[24日まで一時休止]うたわれるもの 真白の願い   作:ハラダ

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14 宴

 

「よーし、テメェら!俺たちの完全勝利を祝って……乾杯!」

 

「「「「「カンパーイ!!!」」」」」

 

昨夜よりも更に騒がしい語りと笑い声。

食堂の中は、活気に満ち溢れていた。

 

あの後、ボロギギリ達を消化したタタリは、洞窟へと帰っていった。ヤツらは暗い所から出ることを嫌うため、そのまま放置しても大丈夫そうだ。

そして残ったギギリ達も、ウコンの仲間達によって殲滅。

 

怪我人が数人、死傷者ゼロで、この戦いは終わったのだ。

完全勝利、である。

 

「ささ、遠慮なく飲んでおくれ」

 

女将さんが、花を咲かせるような笑顔で酌をしてくれる。

自分はありがたくそれを受け取り、一気に喉に流し込んだ。

 

「……ふぅ、美味い。これはいい酒ですね」

 

「ああ。今日はアンタらのおかげで助かったからねぇ。上物の酒を出したのさ。たらふく飲んでってくれ」

 

透き通ったその酒は、酒精が強いため水で割ってから飲む。原酒のままでは、すぐに酔ってしまうだろう。

その酒を楽しみながら、アマムニィにかぶりつき、周囲の賑わいを眺める。

 

そこで気づく。

クオンが顎に手を当てて、微妙な顔をしていることに。

 

「ん?どうしたクオン?口に合わないのか?」

 

「そういうわけじゃないけど、ちょっとお酒の風味が強いかな……こんな時に、ハチミツ酒があれば最高かなって。あむーー」

 

残念そうにそうつぶやきつつも、盃を傾けるのを止めず、もりもり料理を平らげているクオン。

 

「いよう、呑んでるか?」

 

そこに、ウコンが一際大きな酒瓶を握りながらやってきた。その顔は既にほんのりと赤く、満面の笑みである。

 

「こんな隅っこにいねぇで、こっちに来たらどうだ?アンちゃん達は今夜の主役みたいなもんなんだからよ。もっと真ん中でドーンとふんぞり返っていいんだぜ?」

 

「いやいや、主役は俺たちじゃないだろう?」

 

「あん?」

 

自分は立ち上がり、その場を見回す。

そして見つけた、今夜の主役。

 

「ほら、あそこにいるだろう?主役」

 

自分が指さした方向を見て、ウコンはニヤリと笑った。

 

「任せろ」

 

そしてズンズンと主役の所に向かい、肩を組み立ち上がった。

 

「おいテメェら!今日の主役はこの……マロロだ!こいつが居なきゃ、俺らはボロギギリを倒せなかった!違うか!」

 

「「「よっ!主役!!」」」

 

「おじゃっ!?」

 

「さてテメェら!主役には……分かるよな?」

 

ウコンのその一言によって、その場の空気が変わる。

そして、今も戸惑っているマロロを座らせると、一言だけ。

 

「やれッ!!!」

 

「「「オウ!!!」」」

 

男たちがマロロへと飛びかかる。

その口に次から次へと飯や酒を運び、更には褒めたたえ、服を剥ぎ取る。

 

「おっ……おじゃぁぁぁぁぁ!!た、助け……ハク殿ぉぉぉ!!」

 

マロロの悲鳴を背に、ウコンがこちらへと戻ってきた。

 

「よくやった、ウコン」

 

「おうよ!」

 

そう言って、ウコンは自分とクオンの前に座った。

そして酒瓶を一気に傾けると、豪快に笑った。

 

「ダッハハ!いやぁ、今日はいい日だねぇ!アンちゃんの策は大当たり、更には死人もいないってんだからよ!」

 

「自分だけじゃないだろう、クオンやマロロ、そしてウコン達がいたから出来たんだ」

 

「いいから受け取っとけって。特にマロロが腰抜かした時なんて、冷静に判断し作戦を変更……肝が座ってやがる。見事なもんだったぜ?大抵のヤツならあそこでお陀仏だろう」

 

「褒めすぎだ。酒以外は何も出ないぞ?」

 

そう言って、自分はオシュトルの盃に酒を注ぐ。

 

「謙虚なのか自然体なのか、アンちゃんのことますます気に入ったぜ」

 

「はぁ……」

 

ウコンは自分が注いだ盃を口にすると、クオンへと顔を向けた。

 

「ネェちゃん、オメェさんもだぜ?」

 

「わたくひ?」

 

アマムニィを口に頬張りながら、クオンが首を傾げる。

 

「ああ。そもそもタタリを誘き寄せるなんて、ネェちゃんじゃねえと出来なかったからな。正直、本当に連れてくるとは……よくもまあ、あんな無茶な真似をしたもんだ」

 

ウコンはククッと歯を見せる。

 

「最初にその話が出た時は、何かの冗談かと思っちまったぜ」

 

「でも、クオンなら出来るって信じてたからな」

 

「おうよ、アンちゃんが強めに押したからな。俺も信じてたさ」

 

すると、クオンは少し頬を染めながら手を振る。

 

「あはは、照れるかな」

 

そして、自分とウコンの盃に酒を注いだ。

それを互いに一気に流し込む。

 

「まぁ、何はともあれ、今回のギギリ退治が上手くいったのは、アンタらが参加してくれたおかげだ。本当に……感謝している」

 

深々と頭を下げるウコン。

 

「やめろやめろ。そんなしんみりされちゃ、酒の味が不味くなるだろう」

 

「ハクの言う通りかな。ウコン達も頑張ったんだから、お礼なんていいよ」

 

それから少し、3人で話していると……

 

「にゃんの話してるでおじゃるかぁ??まぁろも混ぜて欲しいでおっじゃるよぉっ〜」

 

顔は真っ赤。涎が垂れている。酒臭い。クオンが即座に距離を離す。ウコンと自分の頬が引き攣る。

 

本日の主役、マロロが来た。

 

「お、おっと。主役が来たぜ!よっ、主役!」

 

ウコンが咄嗟の判断で褒める。

すると嬉しそうに、マロロが笑った。

 

「にゅほほほ〜!飲んでるでおじゃるか〜〜っ!」

 

そして、ぐるんとこちらに顔を向け近づいてくる。

酒臭い……。

 

「マロ……飲みすぎじゃないか?」

 

「おじゃっ!?ハ……ハク殿が……マロを……マロと……!!」

 

「ん?ダメだったか?」

 

「ダメでないでおじゃる!そう呼んで欲しいでおじゃるよ〜!」

 

「分かったから!抱きつくな!」

 

つい、癖でマロと呼んでしまったが……ウコンも呼んでいるし、マロが良いって言うならいいだろう。

それよりも酒臭い。

 

「今回大活躍出来たのはハク殿のおかげでおじゃるよ〜。おかげで手当が大幅に上乗せされて……にょほ、にょほほほ!」

 

「お前が頑張ったからだぞ、別に自分は何もしていない」

 

「またまた〜、謙虚な人でお・じゃ・る・なぁ☆」

 

マロロにつんつんと頬を指で突かれ、この情景が懐かしいと微笑ましくなる……がしかし、なんかちょっとイラッとするな。

 

「行きの道中では車酔いに苦しむマロを優しく労わってくれたし、腰を抜かしてしまった時はーー」

 

マロが話している途中、自分は即座に立ち上がる。

 

「ーーおじゃ?」

 

「おい皆!主役はまだまだ飲み足りないそうだ!連れて行け!!」

 

「ハ……ハク……殿……?」

 

ギラリと。

先程までマロロに飲ませ食わせ脱がせていた連中の視線が向く。

酒で酔っているマロロの顔は、青く染っていき……。

 

「悪いな、マロ」

 

自分の声はかき消された。

 

「おじゃぁぁぁぁぁ!!」

 

「「「飲ませろ!!」」」

 

マロの悲鳴と、連中の喧騒によって。

 

「「……」」

 

その様子を見ていたクオンとウコンは苦笑している。

自分が席に着くと、ウコンは無かったことのように咳払いをした。

 

「ネェちゃん達は、確か帝都に向かうんだったよな?」

 

「うん、明日の朝一番には発つつもりかな」

 

「帝都へは、観光か何かかい?」

 

「それもあるけど、目的としてはハクの働き口を探すためかな」

 

クオンの言葉に、オシュトルは眉を上げる。

 

「アンちゃんの?アンちゃんはネェちゃんの従者じゃなかったのか」

 

「自分は従者じゃない。記憶を失って、クオンに助けて貰ったんだ」

 

「記憶を失って……つまりなんだ、アンちゃん記憶喪失なのか?」

 

「……ああ、名前すら覚えてなくてな。ハクという名前はクオンがつけてくれたんだ。一応、少し思い出したこともあるが」

 

記憶喪失、前の自分ならそうだ。

この時は右も左も分からない。クオンがいなければ生きていけなかったからな。

だが、今は知っている。

自分が唯一の真人、帝ーー兄貴の実験の成功者。生き残った大いなる父。

他の人間は皆タタリにされた。少数の馬鹿な人間によって……ほのかさんも……チィちゃんも。

 

「……保護した手前、独り立ち出来るまで面倒を見る責任があるんだけど、ハクは力仕事に向いてないみたいだったから、帝都へ行ってみようと思ったんだ。幸い、ハクは知恵者みたいだからね」

 

「なるほどねぇ……」

 

ウコンがぐいと盃を煽った。

中身を一息で飲み干し、空になった盃を卓に戻す。

 

「ふぅ〜……だったら、一緒に行かねえか?」

 

ウコンの言葉に、自分とクオンは顔を見合わせる。

 

「帝都へ、ってこと?」

 

「ああ。俺達は元々、帝都へ荷を運ぶ為、ここに逗留していてな。その荷の到着が少し遅れるってことで、ギギリ討伐の依頼も引き受けたって訳さ」

 

その言葉に、クオンは考え込むように俯いた。

 

「もちろん、タダとは言わねえ。クオンは薬師として。アンちゃんは相談役としてだな。正式に同行を依頼しようじゃねえか。アンちゃん達が居てくれりゃ、こっちとしても心強い」

 

「……いいんじゃないか?クオン?」

 

「うん……」

 

しかし、クオンはまだ何かを考えているようだ。

 

「どうだいネェちゃん。アンちゃんと二人っきりってのもいいかもしんねぇが、か弱い……可憐……繊細……いや、多勢に無勢ってこともある」

 

「何かな?」

 

「いやいやいや、別に……とにかく!二人だけの旅よりは、俺らと一緒の方が遥かに安全だと思うんだが。それに何より、こういった道中は道連れが多い方が楽しいじゃねえか」

 

ウコンはそう言いながら、徳利をクオンの持っている盃に差し出す。

 

「どうでい?悪い話じゃねえだろ?」

 

しかし、クオンはその徳利を手で抑えた。

 

「せっかくだけど、遠慮しとくね」

 

「おいおい、なんでだ」

 

やっぱり止めるか。

まあそうだよな……クオンなら、警戒して当たり前だ。

 

「これほど大人数での護衛ということは、その荷はかなり重要なものだと思うんだ」

 

「ん。ああ、まあ……それなりにな」

 

それなりどころじゃないだろう、ウコン。

 

「ということは、それを狙う賊が襲ってくることも考えられるから」

 

「いやいや、俺達の他に荷を持ってきた連中も加わるんだ。そんな数を襲う賊なんぞ、この辺りにはいやしねえって」

 

ウコンは食い下がっていたが、今は駄目だと感じたのだろう。

 

「まあ、あまりしつこく誘うのも何だ。考えておいてくれ」

 

 

そう言って、ウコンはマロロの惨劇へと飛び込んで行った。

それから宴は大盛り上がりで進んでいく。

マロロが脱がされ、まるで乙女のようにこちらに助けを求める仕草には、一切酒の味が消えた。

そして全員で裸踊り。クオンは女将さんと二人で飲んでいた。

 

そして、全員が潰れ鈴虫の音しか聞こえない深夜。

 

「いい月だな」

 

「うん、そうだね……」

 

自分とクオンは、自室で二人。

夜空に浮かぶ満月を見ながら酒を嗜んでいた。

 

「……ねえ、ハク」

 

しかし、ただ酒を飲むだけじゃない。

それは自分にも分かる。

クオンはきっと……

 

「昨日の話、してもいい?」

 

自分の記憶や嘘について、聞きたいのだろう。

 

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