[24日まで一時休止]うたわれるもの 真白の願い 作:ハラダ
「マロ……!ウコン……!」
飛び出しそうになる足を何とか引き止める。
勘違いするな。今の自分とあの二人は他人だ。まだ話したことも無いんだぞ。
そしてマロは貴族、ウコンは正体を隠したオシュトルだ。
突然話しかけても、不審に思われるだけだ。
だからーー
「我慢、しろよ……自分」
奥歯を噛み締めながら、必死に気持ちを押しとどめる。
呼吸を整え、落ち着いた頃に旅籠屋へと足を進めた。
「おいマロ、そっちは運べたか?」
「万事恙無く、でおじゃるよ」
ああ、この声は。
二人を失って、それでも使命のために動き続けた。
嘘をつき、裏切って、死にかけて、それでも自分はッ……!
「くっ……!」
表情に出ないように必死に力を込め、早足でその場を去る。
そして女将さんの所へ行く前に、自室へと戻った。
「おかえり、ハク。ごめんね、私……ハク?」
自分はよく耐えたと思う。
だから、いいよな。
もう、漏らしてもいいよな。
「ッ……うっ……ぐっ!!!!」
「ハ、ハクッ!?」
嗚咽を漏らし泣き始めた自分に、クオンが駆け寄る。
今の自分は、まるで子供のようだろう。保護者であるクオンにとっては、一人で仕事に行って帰ってきたら泣きはじめるただの子供。
それでも、耐えられなかった。
「……よしよし」
クオンに頭を撫でられながら、自分はただひたすらに涙を溢れさせた。
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右近衛大将、オシュトル。
若きながらも、帝から仮面を賜るほど上り詰めた武人。
武はもちろんのこと、知にも優れた将であり、清廉潔白で真っ直ぐで、沢山のヒトから人気だった。
家族にも愛され、部下たちにも慕われ、そして自分達と共に肩を並べた親友。
それが、オシュトルでありウコンだった。
しかし、皇女さん毒殺未遂の冤罪を被せられ、処刑される所を自分達が助けたが、ヴライとの戦いで……この世を去った。
最期にアイツは言った。
『姫殿下を……頼む』
塩となった身体が崩れ落ちる中。
『頼んだぜ……アンちゃん』
そう言って、死んでいった。
あの言葉が、自分を……オシュトルにした。
意志を……仮面を……継いだ。
采配師、マロロ。
ヤマトでも有数な殿試に合格した助学士であり、優しき心を持ちながら戦ではその知を発揮する優秀な采配師。
最初に出会った時は、なんとも面倒な奴に絡まれたと後悔したもんだ……。
だが、マロは友達思いで……一緒にいると雰囲気が明るくなるような……そんな奴だった。
優しい、ただそれだけなのに、とても大きな存在だった。
失敗だった。
皇女さんとオシュトルを救出する時に、マロにも助力を求めるべきだった。
オシュトルとしてエンナカムイでデコポンポと戦った時、無理にでも引き止めるべきだった。
ハクが死んだ、オシュトルが殺した。
その事実、偽りだらけの真実が……マロをあんな風にしてしまった。
戦とはいえあの優しいマロが、自分への復讐のためだけに闇へと堕ちた。いや、堕とされた。
『マロ……は……馬鹿で……おじゃるなぁ……』
皇女さんに扮した敵に隙をつかれた自分を守って。
『友にも……気づかないとは……』
ひどい怪我を負って。
『生きてて……良かった……』
そんな最期が……自分の失敗で……。
二人の親友を、あの戦で自分は失った。
何度も後悔した。何度も願った。
あの時、こうしていれば……と。
ウォシスとの戦いによって、仮面の力を限界まで引き出した自分は死んだ。やっと全てが終わったと、やっと二人に会うことが出来るかもしれないと。
しかし、あの二人は自分を引き止めた。
お前にはまだ、やることがあるだろう?と。
『行ってこい』と、背中を押してくれた。
その二人が、生きている。
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散々泣きじゃくり、クオンの着物を自分の体液でぐしゃぐしゃにしてしまった。
真っ赤に腫れ上がった目元を、クオンが渡してくれた水で冷やす。
「……落ち着いた?」
そうだ、まずは謝らなきゃな。
「ああ……すまんな、クオン。帰ってきて早々、情けない姿を見せた」
そう言って自分は頭を下げる。
そして返答がないのが気になり、視線を上げると。
「仕事で失敗しちゃったんだね……」
と、同情するように微笑むクオン。
その微笑はまるで母親、いや聖母か。その暖かな笑みに……ん?仕事?
「いやいやいや!!違う!確かにこの状況じゃ、一人でおつかいに行って失敗して親に泣き縋る子供みたいだけど!違うからな!!」
ヤバい。自分の顔が熱い。真っ赤になっているのがよく分かる。
「え?でも、今日は私の体調が悪いからって、一人で仕事に行ったんだよね?それなら、仕事で失敗してきたかなって」
「た……確かにそう感じるのが当たり前かもしれん。が、断じて違う。仕事なら上手くやったさ!」
「じゃあ……何があったのかな」
「それは……」
その先を言おうとした時、戸惑いが生まれる。
これから起こる出来事を言ってしまってもいいのだろうか。それに自分が言うのは、クオンも自分もまだ出会ってもいない二人の最期で、過去に戻って再会できたのが嬉しくて泣いた……ということだ。
信じてもらえるだろうか。それ以前に、クオンのこともまだ話せていないんだ。
……やっぱり、言えないだろう。
「……記憶が、少し戻ったんだ」
「えっ!?」
自分の言葉に、クオンは想像以上に驚愕した。
「戻ったって言っても……少しだけだ。その……昔の親友ことを、な」
「親友?」
首を傾げる彼女に、罪悪感が浮き出る。
最愛のヒトに、嘘を吐き続けているのだ。それも、騙すための、巧妙な嘘を。
「……ああ、いたんだよ。一人は自分と肩を並べた。相棒と呼びあった。もう一人は自分のことを慕ってくれていて、最後まで自分のことを親友だと言ってくれた」
「……」
「その二人のことを思い出したのは、少し似たヒトがいて……つい、な」
「そっか。うん、ハクにも友達が居たんだね」
「……ん?それはどういう?」
自分には友達がいなさそうだ、なんて言葉を掛けられたのかと思いツッコミを入れようとした時。
「羨ましい……かな」
消え入りそうな声色でそう言いながら、クオンは悲しく笑っていた。
自分はそれを見て、何も言葉が出なかった。