「なんだお前!?」
ニャル太郎は目の前の得体の知れないものに向けて、戦闘態勢を取った。
東雲はというと、上半身と下半身が逆になっているやつに臆せずちょっかい出していた。
「イマジンだ!なんでここに!?」
「ひゃあ!?あ、それはぁ……」
「おおー!触れなーい!」
「わわ、やめてくださいましー!」
「……ごく稀に“クラウドドライバー“と”カオスドライバー“の同時変身の衝撃によって、イマジンが生まれるという説を聞いたんですか、まさか本当だったとは」とリチャードは呟いた。
「何それ初耳なんだけど」
「根拠のない話ですし、そもそも同時変身しなければ彼女は生まれてきませんからね」
「……確かに」
同時変身しなかった場合、あのイマジンが生まれてくることはなかった。
ある意味オレらは奇跡を起こした、ということになるのか。
「狐のイマジンか〜!かわいい〜!」
「か、かわいいなんて……じゃなくて!こほんっ……」
そのイマジンは咳払いし、東雲の方を向いた。
「貴方の望みを言いなさい、どんな望みでも叶えて差し上げましょう」
凛々しい声で、緊張している声で、尋ねてきた。
「望みかぁ〜」と顎に手を当て考え始める。
「いやなんでこの状況受け入れてんだよ!」
「え、聞かれてるし」
「そういうことじゃねえんだよ!」
鋭い手刀を
「イタイ!なんで叩くの!?」
「なんで取れるんだよ!ちゃんとくっつけとけ!」
「くっつけたよ!って今そういう話してる場合じゃないや、ええと望みわね」
「なんで望みを言おうとしてんだ!絶対罠だろ!」
「大丈夫だよ、大体歪んだ形で望み叶えることが多いけど」
「尚更だめじゃねえか!!!」
アッパーを喰らわせると
「殴るなよ!意外と痛いんだからな!」と降ってきた頭をキャッチしまたくっつけた。
「喧嘩は良くないですわ!」
「そうだ!暴力反対!進歩どうですか聞いてくるの反対!」
「それはお前が遅いのが悪いだろうが!!!」と拳を東雲に放った。
不意にイマジンはニャル太郎へと飛びかかり、吸い込まれた。
その瞬間ピタリと動きが止まった。
「に、ニャル太郎?おーい?」
返事はない。
〈バイバーイ!〉
ニャル太郎の変身が解けた。
〈ヤスメヨー〉
東雲も変身を解除しニャル太郎に近づき、気づく。
「ニャル……太郎……?」
「はっ!お怪我はありませんか?」
そこには橙色の瞳に橙色のメッシュを入れ、中性的な声から完全な女性の声で話すニャル太郎が立っていた。
「う、うん、ボクは平気」
「まあ、よかった」
(よくねえよ!どうなってんだオレの体!)
「あら、安心してください!少しの間お体を乗っ取らせてもらいますわ!」と自慢げに胸を張った。
(乗っ取った!?)
「はい、喧嘩はだめですので!」
「ニャル太郎の体、乗っ取ったのか……」
「はい!危ない方なので!」
「あー、返してあげて」
「え!?ですがまた殴られてしまいますわ!」
「大丈夫大丈夫、いつものことだからさ」
「ですが……」
「それにさ、ボクの望み叶えてよ」
「!」
その言葉を聞くとイマジンはニャル太郎の体から出ていった。
「本気か!?ロクな目に遭うんじゃないのか!?」
「そこら辺は関しては問題ないよ」
「だけどよ」
「全く、ちょっとはボクを信じてよ」
「……わかった」
それ以上は何も言わなかった、何か策があるんだろうと信じた。
「え、ええと、望みはなんでしょうか」
「ボクらと一緒に過ごしてほしいんだ」
「……え?」
東雲はまた変なこと言ったか?と首を傾げた。
「ほ、本当によろしいのですか?」
「うん!イマジンの仲間がいたら心強いし!」
「……」
イマジンは俯き、東雲を見た。
「わかりました、貴方の望みを叶えます」
その瞬間上半身が迫り上がり、二メートル近くある橙色の巨体が現れた。
「こ、これからよろしくお願いします!」
「でけえ!?もう少し低いと思ってた!あ、でもしっぽついてるかわいい!」
「ひゃあ!?触るのはやめてくださいまし!」
「……まぁ仲間が増えるのは……いいことか……」
もうどうにもなれと心底思った。
「あ!ボクは東雲の幻想屋、こっちの怖い顔のやつはニャル太郎」
「よろしく」
「よろしくお願いしますわ!ワタクシは……」
言葉が詰まった、まだ彼女には名前がない。
「そうだ、名前決めないとね」
「名前?ポチでいいだろ」
「そんなありきたりで可愛げない名前やだよ!」
「ポチかわいいだろ!」
「そうじゃないよ!」
「ワ、ワタクシはなんでもいいですので」
「じゃあ……」と少し悩んだ後。
「シノタロス!」
「シノ……タロス……」
「お前、センスね──」
「素敵ですわ!!!」
「嘘だろ……」
「でしょでしょ!ボク達の名前を組み合わせたんだ!」と自慢げに胸を張った。
「とてもいい名前ですわ!」
「まあ、気に入ってたらいいか」
「ずいぶん賑やかになりましたねえ」
リチャードは微笑みながら三人を見た。
「あ、彼女の部屋も用意できますか?」
「もちろんです、部屋はいくつもありますので」
「やったー!」
嬉しそうに叫んだ後、東雲は倒れた。
「おい!?」「えっ!?」「おや」
ぐったりと倒れて動かなくなっていた、死んでいるわけではないが。
「おいしっかりしろ!」
「ななな、何事ですの!?」
「……おそらく活動限界がきたのでしょうね」
「活動限界?どういうことだ」
「それは、単に疲れて寝てしまっただけでしょうね」
「ややこしいなァ!!!」
その後指定された部屋まで
──次の日。
鳥の囀りが聞こえる、清々しい朝がきた。
「起きろ」
ドスの効いた声がそれを台無しする。
「……今日は休みなので寝ます……」
「さっさと起きろ、蹴り飛ばすぞ」
その言葉を聞いた瞬間、体が勝手に動いた。
「お前いい加減脅して起こすのやめろよ!」
「だってこうしたらお前すぐ起きるし」
「そうだけどさ!朝くらいはゆっくりさせてよ!」
「うるせえ、朝飯出来てるから早く来い」
「ちぇっ、久しぶりのベッドを堪能したかったのに」
愚痴をこぼし、二人で食堂へ向かった。
食堂には律儀に待っているシノタロスがいた。
「みなさ〜ん!おはようございま〜す!」
机には三人分の朝食が置かれていた。
「おはようー」
「おはよ、待ってなくてよかったんだぞ?」
「いえ!ご飯はみんなで食べるのが一番いいのですわ!」
「そうだぞ、あ、お前基本ぼっち飯だもんな」
「それお前もだからな」
「はぁ!?」
「喧嘩は良くありませんわ!さあ座って!」
お互いの顔を睨みながら席に座り、仕方なく手を合わせる。
「「「いただきます」」」
朝食を食べながら東雲はあることに気づく。
「あれ、リチャードさんは?」
「そういや見てねえな」
「朝食を用意した後、図書館の方へ行きましたわ」
「え、オレらすれ違ってないけど」
「あら、そうでしたの?」
「少なくともカウンター近くにはいなかったよ」
「皆様、おはようございます」
噂をすればリチャードが現れた、文字通り突然に。
「びっ……くりした……」
「あ、おはようございまーす」
「おはようございますの」
「なんで驚かないんだよ……」
「驚かしてるつもりはないんですよ」とにっこり笑った。
「ん?リチャードさんその書類何?」
「こちらですか?昨日言った頼み事の書類です」
「……多くねえか?」
「おや私、頼み事がひとつとは言ってませんが?」
「それは、そうだが」
「まぁ、暇つぶしできるのはいい事だしいいんじゃね?」
「お前はちったぁ怪しめよ」
「タダ飯に寝床、ドライバーまで用意してくれてるんだぞ?」
「前者はともかく後者はいらんだろ」
「いる!!!!!!!!!!!!」
「わーかったから大声出すな……」
「びっくりですわ……」
東雲は味噌汁を飲み干し「おかわり!」と叫んだ。
「兎にも角にも頼み事聞こうぜ!」
「飯食い終わったらな」
・ー・ー・
「ふぅ〜食った食った」
「美味しかったですわ〜!」
「なんで二人して白米一升食ってんだよ」
「お腹空いてたし」「お腹空いてましたので」
「野球選手かよ」
「いやぁニャル太郎もたくさん食わないと、小さいま──」
最後まで言わせんばかりと右ストレートを決め、東雲は吹っ飛んだ。
「んで、頼み事ってのは?」
「流すなよ!何事もなかったように進めるなよ!」
「今のは流石に東雲さんが悪いですわ」
「えぇ……事実を述べただけなのに……」
「いいから寝っ転がってねえで早く座れよ」
「はいはい……」
リチャードは相変わらず笑顔でこの光景を見ていた。
「では話しますね」
そして何事もなかったように一枚の紙を見せてきた。
「こちらは?」
「ドラゴン、っぽいな」
「すげー!RPGとかに出てきそうなドラゴンだ!」
「こちらのドラゴンを討伐していただきたいのです」
「……は?」
「おぉーなんだかファンタジーだな」
「火とか吐いてくるのでしょうか?」
「いやなんで普通に話受け入れてんだ」
「いやほら、ボクらドライバー持ってるから最強だし」
「持ってても勝てるわけじゃねえんだぞ、大体シノタロスは持ってねえだろ」
「ええ、でもワタクシ生身でも戦えますので!」
自慢げにマッスルポーズを決めた。
「そうじゃなくてだな……」
「もしかしてニャル太郎様怖いのですね?それは気づかすすみません、今別のにし──」
「やってやろうじゃねえかこの野郎!!!」
「おぉー!頼もしー!」
「さすがですわ!」
「それでそのドラゴンはどこに?」
「この街から少し歩いたところの山にいるそうです」
「だってさニャル、あれいない」
「ニャル太郎さんなら場所聞いたら、もう行ってしまいましたわ」と門扉の方を指した。
「せっかちだなあいつ!行こうシノタロス!」
「は、はいですわ!」
「じゃあリチャードさん行ってきます!」
「行ってきますわー!」
「お気をつけて、報告楽しみにしていますよ」
リチャードは二人を見送った。
「そろそろ動きがあると思うんですが、どうでしょうかねえ」
一人取り残されたリチャードは新聞を読みながらそう呟いた。
※余談
ニャル太郎は東雲の幻想屋より三センチ低い。