[24日まで一時休止]うたわれるもの 真白の願い   作:ハラダ

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12 蟲

集落の人間が、大量のギギリに襲われた。

飯の最中に運ばれてきたのは、身体中が紫色に腫れ上がり、苦しそうな呻き声を上げる男達だ。

なんでもここ半年、ギギリによる被害が急に頻発しており、薬の量が追いつかないほどらしい。そして何より、そのギギリ達は集団で襲ってくる。ギギリは人を襲わないはずなのに、だ。

 

その男達は、クオンの薬によってなんとかなった……副作用が凄まじかったが。

 

「クオン」

 

治療を終えたクオンに、自分は声をかける。

 

「ん?どうしたのかな?」

 

「ギギリ……いや、ボロギギリだ」

 

「え……?」

 

クオンには予め報告していた。自分を助けてくれたあの日、ボロギギリに襲われた事についてを。ついでにそいつがタタリに喰われたこともだ。

 

「ハク、でもボロギギリはタタリに……」

 

「違う。自分が襲われたのとは違うボロギギリだ」

 

「……ハク?」

 

自分はクオンから離れ、集落の人間から話を聞いているウコンに声をかける。

 

「ウコン、少しいいか?」

 

「あん?」

 

「今回のギギリについて、知ってる事がある」

 

「……詳しく頼む」

 

そしてクオンとウコンと共に、旅籠屋の外へと出る。

 

「さて、アンちゃん。知ってるってのは?」

 

「繁殖期だ」

 

「あ?」

 

「ギギリは繁殖期になると、一部の個体が極端に成長し親になる。そして自分は先日、その親に襲われた」

 

「親っていうと……ハク、まさか」

 

「ああ、ボロギギリだ。」

 

「なんだと?」

 

ウコンとクオンの表情が険しくなる。

このボロギギリの繁殖期については、以前……いや、昔マロロに教えてもらったことだ。

その時は、ボロギギリについては全く警戒していなかった。自分はギギリのことをボロギギリだと思っていたし、ウコン達はただのギギリだと思っていた。

そのすれ違いから、死人が出た。

 

「つまりなんだ、そのボロギギリがいるから、ここ最近人間を襲うようになったってのかい?」

 

「ああ。親になった個体は子供の餌のために、手当り次第獲物に遅いかかるんだと。そして親は番、二匹いるんだ。その内の一匹はタタリに食われたが……」

 

「ちょっと待って、ハク」

 

クオンが自分の袖を引く。

 

「どうして、そんなことを知ってるのかな」

 

やっぱり、あまりにも怪しすぎる……か。

だが、マロロは酒に酔っている。もう少し早くこの繁殖期について思い出せていれば、取れる手段も変わった。

だが、伝えるには今日しかない。ウコンの耳に入れておかなければ、直前に言われても困惑するだけだ、

そして、明日になればすぐにウコン達は討伐に向かうだろう。自分とクオンも一緒に。

 

「……すまん、それは言えない」

 

「そう……」

 

自分がクオンの手を取り、袖から離す。すると、クオンは悲しそうに俯き、身を引いた。

 

「それは俺にも言えねえのか?アンちゃんよ」

 

「言えない、だか事実だ。せめてマロロが起きてくれれば、証明になるんだが……」

 

「いや、別に疑ってるわけじゃねえ。ボロギギリがいるかいねえか、それが分かるだけでも大助かりよ」

 

「……いいのか?」

 

ウコンは自分の胸に拳を軽く当て、にっと笑った。

 

「おうよ。これで色々と考えるこたぁ増えたが、警戒するもんは分かったからな。ありがとよ、アンちゃん」

 

そして、早足で旅籠屋へと戻った。

 

「……」

「……」

 

沈黙が気まずい。

拾ってもらったクオンに対して、やはり嘘をつくのは……。

 

「ねえ、ハク」

 

先に口を開いたのは、クオンだった。

 

「……ううん、なんでもないかな」

 

しかし、首を振って微笑むと、旅籠屋へと戻っていった。

 

 

「…………すまない、クオン」

 

 

微かに漏れ出た謝罪の言葉は、誰の耳にも入らず月夜へ消えていった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「おう、アンちゃん。早ぇな」

 

翌日の朝。

昨日あれほど酒をかっくらっていたのに、ウコンはすっきりとした顔で声を掛けてきた。

まだ早朝だというのに、スゴいもんだ。

 

「ああ、ウコンも早いな」

 

「どうも目が冴えちまってよ……アンちゃん。昨日の話、マロロに確認を取った」

 

「あんなに酔い潰れてたのによく確認が取れたな?」

 

「叩き起してやったよ。流石に確認だけ取って、あとは寝かしてやったが」

 

「それじゃあ……」

 

「ああ、ここの長にギギリの駆除を頼まれた。報酬も払うし、ここの連中にも世話になってるからな」

 

「大丈夫なのか?」

 

「ん?」

 

「ウコンとマロロ、そしてアイツらだけで、やれるのか?」

 

「ほう……?」

 

ウコンの眼差しが、鋭い物へと変わる。

 

「そりゃ、どういう意味だ」

 

「別にお前らが弱いって言ってるわけじゃない。ただ、相手はあのボロギギリだ……死人が出るだろう」

 

「……じゃあなんでい、アンちゃんも手伝ってくれんのかい?」

 

そう言って、自分の身体を見回すウコン。

 

「って言っても、アンちゃんじゃちょい厳しいと思うがな」

 

「そりゃそうだ。自分なんか逃げることしか出来なかったからな。それに、今の自分に戦いなんて出来る力はない」

 

「……じゃあ、どうする気だ?」

 

「クオンにも援軍を頼む」

 

「ほう……?」

 

「彼女は薬師だ。昨日聞いたが、ギギリには毒があるんだろう?クオンならきっと助けになるはずだ。治療も……そして戦闘も」

 

「戦闘って、アンちゃんよ……」

 

「別に前に出して戦わせるわけじゃない。だが、自分がボロギギリに襲われた時、助けてくれたのはクオンだ。彼女が支援してくれれば、ウコン達の役に立つだろうさ」

 

本当は戦闘能力もずば抜けてるんだが、これは言うべきじゃないな。

 

「……後で食堂に連れてきてくれ。俺から話す」

 

「ああ」

 

ウコンの表情は、まるで面白いものを見るようなものへと変わっていた。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「で?それで勝手に引き受けたってことかな?」

 

ああ、やらかした。

現在、自分とクオンはウコンに言われた通り、食堂に来ていた。

そしてウコンがクオンに依頼をした……所まではいい。

クオンは訝しげにこちらへと視線を向け、ウコンに聞いたのだ。

 

『それは……ハクから言われたのかな?』と。

 

ウコンは誤魔化していたが、やがて自分に向く視線が怖すぎて、つい吐いてしまった。

そして、正座している。何故かウコンも一緒に。

 

「別に、私も手伝おうと思ってたし、受けることに問題はないけど……ハクが勝手に引き受けるのは違うと思うかな」

 

「おっしゃる通りです」

 

結局、マロロがその後気持ち悪そうな顔で起きてくるまで、説教は続いた。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

それから少しして、ギギリ……いや、ボロギギリ討伐の山道途中。

山の奥深くまでやってきた時、それは起こった。

 

「やっ、やめろ!ここで……ギャァァァ!」

 

「ハク……」

 

「アンちゃん……」

 

自分の悲鳴。それから……可哀想な目で見るクオンとウコン。

 

「申し訳ないでおじゃ……おぅえええッ!!!」

 

貴人であるマロロが、荷車の上から盛大にぶちまけていた。その飛び散ったブツが、自分の足元にもかかったのである。

 

「お、おいウコン!大丈夫なのかコイツ!!」

 

「悪ぃなアンちゃん。介抱してやってくれ」

 

「なっ……クオン!クオンなら何か……」

 

「が、頑張って〜……」

 

ウコンもクオンも助けてくれん。クオンなんて水筒と二日酔いの薬をこちらに投げ、ススス……と距離を離している。

 

「くっ……ああ、ここまで来たらもうヤケだ!吐け!全部吐けマロロ!!」

 

自分は未だに吐き続けているマロロの背を摩り、とにかく叫んだ。

 

「ハク殿……かたじけなーーオエェェェェ!!ハク殿は優し……オロロロロェ!!」

 

ベチャベチャと、荷車から道標を残すように伸びていくブツ。

そして涙を浮かべ、ぐっと手を握ってくるマロロ。

 

ああ、なんで自分が……って待て、これって。

 

「前と一緒じゃないか……」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

集落の人間が襲われたという場所まで到着。すぐさまマロロから離れ、自分の服に水筒の水をかけ手ぬぐいで拭った。

そしてウコンが、仲間達に号令をかける。

 

「いいかテメェら!これからやるのはいつものギギリだけじゃねえ。このアンちゃんが言うには、あのボロギギリが出やがるかもしれねえんだ」

 

その言葉に、着いてきた集落の人間だけではなく、仲間達の顔にも不安が見える。

 

「だが俺たちは先にソイツの情報を知ってらぁ。対策も練ってきた。忘れてねえよな?」

 

全員が首を縦に振る。

そう、この作戦はこの山道に入る前、旅籠屋で計画したものだ。

これが上手く行けば、事故でもない限り死人が出るようなことにはならない……と思いたい。

だが、何も知らなかった前よりは、少しでも結果が良くなるはずだ。

 

「よし。怪我したヤツはあのネェちゃんに頼め!……ちなみに、ネェちゃんの手厚い看護を受けたいからって、ワザと怪我するような真似はすんなよ?ンなことしたら、報酬を差っ引くからな!」

 

ウコンの冗談に、小さな笑いが生まれ、場の空気が少しだけ柔らかくなる。

 

「それじゃあテメェら!帰ったら美味い酒と飯が待ってるぜ!やるぞッ!!」

 

「「「オウ!!!!」」」

 

森の中、響くような掛け声に、ウコンの仲間達も気合を入れたようだ。

しかし、自分は……。

 

「頼むから、上手くいってくれよ……」

 

手に力を入れようとも、上手く力が入らない。震えているのだ。人の命がかかった戦い。それは自分にとって、皇女さんの願いを聞いた時以来だ。

それに今、自分に誰かを守る力はない。オシュトルの時に鍛えた力も、大神となって得た力もないのだ。

これは……不安にもなるだろう。

 

「ハク」

 

そんな自分に、クオンが微笑みかけてくる。

 

「な、なんだ?」

 

「他人は他人、ハクはハク……だよ。ハクには立派な才能がある。それに、ハクのおかげでボロギギリの事も知れたんだから、誇って良いと思うな」

 

「クオン……」

 

安心、させてくれているんだろうか。

自分にはもう力はない。だがそれでも、クオンは認めてくれる。

それなら、自分は……。

 

「そうか……ありがとう」

 

「それに、ハクみたいなヒトは悪運だけは強いもの。野垂れ死にはしても、こういった荒事はしぶとく生き延びるかな」

 

「なんだそりゃ……」

 

「あはは……でも、何だかスッキリしたみたいかな。悪くない顔だよ」

 

「……ああ」

 

「そうだハク、これを渡しておくね」

 

そう言って、クオンは腰元からソレを手渡してきた。

 

「これ、は……」

 

「それを使って。武器が必要だから貸してあげる」

 

鉄扇。

幾度となく自分の命を救ってきた、クオンから借りた武器。

金属なのに握りの部分が磨り減っている。しかし表面はサビ一つなく丹念に磨きこまれており、とても大事に使われてきたものだとすぐに分かる。

 

「……」

 

「ハク?」

 

よく、手に馴染む。

自分はこれで、今まで戦えてきた。

また、クオンから渡されるというのは……。

 

「……最高、だな」

 

「え?」

 

「ありがとう、クオン。大事に、使わせてもらうよ」

 

「……ふふ、貸すだけかな。後でちゃんと返してね」

 

「判った」

 

『後で』……か。

受け取った扇をグッと握りしめ、気合を入れる。

絶対に……生き残らなきゃな。

 

「アンちゃん、ここにいたか」

 

「……ウコンか」

 

どうやら作戦の準備は整ったようだ。全員が配置についており、腐肉などの罠も仕掛けられている。

ウコンはこちらの表情を見て、一瞬目を見開き、挑戦的に笑った。

 

「ほぅ……いい顔してやがる。頼んだぜ、アンちゃん」

 

そして、こちらに拳を突き出した。

自分はその拳に軽く拳をぶつける。

 

「ああ、こちらこそ頼むぜ……ウコン」

 

そして、蟲の悲鳴と共に、作戦は開始された。

 

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