私の名前は、倉谷桃子。
都立神山高校、全日制の二年生で、
2年A組の学級委員長を務めている。
体力自慢、五教科優秀と、非の打ち所がない優等生だけど…
私には愛する妹がいる。それは撫子。
宮益坂女子学園の高等部という、お嬢様学校に通う、
一年生の撫子は、もう、最高に可愛いの!
愛しいの…だって、こんなに、天使みたいで、
可愛い妹がいたら、死んじゃうしかないじゃない!
毎日、登校前にキスしたり、
家に帰れば、一緒にお風呂に入ったり、
一緒に寝たりしている。
お姉ちゃんである、私って異常なのかな?
背後から、ぎゅうっと抱きしめられる体温、
そしていつも甘い匂い。
ずうっと抱きしめられていると安心する。
「たっだいまぁ!おかえり~!
いや、私がおかえり~!そして撫子がただいま!」
ぎゅうっと抱きしめられると、
けれどもハグは絶対に離さないのが、お姉ちゃん。
倉谷桃子。こんなできそこないで、
可愛いだけの私に優しく甘く接してくれる、
とっても優しいお姉ちゃん。
お姉ちゃんが見捨ててくれない限り、
私はここにいていいんだと思ったから。
「ただいま、お姉ちゃん」
「うん!とってもかわいらしい、
お返事でなによりだよ。
さて、撫子が帰ってきたことだし、
一緒に椅子取りゲームでもしようかな?」
「ええっ!?椅子取りゲームって二人ではできないと思うよ?」
「あれ?そうだっけ?じゃあ、フルーツバスケットにしよう!」
「なんでそう二人で遊べないゲームを選ぶのかな!?
お姉ちゃんとんでもないよ!」
「うーん、撫子は何して遊びたい?」
「わ、私、えっと。でも、宿題…あるから。」
「それは私が、いつも夜に視てあげてるでしょ?
だから後にしよ。学校いって、頭ガッチガチのままで、
勉強なんかできっこない。」
「…そ、そうなのかな?」
「そうだよ。それに、撫子、
勉強好きじゃあないでしょ?」
「…うん」
こくり、と頷くとお姉ちゃんは、
「よし」と笑顔を浮かべて、
そして緩やかに私の手を取っては部屋に辿り着いて。
それからそれから、
私の秘蔵のクローゼットを開けては、
「一緒にかこっか」と
花を咲かせるように告げます。
そう、一緒に漫画を描こう。これはいつも幼少期から
ずうっと一緒に行っていることで、
そしてこればかりはお姉ちゃんよりちょっと得意な私なのです。
ストーリーの作成、それからコマの割り方。
それこそ絵柄以外、
展開が80年代ポップな感じになっちゃうのは仕方がないけれど、
どうやらこの世代にはウケてしまうらしく。
80年代の漫画だとかアニメだとか、
そういったものが大好きな撫子にとっては、
嬉しいこと極まりないのです。
「撫子、このシーンって背景どうするの?」
「えっと、できたらお花畑がいいから…」
相談されたのは、キスシーンの背景でした。
お姉ちゃんはとんでもなく背景の絵柄が上手で、
そしていつもいつも丁寧に書き起こせてしまう、天才。
「お姉ちゃんはストーリーとか
そういうのわかんないから作れる撫子がすごいよ」
って言ってくれるのがとっても嬉しくて、そう褒めて貰えるのは、
漫画を描いているという事実を知っているのはお姉ちゃんだけだから。
私はこの暖かい時間が大好き。もうずっと勉強の時間なんて、
こなければいいのに、なんて。流石に差し出がましいですよね。
「撫子ってさ。男女の恋愛じゃなくって、
女の子同士の恋愛ばっかり描くよね。
80年代ポップの代わりに。」
「うん、男の人って、やっぱり怖いから、解らないから…」
「そっか…」
いつもなら、解らなくっていいんだよ、
ずっと、お姉ちゃんが傍にいてあげるからね、
と言わんばかりにお姉ちゃんはそう甘やかしてくれるのだけれど。
今日はそれがなかったのが不安で、思わずベッドに
作業へと戻るお姉ちゃんをがしっと掴んでしまいました。
なんだか、消えそうで、怖かったから。そうしてしまうと、
お姉ちゃんは瞬きをしてきょとんと眼を見張って
「やっぱり、可愛いなあ」と笑みを浮かべるのです。
そう、私はお姉ちゃんがいないといけない。
駄目な子になっちゃうって、お姉ちゃんは解ってるから。
けれど、そもそも、そうしちゃったのは、お姉ちゃんで、
真正面からぎゅうっと抱きしめられては唇を重ねられて、
やっぱりドキッとしてしちゃうのです。
鼓動が高鳴ってどうしようもない、こんなのだめだって解ってるのに。
けれどダメなのに、やめられない。
ごめんなさい、お父さん、お母さん。
もし、お姉ちゃんが悪い子になったら、私のせい。
「大好きだよ、撫子」
蕩けるような瞳で、私とようく似た顔でそう言ってくれるのが心のなかが、
ぽかぽかと暖かくて、目を細めてはもう一度唇を重ねてしまう。
あ、だめ。そうは思うのに、
私はお姉ちゃんを悪い子にしてしまうのです。