[24日まで一時休止]うたわれるもの 真白の願い   作:ハラダ

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10 親友

「マロ……!ウコン……!」

 

飛び出しそうになる足を何とか引き止める。

勘違いするな。今の自分とあの二人は他人だ。まだ話したことも無いんだぞ。

そしてマロは貴族、ウコンは正体を隠したオシュトルだ。

突然話しかけても、不審に思われるだけだ。

 

だからーー

 

「我慢、しろよ……自分」

 

奥歯を噛み締めながら、必死に気持ちを押しとどめる。

呼吸を整え、落ち着いた頃に旅籠屋へと足を進めた。

 

「おいマロ、そっちは運べたか?」

「万事恙無く、でおじゃるよ」

 

ああ、この声は。

二人を失って、それでも使命のために動き続けた。

嘘をつき、裏切って、死にかけて、それでも自分はッ……!

 

「くっ……!」

 

表情に出ないように必死に力を込め、早足でその場を去る。

そして女将さんの所へ行く前に、自室へと戻った。

 

「おかえり、ハク。ごめんね、私……ハク?」

 

自分はよく耐えたと思う。

だから、いいよな。

もう、漏らしてもいいよな。

 

「ッ……うっ……ぐっ!!!!」

 

「ハ、ハクッ!?」

 

嗚咽を漏らし泣き始めた自分に、クオンが駆け寄る。

今の自分は、まるで子供のようだろう。保護者であるクオンにとっては、一人で仕事に行って帰ってきたら泣きはじめるただの子供。

それでも、耐えられなかった。

 

「……よしよし」

 

クオンに頭を撫でられながら、自分はただひたすらに涙を溢れさせた。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

右近衛大将、オシュトル。

若きながらも、帝から仮面を賜るほど上り詰めた武人。

武はもちろんのこと、知にも優れた将であり、清廉潔白で真っ直ぐで、沢山のヒトから人気だった。

家族にも愛され、部下たちにも慕われ、そして自分達と共に肩を並べた親友。

 

それが、オシュトルでありウコンだった。

 

しかし、皇女さん毒殺未遂の冤罪を被せられ、処刑される所を自分達が助けたが、ヴライとの戦いで……この世を去った。

 

最期にアイツは言った。

 

『姫殿下を……頼む』

 

塩となった身体が崩れ落ちる中。

 

『頼んだぜ……アンちゃん』

 

そう言って、死んでいった。

 

あの言葉が、自分を……オシュトルにした。

意志を……仮面を……継いだ。

 

采配師、マロロ。

ヤマトでも有数な殿試に合格した助学士であり、優しき心を持ちながら戦ではその知を発揮する優秀な采配師。

最初に出会った時は、なんとも面倒な奴に絡まれたと後悔したもんだ……。

だが、マロは友達思いで……一緒にいると雰囲気が明るくなるような……そんな奴だった。

優しい、ただそれだけなのに、とても大きな存在だった。

 

失敗だった。

皇女さんとオシュトルを救出する時に、マロにも助力を求めるべきだった。

オシュトルとしてエンナカムイでデコポンポと戦った時、無理にでも引き止めるべきだった。

 

ハクが死んだ、オシュトルが殺した。

その事実、偽りだらけの真実が……マロをあんな風にしてしまった。

戦とはいえあの優しいマロが、自分への復讐のためだけに闇へと堕ちた。いや、堕とされた。

 

『マロ……は……馬鹿で……おじゃるなぁ……』

 

皇女さんに扮した敵に隙をつかれた自分を守って。

 

『友にも……気づかないとは……』

 

ひどい怪我を負って。

 

『生きてて……良かった……』

 

そんな最期が……自分の失敗で……。

 

二人の親友を、あの戦で自分は失った。

何度も後悔した。何度も願った。

あの時、こうしていれば……と。

 

ウォシスとの戦いによって、仮面の力を限界まで引き出した自分は死んだ。やっと全てが終わったと、やっと二人に会うことが出来るかもしれないと。

しかし、あの二人は自分を引き止めた。

 

お前にはまだ、やることがあるだろう?と。

 

『行ってこい』と、背中を押してくれた。

 

その二人が、生きている。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

散々泣きじゃくり、クオンの着物を自分の体液でぐしゃぐしゃにしてしまった。

真っ赤に腫れ上がった目元を、クオンが渡してくれた水で冷やす。

 

「……落ち着いた?」

 

そうだ、まずは謝らなきゃな。

 

「ああ……すまんな、クオン。帰ってきて早々、情けない姿を見せた」

 

そう言って自分は頭を下げる。

そして返答がないのが気になり、視線を上げると。

 

「仕事で失敗しちゃったんだね……」

 

と、同情するように微笑むクオン。

その微笑はまるで母親、いや聖母か。その暖かな笑みに……ん?仕事?

 

「いやいやいや!!違う!確かにこの状況じゃ、一人でおつかいに行って失敗して親に泣き縋る子供みたいだけど!違うからな!!」

 

ヤバい。自分の顔が熱い。真っ赤になっているのがよく分かる。

 

「え?でも、今日は私の体調が悪いからって、一人で仕事に行ったんだよね?それなら、仕事で失敗してきたかなって」

 

「た……確かにそう感じるのが当たり前かもしれん。が、断じて違う。仕事なら上手くやったさ!」

 

「じゃあ……何があったのかな」

 

「それは……」

 

その先を言おうとした時、戸惑いが生まれる。

これから起こる出来事を言ってしまってもいいのだろうか。それに自分が言うのは、クオンも自分もまだ出会ってもいない二人の最期で、過去に戻って再会できたのが嬉しくて泣いた……ということだ。

 

信じてもらえるだろうか。それ以前に、クオンのこともまだ話せていないんだ。

……やっぱり、言えないだろう。

 

「……記憶が、少し戻ったんだ」

 

「えっ!?」

 

自分の言葉に、クオンは想像以上に驚愕した。

 

「戻ったって言っても……少しだけだ。その……昔の親友ことを、な」

 

「親友?」

 

首を傾げる彼女に、罪悪感が浮き出る。

最愛のヒトに、嘘を吐き続けているのだ。それも、騙すための、巧妙な嘘を。

 

「……ああ、いたんだよ。一人は自分と肩を並べた。相棒と呼びあった。もう一人は自分のことを慕ってくれていて、最後まで自分のことを親友だと言ってくれた」

 

「……」

 

「その二人のことを思い出したのは、少し似たヒトがいて……つい、な」

 

「そっか。うん、ハクにも友達が居たんだね」

 

「……ん?それはどういう?」

 

自分には友達がいなさそうだ、なんて言葉を掛けられたのかと思いツッコミを入れようとした時。

 

「羨ましい……かな」

 

消え入りそうな声色でそう言いながら、クオンは悲しく笑っていた。

自分はそれを見て、何も言葉が出なかった。

 

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