[24日まで一時休止]うたわれるもの 真白の願い 作:ハラダ
「にょほぉーーん!!!」
腐肉に集まったギギリが、マロロの呪法によって盛大に燃え尽きる。そしてそれを合図に、ウコンや仲間達が一斉に飛びかかった。
「クオン!頼んだ!」
「任せて!」
自分もギギリの群れへ向かい、ひっくり返ったギギリや網に絡まったギギリの頭を鉄扇で潰していく。
「ハアッ!」
ウコンは素早い動きで、次々と蟲達を切り捨てていく。
「ニョホーン!!ハァッ……ハァ……もう無理でおじゃ……」
マロロは……頑張ってるな。
他の仲間達も、次々と蟲達を討伐していく。
そして……
「これで最後だァッ!」
ウコンが一際大きいギギリの首を飛ばし、その場にいた蟲は全員討伐した。
「ふぅ……さて、と」
ここからが問題だ。
もし自分の記憶が正しければ、この後休みに入ろうとした瞬間ーー
「ハクッ!!」
「ッ!ウコン!来たぞ!!」
自分の声に、ウコンは顔を引き締める。
そして大きく息を吸い込むと、森中に響くほどの声量で号令を出した。
「全員散開!この腐肉地帯から離れろッ!」
仲間達がその号令に、すぐさま腐肉から離れる。
そして腐肉と仲間達がいた地点に、巨大な影が土煙を纏いながら飛び込んでくる。
「やっぱり来たかッ……!」
ギチギチと、気持ちの悪い音を立てながら、こちらを見る影。
口元には大きな鋏、あれに挟まれたらすぐに首と体が離れてしまうだろう。
「アンちゃん……助かったぜ。もしコイツを知らなかったら……」
「ああ、少なくとも犠牲は出てただろうな」
自分とウコンが立てた計画はこうだ。
まずギギリを腐肉で誘き寄せ、縄をかけて動きを封じる。そこにマロロの呪法で範囲殲滅。
そして残ったギギリを自分達でチマチマ倒して討伐。
そこまでは変わらない。
だが、クオンには予め戦線から離れてもらっていた。
彼女には周囲の警戒。もし巨大な影が現れたら、すぐに自分達に知らせてもらう役目だった。
そして、クオンの知らせが来たら……自分、マロロ、ウコン、クオン以外は散開。安全圏を予め作り、そこに集合。そして村へと逃げながら、腐肉を使ってそれに釣られた小さなギギリだけを倒す。
「やれ!マロロ!」
そして、ボロギギリはマロロの術でこちらに意識を向かせる。
「……」
向かせ……る……?
「マロロ?」
「お、おじゃ……腰が……」
マロロは自分の足にしがみつき、ガタガタと震えへたりこんでいる。
「おい、アンちゃん!まだか!」
殺気を放ちボロギギリを牽制していたウコンが、舌打ちをしながらこちらに怒鳴る。
「ま、まずい!マロロが腰を抜かした!」
「ああ!?おいマロ!早く起きやがれ!」
「う、うう……!」
マロロは力を込めて立ち上がろうとするが、上手く力が入らず、何度も立ち上がってはへたりこんでいる。
クソっ……マロロはこういう性格なんだ。知っていただろう……!
「オシュトル、作戦変更だ!!」
「アンちゃん!?」
「クオン!光るアレを頼む!」
「うん……!皆、目と耳を塞いでッ!!」
合図と共に、クオンが何かをボロギギリに投げる。
それはボロギギリの顔に当たると、大きな音と光を発した。
「ギギィィィィィ!!」
「おじゃぁぁぁぁぁ!!」
ボロギギリの悲鳴と共に、何か別の悲鳴も聞こえた気がするが……ウコンがマロロを担ぎあげ、仲間達が逃げた先とは反対へと走る。
どうやら先程の閃光で上手く気を引けたようだ。
「ッ……追ってきてるな!クオン!それじゃあ頼んだ!」
「分かったかな!……あ、ハク!」
「なんだ!?」
「今日は、ハクの好きな物を食べていいからね!」
「……大盛りで頼む!」
「うん!」
そうしてクオンは別方向に走っていった。
あの、タタリがいる場所へと。
「さてアンちゃん、コイツはどうするかい?」
ウコンがマロロを担ぐ手とは逆に持っている物、それは顔くらいの大きさの樽に腐肉を詰めたものだ。
「自分に渡してくれ!零しながら、アイツらを一斉に引きつける!」
ウコンからそれを受け取り、地面に少しずつ流しながら走る。
恐ろしい匂いに鼻がへし折れそうだが、無理も言ってられない。
「急げッ!」
そして自分達は、あの崖の近くへと走り続けた。
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「いたッ!」
洞窟の入口に到着し、クオンは中にいるタタリに先程拾ったギギリの死体を投げ込んだ。
タタリはそれに釣られ、ギギリを飲みこみ消化する。そして次の標的と定めたのか、クオンに向かって飛びかかった。
クオンはそれをすんでで回避し、ハク達と決めた崖の下まで走る。
「さて……このまま上手くいってくれるといいんだけど」
しかし、クオンの頭には引っかかるものがあった。
ハクとウコンが立てた作戦……とは言っても、ほとんどがハクの立てた作戦だ。
でも……どうして、そんなことが出来るのかが分からなかった。
クオンにとって、ハクは遺跡で眠っていた大いなる父。
あの様子じゃ長い間眠っていたはずだ。だから記憶が朧気だったり、この世界の知識に疎いと思っていたのに。
私の名前を呼んで、仕事も力はないけど出来て、特に頭の回転が早い。
それに、ボロギギリのことも知っていた。
ハクは、まるで全てを知っているようでーー
「おっと!」
タタリの伸ばした体が、足に絡みつきそうになるのを避ける。
「考え事はダメかな……うん」
また後で……そう言って、今はただ誘導することだけに集中するクオンだった。
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「おじゃぁぁぁぁぁ!!」
「叫ぶなマロッ!耳が痛てぇだろうがっ!」
「いいから走れウコン!早くッ!!」
自分たちは、ひたすら走っていた。
あと少しで着くはずだ。
あの、崖のところに着けば……!
「着いたぞアンちゃん!」
木々を抜け出し、開かれた景色に安堵する。
そして……。
「ハクッ!」
クオンも下で、タタリを引きつけてくれたようだ。
これで準備は揃った。
「よしッ!マロロ!」
「だ、大丈夫なのでおじゃるか……?」
崖の脆そうな部分に最大威力の呪法を当て、崖から落とす。
それが最後の要。マロロにしかできない事だ。
しかし、マロロは震えながらこちらを不安げに見ている。
自分が出来ることは……。
「大丈夫だマロロ、自分達を信じろ!」
「ハク殿……」
マロロの不安げな目が見開かれ、やがて覚悟の決まった表情へと引き締まる。
「そう……そうでおじゃるよ。親友を信じずして何を信じろと言うのでおしゃるか」
その瞬間、目の前にボロギギリとギギリ達が飛び込んでくる。
間に合わないーーその言葉がよぎった時、マロロが吼えた。
「にょっ……ほーん!!!」
爆発。
その風圧で、自分達まで吹き飛びそうになる。
それを必死に耐え、目の前の標的の姿を探す。
「ギギィィィィィ!」
ギギリ達やボロギギリの立っていた場所は見事に砕け散り、重力に引かれ落下していく。
その横を通り過ぎるクオン。そしてその後ろには。
タタリ。
ボロギギリ達の前で身体を大きく広げ、瞬く間に包み込んだ。
そして、そのまま落下していく。
やがて、音が何もしなくなった時。
「やった……のか?」
自分の間抜けた声に、ウコンとクオンは警戒した表情を緩めた。
「ああ……倒したな」
「ハク、怪我はない?」
そして、終わったと確信した瞬間。
腰が抜けた。
「おっと……」
地面にへたり込むと、マロロが今気づいたように叫んだ。
「おっ……おじゃっ!?倒したでおじゃるか!?マロは!死んでないでおじゃるか!?」
「落ち着けって」
「ハッ……ハク殿ぉぉぉ!!」
「なっ!?うぎゃぁぁぁぁああああ!」
マロロの溢れ出した体液と共に、抱きつかれる。
自分の悲鳴によって、負傷者少数、そして死者ゼロ。
この戦いは終わりを告げる。
ーー大いなる意思が、その変化によって狂い始めた。