[24日まで一時休止]うたわれるもの 真白の願い 作:ハラダ
「よーし、テメェら!俺たちの完全勝利を祝って……乾杯!」
「「「「「カンパーイ!!!」」」」」
昨夜よりも更に騒がしい語りと笑い声。
食堂の中は、活気に満ち溢れていた。
あの後、ボロギギリ達を消化したタタリは、洞窟へと帰っていった。ヤツらは暗い所から出ることを嫌うため、そのまま放置しても大丈夫そうだ。
そして残ったギギリ達も、ウコンの仲間達によって殲滅。
怪我人が数人、死傷者ゼロで、この戦いは終わったのだ。
完全勝利、である。
「ささ、遠慮なく飲んでおくれ」
女将さんが、花を咲かせるような笑顔で酌をしてくれる。
自分はありがたくそれを受け取り、一気に喉に流し込んだ。
「……ふぅ、美味い。これはいい酒ですね」
「ああ。今日はアンタらのおかげで助かったからねぇ。上物の酒を出したのさ。たらふく飲んでってくれ」
透き通ったその酒は、酒精が強いため水で割ってから飲む。原酒のままでは、すぐに酔ってしまうだろう。
その酒を楽しみながら、アマムニィにかぶりつき、周囲の賑わいを眺める。
そこで気づく。
クオンが顎に手を当てて、微妙な顔をしていることに。
「ん?どうしたクオン?口に合わないのか?」
「そういうわけじゃないけど、ちょっとお酒の風味が強いかな……こんな時に、ハチミツ酒があれば最高かなって。あむーー」
残念そうにそうつぶやきつつも、盃を傾けるのを止めず、もりもり料理を平らげているクオン。
「いよう、呑んでるか?」
そこに、ウコンが一際大きな酒瓶を握りながらやってきた。その顔は既にほんのりと赤く、満面の笑みである。
「こんな隅っこにいねぇで、こっちに来たらどうだ?アンちゃん達は今夜の主役みたいなもんなんだからよ。もっと真ん中でドーンとふんぞり返っていいんだぜ?」
「いやいや、主役は俺たちじゃないだろう?」
「あん?」
自分は立ち上がり、その場を見回す。
そして見つけた、今夜の主役。
「ほら、あそこにいるだろう?主役」
自分が指さした方向を見て、ウコンはニヤリと笑った。
「任せろ」
そしてズンズンと主役の所に向かい、肩を組み立ち上がった。
「おいテメェら!今日の主役はこの……マロロだ!こいつが居なきゃ、俺らはボロギギリを倒せなかった!違うか!」
「「「よっ!主役!!」」」
「おじゃっ!?」
「さてテメェら!主役には……分かるよな?」
ウコンのその一言によって、その場の空気が変わる。
そして、今も戸惑っているマロロを座らせると、一言だけ。
「やれッ!!!」
「「「オウ!!!」」」
男たちがマロロへと飛びかかる。
その口に次から次へと飯や酒を運び、更には褒めたたえ、服を剥ぎ取る。
「おっ……おじゃぁぁぁぁぁ!!た、助け……ハク殿ぉぉぉ!!」
マロロの悲鳴を背に、ウコンがこちらへと戻ってきた。
「よくやった、ウコン」
「おうよ!」
そう言って、ウコンは自分とクオンの前に座った。
そして酒瓶を一気に傾けると、豪快に笑った。
「ダッハハ!いやぁ、今日はいい日だねぇ!アンちゃんの策は大当たり、更には死人もいないってんだからよ!」
「自分だけじゃないだろう、クオンやマロロ、そしてウコン達がいたから出来たんだ」
「いいから受け取っとけって。特にマロロが腰抜かした時なんて、冷静に判断し作戦を変更……肝が座ってやがる。見事なもんだったぜ?大抵のヤツならあそこでお陀仏だろう」
「褒めすぎだ。酒以外は何も出ないぞ?」
そう言って、自分はオシュトルの盃に酒を注ぐ。
「謙虚なのか自然体なのか、アンちゃんのことますます気に入ったぜ」
「はぁ……」
ウコンは自分が注いだ盃を口にすると、クオンへと顔を向けた。
「ネェちゃん、オメェさんもだぜ?」
「わたくひ?」
アマムニィを口に頬張りながら、クオンが首を傾げる。
「ああ。そもそもタタリを誘き寄せるなんて、ネェちゃんじゃねえと出来なかったからな。正直、本当に連れてくるとは……よくもまあ、あんな無茶な真似をしたもんだ」
ウコンはククッと歯を見せる。
「最初にその話が出た時は、何かの冗談かと思っちまったぜ」
「でも、クオンなら出来るって信じてたからな」
「おうよ、アンちゃんが強めに押したからな。俺も信じてたさ」
すると、クオンは少し頬を染めながら手を振る。
「あはは、照れるかな」
そして、自分とウコンの盃に酒を注いだ。
それを互いに一気に流し込む。
「まぁ、何はともあれ、今回のギギリ退治が上手くいったのは、アンタらが参加してくれたおかげだ。本当に……感謝している」
深々と頭を下げるウコン。
「やめろやめろ。そんなしんみりされちゃ、酒の味が不味くなるだろう」
「ハクの言う通りかな。ウコン達も頑張ったんだから、お礼なんていいよ」
それから少し、3人で話していると……
「にゃんの話してるでおじゃるかぁ??まぁろも混ぜて欲しいでおっじゃるよぉっ〜」
顔は真っ赤。涎が垂れている。酒臭い。クオンが即座に距離を離す。ウコンと自分の頬が引き攣る。
本日の主役、マロロが来た。
「お、おっと。主役が来たぜ!よっ、主役!」
ウコンが咄嗟の判断で褒める。
すると嬉しそうに、マロロが笑った。
「にゅほほほ〜!飲んでるでおじゃるか〜〜っ!」
そして、ぐるんとこちらに顔を向け近づいてくる。
酒臭い……。
「マロ……飲みすぎじゃないか?」
「おじゃっ!?ハ……ハク殿が……マロを……マロと……!!」
「ん?ダメだったか?」
「ダメでないでおじゃる!そう呼んで欲しいでおじゃるよ〜!」
「分かったから!抱きつくな!」
つい、癖でマロと呼んでしまったが……ウコンも呼んでいるし、マロが良いって言うならいいだろう。
それよりも酒臭い。
「今回大活躍出来たのはハク殿のおかげでおじゃるよ〜。おかげで手当が大幅に上乗せされて……にょほ、にょほほほ!」
「お前が頑張ったからだぞ、別に自分は何もしていない」
「またまた〜、謙虚な人でお・じゃ・る・なぁ☆」
マロロにつんつんと頬を指で突かれ、この情景が懐かしいと微笑ましくなる……がしかし、なんかちょっとイラッとするな。
「行きの道中では車酔いに苦しむマロを優しく労わってくれたし、腰を抜かしてしまった時はーー」
マロが話している途中、自分は即座に立ち上がる。
「ーーおじゃ?」
「おい皆!主役はまだまだ飲み足りないそうだ!連れて行け!!」
「ハ……ハク……殿……?」
ギラリと。
先程までマロロに飲ませ食わせ脱がせていた連中の視線が向く。
酒で酔っているマロロの顔は、青く染っていき……。
「悪いな、マロ」
自分の声はかき消された。
「おじゃぁぁぁぁぁ!!」
「「「飲ませろ!!」」」
マロの悲鳴と、連中の喧騒によって。
「「……」」
その様子を見ていたクオンとウコンは苦笑している。
自分が席に着くと、ウコンは無かったことのように咳払いをした。
「ネェちゃん達は、確か帝都に向かうんだったよな?」
「うん、明日の朝一番には発つつもりかな」
「帝都へは、観光か何かかい?」
「それもあるけど、目的としてはハクの働き口を探すためかな」
クオンの言葉に、オシュトルは眉を上げる。
「アンちゃんの?アンちゃんはネェちゃんの従者じゃなかったのか」
「自分は従者じゃない。記憶を失って、クオンに助けて貰ったんだ」
「記憶を失って……つまりなんだ、アンちゃん記憶喪失なのか?」
「……ああ、名前すら覚えてなくてな。ハクという名前はクオンがつけてくれたんだ。一応、少し思い出したこともあるが」
記憶喪失、前の自分ならそうだ。
この時は右も左も分からない。クオンがいなければ生きていけなかったからな。
だが、今は知っている。
自分が唯一の真人、帝ーー兄貴の実験の成功者。生き残った大いなる父。
他の人間は皆タタリにされた。少数の馬鹿な人間によって……ほのかさんも……チィちゃんも。
「……保護した手前、独り立ち出来るまで面倒を見る責任があるんだけど、ハクは力仕事に向いてないみたいだったから、帝都へ行ってみようと思ったんだ。幸い、ハクは知恵者みたいだからね」
「なるほどねぇ……」
ウコンがぐいと盃を煽った。
中身を一息で飲み干し、空になった盃を卓に戻す。
「ふぅ〜……だったら、一緒に行かねえか?」
ウコンの言葉に、自分とクオンは顔を見合わせる。
「帝都へ、ってこと?」
「ああ。俺達は元々、帝都へ荷を運ぶ為、ここに逗留していてな。その荷の到着が少し遅れるってことで、ギギリ討伐の依頼も引き受けたって訳さ」
その言葉に、クオンは考え込むように俯いた。
「もちろん、タダとは言わねえ。クオンは薬師として。アンちゃんは相談役としてだな。正式に同行を依頼しようじゃねえか。アンちゃん達が居てくれりゃ、こっちとしても心強い」
「……いいんじゃないか?クオン?」
「うん……」
しかし、クオンはまだ何かを考えているようだ。
「どうだいネェちゃん。アンちゃんと二人っきりってのもいいかもしんねぇが、か弱い……可憐……繊細……いや、多勢に無勢ってこともある」
「何かな?」
「いやいやいや、別に……とにかく!二人だけの旅よりは、俺らと一緒の方が遥かに安全だと思うんだが。それに何より、こういった道中は道連れが多い方が楽しいじゃねえか」
ウコンはそう言いながら、徳利をクオンの持っている盃に差し出す。
「どうでい?悪い話じゃねえだろ?」
しかし、クオンはその徳利を手で抑えた。
「せっかくだけど、遠慮しとくね」
「おいおい、なんでだ」
やっぱり止めるか。
まあそうだよな……クオンなら、警戒して当たり前だ。
「これほど大人数での護衛ということは、その荷はかなり重要なものだと思うんだ」
「ん。ああ、まあ……それなりにな」
それなりどころじゃないだろう、ウコン。
「ということは、それを狙う賊が襲ってくることも考えられるから」
「いやいや、俺達の他に荷を持ってきた連中も加わるんだ。そんな数を襲う賊なんぞ、この辺りにはいやしねえって」
ウコンは食い下がっていたが、今は駄目だと感じたのだろう。
「まあ、あまりしつこく誘うのも何だ。考えておいてくれ」
そう言って、ウコンはマロロの惨劇へと飛び込んで行った。
それから宴は大盛り上がりで進んでいく。
マロロが脱がされ、まるで乙女のようにこちらに助けを求める仕草には、一切酒の味が消えた。
そして全員で裸踊り。クオンは女将さんと二人で飲んでいた。
そして、全員が潰れ鈴虫の音しか聞こえない深夜。
「いい月だな」
「うん、そうだね……」
自分とクオンは、自室で二人。
夜空に浮かぶ満月を見ながら酒を嗜んでいた。
「……ねえ、ハク」
しかし、ただ酒を飲むだけじゃない。
それは自分にも分かる。
クオンはきっと……
「昨日の話、してもいい?」
自分の記憶や嘘について、聞きたいのだろう。