桃子は撫子に問いかける。
「撫子、朝ごはん、食べる?」
「ううん」
首を横に。本当は食べた方が良いのだろうけれど、
どうにも食欲が出ない。
「豆乳でココア淹れてあげるから、
薬はそれを飲んでから、飲んでね」
「ありがとう…お姉ちゃん…」
同性という事もあるが、女の子日でも、
姉の桃子の方が軽く、妹の撫子の方が重い。
本当に頼りになる。リビングの椅子に座って、ため息一つ。
「…私も、ちょっとくらいは、撫子の分も、
引き受けられたら良かったのに」
そう言ってくれるのは、撫子が始めて月の物が来てから、
ずっと繰り返された言葉。
「ううん…大丈夫だから…うぅ…」
「撫子!もうちょっとしたら、お姉ちゃんが、
そっちに行くから!」
「お姉ちゃん…」
倉谷…というか、母方の血筋はどうにも、
月の物が軽いか重いかの両極端になりがちなのだとか。
姉妹だというのに、姉の薬子は少し軽いが、
妹の撫子は、この有様だった。
温かい豆乳ココアをちびちびと飲む。砂糖はあまり入っていない、
純ココアだけれども、豆乳自体の甘みが合わさって飲みやすい。
「なんとか、なる…かな」
ぼそり、呟いたのは、若干の不安。
撫子のそれは、月経困難症という線引きの中に入ってしまうほど。
普段はピルと痛み止めを併用することでコントロールしている。
だから、多少のつらさだるさはある物の、
生活に問題はなかった。
ココアを飲み終わり、いつの間にか机に置いてくれていた常温の水で、
分けて貰った痛み止めを流し込む。
普段とは違い、対応は心許ない。お腹を温めたり、
豆乳ココアを飲んで気持ち楽になったりしたから、
寝起きよりかはマシにはなった。
相対的に、痛みも悪心も軽めなのだから、
一日ならなんとかなるだろう、と心を決めた。
そんな、倉谷撫子の一日が始まろうとしていた。
「はぁ…」
なんとか午前を乗り切った撫子から、
盛大な溜め息が漏れる。
痛み止めのお陰だが、
血が足りないのか、いつも以上の眠気。
撫子が立ち上がった。その瞬間。
「あっ」
慣れ親しんだ不快感が下腹部、股座に満ちる。
脱力して、腰を下ろしそうになるけれど、
更に不快感の追い討ちが来るのが、
わかっていたので、なんとか堪えた。
「撫子、どうかしたの?」
「お姉ちゃん、トイレに行ってくるね」
「うん、大丈夫?」
「大丈夫だよ…」
察してくれたので、苦笑いを返す。どうにも、今日は調子が出ない。
トイレの中に入り、ショーツを下げると、そこは凄惨な絵図。
経血をたっぷりと吸って赤く染まったナプキン。
赤黒い塊が、ついていた。
「撫子…死ぬの…?」
そんなことは無いし、別に初めてでも無い。
そう頭では分かっていても、子宮という内臓から、
こんなにも出血していた。
ついでというか、流れでショーツに血がついていないかを確認する。
今では減ったけれど、生理が来るようになったばかりの頃は、
幾つものショーツに、二度と落ちないような、
血痕をつけたのは良い思い出では無い。
先ほど、立ち上がった時の感覚的に、
もしや、とは思ったけれど、
ナプキンを手早く折りたたみ、くるっと丸める。
そして、そのままポイ。新しいのに取り替えた。
「撫子、午後からだけど、産婦人科に行く?」
「うん…」
「じゃあ、お姉ちゃんが、おんぶしてあげるからね」
「ありがとう…お姉ちゃん…」
「撫子は、お姉ちゃんの大切な妹だから」
トイレから出た後、撫子は、
薬子におんぶされながら、かかりつけの産婦人科に行った。