[24日まで一時休止]うたわれるもの 真白の願い   作:ハラダ

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第零章 『真白』
0 不安定な神様


どれだけ時間が経っただろうか。

 

仕事をするのが嫌いで、のんべんだらりとした日常を愛していた自分が、何の因果か友の仮面と意志を引き継ぎ、幼いどこぞの皇女さんのために戦をしたあの時から。

遂には愛を知らない甥の暴走を引き止めるために力を使い果たして死んだ。そして愛する少女と大切な仲間達のために大神となって、馬鹿な願い事によって不死の異物となった同胞たちを救い続けた。

 

その結果が、これだ。

目の前に広がるヤマトの光景。かつて自分がいたヤマトの情景とは変わっていて、その変化は自分がただの人間だった時から大きく時間が経っていることを証明している。

見知った顔はもういない。クジュウリにも、イズルハにも、シャッホロにも、エンナカムイにも……トゥスクルにも。

 

「って、涙くらい流せないのか自分は」

 

いつの間にか、一人だけの旅路となっていた。最初の頃は自分を愛してくれた二人の従者が常に隣にいたが、数年経てば彼女達のために皇女さんの元に行かせた。

神様っていうのは何ともめんどくさい存在で、不用意にヒトと接することなんてのは許されない。

出来ることなんてのはただ見ているだけ。仲間が危険な目に遭っている時も、命尽きて冷たくなってしまった時も、見ていることしかできない。

 

それが何度も何度も、そして大切にしていた者ほど自分の心に亀裂が広がる。しかし自分がするべきなのは同胞の解放、そして苦しむヒトの願いを少しだけ叶えてやることだ。だからこそ、亀裂が広がり続けても自分の使命だけは果たした。

 

そして、全てが今日ーー終わった。

 

タタリはもう、この世界にはいない。緑豊かで美しいこの世界に、過去の異分子はもう自分しかいないのだ。大いなる父である、自分以外は。

 

ヤマトを見渡せる丘で、一人芝生に腰を下ろす。

 

「さて、これからどうするか」

 

もう自分にするべきこと、なんてのはない。もうこの世界はヒトの力だけで紡がれるのだ。苦しむヒトを救うことも必要ない。それほどこの世界は豊かになり、理不尽な神や大いなる父の干渉も無いからな。

しかしそう考えてみれば、自分は大神という存在でありながら根なし草ということになるわけで……昔、仕事をしたくない、根なし草になりたいと思っていたが、まさかこんなところで叶ってしまうとは。

しかし安易にヒトに関わることもできないので酒は飲めん。美味いもんも金を持っていないために買うことが出来ない。というか基本的に食事がいらない身体なのである。つまり何の楽しみも無い根なし草……生き地獄か?

 

「いっそこのまま永遠に……ふあぁ」

 

眠りにつければーーそう言おうとした時、中々大きな欠伸が出た。そういえば最近、あまり眠ることは無かった。神様でも夢を見る。かつてのあの暖かな日常を。起きるたびに現実を思い知らされるから、眠ることをやめたんだっけか。

しかし久しぶりにまた、あの日常を夢見るのも悪くない。もう自分がすべきことは終わったんだ。明日のことは明日考えれば良いだろう。

 

そんなことを考えた自分を鼻で笑いながら、意識を深い場所へと落とし久しぶりの眠りについた。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「……ク……ねえ……ハクったら!」

 

ん……この声は……。

 

「もう、ハクってばまた深酒して……こんなことになるなら、お小遣いを減らそうかな?」

 

ああ、この夢か。心地よい、聴きなれた声。ゆっくりと目を開ければ、金色の瞳かこちらを呆れたように細められている。

 

「あっ、やっと起きたかな!もう、ハクは相変わらずだらしないんだから!」

 

はぁ……と大きなため息を吐きながら、彼女はそばにおいていた湯呑みをこちらに渡してくる。

 

「ほら、いつものだよ」

 

彼女特製の二日酔いに効く薬だろう。自分はそれを受け取り口に流し込む。スッキリとした爽やかな薬膳の香りが、呆けた頭を起こしてくれるのだ。

 

「もうみんな、ハクが寝ている間に朝食を済ませちゃったかな。ハクも早くご飯食べて!今日もオシュトルに頼まれた仕事があるんだから」

 

そう言って彼女は自分から湯呑みを受け取り、その場を立ち去ろうとする。そこで彼女に手を伸ばし、腰から生えているクネクネした白い尾を鷲掴んだ。

 

「ひにゃぁぁぁ!」

 

そして悲鳴と共に渾身の蹴り。相変わらず夢だというのになぜか痛みを感じるのはどういうことだろう。

 

「な、な、何をしてるのかな〜?」

 

額に青筋を浮かべ、絶対に目が笑っていない笑顔をこちらに向ける彼女。じぶんはその様子に背筋を冷やしながらも、この夢を見るたびになぜかこうして彼女の尻尾を掴んでいた。

自分の意識では無い。無意識の行動。

 

「覚悟するかなっ!!」

 

けれど、そこで夢は必ず終わる。

彼女の尻尾が自分の頭に巻きつけられ、視界が真っ暗になった途端、この夢は終わってしまうのだ。

目が覚めた時、それが原因で強い寂寥感に見舞われる。

 

ああ、次に夢を見れるのはいつだろうか。このままずっと眠っていられれば、あの仲間達との日常を見ることができるんだろうか。

自分の選択を後悔したことはない。そのおかげで彼女を救うことができた。仲間達を救うことができた。兄貴が、ホノカさんが、親友達が愛したこの世界とヒトを救えたのだ。

 

しかし、もし願うとすれば。

 

 

‘もう一度、あの日常に戻りたい ’と、自分は願うだろう。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

神は孤独であり、壊れた心に耐えることは出来なかった。

だからこそ願ったのだ。

誰かに願われて、それを叶え続けた彼が、大神である自分自身に、無意識にも。

 

願いには代償が伴う。

 

彼も知っていたはずだろう。知らなかったはずは無いだろう。自分の同胞がソレに願い、理不尽に叶えられてしまったことを知っているのだから。

 

しかしそれでも、彼は願ったのだ。

 

自身の心に刻まれた暖かな日常を。心から愛した一人の少女と仲間達との再会を。

 

不安定な神様は、その"願い"を聞き届けた。

もう一度、またあの日常に戻るという願いを。

 

決して誰にも語ることの出来ない記憶と共に。

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