とは言うものの、アレほどの激戦を終えた東雲の身体は限界を迎えている。小走りで三人に追いついた途端気を失い気絶。
「東雲さん!」
いち早く気づいたシノタロスが東雲を抱きとめ、声をかけたり脈を測ったり日陰に避難したりと応急処置を行い始める。
「どどどどうしましょうか!?やっぱり街に戻って治療薬とかもらいに行った方が良いのでしょうか!?」
「それはやめといた方がいいぞ、彼ら相当怒っていたようだしな」
「ですが……」
「このまま戻っても街を破壊した者たちだと石を投げれるだけだ」
ライウェーの言う通り、直接街の破壊をしたのは東雲達でもなかろうと人の殺意はこちらに向く。もっと言うなら信仰している神が自分達の街を破壊するわけない、つまるところ消去法になる。
「それにこんな愉快な服の人が現れたらもっと疑われるぞ」
「あれ?今オレ馬鹿にされた?」
「あぁすまない、馬鹿にしたつもりはなかったんだが」
誤解しないでくれたまえよ? と呟きそのまま続けた。
「それに、あの月神の仲間が再び来る可能性もある。同じ場に長居は禁物だ」
「それはそうですが……」
だからと言ってこの状況を放置するわけにもいかない。こんなことをしてる間にも東雲は生死の境目を彷徨って、
「……くぅ……すぅ……」
いなかった。ぐっすりと寝息を立てて夢の世界へと旅立っていた。
「こいつはぐっすりと寝ているな」
「ほんっとややこしいやつだな」
やれやれと肩をすくめるライウェー、溜息を漏らしながら頭を掻くニャル太郎。
ただ一人別の方向を向き、その先をじっと眺めるシノタロス。
「……来ますわ」と焦りのない静かな口調で答える。
その台詞を聞いた瞬間二人は戦闘体制をとった。
例の神の仲間か、それともモンスターか、どちらにせよこの状況が危機的なことには変わりはない。
重傷者一名、軽傷者二名、無傷一名。うち重傷者が魔法の使用者なので迂闊に離れ慣れない状態。
三人が息を呑むのと同時に風が止む。次の瞬間、茂みから何かが飛び出してきた。それに合わせるようにニャル太郎が地面を蹴り上げ、対象に接近。
天高く踵を上げ、撃墜。対象が行動しようとするには少しだけ、ほんの少しだけ遅かった。
声にならないような悲鳴が上がり、土埃が舞う。
落下した踵は獲物の頭蓋骨を砕き、脳髄と血液を撒き散らしながらその生き物の生命を圧殺。
土煙が晴れて、ようやくしてなんの頭を砕いたか目視する。
「……ん?」
身長は平均男性より少し高く筋肉質な体格、赤みかかった毛が全身を覆っていた。頭にはケモ耳、尾てい骨の部分に獣の尻尾は生えておりさながら狼男といった姿だった。
右手に粗末な作りをした棍棒を握っており、ピクピクと痙攣したのち止まる。
「なんだァ? 前の魚人間みたいな生きもんだなこりゃあ」
脚で突っつきちゃんと死んでいることを確認し、ちゃんと死んでいたことに安堵した。
「じゃあモンスターさんですの?初めてみる子ですわね」
ちらりと死体を覗き手を合わせるシノタロス。数秒の沈黙ののち、念のため周囲警戒をしますわ、とハンマーを抱えながら周りを見渡す。
「この姿、ウェアウルフだろうか」
「ウェアウルフって確かあいつが、種落とせやクソボケェ!って言ってたやつだっけか」
「種?このモンスターそんなもの落とすのか?いやそもそもそんなこと言っていたか?」
「いや知らねえけど、なんか言ってた気がする」
眉を顰めるライウェーを横目にシノタロスに声をかけた。
「んで、何体だ?」
わらわらと何十体かのウェアウルフ達が姿を現し、真っ白な牙を三人に向けていた。
「……ざっと二十体ほどでしょうか、まだ何体か潜んでいそうですわ」
「そうか、シノタロスはそのままそこの寝てるバカ守ってくれ。ライウェー、身体の調子は?」
「万全とは言い難いが、神格でもない限りは問題なかろう」
「オーケー、病み上がりだがやるしかねえな」
二人はもはやどこに隠していたのかわからないドライバーを取り出し、腰に装着。
その隣でライウェーが念入りにストレッチをし、準備完了と言わんばかりにサムズアップしてくる。
「変身ッ!」「変身、ですわ!」「変形」
掛け声と愉快なBGMが辺りに響き渡る。光が入り混じり三人の姿を変えた。
〈 ハ ル バ ー ド 〉
低音の男性声が告げるとライウェーはたちまちハルバードへと姿を変えた。
「それじゃあ、あとよろしく!」
ダッッッ、と白い閃光が駆け出しウェアウルフの集団に突っ込む。
「了解、ですわッ!」
シノタロスがそう答えると同時に東雲に手を伸ばしていた二体のウェアウルフに向かって、ハンマーを振りかぶった。
二体の頭はボールの如く飛んでいき、地面に着弾。頭の原型を止める事なく潰れ、濁流の如く赤い液体を流した。
「指一歩も触れさせないですわッ!」
その言葉に反応するように一斉に数体のウェアウルフ達が襲いかかる。
真っ向正面から突撃してくる者をハンマーで叩き潰す、再び赤い花が咲き乱れ散ってゆく。すぐさま体制を立て直し次の獲物へと目を移す。
「!」
背後から殺意を察知、すぐさま振り返りその襲撃を防いだ。
カンッ、と重々しい棍棒の攻撃を受け止めた。それはこちらと目が合うとニタリと笑ってくる。
その行動がシノタロスの癇に障ったのかどうかは知らないが、脚を蹴り上げ
情けない犬の声が小さく響き、よろめく。その
当然、その命は潰える。
「おっといけないいけない、冷静に清楚に」
深呼吸をし今一度周囲を確認する。
丁度、東雲を誘拐しようと少し大きめのウェアウルフが見えた。
「って何してるんです、のッ!」
咄嗟の判断で持っていたハンマーを投げつける、おおよそ時速百五十キロほどの速さのハンマーと木の間に挟まれたウェアウルフは成す術なく圧死。
「全く、怪我人を襲うなんて卑怯にも程がありますわ!」
両腕を腰に置き、ぷんすかと怒った。しかしそれは間違いだとすぐさま気づく。
残りのウェアウルフが棍棒を振りかざしながら襲いかかってくる。
「ひゃあ!? ワ、ワタクシとしたことが! やっちまいましたわ!」
間一髪のところでかわすが、その後の追撃をモロに受け吹き飛んだ。
吹き飛ばされながらも受け身を取り、根性で体制を立て直す。
「ステゴロ技術は習ってないので対応ができませんでしたが、なんとか」
一歩、また一歩とこちらに近寄ってきた。ハンマーまでの距離は遠いし、走ったところで寝ている東雲を巻き込むことになる。
(落ち着くのですわ……こういう場合御三方ならどうするんですの……)
意識を集中させ、思考を巡らせた。僅かな隙でさえ命取りな状況、しかしその時間は決して無駄ではない。
「こうですわッ!」
〈パックーン!バイクフォーム!〉
赤色のコインを狐の口に装填し閉じる、閉じた瞬間白い煙がシノタロスの体を包む。
一瞬だけ静かになった、本当に一瞬。
直後、橙色の狐を模したバイクが白い煙の中から飛び出して何体かのウェアウルフを轢いていく。
「忘れていましたわ! ワタクシ自身が
爽快に、痛快に、
「そろそろトドメと行きますわよ! お覚悟なさい! ええと……」
コインコイン、と身体を揺らした瞬間。頭上に棍棒が振り下げられた。
「ぴぎゃあ!?」という悲鳴とともに後方に高く飛ぶ。同時にコインが狐の口に入ったのかファンシーな音楽が流れ出した。
〈ヒッサーツ!〉
「な、なんだかよくわかりませんがチャンスですわね!」
標準を合わる、最大まで光を貯め続けた。
〈ハッシャヨウイ、カンリョウ!〉
明るい口調の女性の声が告げる、
「これがワタクシの必殺技!」と目標を固定し「パートスリー!」と叫ぶのと同時に口から
ウェアウルフ達は逃げる間も無く、物陰に隠れる間も無く消し炭と化す。
撃ち終わった瞬間、シノタロスの変身が解ける。
「め、目の前がぐるぐるしていま、すわ」
ふらふらになりながらも、東雲の方へと歩いたところで糸が切れたかのように倒れ込んだ。
「シノタロス!」
ライウェーを構えながらニャル太郎が叫ぶが、返事は返ってこない。
〈 あの形態でも必殺技が撃てるとはな、しかも
「もうなんでもありじゃねえか!」
〈 エネルギーの使いすぎだろう、加減ができていないあたり調整次第で連発できそうか? 〉
「んなもん連発させんな!」
残りの十体のウェアウルフの位置を確認しながら、一息つきながらライウェーを構えた。
刹那。地面を蹴り上げた音さえを置き去りにし四体のウェアウルフの胴体を叩き切る。
〈 踏み込みは良い、だが途中でバランスを崩したな 〉
「病み上がりだから許せっての、それにハルバードとオレの相性悪いんだって」
〈 言い訳とは感心しないな 〉
「そんな厳しいことを言うなよ、もっと気軽に行こう、ぜッ!」
目の前まで迫っていた奴の胴体を真っ二つに切断、そのまま上半身を蹴り飛ばしたがなんの躊躇いもなく鋭い爪で切り刻んだ。
「あららー、元お仲間さんでも容赦しねえのな」
──視界にノイズが走る、久方ぶりの未来予知だった。
七体のウェアウルフがこちらを囲み、咆哮と共に襲いかかってくる。
攻撃に合わせて高く飛んだ、そこまでは特に問題はなかった。
その刹那、遅れて飛んでくるもう一体に不意をつかれ喉を噛み切られ、そのまま落下した──と言ったところで再びノイズが走る。
「……チッ、情けねえな未来のオレ」
そう吐き捨てたのち首を抑えながら、定位置につく。
何も知らない奴らは当初の予定通りに囲み、咆哮。その攻撃に合わせるかのように高く飛んだ。
予知があっているならと、目線を向ける。
案の定鋭い牙が目の前まで迫ってきているのがわかった。
「ライウェー!」
〈 サ イ ス 〉
豪快な変形音とともにハルバードから大鎌に変形。
空中で身体を捻らせ、まず一体目の首を切り落とす。着地と同時に正面の四体の首を跳ねる。背後で呆然としているであろう残りの首を断つ。
ギンッッッ、と一つの斬撃の音が響く。
「クッソ、避けやがったな!」
すぐさま構え直し斬りかかろうとしたがそこに残りのウェアウルフはおらず、数十メートル先を逃げる背後だけが見えた。
一呼吸を置き、大鎌を向ける。
〈 ラ イ フ ル 〉
意思が伝わったようでライウェーは
「弾は? 補充した方がいいか?」とスコープを覗きながら聞く。
「もうしている」と返してきた。
あっそ、と呟き狙いを定める。ブレを最小限に抑えるように息を止め引き金を引く。
ドォォオオンッッッ!!! と轟音とともに赤い閃光が一直線に翔んでいき二体の胴体を貫き、二、三歩歩いたのちそのまま倒れていった。
「よーし、全員倒したな?」
〈 おそらくは 〉
そう呟くとニャル太郎から離れ女体の姿へと変形。
軽く周囲を見渡し敵がいないことを確認し、二人の元へと近づいた。
「シノタロス!だいじょ……」
三メートル近づいた時点で気づく。
「どこ行った!? いやあの怪我じゃ無理だろ」
〈 ! 前方だ! 誘拐されている! 〉
ライウェーが指差した方向を見ると、どっかの姫のように誘拐されている東雲の姿がそこにあった。
「あいつ! 野郎を誘拐とか正気、かっ……」
追いかけようとした直後、視界が歪む。未来予知ではないことはすぐにわかった。
「大丈夫か!?」
「オレ、のことはいいから早くあいつ、を」
「しかし!」
「いいから! 早く行けっての!」
少しだけ黙ったのち、すまないとだけ残してライウェーは後を追っていった。
残されたニャル太郎は変身を解く。同時に幾分か呼吸が楽になる。
「ハァ……ハァ……クッソ」
病み上がりの影響だろうかと吐き捨てる気力も今の自分にないことを思い知らされながら、シノタロスの容態を確認した。
「……よし、気絶してるだけだ」
よっこらしょ、と二メートルの巨体を支えライウェーの後を追う。
「待って」
背後から女性の声が聞こえた。
「……なんだよ?」
振り返る力さえも惜しいのかないのか、そのままの体制で答える。
「あんまり無理しない方がいいわよ?」
「け、ど」
話してる暇もない、と一歩踏み出すが、ガクンとバランスを崩しそのまま倒れそうになった。
意識が朦朧とする中で誰かに受け止められる、おそらく声の主だろう。
「はいはい、あなたはここで休んでてね?」
ぼやける視界の中でかろうじて見えたのは、ブロンドの髪のサイドテールだけだった。