フォロワーファンタジー ー小豆味ー   作:ニャル太郎

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アホ毛力学

「ん……あぁ……」

 

目が覚める。

 

散らかった部屋、そこらに転がる酒臭い瓶。

 

「ええと……?」

 

寝ぼけた頭で思い出す。

 

昨晩、夜遅くまで三人で状況整理をしていた、が。

 

飽きた自分が確か酒をもらって飲み会に強制変更。

 

相当度数の強いものだったのかニャル太郎とシノタロスは早々に脱落。

 

自分一人が飲み続けて寝落ちしたと思い出す。

 

「あー……だからこんな頭痛いのね……」

 

東雲は椅子から立ち上がり伸びをする。

 

カーテンを開け、振り返る。

 

「おら朝だぞー起きろー」

 

「もう食べれませんわぁ……」

 

「原稿を書けぇ……」

 

寝言を吐きながらベッドでぐっすり寝てる二人を見て、思わずため息が出る。

 

「全く、人のベッドで勝手に寝やがって」

 

散らかった部屋を眺め、もう一度ため息をつく。

 

とりあえずそこらへんに散らばった紙をまとめる。

 

紙には“ドライバー 転生者しか使えない なぜ?”、“転生者にはタイムラグがある”、“なんで分裂した?”などと書かれてた。

 

「そういや、なんでボクらは転生させられたんだ?」

 

一週間くらい割とノリと雰囲気で生活して気づかなかったことを思い出す。

 

「こういうのって普通、呼んだやつが出てきるんじゃないの?」

 

異世界転生モノに詳しいわけじゃないが、こういうものは基本そういうガイド役が出てきてもおかしくないはず。

 

「情報が足りないな……」

 

今の段階で拾える情報はないかと、使ってない脳を動かした。

 

「はぁあ〜〜〜……考えるのやめーた」

 

こういうのは柄じゃないし、そもそも二日酔いで頭が動かない。

 

「考察は得意な人たちに任せるとして、ボクは楽しませてもらおうっと」

 

畳んでいたパーカーを羽織り、二人の方を見る。

 

「まだ起こさんでいいか、食堂行ってなんか食ーお」

 

あくびをしながら図書館の方まで歩いていく。

 

「……ん?」

 

カウンターの上に一冊の本が置かれていた。

 

「なんだ?魔導書かぁ?」

 

さすがにそれはないだろうと近づき覗いてみる。

 

見た目は平安時代に出てきそうな感じのかなり古い本で、タイトルは”アホ毛力学”と書かれていた。

 

「……ウェエ!?マジであったんだアホ毛力学ニキ!!!」

 

思わず手に取り読み出す。

 

”アホ毛とは、現段階で未知の生命機関であり未だに謎の多いものである”

 

「そうなの!?」

 

何となく自分の頭に生えているアホ毛に手を伸ばし、握って離す。

 

ふよふよといつものように動いていた。

 

”アホ毛はある種のトリガーになっていることが発覚している”

 

「トリガー……?」

 

脳裏に例の赤いトリガーを思い出したが、今は関係ないと頭を振る。

 

”人間の奥底に眠る「本来の感情」を呼び覚まし、暴走させる”

 

「……アホ毛力学って深いなぁ」

 

本を閉じ元の場所に戻す。

 

「満足したようですね」

 

「ワギャァァア!!?」

 

突然背後に現れたリチャードに驚く。

 

「お、おはようございますリチャードさん!」

 

「おはようございます、早起きですね」

 

「はい!寝酒が効きました!」

 

「それはよかった」と笑顔で答えた。

 

「あぁ、そういえば東雲の幻想屋様」

 

「はい、なんでしょう」

 

「ドライバーをお預かりしても?」

 

「エッ」

 

「貴方様のドライバーを少し拡張したいので」

 

「あぁ〜そういうことですか」

 

言われたとおりドライバーを渡した。

 

「すぐ終わりますのでお待ちください」

 

そう言ってリチャードは奥の部屋に歩いて行った。

 

残された東雲は、適当に本を取り読み始めた。

 

「……だいぶ読めてきてるな」

 

ニャル太郎に無理矢理教えられて正解だったかも、と思った。

 

「しっかし、どうやって帰ろうか」

 

異世界に慣れてきてもやはり現世が恋しい。

 

あっちがどうなってるか知らないが、もし同じように時間が進んでるなら行方不明扱いになっているのではと不安でならなかった。

 

「うぅ……ソシャゲのログイン……ランキング……フレンド切り……」

 

色んな不安で押しつぶされそになり、頭を掻きむしる。

 

「東雲の幻想屋様」

 

「はいぃ!?」

 

いつの間にか戻っていたリチャードに声をかけられ驚く。

 

「拡張が終わりましたのでお返しします」

 

「あ、ありがとうございます」

 

見たところ何も変わっておらず頭にハテナを浮かばせる。

 

「えっと?」

 

「ここですよ」

 

指をさされたところを見ると何かを差し込むような穴ができていた。

 

「この穴、もしかして強化アイテムとか差し込むものですか!?」

 

「そうですよ」

 

「うひょ〜!まじか〜ついに強化入っちゃうか〜いや〜」

 

ドライバーを高らかに持ち上げくるくると回る。

 

「それで、強化アイテムは?」

 

「おや?すでに持っているじゃないですか」

 

「……え?」

 

答えは返ってこず、笑顔だけが返された。

 

「あの、どういう」

 

「おはようございますわー!」

 

「おはぁよ……」

 

「あぁおはよう二人とも」

 

「あら今日はお早いのですのね」

 

「この時間だったら起こしてくれよ……」

 

「いやぁよく寝てたもんで」

 

「てかお前なんでドライバーなんて持ってんだ?」

 

「え?リチャードさんにきょう……」

 

あたりを見渡したがそこにリチャードの姿はなかった。

 

「あれ、えっ、さっきまでいたのに」

 

「あぁ?何寝ぼけてんだ、お前しかいなかったぞ?」

 

「え、えぇ?」

 

朝から訳のわからないこと続きですでに倒れそうになる。

 

「まあ兎にも角にも!飯だ飯!」

 

「そうですわね!」

 

嬉しそうに食堂に走る東雲とシノタロス。

 

「ったく、呑気な奴らだな」

 

頭を掻きながらニャル太郎はついていった。

 

・ー・ー・

 

「そんで 、今後の予定なんだけど」

 

食事を終えた二人に向かってを口を開く。

 

「だいぶお金も貯まったからさ、そろそろ移動してみない?」

 

「確かに、ここにいてもあんまり情報が集まらんしな」

 

「でも他に行くアテとかありますの?」

 

「ない!」

 

「ねえのかよ!」

 

「ないけど、歩けば街にあたるって言うし?」

 

「でしたらこの辺の地図とかもらいましょう、リチャードさんに聞いてみますわ」

 

「いいね!そしたらボクは他の人たちにここら辺の地理とか聞いてくる!ボクらより先輩だし!」

 

東雲は立ち上がり走り出した。

 

「人様に迷惑かけんなよー」

 

「わーっかてるって!」

 

二人に手を振り、“エネミー食堂”に向かった。

 

天気は晴れ、情報集め(散歩)にはもってこいの日だ。

 

「お?」

 

店の前に180ポイント、ラット、鯔副世塩が集まっていた。

 

その横に大きな荷物をいくつか乗せたバギーと、暴走族が乗りそうなバイクが停められていた。

 

「おーはーよーうーごーざーいーまーす!」

 

「あ、おはようございます東雲さん」

 

「珍しいですね、この三人が集まってるの」

 

「朝ご飯がてらリンクスの話をしてまして」

 

現世(あっち)で新パックとか出てるんですかね」

 

「やっぱり現世?の方では私たち行方不明扱いなんですかね」

 

「それはまずいな、色々やり残したこととかあるし」

 

「……新作のサメ映画出てたらどうしよう」

 

「……新種のエネミー出てたらどうしよう」

 

「……更新どうしよう」

 

「……ええと、そういえばこの荷物は?」

 

全員の目が曇り出したので、東雲は話題を変えた。

 

「え?あぁこの荷物ですか」

 

ようやく目に光を戻した180ポイントが話し始める。

 

「実はここから離れた街に店を移転することになったんですよ!」

 

「おぉー?!」

 

「今の場所もいいんですけど、あっちのキッチンがここよりも広くていいんですよね」

 

「広いと色々と融通きくからな、それに人も入るから経営もそれなりには楽になる」

 

「それで今日塩さんにその街までの護衛を頼んでまして」

 

「へぇ〜!あれラットさんは行かないんですか?」

 

「我はもう少しここにいます、クトゥルフの館とかなんか唆るじゃないですか」

 

「わかるけどあそこ魔導書ないですよ、全部の本棚調べましたし」

 

「ないかー、そうかー」

 

「いやあっても困るでしょ」

 

「大丈夫ですよそんときは燃やせばいいんで」

 

「東雲さんってたまに恐ろしいこと言いますよね」

 

「えっ、だって危ないじゃないですか、人類に害ある本ですよ」

 

「まあ見つけても我近づきませんよ、遠目から見るだけですかね」

 

「た、正しい反応だ……」

 

「正しいってことはやっぱ自分の発言はおかしいと自覚してるんすね」

 

「えっ……燃やすのはだめなの……?」

 

「何でそこで落ち込むんです!?」

 

「時々東雲さんの感性がわからなくなる」

 

「やっぱりSAN値/zeroでは」

 

「そん……なことはありますね」

 

「自覚はしてるんすね……」

 

「自覚はしてるけど自分で抑えてるのでノーカンかなと」

 

「「「ノーカン」」」

 

「はい、ノーカン」

 

「ええと、あっもうこんな時間だ!?」

 

「うわまじか!」

 

「それでは私たちはもう行きます!」

 

バギーとバイクに乗り込み、180ポイントと鯔副世塩は次の街へと行ってしまった。

 

「お気をつけてー!」

 

二人を見送った後に思い出す。

 

「あっ!まってぇ!?」

 

当初の目的を思い出したが時すでに遅し。

 

「やーちまったよ……」

 

「どうしたんです?」

 

「いやぁここら辺の地理を聞きに来たんですけど、せっかくなら一緒に行けばよかった……」

 

「でしたら我が教えますよ、ここら辺の地理なら一応覚えましたので」

 

「さすがラットさん!お礼にアホ毛力学について教えますよぉ〜!」

 

「結構ですよ、いやなんですかその絶対役に立たない力学」

 

「いやほんとにあったんだってアホ毛力学ニキ!」

 

「……東雲さんってなんだかんだTL(あそこ)出身ですよね」

 

「そうですかね」

 

「そうですよ、そういうところの自覚はないんですね」

 

「だってTwitterだし……TL(あそこ)は狂ってる方が面白いし……まあそれにボクの狂気はあそこだと薄いし……」

 

「そうで、えっ薄い?」

 

「薄いよ」

 

「充分濃いと思うんですよね」

 

「……今日のお昼はフカヒレかな?」

 

「いやー!東雲さんの狂気は薄いですもんねー!」

 

「はっはっは〜!褒めてもアホ毛力学の論文しか出せないぞ〜!」

 

「なんにも嬉しくないし褒めてもない……」

 

「なんか言った?」

 

「いえ、何も」

 

やはりTL出身は一部を除きロクなのがいないと実感したラットであった。

 

館に戻るとニャル太郎が何冊か読み漁っていた。

 

「オラー帰ったぞ飯よこせ」

 

「さっき食ったろ、ってラットさんじゃないか」

 

「どうもー」

 

「ラットさんがここら辺の地理教えてくれるって」

 

「マジ?いいのか」

 

「ある程度ですけど」

 

「いや、それだけでも助かる」

 

「それじゃあ紙とペンが欲しいですね」

 

「あぁどうぞ」

 

「ありがとうございます、おぉー羽ペンだ」

 

「お待たせしました、わぁー!?」

 

ちょうど戻ってきたシノタロスが積んでいた本に躓き倒れる。

 

「あぁ!?すまんシノタロス!」

 

「ニャル太郎ー、ちゃんと片付けとけよー」

 

「あ、あとで片付けるつもりだったんだよ!」

 

「嘘つけどうせ人に任せるだろ、ボクは知ってるんだぞ」

 

「やっぱり自分自身だからそういうところは同じなんですかね」

 

「こんなやつと同じにしないでくれる?」「こんなやつと同じにすんな」

 

「わーこれが具現化した自己嫌悪」

 

「「なんか言った?」」

 

「イエ、ナニモ」と引き攣った笑顔で返した。

 

「ワタクシは大丈夫ですので、お構いなく!」

 

立ち上がって机に地図を広げた。

 

「結構精密な地図ですね、あぁここがこうなってたのか」

 

ラットは地図を見ながら紙に書き込んだ。

 

「そいや、ニャル太郎は何してたの?」

 

「この世界の歴史とか調べてた」

 

「お!なんかわかった?」

 

「いや何も、言語が古過ぎて全然読めなかった」

 

「そうかぁ〜」

 

「よし、書き終わりましたよ」

 

模写された地図はざっくりだがわかりやすく日本語で書かれていた。

 

「おぉ〜読みやすしわかりやし〜!」

 

「ほんとに何から何まで、ありがとう」

 

「いいんですよ、奢ってもらったお返しです」

 

「あ、これ地図書いてくれたお礼!」

 

ポケットにしまっていた小さな麻袋を取り出し金貨を何枚かをラットに握らせた。

 

「とりあえず一ヶ月は困らないね!」

 

「すごい、まるで賄賂をもらったみたいだ」

 

「賄賂じゃないよ、お礼だよ」

 

「渡し方が賄賂なんだよ、つーかお前またそんな額渡して!」

 

「痛い痛い!引っ張らないでアホ毛!それに働いた分対価を払っただけだよ妥当な額でしょ!」

 

「妥当って言葉一回辞書調べ直してこい低脳!」

 

「ミギャー!?」

 

「……いつもあんな感じなんです?」

 

「そうですわ!日常茶飯事ですわ!」

 

突っ込んだ方がいい?それとも黙ってた方がいい?と考えたラットは。

 

「賑やかですね」

 

思考を止めた。

 

「ええ!とても賑やかですの!」

 

「み、見てないで止めて〜」

 

「ったく、ほれ」

 

「ダハァ……」

 

「東雲さんのアホ毛どうなってるんですか」

 

「アホ毛力学に書いてあったもん、神経詰まってるもん」

 

「そんな力学あったら現代医学の敗北だろ」

 

「存在したもん!そこにあ……」

 

カウンター上を指したが、そこに本はなかった。

 

「なくなってるー!?あったのにー!!!」

 

「やはり幻覚だったのでは……」

 

「アホ毛力学は存在したのに……ちゃんとあったのに……」

 

「いつもの狂言だ、気にすんな」

 

「あぁはい」

 

それじゃあ我はここで、と言い館を後にした。

 

静かになった図書館で東雲が口が開く。

 

「アホ毛力学存在した(あった)もん……」

 

「いつまで落ち込んでんだ、さっさと起きろ」

 

「てかなんでお前にはアホ毛生えてないんだよ〜ボクなんだから生えてろよ〜」

 

「作中でアホ毛生えてるのは一人でいいだろ、画面がうるさくなる」

 

「こいつ急にメタ発言しやがった、文章だから問題ないよ!」

 

「おめえもメタいんだよ!」

 

ようやく元気を取り戻した東雲が立ち上がり、ラットさんのお手製の地図を見る。

 

「この街から隣の街だと大体四十キロかぁ」

 

「バイクなら大体一時間くらいだな」

 

「最高速度でしたら十分ですわ!」

 

「安全は?」

 

「保証します!でも飛ばされてもお二人なら根性でなんとかなるでしょう!」

 

「人間って脆いからね?すぐ死ぬからね?」

 

「わかりましたわ……」

 

「まあ速いのもいいが、のんびり行くのも悪くねえからな」

 

「そうですのね」

 

「何はともあれ」街の絵を指し「次の目的地はここ!異議は?」

 

「ない」「ないですわ!」

 

「そうと決まれば、もう出発するか」

 

「せめてリチャードさんに挨拶してからにしようよ〜」

 

「そうですわ、お世話になったんですから」

 

「おやお出かけですか?」

 

またどこかともなく、いつものように現れたリチャード。

 

「みなさんお揃いで」

 

「あぁーリチャードさんどこに行ってたんですか!」

 

「それで皆様、何か調べ物ですかな?」

 

「えっ無視?」

 

「ちょうど終わったところだ、それでこれから隣街に行くつもりなんだ」

 

「そうでしたか、でしたら当分はお戻りになられそうにないですか?」

 

「当分っていうか多分戻ってこねえかな」

 

「それは、そうですか」

 

少し落ち込んだ顔をしたが、またいつものように笑顔になった。

 

「ここにいても情報が集まらねえし、他のとこに行けばいろんな転生者に会えるだろうと考えてな」

 

「それにこの世界のこともっと知りたいですし!」

 

「いいことだと思います、ではいつでも部屋は開けてますので」

 

「おう、んじゃ、世話になった」

 

ニャル太郎は一足先に館を出た。

 

「あ、お待ちくださーい!あ、お世話になりましたわ」

 

頭を下げ、ついていくようにシノタロスも館を出る。

 

「お、お世話になりました!またいつか!」

 

「ええ」

 

館を出ようとした時。

 

「東雲の幻想屋様」

 

「ん?なんですか?」

 

「早く、目覚めてくださいね」

 

その言葉は、なぜか自分にではない人に向けれてた気がした。

 

「な、何言ってるんですか、ちゃんと起きてますよ〜!」

 

「どうでしょうね」

 

意味深な言葉に戸惑いながらも東雲は手を振った。

 

「そ、それじゃあ!」

 

「お気をつけて」

 

館を出て二人と合流する。

 

「遅かったな」

 

「お話ししてた」

 

「さあ!お二人ともお乗りくださいな!」

 

「はいよ」

 

「ほらヘルメット被れ」

 

「はいはいわかってるって」

 

ヘルメットを被り後ろに乗る。

 

「いやお前が運転るすんじゃないのかよ!」

 

「ボク無免許だぞ!?それにバイク乗ったこともないんだから!」

 

自動(ワタクシの)運転にお任せを!」

 

「まてわかった、オレが運転する」

 

「ワタクシに任せればすぐですのに……」

 

「気遣いありがとう、その気遣いの加減がもう少しゆるいともっと助かるんだがな」

 

「しょんぼりですの」

 

「まあ加減は覚えて行けばいいよ」

 

「わかりましたわ……」

 

ニャル太郎はヘルメットを被りバイクに跨った。

 

「よし、行くぞ」

 

「出発!」

 

「進行、ですわ!」

 

バイクを走らせ、次の街へと進んだ。

 

・ー・ー・

 

澄み渡る空、生い茂る木々、響き渡るバイクが走る音。

 

「なあ、迷ってねえか?」

 

「そ、そんなことないですわ」

 

「迷ってるよね、明らかにここ山だよね」

 

明らかに斜面を走っていた。

 

「ど、どうでしょう、景色が似てるだけですのよ」

 

「シノタロス、怒らないから言ってごらん」

 

「ごめんなさい完全にルート間違えましたわ〜!」

 

「素直でよろしい!」

 

「すみませんですの〜!」

 

「まあこういう寄り道もいいよね!」

 

「こりゃ着くのが夕方頃になりそうだな」

 

「せめてサンドイッチかなんか作ってこればよかったね」

 

「だな」

 

「ここらにモンスターがいるか探してみましょう、いい食材が見つかるかもしれません」

 

「パンと野菜が欲しいね」

 

「せめて猪とか鹿とかにしようぜ……」

 

のんびりと会話をしていると開けた場所に出た。

 

「いつの間にか頂上に来てしまいましたわ」

 

「おっじゃあ休憩しよ、かれこれ二時間くらい走ってるからね」

 

「そうだな」

 

バイクからおり、頂上の景色を眺める。

 

「わぁ、綺麗ですわ!」

 

「こいつァ絶景だ」

 

広がる景色を見て思わず呟く。

 

「ほんとに異世界なんだな」

 

「今更何言ってんだ」

 

「いやぁこれがやっぱり夢で、ここが終着点だったら面白いなーとか」

 

「そうであって欲しいが、残念これは現実だ」

 

「悲しいね」

 

「夢でも、こんなにも楽しい夢を見れてワタクシは幸せですわ!」

 

「ポジティブだぁ、憧れちゃう」

 

「これくらいポジティブに生きろってことじゃないのか」

 

「そうかもね」

 

見知らぬ光景、見知らぬ場所、見知らぬ異世界。

 

それを見て、ようやく決心がつく。

 

「決めたわ、元の世界に絶対帰る」

 

「元からそれが目的だろ」

 

「あぁそうだっけ」

 

「なんで忘れてるんですの!?大事なことじゃありませんか!」

 

「ごめんごめん」

 

頭を掻き、景色を一望する。

 

「現世に戻ったらどうすんだ?」

 

「ソシャゲログインしたい」

 

「そうか、原稿も書けよ」

 

「うっす」

 

「ワタクシも最後までお付き合いしますわ!」

 

「ありがとうシノタロス!」

 

バイク姿のシノタロスを撫でまくる。

 

「くすぐったいですわ〜」

 

「よーしよし……」

 

「はぁ、ほらもう行くぞ、さっさと──」

 

ニャル太郎の言葉が止まる。

 

「どうしまし、た」

 

シノタロスの明るい声色が変わった。

 

「ん?」

 

二人の雰囲気が突然変わったことに疑問を抱き、振り返った。

 

そこに立っていたのは、一人の女性。

 

「こんにちは、卑小の命」

 

その言葉を聞いた途端、プツンと自分の中の何かが切れた音がした。

 

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