身だから遠距離の方がいいかなって」

「ワタクシまだ変身してますのに!」

「そういう問題?」

「そういう問題です、わ!」

不意に飛んできた岩石を受け止める。もし一秒だけ反応が遅れていたら見事に肉塊になっていたところだった。

「くぅ、ぅう」

ついに最後の砦のシノタロスの変身も解ける。

「……未来は確定したようだ」

「へえ、そいつぁすげえや」

「強がるのも大概にしろ異人、この状況を打破できる力を貴様は持って──」

「持ってる、つったらどうする?」

ナンナの顔が強張る。馬鹿な、有り得ないと。

「いくぞみんな!」

左手でアホ毛を掴むと、自然とあの言葉が頭に流れる。


「──己の夢を追い、己の理想を書き、己の現を壊せ」



抗え、人間

光は晴れ、一人の人間が立ち塞がる。

 

「第二ラウンドの始まりだぜ!月神ィ!」

 

その目は開眼し、闘志の色に染め上げられている。

 

こっからが本領発揮、と言わんばかりに眼を輝かせていた。

 

「いいだろう、異人」

 

ナンナは天高く槍を掲げてきた。

 

それに反応するかのようにドライバーを装着する。

 

〈感情認証:成功 人格認証:成功 変身:可能〉

 

決めポーズをし、お決まりの台詞を叫ぶ。

 

「──変身ッ!」

 

直後。爆風が周囲に巻き起こった。同時に岩石が頭上に形成され、落下。

 

「無防備にも程があるぞ、少しは考えたらどうだ?」

 

土埃が舞う。声は依然として聞こえない。

 

「まあ、もう無意──」

 

「面白いこと教えてやろうか?」

 

土埃の先から何が聞こえた。何かが見えた。

 

潰したはずのその声、消し飛ばしたであろうその身体はそこにいる。

 

「変身中はな、無敵なんだぜ?」

 

橙色の鬼の仮面に黒い甲冑、背中に白いマント。

 

兜の部分は日輪と月、そして雲の立物が装飾された転生者(ライダー)が、現れた。

 

〈 サ イ ス 〉

 

大鎌に変形したライウェーを担ぎながらゆっくりと、ナンナに近づいていく。

 

「……なるほどな」

 

カンッ、と槍の石突で地面を叩く。

 

無数の岩石がナンナの真横に形成され、砲弾の如く飛んできた。東雲の幻想屋は呼吸を整え、ライウェーを構えた。

 

「!」

 

地面を蹴り上げ、突撃。

 

飛んでくる岩石を的確に斬り捨て、確実に距離を積めていく。

 

間合いに入るのは簡単、一振りすれば届く距離にナンナはいる。

 

だけど、言い知れぬ不安があった。ここまできたのに、全く動かないことに裏があるのではと考えた。

 

「少しは理解してきたようだな」

 

その言葉はこちらの思考を覗いているかのように聞こえた。

 

何かまずい、と後ろに下がった瞬間。

 

「──ゴ、ガァァァアアア!?」

 

岩石に直撃。新たに作られた岩石ではなく、時間を巻き戻された岩石が東雲の幻想屋と衝突。そのままナンナの後方に約十メートル飛んでいった。

 

受け身を取り、すぐさま立ち上ろうと顔をあげる。

 

「ほう?まだ耐えるとは、ならばこれは耐えられるだろうか?」

 

薄く笑みを浮かべ、指を鳴らした途端。

 

目の前で水蒸気が形成され爆発。爆風によって再び数メートル飛ばされ、瓦礫の山に突っ込んだ。

 

「げほっ……」

 

(クッソ、埒が開かねえなこれ)

 

(近づいても離れても攻撃されますわ!)

 

頭の中に二人の声が響く。二人が意識がある状態に合体したら脳内で会話ができるようだが、非変身時のように人格は変われない模様。

 

「にしても、大気に大地、おまけに時間とかチートにも程があるってんだよ」

 

〈 ふむ、これでは蹂躙されてしまうな 〉

 

「冗談じゃねえっての、ったく」

 

身体を起こし、ナンナとの距離を確認する。

 

おおよそ二十メートル。

 

全力で駆ければ二秒もかからない。しかし近づいたところで大気の壁が邪魔をしすぐさま爆破か土壁形成によって距離を空けられ、無駄にダメージを負う。

 

だからと言って距離を空けすぎても意味がない。

 

どうするか、と考えた瞬間。

 

感情(モード):選択要求〉

 

ドライバーが、そう聞いてきた。

 

「ちょ、空気読めゴラァ!」

 

飛んでくる岩石を避け、一度距離を空ける。

 

後ろに下がり攻撃を繰り出す直前、目の前にナンナが現れた。時間を飛ばしこちらに接近。追撃の手を止めるかのように爆破。

 

飛ばされた身体は地面を転がり、仰向けで空を見上げた。

 

「……ハァ……」

 

一息だけ吐く。

 

これ以上の蹂躙はこちらの敗北を招くことになる。この状況を打破するには感情(モード)を選び戦うしか他ない。

 

しかし、前回それで負けている。もし今回も同じやつを選べば結果は同じ。

 

「どう、すっかな」

 

「簡単なことだ、諦めろ」

 

目の前まで来ていたナンナが槍を振り下ろす。すんでのところでライウェーで受け止めるが凄まじい力で押し切ろうとしてきた。

 

「勝敗は決まった、貴様が私に勝つという未来は存在しない」

 

「はっ、暦の神かなんか知んねえけど、神が人間の未来決めるっていう法則(ルール)はどこにあンだよ?」

 

鼓動が高鳴る。死が押し寄せてきた焦りか、蹂躙された怒りか、それとも別の感情か。

 

「この世界では(わたしたち)法則(ルール)だ、それに理由がいるか?」

 

「────そっか、ハハッ!そっかそっかそっか!」

 

興奮。怒りに混じってその感情が湧き出る。

 

神は世界の法則。そう考えていた彼にとってこの返答は今この状況を打破するトリガーとなりうるものだった。

 

殺してはいけない法則(かみ)を殺そうとしているその背徳感が思考を蝕む。

 

「こうでなきゃこうでなきゃ!神殺し(・・・)ってのはさぁ!」

 

片膝を立て、立ち上がる。

 

圧倒的な力に押されていても、不利な状況に陥っても、東雲の幻想屋にとってはその感情だけで充分。

 

槍を弾き、距離を空ける。

 

「やっぱ、楽しまなきゃ(・・・・・・)意味ねえよなぁ?」

 

〈承認 感情(モード)(三位一体)

 

その言葉に反応するかのように感情(モード)が選択され、ドクンッ、と心臓が鳴る。

 

一瞬の静寂の後、ナンナの方を向く。

 

「ふーん、こういう感じか。(暴走)とは違って変な気分、けど楽しい(・・・)わこれ」

 

ライウェーを長方形の姿に戻し、腰のホルダーにしまった。

 

「じゃあ、いくぜ」

 

ゴッッッッ!!!、と地面が抉れる程の力で蹴り上げる。

 

即座に間合いを詰め、左手を握り締める。

 

「何度やってもその拳が届くことはない」

 

東雲の幻想屋を囲むようにいくつもの水蒸気が形成。数にして五つ。

 

それだけの数を食らえば変身は解ける。勝利の道は途絶えた、はずだった。

 

瞬時に黒いボトルをドライバーに装填し、レバーを下ろす。

 

熱に触れた水蒸気は大爆発を起こし、周囲の地形を変えていった。

 

「自身で着火させるとは、それほどまでに死に急ぎたかったようだが」

 

「んなわけねえだろ」

 

吐き捨てるように言い放ち、全身が黒い炎に包まれている東雲の幻想屋が風塵の中から姿を現す。

 

「咄嗟の判断とはいえ、危ねえなこれ」

 

炎を纏い、爆風の被害を最小限までに抑える作戦だがうまくいった。

 

だが安心してる暇はない。炎を一旦納めすぐさま標的を捉え、突撃。

 

「……まるで獣だな」

 

ナンナは心底つまらなさそうに呟きながら、頭上に無数の岩石を形成し射出。

 

ドガガガガッッッッ!!!、と銃弾如く降り注ぐ攻撃を掻い潜る。

 

(……なんでだ?なんで当ててこない……?)

 

これだけ乱射しているのにも関わらず、こちらの身体を掠ることもない。

 

地面に直撃した隕石は一つ、また一つと粉々に砕け散っていく。

 

粉末、それを見て嫌な予感がする。

 

(……まさか……!)

 

粉塵爆発。ガソリンなどの可燃性気体の発火・爆発に近いもので、粉塵雲、着火元、酸素の三つの条件が揃わなければならない。

 

粉塵の粒子間距離が開きすぎても狭すぎてもいけない、程よい距離でないと燃焼が継続できず爆発しない。

 

でもまさか、よりによってこんな予感が的中するかもしれないと足を止めた。止めてしまった。

 

「しまっ──」

 

爆風と衝撃。一瞬にして周囲を巻き込み、全てを飲み込んだ。

 

ナンナは、この爆撃ならばあれは死んだかと土埃の先を睨む。

 

「──あっぶねえなクソが」

 

その先、ではないところから声がした。視線を声のする方へと動かす。同じ声であるのにまるで別人のように聞こえる。

 

瓦礫に腰掛け、黒いボトルを引き抜き白いボトルを装填している姿がそこにあった。

 

「まさか、あの爆破を避けるとはな」

 

「あ?なんだ、見えてなかったのかァ?」

 

す……と目から光が消えた。図星か、と顎に手を置く。

 

「へぇ、やっぱ見えて」

 

ゴッッッッ!!!、と一本の土柱地面から生え、こちらに向かってくる。

 

衝突と共に土埃が舞う。

 

「神たる私を侮辱するなど、万死に値するぞ」

 

「そうかよ」

 

土埃の先から、音も何もかも置き去りにしたかのように疾い動きでナンナに接近する。

 

それを妨害するかのようにいくつもの水蒸気爆破を発生。

 

オレ(・・)には当たんねェぞ!!!」

 

真っ白な稲妻が戦場を駆け巡り、一気にナンナとの間合いを詰めた。

 

その瞬間にレバーを降ろす。左足に白い電撃が走る。

 

意識を一点に集中。左足を天高く掲げあげ、撃墜。

 

「──ンだとォ!?」

 

落としたはずの踵をナンナは片手(・・)で止めていた。

 

痛む様子も焦る様子もなく、こちらを見る。

 

「電光石火の如く疾い、私の未来でもその疾さは見落とすほどに」

 

すっ、とナンナは左足を離した直後。

 

「しかし、貴様のはやはり軽い」

 

衝撃波が身体を包み込む。そのまま吹き飛んでいった。

 

「それと当たらないと言っていたが、私の攻撃が外れることは絶対にない」

 

追い打ちをかけるように爆破した時間だけが巻き戻り、再び爆破。

 

爆発の波に飲み込まれるようにさらに後方へ飛んでいき、瓦礫の山と衝突する。

 

「ハ────ァ……」

 

息をする時間さえ惜しいほどに、攻撃の手が休むことはない。

 

ドガガガガッッッッ!!!、と無数の隕石が再び襲う。

 

立ち上がる隙も、考える好きも与えない。ただ(おわり)の瞬間のみを理解させる。

 

「理解はしたか、諦めはついたか、旅の終わりを向かい入れよ」

 

ザリ、と地面を踏み締める音が響いた。

 

「敗残兵の兵器(ガラクタ)が、神に勝てるとでも?」

 

問いかけに対しての返答は────。

 

轟!!!!!、と音が返ってくる。

 

動きは遅い。先程の爆破に岩石を加えればあっという間にその命を削ぎ落とせる、と確信した。

 

ナンナはすぐさま実行に移す。時間を巻き戻し水蒸気爆破を 起爆準備(セット)

 

東雲の幻想屋は、ただ一直線に走る。

 

地面を踏みしめる。加速してくる予兆をナンナは見逃さなかった。

 

いくつもの爆音、衝撃、そして降り注ぐ無数の隕石で確実に仕留める。

 

一瞬の静寂が物語った。

 

「ふっ、やはり人間なんぞ」

 

「──この程度とでも?」

 

声は同じ、同じであるはずだ。

 

静かな怒りと僅かながらに見える興奮の声がナンナの耳には入った。

 

瞬間、それは空間を切り裂くように駆けてくる。

 

爆破を、岩石を、衝撃を全て、斬り捨ててこちらに向かってくる姿が。

 

「これしきで!ワタシ(・・・)が倒せるとでも!?」

 

ライウェーを振り上げる。間合いは確実に詰めた。

 

すぐさま次の爆破あるいは土柱を形成しようと手をあげる。

 

「遅い、ですわッ!」

 

ギンッッッ!!!、と振り下ろしナンナの右腕を斬り落とした。

 

鮮血が飛び、戦場を彩る。

 

「よしですわ!これで!」

 

「──倒したと?」

 

「…………はえ?」

 

声も何もあげないナンナに困惑を隠せなかった。

 

どんな生き物であれ、腕を斬り落とされて叫びも怒りも見せないものはいないはず。

 

いや、それが神たる証拠かと見せつけられる。

 

「しかしまあ、少々手を抜いたことには謝罪しようか」

 

槍の石突で地面を叩く。

 

ドンッッッッッ!!!と衝撃波が襲いかかり地面を転がる。

 

その隙を逃さんとばかりに土柱で追撃。完全に動きを封じられた。

 

「そこで見ていろ異人、月神のもう一つの力を」

 

そう告げるとナンナは右腕を上げる。

 

徐々に斬り落とされた部分から骨、次に肉が再生され元の形に戻った。

 

「──マジかよ……」

 

(再生(・・)しやがった!)

 

(嘘でしょう!?そんなのありですの!?)

 

〈 なるほど、月神だからできることだな 〉

 

月は死と再生の象徴でもある、すなわち豊穣と結びつけれていた。

 

故に、積み重ねたものが全て(ゼロ)になる。

 

「あの斬撃如きで、この私を傷つけたと思うたか?愚者よ」

 

最初に会った時の状態に戻ったナンナを見て思わず顔を落とす。

 

「……ははっ、マジかぁ……」

 

それは絶望ではない、苦痛ではない。神たる力を見せられただけだ。

 

そう、逆に考えるのだ。

 

「たかだか人間様如きに再生(それ)使っちゃうんだぁ?」

 

ミシリ、と土柱を打ち破るかのように立ち上がる。

 

あいつは全てを出し切ったはず、使える手札の全てをこちらに見せた。

 

「それ使ったってことはさぁ、今相当追い詰められてるってことだよなぁ?」

 

コキリ、と首を鳴らし口元を拭う仕草をする。

 

「本気見せてきたってことはさ、お前そんな強くねぇな?」

 

「……貴様の目はどうやら腐りきっているようだな」

 

「は?何言ってんだ、再生なんて大層なもん最初から使ってただろてめェ」

 

最初から、あの土埃(・・)の中から出てきた時から使っていたのだ。

 

手応えはあった、けど傷一つついていないことに違和感はあった。

 

考えてみればすぐわかることだったはずなのに、肝心なところで頭が弱い自分が憎い。

 

「まあ別にどうでもいいもんね、再生するんだったら再生できねえような一撃を食らわせれば、問題ねえんだよバーカ」

 

自身の頭を指しながらナンナを煽る。仮面(マスク)がなければ舌も出していたことだろう。

 

「なるほど、これほどまでに愚かとは、あれらも落ちたものよなぁ」

 

ナンナは苦笑した。そして無表情に戻る。

 

「では改めて、月の神ナンナ。シュメールの『暦』の神として貴様らを脅威と見なし排除する」

 

槍を構えると同時に空気が変わる。

 

張り詰めた空気。神格の空気が流れ始めた。

 

「いいぜ、この“不死身の暴走重機機関車”こと東雲の幻想屋の真髄、見せてやるぜッ!」

 

ライウェーを握りしめ、再び構える。

 

 

 

──最終ラウンドの火蓋が、今切られた。

 

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